久々の怒り
名前負けしてると考えるべきなのか?
M博士は加藤と藤堂が作ったナゴヤオルカを、勝手に改造してしまった。
そして機体の名前は、イグレットという全く別の物となってしまっていた。
まあ名古屋城の鯱鉾から鯱にするという考えは、なんとなく理解出来なくもない。
鯱がオルカってのも分かるし、ネーミングセンスの無い彼等なら、ナゴヤって付けるのも分かる。
だけどイグレットって何?
意味が分からないので、思い切って調べてみた。
するとイグレットは、白鷺を意味するらしい。
そして僕は、白鷺と聞いてすぐにある城が思い浮かんだ。
別名白鷺城と呼ばれる、姫路城である。
姫路城はその美しさから、白鷺城とも呼ばれている。
M博士は美しい物が好きなようなので、ブックベアーに合わせて名前をイグレットにしたのかなと思った。
更に言えば熊本城と姫路城は、重要文化財が多数ある。
そういう点でも、合わせたかったのかもしれない。
ただし、ここで一つ微妙な点が浮かび上がってしまった。
藤堂高虎が操る、ハイタイガーである。
これはこれで分かるんだよ。
高虎が乗ってるんだから、ハイタイガー。
自分の機体に名前を付けるという、ちょっとナルシスト的な面も垣間見えるけど、分かりやすさという面では分からなくはない。
でも藤堂は、名前に関して加藤と話し合わなかったのかな?
熊本城と名古屋城という、日本でも屈指の有名な城を模した名前を使っているなら、藤堂も合わせれば良かったんじゃないか?
なんて思ったんだけど、これはこれで酷だったのかもしれない。
そもそも加藤も藤堂も、城造りの名人として知られている。
だけど藤堂は今治城や宇和島城といった城は築城したが、加藤の熊本城ほど有名ではない。
でも日光東照宮や大坂城等にも関わりがあり、藤堂が凄いのは分かる。
ただしそれって、多少知識のある人達だけにしか評価されないんだよね。
藤堂高虎って凄いんだよって言っても、加藤清正とどっちの方が知名度があるかと言われたら、やっぱり後者かなと思ってしまう。
知名度で言ったら加藤清正。
でもどっちが勝ち組かと聞かれたら、急死した加藤清正よりも長生きしてた藤堂高虎って答えるかもね。
ただの飾りです。
性能が十全に発揮されるのであれば、飾りでも良いと思う。
でも加藤の言い分だと、この機体には飛行性能は無さそうだ。
M博士が取り付けた翼により、飛行機能も追加されていれば、長秀と阿吽は窮地に追い込まれたと思われる。
だが三人のやりとりが外まで聞こえており、その声色から嘘ではないと長秀達は判断した。
「少し大きくなった程度で、そこまで脅威ではないのでは?」
「甘く考えるな。油断は禁物と心せよ」
「その通りなのだよ。では、小生の力の一端をお見せしよう」
博士がそう言うと、肩にあるビーム砲が斜め下に向いた。
長秀と阿吽はその場から飛び退くと、立っていた足下にビームが突き刺さった。
「あの砲台、壊れてなかったんですね」
「バカにしてるのか!」
阿吽の言葉に藤堂が怒りを露わにすると、博士が彼の代弁を始める。
「彼は撃たなかっただけ。ハイタイガーを操りながら狙うのは、至難の業。動かないマト以外には当てられないのだよ」
「そうか、俺達は三人で一つの機体に乗っている。役割分担が出来るから、こんなにも戦いやすいのか!」
「今更そんな事に気付くとは。馬鹿と天才紙一重といった感じなのだよ」
「博士、味方をバカにするのはやめてくれ。藤堂は良い奴だからな」
凹む藤堂を慰める加藤。
しかしマイペースな博士は、彼の言葉を聞かずにビーム砲を動かして長秀達を執拗に狙っていた。
すると加藤も参戦しようと上半身を動かしたところで、彼はある事に気付く。
「そういえば、合身した後の名称を決めてなかった」
「言われてみれば確かに。ハイタイガーとブックベアー、イグレットだったか?その三つの掛け合わせが良いのかな」
「イグハイベアー、ハイブックレット、タイガーベアーイグレット。しっくり来ないな」
自分達の乗る機体の名前が決まらない二人。
博士は二人の話し合いを聞かず、ビームを連発している。
「博士、アンタも名前決めるのに参加しろよ」
「は?そんなのはどうでもいい」
「どうでもは良くない。だからアンタも参加しろ」
「ならばキングオブビーストで良かろう。百獣の王だぞ」
「百獣の王・・・」
適当にあしらう博士。
しかし加藤と藤堂はまんざらでもなかったのか、突然シンキングタイムへと入った。
「キングビース、キングビー、キンバー、キンバリー。キンバリーはどうだろう!?」
「良いな!キンバリー、三体合身キンバリー!」
「藤堂、素晴らしい名前をありがとう」
キンバリーの中で握手を交わす二人。
だが博士は見向きもしない。
そんな姿を見て、二人は苦々しい顔をする。
二人の顔を見たわけではないが、突然博士は加藤に話し掛けた。
「なかなか素早い。加藤、小生は少しカスタムに入る。お前達だけで、しばらく戦っていてくれ」
「お、おお。ビーム砲には期待するなって話だな?分かった。藤堂、やるぞ!」
「わ、分かった!」
苦々しい顔を見られたのかと慌てる二人。
下半身を操る藤堂は、アクセルをおもいきり踏み込んだ。
「速い!」
「図体が大きくなったのに、逆に速くなるとは」
「でも、小さいからこその利点もありますよ」
