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一撃必殺と最硬

 違う!

 それは違うんだよ!


 ムッちゃんは人外の姿へ成り果てた平野に、苦戦していた。

 身体は燃やされて、股は引き裂かれそうになる。

 なかなか厳しい戦いだと思うけど、それでも彼のポジティブな姿勢はやっぱり凄いと思う。

 中でも僕が驚いたのは、燃やされながらも叩き込んだ掌打である。

 ムッちゃんはそれを、バーニングフィンガーと呼んでいた。

 だけど、違うんだよ!

 手が真っ赤に燃えて叩き込むのは、ゴッドなんだよ。

 爆熱なのは間違っていないけど、バーニングではないんだよ。

 強いて言えば、倒す時にヒートでエンドなんだよ。

 とまあ、僕は江戸城で見ていて、とてもヤキモキした気持ちになったのだが。

 それを言っても、賛同してくれる人が居ない。

 それも相まって、やっぱり不完全燃焼な気持ちにさせられてしまった。

 まあそれも仕方ないのは分かる。

 子供の頃に僕が見せたテレビアニメだし、ムッちゃんはそれにハマって見ていたわけじゃない。

 むしろ僕に付き合って、見ていたくらいだと思う。

 どんな必殺技なのか覚えていたから、掌打を入れたんだと思う。

 だから必殺技の名前が間違っていたのは、仕方ないとも言えるのかな。


 とはいえ、僕は違う意味で感動をさせてもらった。

 だってアニメではそれが必殺技になり得るけど、まさか実際にやる人が居るとは思わなかったからだ。

 ちょっと違うのは掌打になってしまった事だけど、それはあのムッちゃんの記憶力だ。

 子供の頃は、そう見えたのかなと思えてしまった。

 良いよね。

 小さい頃に見ていた必殺技を本当に叩き込んで、ばあぁぁくねつ!とか言いたいもの。

 しかもモノマネじゃなくて、本当に燃えてる辺りがリアリティがある。

 まあ燃えてるのは手じゃなくて、身体全体なんだけども。

 羨ましいと思う反面、絶対に無理だと諦めさせてくれた。


 こうやって考えると、ムッちゃんなら実際に出来そうな技が沢山ある。

 それこそバッタなヒーローのキックとかね。

 今度教え込んでおいて、ムッちゃんにはそれを再現してもらいたいな。

 でも遠い宇宙からやって来たウルトラな人の光線は、流石にムッちゃんでも無理だと思うけどね。







 人間やめてますね。

 ムッちゃんからそう言われた平野だが、人外となった身体でも、頭の中はまだ変わっていない。

 そんな彼が開口一番に出た言葉が、これだった。



「貴方に言われたくないですね!貴方だって、よっぽどですから」


「何処が?俺は何処からどう見ても、人だから」


「あのですね、全身が燃えながら掌打をしてくる人なんて、普通の人では居ませんよ。それこそ苦しみながら、僕に助けを求めて身体を叩いてくるなら分かります。でも貴方、必殺技と言わんばかりに名前付けてましたよね」


「・・・うむ」


 タケシは自分の行動を顧みた。

 確かにバーニングフィンガーと叫んだ記憶がある。

 喉が熱くて呼吸はしづらかったが、それでもノリノリで掌打は叩き込んだ。

 確かに人としておかしな行動だったと、タケシは自分で認めてしまった。



「でも身体が燃えても、助かる人は助かるから。それよりもその姿、人じゃないよ。俺の事はどうでも良いんだよ。それよりも、ラスボスみたいな姿している平野くん。キミだからね」


「僕だって元に戻れますよ!貴方を殺す為にも、戻る気は無いけど」


「戻れるんだ」


 本当か?

