表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1261/1299

加藤の実力

 自爆、自滅、自壊。

 言い換えれば、自業自得だろう。


 M博士は藤堂を犠牲にして、阿吽にビーム砲で腹に穴を空けた。

 誰がどう見ても、悪者の所業である。

 そりゃ仲間である加藤だって怒るし、藤堂をやられた事に対して許せないだろう。

 しかし博士はこうも言っていた。

 秀吉の為なら、これくらいはして当然だと。

 これには少し、僕も思うところがある。

 何故なら僕も、似たような体験をしているからね。

 それは太田や又左といった連中の事だ。


 命を懸けて当然という考えは、彼等にも共通していると思う。

 太田や又左は僕の為なら、一人でも軍と戦おうとしたりする。

 いくら強くても体力には限りがあり、いつかは疲労してやられてしまう。

 物語では奇襲奇策で、大軍に勝利したり押し返したりする事が多い。

 だけどそういう人達は、苦肉の策でやっているだけであって、本来ならそんな賭けに出るような作戦は行わないのが普通だ。

 結局のところ、戦いは数なんだよ。

 太田も又左も、その辺が分かっていない。

 僕はそんな考えには、賛同出来ない。

 もしやられてしまったら、残された人はどうなるのか考えていないからだ。

 勝つ為には、犠牲も必要。

 分からなくもないけど、不要な犠牲を増やす意味は無いと思っている。

 と、僕は思っているのだが。

 じゃあ、秀吉はどう思っているんだろうか。

 秀吉も僕と同じような立場ではあるが、彼は僕よりも非情な性格をしていると思う。

 いや、本当は分からないよ?

