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気持ちの強さ

 似ていると思ったけど、やっぱり違った。


 ムッちゃんは平野と本格的な戦闘に入った。

 ムッちゃんは手を抜くようなタイプではない。

 そんな彼を相手にしながら、平野は押してみせた。

 それも彼の強気な考えが、良い方向に働いているからだと思う。

 僕は能力が似ているのだから、てっきり性格も似ているかなと思っていた。

 元々あんまり強そうなタイプじゃないし、おそらく日本では格闘技等とは無縁の生活を送っていたと思われる。

 それなのに彼は、あのムッちゃんを相手に強気に攻めてきた。

 僕だったら、まずあり得ない考え方だ。

 そもそも僕が平野だったら、確実に勝てるような方法を探す。

 それこそ接近戦なんか、絶対に挑まない。

 平野の能力であれば、遠距離戦に持ち込む事だって可能だからね。

 考えただけで生み出せるのであれば、僕なら液体窒素とかを生み出すかな。

 ムッちゃんに火傷負わせるだけでなく、凍らせる事も可能だと思う。

 接近戦が出来ない一定の距離を保ちつつ、身動きを封じる。

 これが対ムッちゃんの、ベストな戦い方だろう。

 消極的に取られるかもしれないけど、相手は超回復の持ち主。

 下手に倒そうとするよりも、動けなくして封じ込めるというのが一番なんじゃないかと、僕は思うわけだ。


 というのが、チキンな僕の戦い方。

 だけど平野は、それを選ばなかった。

 それはムッちゃんに対して、そうする必要が無いと思ったからなんだろう。

 彼の行動は、ムッちゃんに勝てると言っていると同意なのだ。

 あり得ないでしょ。

 だって彼、ムッちゃんの強さを知ってるわけで。

 それでいてなお、勝てると思ってるんだから。

 それは彼が自身の能力に、それだけの自信があるからに他ならない。

 僕だって創造魔法が使えるけど、それでも本気のムッちゃんと一人で戦えと言われたら、真正面からやり合おうと思わないのに。


 自信過剰なのか、それとも本気で勝てる自信があるのか。

 それは平野にしか分からない。

 でも僕からすれば、そういう自信が持てるだけ、平野は凄いなと思っている。








 タケシの構えが変わった。

 それと共に大きく変わるプレッシャーに、平野は後退りする。



「僕は何故後ろに!?」


「この程度で気圧されたなら、キミはまだまだかな」


「クソッ!僕は平野。平野です!」


「平野くんね。でも俺、あんまり人の名前を覚えるのは、得意じゃないんだ!」


 タケシが左足を大きく蹴り出した。

 平野の懐に飛び込むと、それに合わせて左拳も突き出す。



「あ、危なっ!」


「避けるだけじゃ止まらないぞ」


 大きく仰け反り、タケシをやり過ごす平野。

 しかし通り過ぎようとタケシの右腕が、平野の首に絡んだ。



「ウイィィィィ!!」


「ぐえっ!」


 勢いよく倒れ込むタケシ。

 平野は巻き込まれて、仰向けに倒れた。

 するとタケシはすぐに身体を反転されて、平野の上に馬乗りになると、上から鋭い視線で睨みつける。



「平野くん、俺と格闘技でやり合おうとしてるのかい?それは少々、傲慢じゃないかな」


 拳を平野の顔面に叩き込むタケシ。

 右左と交互に拳が繰り出され、平野の顔面は大きく腫れ上がった。

 だが次の瞬間、タケシは後ろへ大きく飛び退く。



「タケシさんでも、避けるって事するんですね」


「脇腹に短剣を突き刺そうとしていたのは、見えてたからね。いくら俺でも痛いものは痛いし、内臓を引きずり出されたら、そう簡単には回復しない」


「回復。そうか!タケシさんの能力は、異常な回復力。なるほど、分かりましたよ」


「キミも大概だけどね」


 平野の顔は、既に腫れが引いていた。

 アレだけ顔面に拳を叩き込まれ腫れ上がれば、普通であれば目は見えづらくなり喋るのも辛い。

