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勇者と破壊王

 先輩と後輩。

 福島の気持ちは、分からなくもない。


 福島と平野は、ここが攻め時だとカッちゃんとベティに打って出た。

 福島がやる気になったのは、先輩と呼ばれたからだ。

 今までは秀吉軍の中で、福島は一番下の扱いをされていた。

 年功序列なのか実力なのか。

 それがどちらなのかまでは分からない。

 どうやら平野は、石田と同時期に飛ばされてきた召喚者みたいだけど、石田はどちらかというと平野よりは年上な気がする。

 落ち着いているからそう見えるだけかもしれないけど、悪く言えば老けてるようにも思える。

 その点平野は、まだ若々しい。

 雰囲気からして、学生に近いノリを感じた。

 だからすんなりと、先輩という言葉が出たんだろう。

 そして福島は、僕と近いものを感じた。

 何故なら彼は、先輩と呼ばれて喜んでいたからだ。


 僕は学生時代、部活動をやっていない。

 いわゆる帰宅部というヤツだ。

 だから後輩と接する機会も無く、年下の人から先輩と呼ばれる事はほとんど無かった。

 大学でもサークルに入っていないし、研究室ではさん付けで呼ばれていたからね。

 まあそれはそれで、良かったと思っている。

 だって先輩とか後輩って呼ぶと、なんとなく上下関係が生まれそうだし。

 元々それが苦手で、部活とか嫌だったのもあるわけで。


 でも苦手だったのとは別に、憧れとかはあるんだよね。

 特に学園もののアニメとか見た後は、もし自分が部活とか入ってたら、こういう風に呼ばれてたのかなぁとか。

 可愛い女の子から先輩とか呼ばれたら、そりゃ舞い上がるでしょ。

 まあゆるい部活なんか、大して無かったんだけど。

 そういうのは僕みたいな連中が集まってるだけで、女の子なんか居なかったし。


 結局のところ、僕は学生時代に青春していなかったのかもしれない。

 僕は納得してるけど、福島はどうなんだろう?