 タケシは疑うような目を向けたが、人として残っているのは、彼の頭くらいしか思い浮かばなかった。

 だが、人として残っているその顔を見た時、タケシは何故か彼はまだ平野なんだと思った。



「・・・死にたくないって言ってたよね?」


「そうですよ。死にたくないから殺すんです。たとえそれが、人だとしても」


「じゃあさ、殺さなくても死ななくて済むなら、どうする?」


「・・・何を言ってるんですか?」


 タケシは平野の顔を見た時、頭の中に魔王の顔が浮かんだ。



 それは能力が似ているからだと思われたが、タケシは平野の能力が想像だとハッキリ分かっていない。

 何故魔王が浮かんだのかは分からなかったが、一つだけ気付いた点がある。

 自分を竹原から救ってくれたように、平野を自分が救う事も出来るんじゃないか?

 根拠も何も無いのに、タケシはそんな事を考えていた。



「例えばの話だけど、俺と戦わなければキミは死なずに済むよね」


「僕が背中を向けた瞬間、刺されないとは言い切れませんよね?」


 かつて見逃した魔物に、背後から襲われた経験がある。

 平野は敵に背を向ける危険さを、身をもって知っていた。



「じゃあ戦場から逃げれば良いんじゃない?」


「敵から逃げた人を、皆が見逃すと思いますか?」


「だったら俺達の方に来るとか」


「寝返った途端に、皆で襲ってくる可能性も否定出来ませんよ」


 ああ言えばこう言う。

 タケシは思い当たる言葉を全て言い切ると、屁理屈を聞かされた気分になり、眉間にシワを寄せた。



「平野くん、助かるつもり無いよな」


「ありますよ。貴方を倒して僕は生き残る。これがマストです」


 戦う以外に道は無い。

 平野の切羽詰まったような表情に、タケシは何を言っても聞かないのだなと割り切った。



「分かった。そんなにやりたいなら良いよ」








 タケシは改めて考えた。

 平野は自分に似た能力がある。

 しかし回復速度を見る限り、超回復というわけではない。

 ならば一撃で大きなダメージを与えれば、倒し切れる可能性がある。

 その為には、今までのプロレス技や投げ技は封印し、初心に帰った一撃必殺がベストだと判断した。



「僕は貴方を倒して、真のSクラスになる。その時僕は、初めて皆に認められた存在になるはずだ」


「他人に認められたくて、戦っているのか?そんな理由で」


 タケシの言葉に、平野の顔は表情を一変させる。

 鬼のような形相に変わった平野は、罵倒するように言葉を捲し立てた。



「貴方に何が分かる!最初から強くて、皆からチヤホヤされて。端っこで笑われながら蹴られてる奴の気持ちが、アンタには分からないだろうよ!」


「そんなの知らないよ。だって俺は強くなりたくて、血反吐を吐くような思いをしてきたんだから。山籠り中に本当に死んだかなと思ってたら、この世界に来たくらいだしね」


「僕だってそうだ。強くなりたくて、武者修行に出た。それでも貴方を倒せない。だから僕は、もっともっと強くなる必要がある。もっともっと」


 平野は自分に暗示をかけるように、もっとと呟いている。

 すると驚くべき事に、とうとう身体のサイズまで変わっていった。

 同じくらいの身長から、今では三メートル以上にまで成長している。



「マジか。これは厳しいな」


 彼のサイズを考えると、急所に攻撃を入れるのはとても難しくなってしまった。

 唯一狙えるのは、頭の位置が近い平野の股間だけだった。



「あんまりここは狙いたくないな・・・」


「あ、アンタ!何処見ているんだ!」


 股間を凝視されているのに気付く平野。

 すると何を思ったのか、彼の背中には蝙蝠のような翼が生え始めた。

 その翼を動かして宙に浮かぶと、そのまま手の届かない所まで飛んでいってしまった。



「食らえ!」


 空から炎を吐く平野。

 扇状に炎が広がると、タケシは平野の真下へと駆け出していく。



「下に逃げたからといって、避けられるわけじゃないのに」


