同音異義
会話が通じない相手ほど、辛いものは無い。
ベティは謎の男平野と福島の二人と出会った。
そこで僕が思ったのは、自己紹介でベティと名乗るのはどうなんだろう?
敵とはいえ、TPOというのが必要な気もするんだけど。
佐々成政だよねと尋ねられて、ベティよと答える辺り、話が全く噛み合ってないよね。
でもこれって、僕の頭が固いだけなのかな?
敵だから適当な偽名を使う時もあるだろうし、わざわざ本名を名乗る必要は無いとも言える。
だけど向こうから佐々成政だよねと尋ねられたなら、自分の名前なんだから、肯定するのが正解な気もする。
それに彼は、ベティという名前に必ずしも拘っていない。
長秀や一益といった領主と話をする時は、佐々殿と言われても特に否定はしていないからね。
どうしても佐々成政という名前が嫌なら、領主達にもベティと呼んでくれと頼むはず。
それをしない辺り、佐々成政も嫌じゃないと思うし。
そもそもベティは、どうしてベティなんだろう?
ムッちゃんがタケシと呼ばれているのは、なんとなく分かるんだよ。
分かりやすいリングネームって意味合いもあるだろうし、武藤士郎という名前をもじっているから分かりやすい。
でも佐々成政からベティって、何処がどうなって出てきたんだ?
そもそも佐々成政なら、まずさっちゃんとかなっちゃん辺りが思い浮かぶと思う。
もしくは身体的な特徴から、アダ名が出来る場合もある。
背が高ければノッポとかね。
でもベティは身体的にも該当しないし、全く関係無い。
何故ベティなんだ?
マズイな。
凄くどうでも良いと思いつつ、何故か気になってきた。
ベティが戻ってきたら、名前の由来を聞いてみよう。
コレ、フラグにならないよね?
「教えると思う?福島さん!」
「ジャパアァァン!!」
福島が叫ぶと、ベティはすぐに後退した。
やはり見間違いではない。
ベティは平野が盾を持っているのを見て、何か秘密があると確信した。
「あっ!このナイフ、偽物だ」
「偽物?ホントだ。水になってる」
「バレちゃったわね。でも言ったでしょ。イリュージョンって」
「そうだった。福島さん、この手品凄いですよ」
「バカ!」
平野に怒鳴る福島。
しかし内心は、自分が幻に騙された事を誤魔化す為でもあった。
それに気付かない平野は、素直に謝っている。
「とりあえずアナタの存在は確認したわ。それじゃあね」
「待て!スカイインフェルノを、こんな所で逃してたまるか」
日本号を空に向かって掲げると、福島はベティに攻撃を仕掛けた。
「遅いわ。アナタの見えない攻撃は、アタシにはもう届かないわよ」
「クソッ!平っち、どうにか出来ないか?」
「うーん、だったら同じくらい、速く飛べれば良いんですよね?」
「バカを言え!スカイインフェルノと同じ速度で、空が飛べるはずが」
「飛べますよ。多分だけど」
「は?」
平然と言う平野を、福島は疑う。
だが彼の能力がよく分からない福島は、彼を信じる事にした。
「どうやって空を飛ぶんだ?」
「そうですね。まずは翼を生やして、スピードはジェット機かな」
「ジェット機?」
平野がブツブツと呟くと、福島は平野の背中を見て唖然とした。
「翼が生えた!?」
「くすぐったいですよ」
「本物なのか!」
平野の背中に生えた翼を、無造作に触る福島。
開いた口が塞がらない福島は、平野が空に飛び上がるのを見送る。
「マジか・・・」
「それじゃ、追い掛けてみます」
平野は猛スピードで、逃げたベティを追い掛けていく。
「カッちゃん、戻ったわよ」
地上に向かって手を振るベティ。
下に居る本多は、何やら大袈裟に動いている。
だがベティもバカではない。
後方から何かが猛スピードで追ってきている事には、気付いていた。
「まさか空まで飛べるとは。アナタ、ヒト族じゃなくて鳥人族とのハーフなのかしら?」
「僕はヒト族ですよ。だって日本から来た召喚者だし」
「召喚者の能力ね。武器を作り変えて、身体も変化させる。まるで魔王様の創造魔法と、同じじゃない」
「えっ!」
ベティの言葉に突然慌てふためく平野。
彼は何がそこまで彼を慌てさせたのか、分からなかった。
「アナタ、魔王様の知り合いかしら?」
「知らないよ!魔王なんか見た事も無いし」
「そう。じゃあ創造魔法と関係してるのね」
「ち、違いますぅ!僕は想像なんて能力じゃないですぅ!」
「創造?なるほど、創造なのね」
平野が慌てて否定するも、ベティは彼の慌て具合から確信した。
そんなベティを見た平野は、突然ベティへ猛突撃を開始する。
「違うって言ってるのに!」
「あら、鬼ごっこ?アタシを捕まえようなんて、百年早い。いや、数年かしらあぁぁぁ!!」
ベティは一気に加速した。
思っていた以上に、平野が速かったからだ。
タツザマや佐藤といった速さ自慢も居るが、空を飛べるベティと比べると機動力という意味では敵わなかった。
配下である鳥人族を含めて、空でベティに追いつける人物は居ない。
最初はお遊び感覚であしらうつもりだったベティも、今では本気で逃げていた。
「しつこいわね!」
「くっ!本当に速いな」
縦横無尽に空を駆け巡る二人。
スピードは互角だが、平野はベティを捕まえる事が出来なかった。
「何でだよぉ!」
「は、速いけど、ただそれだけね。だからこういう事に対応出来ないでしょ」
「反転した!」
