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新しい相方

 やっぱり一長一短なのかなぁ。


 阿吽が瀕死になった時、僕は迷わず彼等を助ける為に戦場に向かった。

 何故なら死んでいなければ、彼等を確実に助けられるという自信があったから。

 それも完全回復という、チートな創造魔法を覚えたからなんだけど。

 いや、チートではなかったかな。

 まさか完全回復が、基本単体でしか使えないとは知らなかった。

 執金剛神の術が解けた阿吽は、元の阿形と吽形の二人の姿に戻っていた。

 一人の傷がどちらかだけに寄っていれば、そしたら重傷者が先で軽傷者は後回しとか出来たんだけど。

 いざ二人になってみると、二人とも仲良く重傷を負っていたわけで。

 そんなのどっちが先とか選べないでしょ。

 となると、二人同時に回復しようとしてみたんだけど。

 それがまあ遅い!

 重傷者だからなのかと思ったけど、それを差し引いてもかなり遅かった。


 これは僕の経験不足も、関係しているのは分かる。

 だけどこの完全回復という魔法、二人同時に回復させる為には、出来ていないんじゃないか?

 そう思い当たる理由が、一つあった。

 それは負傷した傷というのは、人それぞれ違うからだ。

 例えば今回の阿形と吽形であれば、二人とも脇腹が抉れており、並べると穴が空いたようになっている。

 似たような傷ではあるが、それでも左右逆になる。

 治療をするにしても、工場の流れ作業みたいに治せるわけじゃない。

 ベルトコンベアーで運ばれてきた負傷者に消毒をしようとしても、頭の人も居れば足の人も居るわけで。

 色々な場所を怪我している人にいっぺんにやろうというのは、無理じゃないかと思ったわけだ。

 だから言わせてもらうと、僕は二人の傷を塞ぐまで頑張れたのは、褒められても良いレベルだと思うんだよね。

 まあ治療箇所が、左右対称だったから出来たとも言えるんだけど。

 もしこれが、中央軍でハイタイガーにボコボコにされたミノタウロスやオーガだったら。

 まず間違いなく無理だったと思う。


 まあこれは全て、僕の予想なんだけど。

 ただ本来であれば、教わった時に詳細を聞いておくべきだったと思う。

 でも言い訳させてほしい。

 いろんな魔法を教わりながら学んでいたわけで、そこまで余裕は無かったんですよ。

 だから知らなかったのは、仕方ないという事にさせて下さい。









 長秀は何も言わずに、三機の機体を運んでくれた。

 コバと昌幸が喜んで見に来たけど、二人ともすぐにアレを見て吐いていた。

 まあね、そうなるよね。

 唯一何も無いブックベアーはまだしも、他の二機は死体がね・・・。

 長秀もそこは見ないようにしていたみたいだけど、コバ達はバラす為に見ないわけにはいかない。

 彼等は高野達にやらせようとしていたけど、今やあの三バカもも立派なバンドメンバーなのでね。

 そこは魔王の立場を使って、ストップさせてもらった。



「すまぬが、この戦いの中でコレを鹵獲機体として使う事は、不可能である」


「魔王様、申し訳ありません!」


 とまあこのように、お手上げになってしまった。



 M博士が居なくなった時点で、回収する必要は無かったとも言える。

 でも欲しい物は欲しかったわけで、コバ達も持ち帰った当初は喜んでいたんだ。

 いつか平和になったら、綺麗に改修される事を願おう!