 何故か真下にやって来たタケシは、自分に言い聞かせるように独り言を呟く。

 だが平野は、真下に炎を吐いてこなかった。

 というよりも、空中での姿勢制御に手間取っていて、真下を向くとひっくり返りそうになっていたのだ。



「くっ!」


「そっか。身体が変わり過ぎて、自分でも上手く動かせないんだ」


「それでもコレならどうだ!」


 空から想像した剣を、ひたすら落下させていく。

 何本も落とせば当たるだろうという考えだが、その目論見はかなり甘かった。



「そんな落ちてくるだけの剣とか。簡単に避けられるよ」


「だったら直接!」


 三メートルを超える巨体が、一直線に剣を構えて落下してくる。

 避けられたら、また違う手を考えれば良い。

 平野はとにかく、タケシに攻撃を当てる事だけを考えた。

 しかしタケシが動く気配は無い。

 むしろ自ら突っ込んでくるのを見て、薄らと笑みを浮かべているようにも見える。



「死ねえぇぇぇ!!」


「やっと俺の手足が届く所に来たね」


 タケシは身体を半分捻ると、大きな平野の剣を躱して落下してくる平野に向かって回し蹴りを入れた。

 カウンターで入った平野の身体は、勢いよく地面へと叩きつけられる。

 身体が割れるような痛みに、平野は一瞬で冷静さを取り戻した。



「痛い痛い!」


「マジかー。痛いで済む程度なんだな。だったらもっと本気で蹴らないとダメか」


 タケシの言葉を聞いた平野は、頭が真っ白になった。

 今ので全力じゃない。

 それが分かると、平野の頭の中に、ある言葉が過ぎった。



「か、勝てない・・・?」


「アレ?身体の回復が遅くなってるような」


 平野の身体が、まだ回復していない。

 どうしてだろうと思ったタケシは、少し様子を見ていた。

 すると平野の顔が、青から白へ。

 そして窒息しているかのような紫から真っ赤になり、気付くと表情が無くなっている。



「平野くん?」


「うわあぁぁぁぁ!!」


 突然喚く平野。

 その身体は小さくなっていき、元とほとんど変わらない肉体に戻っていた。

 しかし違うのは、身体全体が金属質に変わっている事だ。



「コレならどんな攻撃も効かない」


「もしかして俺の攻撃に耐える為だけに、その姿になった?」


「こっちからも攻撃は出来る。アレ?」


 全く動かない平野。

 思った以上に重かったのか、自分の足を動かす事さえ出来なくなっていた。

 そこにゆっくりと歩いていくタケシ。

 ペタペタと平野の身体を触ると、本当に金属で出来ている事に驚いていた。



「すげーな。本当にどんな能力なんだか、サッパリ分からないや。でも、動けないなら俺が一方的に攻撃が出来るという事でもある」


「攻撃してみて下さいよ。その手足、砕いてやりますよ」


 動けないのに妙に強気な平野。

 その様子がおかしかったのか、タケシは笑いながら距離を測った。



「キミ、面白いな。じゃあ、俺の拳と平野くんの身体。どっちが強いか勝負だ!」


 平野の身体の前で、真っ直ぐに立つタケシ。

 大きく足を広げて、左手を前に出して右手を腰の辺りに引いている。



「ッン!」


 大きく息を吸った後、口を閉じたタケシ。

 閉じた目が開くと同時に、彼は右拳を一気に突き出した。



「エイアァァァ!!」


 平野の顔面に拳を叩き込んだタケシは、残心して動かない。

 すると平野の首にヒビが入り、それを見たタケシは平野の頭に両手で発勁を叩き込む。

 平野の頭は勢いよく飛んでいくと、タケシはようやく素の状態に戻った。







「ハァ、俺の負けかなぁ。正拳突きで倒せると思ったのに、倒しきれなかった。発勁で頭は吹き飛ばしたけど、一撃で決められなかったし。平野くん、今回はキミの勝ちだよ。ねえ、何とか言ってよ。・・・平野くん?」

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