 もしかしたら仲間思いで、ついてきてくれる仲間にはとても優しいかもしれないし。

 今回の藤堂の件も、博士を糾弾するかもしれないし、その死に対して号泣するかもしれない。

 ・・・想像出来ないな。


 自分の為に身体を張ってくれるのは、正直嬉しい。

 でも無茶をして身体を壊したり、それどころか命まで落としたりしたら、僕は自分が許せないかもしれない。

 だから僕は、命を懸けて当然という考えを肯定は出来ないかな。









 加藤の声は、怒りと悲しさが入り混じったような、複雑な感じだった。



「お前達でも、仲間を想う気持ちはあるのだな」


「当たり前だ!藤堂の死を無駄には出来ない。アングリーフェアリーは倒した。次はお前だ!」


「動けないお前に、何が出来るのだ?」


 ブックベアーの関節部に絡みつく植物は、全く外れそうに無い。

 無理矢理引き千切ろうとレバーを動かす加藤だが、長秀の魔法で生やした植物は特別だった。



「ブックベアーが無くとも!」


 機体から降りる加藤。

 すると彼は、ある異変に気付いた。

 倒れているはずの大きな物体が無いのだ。



「アングリーフェアリーの死体が無い?」


「勝手に殺すでない」


「そんなバカな!死んでないだと!?」


 藤堂が命を失ってまで行った、致命的な一撃。

 博士の蛮行と言えなくはないが、これで阿吽が死んでいなければ、藤堂は無駄死にとも言える。

 怒り狂った加藤は、阿吽が居た場所へと向かった。



「き、貴様は!」








 僕は阿吽がハイタイガーに捕まり、ビームで腹を撃ち抜かれたのを見て、すぐに城から飛び降りていた。

 兄はそれを察してか、自ら交代して猛スピードで阿吽に向かって走っていった。

 幸いな事に、中央では長秀達と藤堂達の巨大決戦しか行われていない。

 敵に遮られる事も無く、真っ直ぐに向かう事が出来た。

 そして阿吽の巨体の前に到着した僕は、すぐに治療を行ったのだった。



「どうして阿久野がここに!?」


「ん?あぁ、加藤清正だったっけ。ごめんね、阿吽はこれからも必要な人材なんだ」


「部下一人の為に、戦場に単身で出向いたというのか?」


「一人、ではないかな。でも一人だろうが二人だろうが、仲間をそのまま見捨てるのはね」


 以前と違い、僕には完全回復という創造魔法があるのだ。

 だからこそ僕の手の届く範囲では、可能な限り仲間は死なせはしない。

 死んだ人は戻ってこないのだから。

 しかし僕のそういう考えは、甘いとも言えなくもない。

 目の前に居る加藤は、僕のそんな考えが理解出来ない一人のようだ。



「こんな所まで部下を助ける為に来るとは。墓穴を掘ったな、阿久野!今ここで貴様の首を取れば、この戦いは終わる」


「勝敗に関係しているのは分かってるよ。でもだからといって、阿形と吽形を見捨てて良い理由にはならないよね」


 元の大きさに戻った阿形と吽形は、二人とも脇腹が抉れていた。

 二人を並べると、穴が空いたような形になるのだろう。

 まだ治療は終わっていない。

 ここで加藤が来ると面倒なのだが。

 それは向こうも見逃してはくれないよね。

 加藤は槍を持って突っ込んできた。



「死ね!」


「死ぬのはお前だ!」


 僕に向かってきた加藤だが、こちらもそれを黙ってみているはずは無い。

 僕から目が離せなかった加藤は、長秀の存在を忘れていた。

 彼は横から加藤へ飛び蹴りを入れると吹き飛んでいき、僕と阿吽の二人から大きく離れた。

 槍の石突でブレーキをかけて止まる加藤。

 ダメージ的にはあまり大きく無さそうだ。



「魔王様、二人を連れて離れられますか?」


「もう少し治療をしてからじゃないと、無理かなぁ」


 腹の傷はまだ塞がっていない。

 下手に動かせば、再び出血をしかねない。

 あまり血を流し過ぎると、ショック死する可能性もある。

 長秀も無理を言ってると理解しているからか、すぐに了承してきた。



「せめて一人でも倒さなければ」


 加藤の様子がおかしいな。

 さっきよりも空気がピリピリするというか。

 もしかしてコイツ、意外と強い?



「魔王様は治療に集中して下さい。ここは私にお任せを」


 加藤に向かって走っていく長秀。

 加藤がこちらに来ないように、自分からこの場を離れたのだろう。



「丹羽長秀ぇ!信長の配下の中では、パッとしないモブキャラの分際で、俺の邪魔をするなぁ!」


「私が初代様の配下?意味がわからない事を言う」


「モブには一生分からん!」


「意味が分からなくとも、これだけは分かる。貴様、私をバカにしているだろう!」


 二人は共に立ち向かっていった。



 少し予想外だったのは、加藤の武器が槍にも関わらず、自ら前に出る事だ。

 長秀の武器は、今や右手に持ったレイピアのみ。

 長さで言えば、槍の半分程度しかない。

 ならば距離を取って戦えば、圧倒的に加藤の有利になると思ったのだが。

 わざわざ不利な接近戦に、持ち込む理由は何だ?



「死にに来たか。ならば貴様の願い通り、倒してやろう」


「バカめ、同田貫!」


「何!?」


 なんと!

 コイツ、長秀の武器と似たような物を持っているのか!?



