博士と加藤と藤堂と
お前の物は俺の物。
M博士は加藤と藤堂が作り出した三機目の巨大ロボを、勝手に改造していた。
これに関しては、各々考え方が違うんじゃないかな?
M博士は二人が作った機体に対して改造をしていたが、それは改悪ではなく改善に当たると思う。
僕達からしたら最悪だけど、新しい武器を取り付けて強くなっているのだから。
例えばそれで重量過多でスピードが著しく落ちたとか、ビーム兵器を取り付けたせいで燃費が悪くなったとか。
そういうのが顕著に出ているのなら、加藤と藤堂が怒るのも無理はないと思うんだよね。
もしかしたらそうなっているかもしれないし、そんな事は無いかもしれない。
でも後者だった場合、怒る理由なんか無いはずなんだよ。
だってその機体、強くなっているんだから。
と、第三者からしたら思うだろうね。
でも自分の物を、勝手に触られるのが嫌な人だって居るわけだ。
例えば兄弟で、RPGゲームをやっていたとしよう。
夜に塾から戻り宿題を済ませ、ゲームのスイッチを入れた。
昨夜はボス戦の直前で、セーブをしていた。
さあこれからボス戦に挑もうという時、ゲームが立ち上がるとリスタートした場所が昨日と違っている。
再びダンジョンに行くとボスは居らず、気付けばストーリーは進んでいた。
すると後ろから、お前忙しそうだからボス倒しておいたぞ。
なんて兄弟に言われたら、どう思いますか?
いやいや、確かにストーリーは進んだよ。
でも僕の楽しみは無くなったよ。
何してくれてんだ!
という気持ちに、僕だったらなるわけで。
他にもさ、紙飛行機を作ったらよく飛ぶ物が出来た。
でも兄弟から、こっちの方がよく飛ぶと言われて作り直された。
それってもう、自分の作った紙飛行機とは呼べないよね。
やってくれてありがとうと思うのか、それとも勝手に触るなと憤慨するのか。
宿題ならやってくれてありがとうと思うかもしれないけど、大半はふざけるなって思う方が多い。
でもそれって、個々人で違うと思う。
僕なら確実に怒る方だけど、加藤と藤堂はM博士の改造をどう思うのかな?
飛行機は少しずつ高度を下げていくと、長秀と阿吽から攻撃をされないであろう高さで止まる。
怒りを露わにする加藤に対し、鳥型の機体からとうとう声が発せられた。
「やあやあ加藤くん、藤堂くん」
「その声は、博士か!?」
「いかにも。藤堂くんはやっぱり気付くのが早いねえ」
勝手に乗り込んでいる事に驚いた藤堂に対し、博士は気付いた事に感心している。
噛み合わない両者だが、それ以上に噛み合わない人が居た。
「おいこのボンバーヘッド天パ!勝手に人の機体に乗るんじゃない!」
「ボンバーヘッド・・・。口が悪いな、加藤。そんなだから、大した機体も作れないんだよ」
「何だと!?」
口喧嘩を始める両者。
それを見ていた長秀は、二人の喧嘩が芝居ではないと分かると、すぐに阿吽の様子を伺った。
「火傷は酷いか?」
「いえ、大丈夫だと思います」
「しかし、初期対応は重要だ」
長秀が小さくなると、阿吽も同じく元の大きさに戻っていく。
火傷は阿形の方が少し範囲は広いが、動けないほどではない。
念の為二人は火傷箇所に薬草を貼り付けると、長秀の持つクリスタルで回復魔法を使用した。
「助かりました」
「しかし博士とは、何者でしょう?」
二人はM博士の事を知らない。
知っているのは、コバのライバルが居るという噂程度だった。
「ゴルァ!この天パ野郎!俺のナゴヤオルカを返せ!」
「ナゴヤオルカ?あぁ、イグレットの事か」
「イグレットだと?」
「みっともなかったのでな。翼を付けて白く塗り替え、新しく生まれ変わらせたのだ。そう、白鷺のような美しさに!」
「何が白鷺だ。みっともないのはお前の頭だろうが」
「・・・」
イグレットから何かが、ブックベアーに向かって落とされた。
それはブックベアーの頭上で割れると、大量の小さな弾が落ちていった。
「ぬあぁぁ!!?クラスター弾だと!」
「ちょっと博士!それは条約で禁止されてるでしょうが!」
流石の藤堂も、味方である加藤を攻撃されたとあれば黙ってはいられない。
オスロ条約というクラスター爆弾の使用等の禁止を口にすると、博士はそれを鼻で笑った。
「オスロ条約?はっ!そんなものはこの世界では、通用しないのだよ。キミ達はまだ日本に居るつもりなのかね?その姿で言う言葉ではないよ」
「だからって、仲間にやる事ではない!」
「うるさいなぁ。キミも壊されたいのかね?」
