加藤の実力
自爆、自滅、自壊。
言い換えれば、自業自得だろう。
M博士は藤堂を犠牲にして、阿吽にビーム砲で腹に穴を空けた。
誰がどう見ても、悪者の所業である。
そりゃ仲間である加藤だって怒るし、藤堂をやられた事に対して許せないだろう。
しかし博士はこうも言っていた。
秀吉の為なら、これくらいはして当然だと。
これには少し、僕も思うところがある。
何故なら僕も、似たような体験をしているからね。
それは太田や又左といった連中の事だ。
命を懸けて当然という考えは、彼等にも共通していると思う。
太田や又左は僕の為なら、一人でも軍と戦おうとしたりする。
いくら強くても体力には限りがあり、いつかは疲労してやられてしまう。
物語では奇襲奇策で、大軍に勝利したり押し返したりする事が多い。
だけどそういう人達は、苦肉の策でやっているだけであって、本来ならそんな賭けに出るような作戦は行わないのが普通だ。
結局のところ、戦いは数なんだよ。
太田も又左も、その辺が分かっていない。
僕はそんな考えには、賛同出来ない。
もしやられてしまったら、残された人はどうなるのか考えていないからだ。
勝つ為には、犠牲も必要。
分からなくもないけど、不要な犠牲を増やす意味は無いと思っている。
と、僕は思っているのだが。
じゃあ、秀吉はどう思っているんだろうか。
秀吉も僕と同じような立場ではあるが、彼は僕よりも非情な性格をしていると思う。
いや、本当は分からないよ?
もしかしたら仲間思いで、ついてきてくれる仲間にはとても優しいかもしれないし。
今回の藤堂の件も、博士を糾弾するかもしれないし、その死に対して号泣するかもしれない。
・・・想像出来ないな。
自分の為に身体を張ってくれるのは、正直嬉しい。
でも無茶をして身体を壊したり、それどころか命まで落としたりしたら、僕は自分が許せないかもしれない。
だから僕は、命を懸けて当然という考えを肯定は出来ないかな。
加藤の声は、怒りと悲しさが入り混じったような、複雑な感じだった。
「お前達でも、仲間を想う気持ちはあるのだな」
「当たり前だ!藤堂の死を無駄には出来ない。アングリーフェアリーは倒した。次はお前だ!」
「動けないお前に、何が出来るのだ?」
ブックベアーの関節部に絡みつく植物は、全く外れそうに無い。
無理矢理引き千切ろうとレバーを動かす加藤だが、長秀の魔法で生やした植物は特別だった。
「ブックベアーが無くとも!」
機体から降りる加藤。
すると彼は、ある異変に気付いた。
倒れているはずの大きな物体が無いのだ。
「アングリーフェアリーの死体が無い?」
「勝手に殺すでない」
「そんなバカな!死んでないだと!?」
藤堂が命を失ってまで行った、致命的な一撃。
博士の蛮行と言えなくはないが、これで阿吽が死んでいなければ、藤堂は無駄死にとも言える。
怒り狂った加藤は、阿吽が居た場所へと向かった。
「き、貴様は!」
僕は阿吽がハイタイガーに捕まり、ビームで腹を撃ち抜かれたのを見て、すぐに城から飛び降りていた。
兄はそれを察してか、自ら交代して猛スピードで阿吽に向かって走っていった。
幸いな事に、中央では長秀達と藤堂達の巨大決戦しか行われていない。