「ぬあぁぁ!!」


「だがその程度なら!」


 加藤の剣戟と長秀のレイピアがぶつかり合う。

 長秀のレイピアは、コバ達が新しく作り出した武器だ。

 間違いなく最高峰の業物のはずなのだが。

 加藤の武器も負けていないらしい。

 だが、それも長くは続かなかった。



「くっ!」


 足払いをされた加藤が、地面に転がった。

 地面から森魔法で蔦が出てくると、彼は慌てて転がり蔦を切って逃れた。



「奇襲のつもりだったかな?その程度では、驚くに値はしないが」


「考えが甘かったか。だが、俺の本職はこっちだ!片鎌!」


 加藤の剣が、また槍に戻った。

 やはりレイピアでは間合いは遠く、近寄る事は出来ない。



「槍は確かに面倒だが、魔法と組み合わせれば、怖くはないな」


「そうかい。それならこれはどうかな?」


 加藤は槍を構えた。

 やはりこっちが本職とあって、又左や慶次の持つ雰囲気と遜色無い。

 そんな加藤が遠い間合いから、何故か槍を突いてきた。

 するとその先端から飛び出した虎が、長秀に向かっていく。



「噛みつけ、片鎌!」


「幻ではないのか!?」


 レイピアで虎を突いた長秀は、刺した感触に驚いている。

 そして問題は、彼が槍を突く度に飛び出してくる事だ。



「どうした?ご自慢の魔法で、どうにかすれば良いのではないか?」


「言わせておけば!」


 長秀が魔法を使うと、加藤の突きの速さが増した。

 どうやらそれを狙っていたようだ。



「しまった!」


「アングリーフェアリーの命はもらった!」









 加藤の狙いは長秀ではなく、後ろで倒れている阿形と吽形だった。

 加藤は長秀が魔法を使い、手が緩んだ隙を狙って突きを速め、虎をこちらへと向かわせるのが目的だったようだ。

 もしくは僕も、虎のターゲットの中に入っているのかもね。



「魔王様!」


 長秀が慌てている。


 しかしこれはマズイな。

 現状、手が離せない。

 思った以上に、回復速度が遅いのだ。

 おそらくだけど、二人同時に完全回復を使うと、倍以上の時間が掛かるらしい。

 今までは緊急時でも一人ずつだったけど、これは予想外だった。

 一度魔法を解除して、虎の対応をしないと危険かもしれない。



「厄介な奴だな」


「こ、ここは私が」


「阿形!?」


 虎の方に目を向けていると、知らぬ間に阿形が立ち上がっていた。

 彼は僕達の前に立ちはだかると、素手で虎を投げ捨てた。



「投げられるの!?」


「投げられましたね。うっ!」


「無理するな!」


 虎は実体があるらしく、どうやら素手でも触れるらしい。

 阿形は空気投げのような要領で投げ捨てていたけど、やはり無理をしていた。

 まだ傷口が塞がっているだけで、肉は抉れているのだ。



「よくやった!」


「あの傷をもう治したのか!?」


 加藤は阿形が立ち上がった事に、驚いていた。

 まあこれに関しては、治療している僕も同じだったけど。

 しかし二体投げた段階で体力の限界が来たのか、膝をついてしまっている。

 幸い虎は長秀が魔法で捕まえており、こちらに追撃はやって来ない。



「もう一度だ」


「私がみすみす、やらせると思うのか?」


 加藤の突きが、虎を再び生み出している。

 だがその手が突然止まった。

 気付けば彼の槍に、蔦が巻き付いていた。


 長秀が虎を全て始末すると、ゆっくりと歩いて加藤へと近づいていく。



「ま、まだだ!同田貫!」


「だから、剣では負けないと言っている!」


 加藤の槍が剣へと変わっていく。

 だが加藤がその剣を振る前に、全ては終わってしまった。



「我が剣の前に倒れろ!」


 高速で放たれる長秀のレイピアによる突きが、加藤の身体を貫いていく。

 穴だらけになった彼は、前へと倒れ動く事は無かった。



「・・・終わったか」


 長秀は残心して全てが終わったのを確認すると、急に空気が変わりこちらへと走ってくる。



「阿形、大丈夫か?」


「大丈夫です。と言いたいのですが、やはり無理をしてしまったようで」


 顔を歪めて答える阿形。

 敵は居なくなったし、傷も塞がった。

 だったら空間転移で戻ってから治療するのが、ベストだろう。



「二人は空間転移で城へ連れて帰り、治療するから」


「わざわざ二人の為に、ありがとうございます」


「それで悪いんだけど、長秀にお願いがあるんだ」


「何ですか?」


 ちょっと言いづらいけど、これは僕の趣味の為。

 いや、今後の為にも必要なのだ。







「壊れた機体の残骸、集めて城に持ってきてくれる?アレだよ、僕が使いたいからとかじゃないよ?決して自分で乗り込んで、合体させたいからじゃないからね。戦力になるかな〜なんて思ってるだけだから。勘違いしないでよね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