 しかし平野は会話をしている最中に、みるみるうちに腫れが引いていたのだった。



「それも平野くんの能力か」


「敵に塩を送るのはやめておきますよ。だから僕の能力は、教えません」


「そうかい。じゃあ、もう一丁!」


 タケシは短剣を持った平野に突っ込んでいく。

 彼の短剣に注視していると、それが槍に変わったのを確認した。

 槍の対応へと意識を変えたタケシだったが、そこで思わぬ事態に陥った。



「地面が!?魔法か!」


 踏み出した右足が、大きな窪みに嵌ってしまった。

 戦闘中にそんなミスは、普通あり得ない。

 バランスを崩したタケシの背中に、平野の槍が襲い掛かる。



 背中から突かれた槍が、前のめりになっているタケシの腹に貫通する。

 タケシは痛みで少し顔を歪めるが、両手で槍を掴むとそのままぐるぐると回転を始めた。



「う、うわっ!」


「変則型ジャイアントスイングじゃい!って、あら?」


 平野はすぐに武器を手放した。

 タケシは急に重さを感じなくなり、再びバランスを崩した。



「だけど、武器を手放したんだ。だから追撃なんかあるわけが、あるんかい!」


 槍はまだ身体を貫いている。


 タケシは勘違いをしていた。

 平野の能力は、武器を自在に変化させる事。

 だから手放した平野は、武器が無いはずだと思っていた。

 それなのに気付けば、平野の手には違う槍が収まっている。



「わ、分かんなくなってきた!」


 平野の能力は見破ったと思っていたタケシだったが、今の攻撃により、全くの見当違いだと気付く。

 動揺が見えるタケシを、平野は見逃さなかった。



「痛っ!あ、あれ?足が着かない!」


 四方の地面から突き出してきた錐が、タケシの身体を貫く。

 すると彼の身体は浮いてしまった。



「この時を待っていた!」


「で、デカくない!?」


 今まで見た事の無いくらい大きな大剣に、タケシは流石にちょっと驚いた。

 太田やゴリアテ、本多といった巨漢が持っても大きい部類の大剣。

 それを両手で持ち上げると、タケシの脳天へと突き落とした。



「砕けろぉぉ!!」


「そうだね」


「え?」


 タケシに大剣を守る術は無い。

 対抗して拳を叩き込もうにも、足が宙に浮いていれば力が入らないはず。

 それなのにタケシは、四方の錐を全て蹴り壊して着地すると、側転するかのように大きく足を蹴り出した。



「胴回し回転蹴り!?」


「フハハ!これもまた、ルチャに使える空手技の一つだよ。そして俺のオリジナル技はここからだ」


 胴回し回転蹴りは、バランスを崩してそのまま地面に倒れるのが普通である。

 しかしタケシは片手で地面を押し出すと、そのまま平野へと再び向かっていった。

 両足で平野の首を掴むと、今度はそのままうつ伏せに倒れ込んだ。



「タケシ式フランケンシュタイナーだ!」


「・・・ぐぎぎ!」


 頭から地面へと落下した平野。

 しばらく動けないと思っていたタケシだが、彼に大きなダメージは見られない。



「マジか。今のはオレがプロレスデビューしたら、フィニッシュホールドにしようかと思ってたくらいの技だったのに。っ痛!」


 タケシの両足の腱が、平野の短剣で斬られた。

 立ち上がれないタケシに向かって、今度は平野がマウントポジションを奪う。



「俺にマウントで勝負するの?」


「そうですよ。だってタケシさん、四本腕の人にマウント取られた事ありますか?」


「何!?」


 平野の両脇腹に、見知らぬ腕が生えている。

 その腕がタケシの両腕を押さえつけると、平野は両手に持った短剣を何度もタケシへと突き刺した。



「・・・死んだかな?」


「ごはっ!か、勝手に殺したりしないでくれよ」


「アレだけ滅多刺しにしたのに、まだ生きてるなんて。人間じゃないですね」


「そうかい?俺も無表情でアレだけ容赦無く刺してくるキミが、人間とは思えないけどね」