敵に遮られる事も無く、真っ直ぐに向かう事が出来た。
そして阿吽の巨体の前に到着した僕は、すぐに治療を行ったのだった。
「どうして阿久野がここに!?」
「ん?あぁ、加藤清正だったっけ。ごめんね、阿吽はこれからも必要な人材なんだ」
「部下一人の為に、戦場に単身で出向いたというのか?」
「一人、ではないかな。でも一人だろうが二人だろうが、仲間をそのまま見捨てるのはね」
以前と違い、僕には完全回復という創造魔法があるのだ。
だからこそ僕の手の届く範囲では、可能な限り仲間は死なせはしない。
死んだ人は戻ってこないのだから。
しかし僕のそういう考えは、甘いとも言えなくもない。
目の前に居る加藤は、僕のそんな考えが理解出来ない一人のようだ。
「こんな所まで部下を助ける為に来るとは。墓穴を掘ったな、阿久野!今ここで貴様の首を取れば、この戦いは終わる」
「勝敗に関係しているのは分かってるよ。でもだからといって、阿形と吽形を見捨てて良い理由にはならないよね」
元の大きさに戻った阿形と吽形は、二人とも脇腹が抉れていた。
二人を並べると、穴が空いたような形になるのだろう。
まだ治療は終わっていない。
ここで加藤が来ると面倒なのだが。
それは向こうも見逃してはくれないよね。
加藤は槍を持って突っ込んできた。
「死ね!」
「死ぬのはお前だ!」
僕に向かってきた加藤だが、こちらもそれを黙ってみているはずは無い。
僕から目が離せなかった加藤は、長秀の存在を忘れていた。
彼は横から加藤へ飛び蹴りを入れると吹き飛んでいき、僕と阿吽の二人から大きく離れた。
槍の石突でブレーキをかけて止まる加藤。
ダメージ的にはあまり大きく無さそうだ。
「魔王様、二人を連れて離れられますか?」
「もう少し治療をしてからじゃないと、無理かなぁ」
腹の傷はまだ塞がっていない。
下手に動かせば、再び出血をしかねない。
あまり血を流し過ぎると、ショック死する可能性もある。
長秀も無理を言ってると理解しているからか、すぐに了承してきた。
「せめて一人でも倒さなければ」
加藤の様子がおかしいな。
さっきよりも空気がピリピリするというか。
もしかしてコイツ、意外と強い?
「魔王様は治療に集中して下さい。ここは私にお任せを」
加藤に向かって走っていく長秀。
加藤がこちらに来ないように、自分からこの場を離れたのだろう。
「丹羽長秀ぇ!信長の配下の中では、パッとしないモブキャラの分際で、俺の邪魔をするなぁ!」
「私が初代様の配下?意味がわからない事を言う」
「モブには一生分からん!」
「意味が分からなくとも、これだけは分かる。貴様、私をバカにしているだろう!」
二人は共に立ち向かっていった。
少し予想外だったのは、加藤の武器が槍にも関わらず、自ら前に出る事だ。
長秀の武器は、今や右手に持ったレイピアのみ。
長さで言えば、槍の半分程度しかない。
ならば距離を取って戦えば、圧倒的に加藤の有利になると思ったのだが。
わざわざ不利な接近戦に、持ち込む理由は何だ?
「死にに来たか。ならば貴様の願い通り、倒してやろう」
「バカめ、同田貫!」
「何!?」
なんと!
コイツ、長秀の武器と似たような物を持っているのか!?