 男から先輩と呼ばれて、喜ぶくらいだ。

 僕以上にそういう関係に、飢えてたのかもしれないな。









 臨戦態勢に入る平野。



「ん?」


 タケシは自分の目を疑った。

 知らぬ間に拳を握っていたからだ。


 本多から相手を頼むと言われたが、見た目はそこまで強い相手だとは思えなかった。

 西洋風の鎧を着ている、コスプレをしている人。

 帝国で同じような格好をした兵士は見ていても、彼の所々見える生身の身体は、明らかにひ弱な印象だった。

 それなのに、自分は拳を握っている。

 タケシは自分が無意識のうちに、危険だと感じていたのだと理解した。



「面白い。まさかこんな相手が出てくるとは」


「行きますよ」


 平野は真っ直ぐ、タケシへと斬りかかった。

 フェイントも何も無い、本当に真っ直ぐ向かって上段から斬りつけるだけの攻撃。

 タケシはその剣を半身で避けると、左腕を掴み投げようとする。

 だがタケシは、投げる事が出来なかった。



「は?」


 右手に痛みを感じその先を見てみると、斬り落とされた右手首が平野の左腕を掴んでいる。

 剣は避けたのに、何故手首が斬られたのか。

 彼は咄嗟に後ろに下がると、手首を掴み出血を抑えながら、平野を見た。



「短剣?さっきは剣じゃなかった?」


「うっ!鎧が握り潰されてる。でもどうして、打撃じゃなかったんだ?」


 平野はタケシに潰された鎧を見て、彼の脅威を再確認した。

 しかし一つ腑に落ちない点があった。

 それはタケシが、どうして打撃で攻撃をしてこなかったのかという点である。


 平野はタケシを知っていた。

 それはこの世界に来る前からであり、格闘技の世界チャンピオンとしてだった。

 そんな彼のパンチやキックを警戒していた平野は、まさか腕を掴まれるとは思わなかったのだ。



「何か理由がある?」


「予想以上に斬れ味抜群だな。でもバランスが悪い気もするし。よく分からんなぁ」


 タケシの身体は、この世界に来て頑丈になっている。

 それこそ大した剣や槍じゃなければ、斬る事も貫く事も難しいレベルだ。

 彼の貧弱そうな身体なら、間違いなく斬られないと思っていたタケシは、彼の強さが装備によるものだと考えていた。

 しかしそうなると、疑問に思える点もある。

 それはあまりにも鎧が脆いという事だ。

 確かに力は込めたが、中身の無いアルミ缶を潰すくらいの感覚で握ったレベルだ。

 凄まじい斬れ味を誇る剣を持っているのに、それであんな簡単に潰れる鎧を装備する理由が分からない。

 普通であれば、剣に見合う鎧も揃えるべきだろう。

 アンバランスな平野に、タケシは戸惑いを感じていた。



「まあ良いか。とりあえず、手首は返してもらう」


「また来た!」


「ぬっ!短剣が槍に変わった?なるほど、手元の武器を瞬時に変えられる能力か」


 武器が変えられる。

 特殊な能力による武器なら、自分を傷つけられるのも当然だと、タケシはなんとなく理解した。



「でも槍を掴めば」


「うわっ!」


 突かれた槍を掴み、おもいきり引っ張るタケシ。

 鎧を握っている右手首に右腕を伸ばすと、簡単にくっついた。

 だがその代償もあった。



「うっ!今度は左手の指か」


 槍の柄を掴んだはずのタケシだったが、気付くと剣の刃に変わっている。

 何本か指が落ちると、彼は側転でその指をすぐに回収した。



「これは面倒な相手だな」


「手首がくっ付いてる!?どういう能力?」


 平野は目を丸くして、左腕とタケシを交互に見た。

 鎧に付いていた手首が、無くなっている。


 平野は早々に石田と共に、秀吉に引き取られている。

 石田は秀吉と共に暗躍していて、魔王や魔族、帝国にその他の国の情報を全て得ていた。

 だが平野は武者修行と称し、ほとんど彼等との関わりが無かった。

 その為平野はタケシの強さは知っていても、その能力までは知らなかったのだった。



「んん!?鎧も戻ってる?」


「この強度だと、すぐに握り潰されるのか。もっと硬くしないと」


「武器だけじゃなくて、鎧も変えられるのかな。だったら予備が無くなるまで、ぶっ壊せば良いか」


「うわっ!思ってたより速い!」


 タケシが平野に向かって前進すると、今度は鞭に変えて応戦する。



「鞭なら全く怖くないな。あら、切れてる?」


「やっぱり刃を付けた鞭で正解だった!」


 腕や足に、切り傷が出来ている事に気付くタケシ。

 それは平野の鞭が普通の鞭ではなく、刃が沢山付いた特別製だったからだった。

 しかしタケシの前進は止まらない。



「どうして止まらないんだ!?」


「こんなの、我慢すれば問題無いから。捕まえた」


「うっ!」


 タケシは鞭を避け頭から懐に飛び込むと、そのまま平野の腹に頭から突っ込んだ。



「これだけ近付けば、反撃出来ないだろ!」


「くっ!このっ!」


「アレ?」


 あっさりと投げられるタケシ。

 その勢いで地面を転がってもう一度立ち上がると、タケシは目を疑った。



「えーと、何処にその筋肉を隠してたのかな?」


「僕は強い強い強い強い。マッスル!」


「す、凄い!ケンシロウを超えてるじゃんか!」


 筋肉で服を破るのは分かるが、彼の場合は鎧を破壊している。

 そんな事が出来るのは、宇宙の帝王くらいしかタケシは思い浮かばなかった。



「マジか。流石に宇宙レベルの強さだと、俺でも勝てないかもなぁ」


「タケシさん、僕との戦いは遊びですか!?」


「は?」








 平野のパンプアップした身体は、最早最初に抱いた貧弱さは無い。

 背の高さは変わっていないものの、ボクシングの階級で言えばフライ級くらいの体格からライト級くらい。

 体重で言うと10キロ以上の差は感じられるものだった。

 いや、もっとかもしれない。

 気付けば自分と同じか、少し下くらいの階級と思われた。


 そんな彼が、意味の分からない事を言ってきた。



「遊びって?」


「僕との戦いは、本気を出すに値しませんか?」


「意味が分からないんだけど」


 タケシは首を捻ると、少しだけイラッとしたような感情が湧き出てくる。



「どうして投げ技ばかり使うんですか!」


「それは人の勝手だろう」


「僕には手を抜いてるようにしか、見えませんよ。そんな事をしていると、貴方死にますよ」


 タケシは平野の姿を見失った。

 パワーが上がったのかと思いきや、スピードまで上がっていたのだ。

 気付くと空を見上げているタケシ。

 遅れて顎に痛みが走る。



「ぬあぁぁぁ!!」


 猛烈なラッシュをかけてくる平野に対し、タケシは頭を引っ込めると身体を丸めた。



「ぐふっ!」


 思っていた以上に拳が重い。

 タケシは少しずつ下がると、平野の拳が更に重くなる。



「効いてる!?もっと、もっとだ!僕は強い!」


「な、なるほど。そういうタイプね」


 タケシは平野の強さが、自己暗示で強くなるタイプだと思った。

 自分は強いと信じ込み、普段以上の力を発揮する。

 日本に居た頃にも、同じようなタイプの人間と戦った記憶がある。

 そしてタケシは、そういうタイプの相手にも勝ってきた経験があった。



「うらららぁぁぁ!!」


「強いと思うよ。でも、俺の方が強い!」


「ガハッ!」


 タケシの拳が平野の腹を捉えた。

 お互いに後ろへ吹き飛んだが、タケシはすぐに起き上がった。

 お互いに拳が当たっており、カウンターとは言えないパンチだったが、平野の方がダメージは大きい。

 何故ならタケシには、超回復という反則級の能力があったからだった。



「ほ、本気のタケシさんのパンチが、こんなに強いなんて。でも、まだまだ戦える!」


「マジかよ。ダメージも自己暗示で治せちゃうのか。反則だな」


「貴方の異常なタフさも、同じでしょうよ」


 腹筋にはタケシの拳の痕があったのだが、気付けばそれも薄くなってきている。

 タケシは平野を反則だと言い、平野もタケシを反則だと言う。



「フフ、なるほどね」


「何がおかしいんです?」


「キミは強い」


 タケシに強いと言われた平野は、身震いをした。

 頭に雷が落ちたようなショックと、信じられない言葉を掛けられた高揚感に、平野の顔は緩む。



「ありがとうございます!」


「だからこそ、俺も本気で戦う」


「本気?今まで本気じゃなかったんですか?」


「本気だったよ。でも総合格闘家として、まだ本気は出していない」


 タケシは基本的に、総合格闘技で言えば立ち技がメインのストライカーと呼ばれるタイプに当たる。

 グラウンドと呼ばれる寝技はあまり得意ではなかったが、彼はこの世界に来てから、プロレスや柔道等も習っている。

 超回復を駆使して覚えたそれ等は、既に一流に近い。



「だったら僕も、もっと強くなる!」







「助かるね。スタンディングとグラウンド。打撃に投げ技。関節も締め技も全てを懸けて、俺はキミを本気で倒すよ。悪いけど、格闘技に事故はつきものだ。でもキミなら死なないと、俺は信じて戦う」

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