「人はね、無情にならないと死にますから」


 魔物との戦いに明け暮れた平野は、情けをかけて自分が逆に殺されかけた経験があった。

 それから彼の中で、生きる為には情けは不必要という考えが染まっていた。



 タケシの赤く染まった顔を見下ろす平野。

 刺したはずの傷は回復しており、その目にはまだ光が残っていた。



「ちなみに四本腕は戦った事は無いけど、六本はあるんだなぁ」


「は?」


 タケシがブリッジをすると、身体が浮き上がる平野。

 両腕は掴まれたままだが、自由な両足を平野の股に通し彼の身体の前へと持ってくる。

 そして顎を両足で蹴り上げた。



「うぐっ!」


 掴んでいた脇腹の腕は無くなり自由を取り戻すと、タケシは距離を取って立ち上がった。



「何ともよく分からない能力だ。でも、俺気付いちゃったんだよね」


「何にですか?」


「別に平野くんの能力なんか知らなくても、関係無いって」


 タケシは再び構えた。

 今度は空手のような構えで、どっしりと動かない。



「そうですか。だったら僕も今度こそ、貴方の頭をかち割りますよ。頭がかち割れたら、流石に死にますよね?」


「うーん、どうだろう?」


 別に誤魔化しているわけではないのだが、全身を燃やされても生きていた経験がある。

 タケシは分からないといった感じで首を捻ると、平野はそれを冗談だと受け取っていた。



「だったら絶対に斬れる剣を作って、貴方の頭を割るのではなく、身体ごと真っ二つにしてみせます。絶対に斬れる斬る斬る斬る斬る。絶対に真っ二つにする!」


「今度は普通の剣だね。じゃあ俺も、絶対に倒すって決めた。一撃必殺だよ。ハッ!」


 空手の右拳を大きく引き、左腕を前に出すタケシ。

 その構えのまま動かないタケシに、平野はジリジリと詰めていく。



「斬る斬る斬る斬る。斬るーーー!!」


 上段から一気に振り下ろす平野。

 タケシの左手が剣の腹を叩き、剣の軌道を逸らした。

 しかし慌てる素振りを見せない平野に、タケシは違和感を抱く。



「二の太刀!」


「なっ!?」


 両肩の後ろに、また腕が生えている。

 その剣が本命だと言わんばかりに、平野はお辞儀をするように頭を下げて剣が振り下ろされる。

 まさかの二本目に、タケシは左腕で頭をガードする。

 しかし左腕は綺麗に斬り落とされた。

 咄嗟に身体を捻ると、左肩から腹辺りまで一気に剣が深く入った。



「勝った!」


「いや、俺の勝ちだね。セイッ!」


 タケシは腰を大きく回し、右拳を一気に前へと突き出す。

 平野の左胸に突き刺さる正拳突き。

 彼は顔を紅潮させると、今度は急激に青くなった。



「あ・・・う・・・」


 口をパクパクさせながら、何かを言おうとしている平野。

 剣を手放して倒れると、しばらく痙攣してから動かなくなった。

 それを見ていたタケシは、最後に勝因を述べた。



「俺の身体を完全に斬り裂いていたら、俺は片足で力が入らなかった。キミはある程度斬ったところで、俺に勝ったと思ったんだろうけど。俺は絶対に斬られまいと信じていたからね。その辺の意識の差が、この結果に繋がったんじゃないかな」


 動かない平野に聞こえるように言うタケシ。

 それは最期の供養のつもりだった。

 しかしタケシは、急に後ろに倒れる事になった。



「え?」


 足首から下が無い。

 斬られたのではなく、足から下が無いのだ。



「マジかよ」


 起き上がる平野の顔は、さっきまでとは全く違う形相をしている。

 まるで何かに取り憑かれたかのような、鬼のような形相だった。








「僕は負けない。負けたら死ぬから。こんな所で死んでたまるか。死にたくない。死ぬならその前に、全員殺してやる!」

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