「ぬあぁぁ!!」
「だがその程度なら!」
加藤の剣戟と長秀のレイピアがぶつかり合う。
長秀のレイピアは、コバ達が新しく作り出した武器だ。
間違いなく最高峰の業物のはずなのだが。
加藤の武器も負けていないらしい。
だが、それも長くは続かなかった。
「くっ!」
足払いをされた加藤が、地面に転がった。
地面から森魔法で蔦が出てくると、彼は慌てて転がり蔦を切って逃れた。
「奇襲のつもりだったかな?その程度では、驚くに値はしないが」
「考えが甘かったか。だが、俺の本職はこっちだ!片鎌!」
加藤の剣が、また槍に戻った。
やはりレイピアでは間合いは遠く、近寄る事は出来ない。
「槍は確かに面倒だが、魔法と組み合わせれば、怖くはないな」
「そうかい。それならこれはどうかな?」
加藤は槍を構えた。
やはりこっちが本職とあって、又左や慶次の持つ雰囲気と遜色無い。
そんな加藤が遠い間合いから、何故か槍を突いてきた。
するとその先端から飛び出した虎が、長秀に向かっていく。
「噛みつけ、片鎌!」
「幻ではないのか!?」
レイピアで虎を突いた長秀は、刺した感触に驚いている。
そして問題は、彼が槍を突く度に飛び出してくる事だ。
「どうした?ご自慢の魔法で、どうにかすれば良いのではないか?」
「言わせておけば!」
長秀が魔法を使うと、加藤の突きの速さが増した。
どうやらそれを狙っていたようだ。
「しまった!」
「アングリーフェアリーの命はもらった!」
加藤の狙いは長秀ではなく、後ろで倒れている阿形と吽形だった。
加藤は長秀が魔法を使い、手が緩んだ隙を狙って突きを速め、虎をこちらへと向かわせるのが目的だったようだ。
もしくは僕も、虎のターゲットの中に入っているのかもね。
「魔王様!」
長秀が慌てている。
しかしこれはマズイな。
現状、手が離せない。
思った以上に、回復速度が遅いのだ。
おそらくだけど、二人同時に完全回復を使うと、倍以上の時間が掛かるらしい。
今までは緊急時でも一人ずつだったけど、これは予想外だった。
一度魔法を解除して、虎の対応をしないと危険かもしれない。
「厄介な奴だな」
「こ、ここは私が」
「阿形!?」
虎の方に目を向けていると、知らぬ間に阿形が立ち上がっていた。
彼は僕達の前に立ちはだかると、素手で虎を投げ捨てた。
「投げられるの!?」
「投げられましたね。うっ!」
「無理するな!」
虎は実体があるらしく、どうやら素手でも触れるらしい。
阿形は空気投げのような要領で投げ捨てていたけど、やはり無理をしていた。
まだ傷口が塞がっているだけで、肉は抉れているのだ。
「よくやった!」
「あの傷をもう治したのか!?」
加藤は阿形が立ち上がった事に、驚いていた。
まあこれに関しては、治療している僕も同じだったけど。
しかし二体投げた段階で体力の限界が来たのか、膝をついてしまっている。
幸い虎は長秀が魔法で捕まえており、こちらに追撃はやって来ない。
「もう一度だ」
「私がみすみす、やらせると思うのか?」
加藤の突きが、虎を再び生み出している。
だがその手が突然止まった。
気付けば彼の槍に、蔦が巻き付いていた。
長秀が虎を全て始末すると、ゆっくりと歩いて加藤へと近づいていく。
「ま、まだだ!同田貫!」
「だから、剣では負けないと言っている!」
加藤の槍が剣へと変わっていく。
だが加藤がその剣を振る前に、全ては終わってしまった。
「我が剣の前に倒れろ!」
高速で放たれる長秀のレイピアによる突きが、加藤の身体を貫いていく。
穴だらけになった彼は、前へと倒れ動く事は無かった。
「・・・終わったか」
長秀は残心して全てが終わったのを確認すると、急に空気が変わりこちらへと走ってくる。
「阿形、大丈夫か?」
「大丈夫です。と言いたいのですが、やはり無理をしてしまったようで」
顔を歪めて答える阿形。
敵は居なくなったし、傷も塞がった。
だったら空間転移で戻ってから治療するのが、ベストだろう。
「二人は空間転移で城へ連れて帰り、治療するから」
「わざわざ二人の為に、ありがとうございます」
「それで悪いんだけど、長秀にお願いがあるんだ」
「何ですか?」
ちょっと言いづらいけど、これは僕の趣味の為。
いや、今後の為にも必要なのだ。
「壊れた機体の残骸、集めて城に持ってきてくれる?アレだよ、僕が使いたいからとかじゃないよ?決して自分で乗り込んで、合体させたいからじゃないからね。戦力になるかな〜なんて思ってるだけだから。勘違いしないでよね」