今の長秀達は、大人と子供くらいの差がある。
キンバリーの胸から腰くらいしか、高さは無い。
大きさで負ける二人のメリット、それは小回りの良さだった。
「お?おお!?」
キンバリーの周りを、古武術の足運びで動く長秀達。
加藤と藤堂はモニター越しに、目を凝らしながら動きを見ていた。
だがモニターでも残像が残り、二人は目頭を押さえている。
「疲れ目じゃないよな?」
「徹夜してるしなぁ。多少はあると思うよ」
ハイタイガーとブックベアーの改造に、一晩丸々使った二人。
それを思い出すと、二人の肩にどっと疲れが溜まる。
「おわっ!」
「藤堂、脱出をしよう」
長秀と阿吽は、キンバリーの周りを動きながら短剣で足に攻撃を仕掛けてきた。
左右逆方向に歩く二人に対し、加藤も対策をする。
「藤堂、左手を頼む」
「分かった」
二人は両手を分担して動かし始める。
藤堂が腕の操作へ切り替わったせいで、キンバリーは足を止めた。
「チッ!動きが変わりましたね」
「まさか両手で対応してくるとは。しかし、この程度では!」
長秀の動きが変わった。
それに合わせて阿吽も同じく、動きを変える。
二人は足運びで不意を突く方法をやめて、左右に分かれて攻撃する事にしたのだ。
「さて、私はレイピア」
「私達は、スティレットとダガー」
「二本の腕で、四本の腕の攻撃に耐えられるかな?」
「マズイマズイマズイ!」
圧倒的手数に押されるキンバリー。
一本の武器しか持たない長秀に対し、阿吽は二本持っている。
しかも阿吽は多少の切り傷を無視しながら、攻撃に重きを置いていた。
そのせいか阿吽の攻撃する左腕は、最早肘を司るアクチュエーターは壊れ、既にだらんと垂れている状態までダメージを与えている。
しかし肩から先は動くので、時折腕を振り回すように攻撃をしていた。
「そろそろ潮時ですかね」
「腕を壊せば、遠距離攻撃のみになる。阿吽よ」
「承知しました」
肩関節を狙い、スティレットを下からねじ込もうとする阿吽。
混乱する加藤と藤堂だったが、博士が突然振り返った。
「心配無いのだよ」
肩のビーム砲が突然動くと、阿吽の腹目掛けて発射された。
後ろへ吹き飛ぶ阿吽は、ゴロゴロと地面を転がっていく。
「貴様!」
それを見た長秀がキレるが、こちらも同様に肩のビーム砲が突然動き始め、攻撃を諦めて距離を取った。
「博士!凄いじゃないか!」
「何もしてないのに、どうやって当てたのさ!?」
阿吽を倒し一矢報いた二人は、興奮しながら博士を称賛する。
しかし博士は表情を変えず、淡々と説明を始めた。
「考え方を変えたのだよ。小生が狙っても当たらないのなら、コンピューターにやらせれば良い。システムを構築して、動く物にオートで狙うようにしたのだ」
「ほ、ほう?マニュアルからオートに変更したって事ね」
あまりよく分からないが、とりあえず頷いておこう。
加藤と藤堂は、分かる範囲の説明でそう受け取った。
「阿吽!」
「大丈夫です。ダガーは壊れてしまいましたが、身体は無事です」
油断は禁物という言葉を胸に行動していた阿吽は、ビーム砲が動くや否や砲口の先が何処に向いているのかを見抜き、ダガーを間に挟んだ。
ビームがダガーに当たると、彼は自ら勢いよく後ろへ転がったのだった。
「もうアレは使えませんね」
「代わりの武器は?」
「ありません」
「ならば、コレを使いなさい」
「よろしいのですか?」
「今までの鬱憤、晴らして良い」
長秀は阿吽にそう言った。
すると阿吽の顔が、にこやかな笑顔からみるみるうちに変わっていく。
「うるあぁぁぁ!!」
「な、何だよコイツ」
「急にキレた」
「最近の若者はすぐにキレるのだよ」
豹変した阿吽に対し、逆に冷静になっていく三人。
だが冷静でいられたのは、最初だけだった。
「コイツ!」
「戦法を変えてきやがった!」
キンバリーへ攻撃を仕掛ける阿吽に対し、後ろから援護する長秀。
阿吽がしばらく一人でキンバリーと戦っている姿を見て、長秀は自分にはビームが飛んでこない事に気付いた。
「攻撃範囲か?いや、動く相手を狙っているのか」
キンバリーのビーム砲の動きを見抜くと、彼は後ろからビーム砲の対応に集中した。
「は、博士。ビーム砲読まれてないか?」
「う、うーむ」
ビーム砲の砲口が動こうとすると、突然森のような大きい茂みが迫り上がってくる。
動く物に反応したビーム砲は、茂みを焼いた。
すると揺らめく炎に反応して、ビーム砲はサッパリ阿吽を狙わなくなった。
するとビームに警戒しなくてよくなった阿吽は、キンバリーの腕の破壊に成功する。
「あぁ!」
「アハハハ!このデカブツが!調子に乗ってんじゃねえぞ!」
「な、何だよコイツ。こえーよ」
さっきまでの丁寧な所作は全く無い。
他人に興味を示さない博士はまだしも、キレた阿吽を見た事が無い藤堂と加藤は、阿吽の表情に恐怖する。
「博士、どうにかしてくれよ!」
「やれやれ、コレはあまり効果は無いと思うが」
博士はボタンを押すと、胸からクラスター弾が阿吽に向かって飛んでいく。
目の前で炸裂したクラスター弾だが、両手で頭をガードした阿吽には、大きなダメージにはなっていなかった。
「テメェ!痛えだろうが!豆鉄砲食らわせていい気になってんじゃねえぞ!今からその頭かち割ってやっから、昨日みたいにとんずらこくんじゃねえぞ!」