「二人の怪我はどうですか?」


 長秀が元の大きさに戻り、阿形達の様子を見に来た。

 やはり久しぶりの再会にも関わらず、いきなり負傷したのはショックだったみたいだ。



「もう峠は越えたと思うよ」


「それは良かった!」


 傷口を塞いだ時点で、笑いが眠っている吽形は後回しにさせてもらった。

 痛みで顔を歪めている阿形の脇腹を、丁度元通りに治したところだった。



「魔王様。お手を煩わせてしまい、申し訳ありません」


「煩わせるなんて言うな。むしろ助かったのはこっちなんだ。これから吽形も治すけど、やっぱり血が減って少しフラフラするだろう?」


「はい」


「じゃあ、ちょっと向こうへ行ってもらえるかな?」


 僕は城の一角で作業をしている、輝虎とヴラッドさんを指差した。

 阿形は何故向こうに行かされるのか、不思議そうな顔をしている。



「大丈夫。怖くない、怖くないよ」


「言い方が怖いんですが」


「ヴラッドさんに血が足りないって言ってきて。どうにかしてくれるかもしれないから」


「は、はあ・・・」


 阿形は渋々向かっていく。

 長秀は吽形の治療をしている僕と、阿形がどんな目に遭うのか見た。





「あの〜、ヴラッド殿に血が足りないと言ってくれと、魔王様から頼まれたんですが」


「そうですか。ではちょっと失礼」


 ヴラッドは阿形の腕を少し切ると、流れてくる血を舐めた。



「何をするんです!?」


「はいはい。輝虎隊の皆さん、捕まえたスパイからA型を連れてきてくれますか?」


 ヴラッドが大きな声で呼び掛けると、方々から集まってきた輝虎隊がヴラッドの手伝いを始めた。

 両手両足を縛られ、自害をされないように猿轡がされた男が、輝虎隊の手で運ばれてくる。

 まるでこれから料理する素材を見るような目で、ヴラッドは運ばれてきた男を見ていた。

 そのヴラッドを見ていた阿形の頬が、引き攣っている。



「な、何をするんですか?」


「それはね、こうするんですよ」


 男の腕を切り付けると、大量の血が流れ出す。

 それは不自然なほど多く、このままでは出血多量で死ぬのではと思われた。

 だが流れ出した血が自在に動き出すと、それが瓶の中に封じられた。



「はいOK。死ぬ直前まで抜き取りました。運が悪ければ死ぬけど、運が良ければ死なないでしょう」


「それは当たり前なような・・・はっ!」


 思わずツッコミを入れてから、マズイ事を言ったのではと気付く阿形。

 しかしヴラッドは気にせず、彼にこう言った。



「どうせ敵なんだから、気にしない気にしない!キミを助ける為に、尊い犠牲になったと思おう」


「私の為ですか?」


「そうですよ。あ、弟さんの分も?」


 上から長秀が、ジェスチャーで吽形の分も必要だと伝えると、ヴラッドは再び輝虎隊を呼んだ。



「それじゃあ後で、ハクトくんに美味しいトマァトジュースを頂いてね」


「は、はい」


 阿形は知らなかった方が幸せだったかもと思いつつ、ヴラッドの怖い笑顔に引き攣った笑顔で応えた。









「向こうは派手ねぇ。アタシ達も負けられないわよ」


「そうだな。マッツンに見てもらう為にも、こっちもド派手にバーンとやるか!」


「流石はカッちゃん。分かってるわ」


 巨大な虎と熊が、長秀と阿吽を相手に戦っている。

 それは3D映画なんか目じゃないくらい、派手な戦闘だった。



「来たわね」


「少し身体が大きくなったか?」


「言われてみれば確かに。成長期かしら?」


「マッツンとは違う返しで、なかなか面白いな」


 二人は対面に現れた福島を見て、緊張感の無い会話をしている。

 それに対して福島は、逆にとても緊張しているようだ。



「福島、落ち着け。お前の今の実力なら、一人でも勝てる」


「蜂須賀さん。そ、そうは言われても。頼りにしていたアープはいつの間にかやられてしまったし、僕一人じゃあヤバイんですけど」


 アープが居ないのは、自分のせい。

 蜂須賀はそれを口にせず、一言だけ伝える。



「アープがやられたのは、お前の実力不足だ。だが今のお前は、アープが居なくなったのを機に、覚醒している。その証拠に、あの佐々成政を一人で追い詰めただろう?」


「そういえば、どうしてですかね?」


「お前のアープを思う気持ちが、強かったからだろうな。今のお前には、アープも力を貸してくれている。だからきっと勝てる!」


「あ、ありがとうアープ!」


 半分嘘で半分は本当。

 蜂須賀の巧みな話術に、さっきまでベティと本多を前にして怯えていた男は居ない。

 彼は少し肩の荷が降りると、自分の代わりに一人の男性を紹介した。



「ヒト族?誰ですか?」


「彼はお前の補佐をする」


 現れたのは、比較的若い人物。

 見た目は十代後半から二十代前半で、自分の背と同じくらいの大剣を背負っている。

 雰囲気からして好青年で、福島とは話が合いそうな人物だった。



「はじめまして。福島正則です」


「貴方が福島さんですか!?僕は平野と言います」


「平野くんか。サポートをしてくれるみたいだけど、何をしてくれるのかな?」


「前線に出て、一緒に戦いますよ」


「え?サポートって、そういう意味?」


 福島は困惑した。

 補佐をしてくれると聞いたから、てっきりアープのように軍を率いてくれるものだと勘違いしていたからだ。



「蜂須賀さん、ちょっと無理かも」


「そこまでは知らない。だがこれだけは言っておく。平野は優秀だ。おそらくお前とタメを張る」


「僕なんかと同じって・・・」


 自分の実力を知らない福島は、平野をかなり過小評価していた。

 だがそれに関しては、蜂須賀から怒りのゲンコツを食らう。



「アウチ!」


「福島、お前は秀吉様から期待されているんだぞ。だから平野と二人で任されたんだ。お前が思っている以上に、秀吉様はお前を評価している」


「そうなんですか!?」


「そうなんだよ。だからそんなお前と同じくらい、平野は秀吉様から期待されていると言って良い」


「おぉ!」

「おぉ!」


 お互いの顔を見ながら驚く二人。

 蜂須賀はため息を吐いた後、本当に大丈夫かと思いつつも、信じようと気持ちを改めた。



「私は反対側である右軍に向かわなくてはならない。だからサポートは出来ないが、お前達なら秀吉様の期待に応えられると信じているぞ」


「分かりました。やろう、平野くん!」


「頑張りましょう、福島さん!」


 二人はガッチリと握手を交わすと、蜂須賀は影の中に消えていった。



「・・・蜂須賀さんが居なくなったら、途端に心細くなったな」


「えぇ!?」


「平野くんはどう?」


 驚いた平野は少し考えると、自分の胸に手を当ててから答えた。



「大丈夫みたいですね。ドキドキしてないし」


「緊張してないんだ。やっぱり凄いなあ」


「でも、一つだけ心配もありますよ」


「何?」


「僕、本当にそこまで強いのか、分からないんですよ」


「そうなの!?」


 今度は福島が驚くと、二人は顔を見合わせて笑った。



「アハハ!」


「平野くんのおかげで緊張も解れたし、やろう!」


 目の前には、鳥人族とゴブリンの軍が広がっている。

 それを見た平野は最前に出ると、振り返って福島を見た。



「見てて下さい。僕の力を!必殺、大空断裂斬!」


 背中の剣を握ると、背負い投げをするかのように剣を振る平野。

 すると空を飛んでいた鳥人族の一部が、突然血の雨を降らせた。



「え?」


 地上に居ながら攻撃を当てた平野に、予想外過ぎて言葉が出ない福島。

 すると平野は、不安そうに福島の顔を見た。








「実は僕、あんまり人と戦った事無いんですよ。やっぱりこの程度じゃあ、僕は戦力になりませんよね。弱くてすいません!」

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