ベティは小回りを利かせて反対を向くと、今度は追ってくる平野に逆襲を開始する。
「斬り刻むわよ」
双剣を構えるベティは相対して突っ込んでくる平野に向かって両手を振り回した。
「た、盾ぇ!」
「何ですって!?」
何も無かった平野の手元に、突然現れる大きな盾。
それは幻ではなく、現実にベティの双剣を防いでみせた。
ただ盾の耐久力はそこまで高くなく、すぐに壊されてしまう。
しかしベティは目を疑った。
「今度は剣!コイツ、魔王様の能力とは違う!」
壊れた盾の中から、突然逆袈裟斬りに剣が現れると、ベティは左の短剣で辛うじて受け流した。
だが思わぬ反撃にバランスを崩し、落下していく。
追撃をされたらマズイ。
ベティは咄嗟に武器を構えたが、平野は追ってくる気配は無く、むしろ後退していくのを確認した。
「あ、危なかったわね。とにかく、カッちゃんに伝えないと」
大空を駆け巡っていた戦いは、魔王達だけでなく大坂城に居る秀吉達も注目していた。
「まさか佐々成政と、同等の空中戦を行えるとは。これは誤算だったな」
「空は飛べるようになったんですけど、あの速度域まで戦えるとは思いませんでしたよ」
秀吉は蜂須賀と二人、珍しく明るい顔をしている。
それは秘蔵っ子である平野の力が、間違いなく最強に近いものだと確信したからだった。
「しかし、よく平野を見つけましたね」
「それに関しては、私も自画自賛しているよ。召喚された直後の彼は、本当に貧弱だったからな」
秀吉は当時の出会いを回顧した。
召喚された直後の平野は、間違いなくCクラスだった。
エネルギー源として扱われるだけで、言わば失敗作と呼ばれる召喚者。
性格も今ほど明るくなく、自分の能力に落ち込んだ青年だった。
「早くしろ。また叱られるぞ」
厳しい訓練に堪えられず、座り込んだまま動けない平野。
当時の秀吉はヨアヒムと共に、めぼしい召喚者を探しに来ていた。
帝国の王が来ているのに、座り込んで動かない男。
それだけで目立つのだが、秀吉は何故かそれを抜きにしても何故か彼に目が行った。
「これはこれはヨアヒム様。ようこそおいで下さいました」
訓練を担当する兵が、上のクラスから順に能力を説明していく。
そしてCクラスと見られる連中には、能力の説明すらせずに終わっていた。
「あのタケシと呼ばれている男、とんでもないな」
「優れた格闘術による破壊力と、超回復という能力。あの男は天性のSクラスですよ」
ヨアヒムと教官兵はSクラスにご執心な中、やはり秀吉は平野に目が向いていた。
ヨアヒムの様子を見た彼は、少し離れても問題は無いだろうと、Cクラスの集団へと歩いていった。
「ななな何ですか?」
挙動不審に尋ねる平野。
フードを被っていて、顔見えない。
更には帝国の王の側近と思われるような人物が、突然自分達の所へ歩いてきた。
平野は動揺が隠せなかった。
「キミ達の能力を教えてほしいのだが」
「僕達の能力なんか、大した事無いですよ」
自分達を卑下するCクラスの連中。
しかし秀吉は、教官兵から聞かされていないという理由で、彼等全員の能力を尋ねた。
ほとんどの者は、確かに使える能力ではなかったが、中には変わった能力を持っている者も居た。
「空間を操る能力?」
「そうです。部屋を大きくしたり小さくしたりするだけで、特に役に立ちませんよ」
「いや、それはそれでとても貴重だ。戦闘に使うには、少しクセがありそうだが、やりようはある」
「本当ですか!?」
「キミ、名前は?」
「石田です」
秀吉は彼の顔を覚えると、後で迎えに来ると伝えた。
そして最後に、一番気になっていた人物の下へ行った。
「ダメですよ。ソイツ、嫌な事があると自分の世界に入り込むんで」
「石田、彼はどんな能力を持っているんだ?」
「知りません。戦っても弱いし、何が出来るのかも分からないです」
近くに居る連中に聞いても、彼の能力は分からないと言う。
下を向いてボーッとしている平野に、秀吉は頬を引っ叩いた。
「イタッ!な、何ですか?」
「キミの能力が聞きたい」
「僕の能力?役に立ちませんよ」
「だから、どんな能力かと聞いている」
「・・・妄想した物が出てくる能力」
平野は手元に、美少女の姿をした人形を作り出した。
目を見開き驚いた秀吉は、彼の人形を乱暴に取り上げた。
「あっ!」
「本物だ。幻ではない!キミ、コレの材料は?」
「材料なんか要らないですよ。妄想したら出てくるんですから」
「何?だったら人形以外の物でも、出てくるんじゃないのか?例えば武器とか」
「出てきますよ。ほら」
今度は短剣を作り出すと、秀吉は刃で指を軽く切った。
痛そうだと目を顰める平野をよそに、秀吉の顔には笑みが溢れ始める。
「見つけた。逸材だ!」
「逸材って。こんなの作れるだけで、僕弱いですよ」
「待て待て。妄想すれば出てくると言ったな。ならば自分の腕が筋肉質だと妄想したら、どうなるのだ?」
「えっ!?考えた事も無かったなぁ。どうだろう・・・うわっ!」
明らかに太くなる平野の右腕。
秀吉はその右腕を、咄嗟に隠した。
「キミ、名前は?」
「平野です。平野長泰。ちょっと古臭いでしょ?」
「何を言う。賤ヶ岳の七本槍のメンバーと同じ名前じゃないか。秀吉の配下として、最高の名前だと思うぞ。平野、キミは私が強くしよう。そして能力は、妄想ではなく想像。魔王の創造魔法に対抗した、想像の能力だ」