博士の声のトーンが、一段落ちた。
冗談ではないと察した藤堂は、言葉を詰まらせる。
しばらく三人の間に緊張感が走ると、博士はある事に気付いた。
「ん?あの二人の姿が消えたが?」
「あっ!逃げたのか?」
「それは無いだろう。逃げればこっちが攻めてくるのは、向こうも分かっているはずだ」
博士達の声が長秀達にも聞こえると、彼等はようやく座っていた切り株から立ち上がる。
「どうやら内輪揉めも終わってしまったようだ」
「もう少し休めると楽だったんですけどね」
「そろそろ仕事をしましょうか。執金剛神の術!」
長秀と阿吽は再び巨大化した。
「三体目!?」
「魔王様、率直にどう思われますか?」
大坂城の方から飛んできた、謎の物体。
最初はまさかとは思っていたけど、大きさからして段々怪しいなという気持ちになり、いざこちらへ飛んでくると見間違いじゃなかった。
長秀達が捕えられた時は、まだ安心して見ていられた。
でも仲間ごと火を放つあの所業は、加藤達とは違うとまざまざと見せつけられた。
官兵衛が言う率直にというのは、二つの意味があると思っている。
一つは、長秀達の手に負えるかという点。
そしてもう一つは、あの機体をどう思っているのかという点だろう。
「まず現時点では、長秀達でも戦えると僕は思う。そしてあの鳥型だけど、機体云々というよりも、パイロットの方が怖い気がする」
「現時点では?」
「まだ確証は無いからね。だから現時点では、かな」
躊躇無く味方を巻き込むやり方。
アレは昔の帝国と似たような考えだ。
一部の傲慢な人間だけだけど、アレが普通だという連中も居た。
「また執金剛神の術を使って、大きくなった。ほら、何とか戦えているでしょ」
「確かに」
2対3という構図になり、人数的に不利になった長秀と阿吽。
しかし二人は、劣勢というほど押されてはいなかった。
まず長秀はイグレットと呼んでいた鳥型の機体を、一人で相手取っている。
やはり空を飛ぶ機体には警戒しているようで、数々の爆弾を森魔法や土魔法を駆使しながら、何とか捕まえようと奮戦していた。
そして阿吽はというと、一人でハイタイガーとブックベアーを相手にしている。
こちらは主に、ビーム砲を撃たんとするハイタイガーに接近戦を挑みつつ、ハイタイガーと阿吽を引き離そうとするブックベアーが、阿吽に攻撃を仕掛けるという感じだった。
これは阿吽の人格が二つあり、両手を自在に操れるからこそ出来る、特殊な戦い方だと思う。
しかしどちらも一進一退で、お互いに決め手にかける戦いだと思われた。
「クラスター弾が切れたか。ナパームはまだあるが、このままだと埒が明かないな。加藤、藤堂」
「何だ、天パ!」
「くっ!しかし今は、弾が惜しい。お前達がイグレットを加えて、何をしようとしていたのかは分かっている」
「何!?だが、お前とはやらん!お前とすると、全てを奪われる気がするからな」
「何だ?コイツ等、何を言っている?」
ブックベアーが鳥型の機体と、再び揉めているのは分かる。
しかし阿吽にはそれがどんな内容なのか、理解が出来なかった。
「それについては誤解だと言っておこう。まず主導権はそちらにある。小生は武装の扱いだけを、やらせてもらおうか」
「・・・その言葉、二言は無いな?」
「フフフ、小生は元々からそのつもりなのだよ」
「分かった。その言葉を信じよう。藤堂!」
加藤が藤堂に呼び掛けると、逃げ回っていたハイタイガーが、突如急バックに転進する。
不意を突かれた阿吽は、挟み撃ちされると思い二人の間から飛び退いた。
「合わせろ二人とも。行くぞ、合身!」
「魔王様!?」
僕は椅子を倒しながら、勢いよく立ち上がった。
鳥型が飛んできた時に想像していた嫌な予感が、当たってしまったのだ。
「官兵衛、僕も出ないとマズイかもしれない」
「何故ですか?」
「あの三体が合体したからだ」
僕が懸念していた事。
それはあの三体が、合体する事だった。
「何故です?確かに丹羽様達より大きくなりましたが、むしろ数が減って楽になったのではないですか?」
「違う、違うよ!ロボットというのはね、合体したら二倍以上の強さを発揮するようになるんだよ」
「そういうものなんですか?」
「そういうものなんです」
官兵衛は半信半疑といった感じだけど、予想に反してこれには、長谷部が僕の味方に回ってくれた。
やはり元ヤンキーとはいえ、彼も例外なく子供の頃は戦隊モノを見ていたようだ。
「官兵衛さん、ひとまず見てみましょう。魔王様の言ってる事が間違っていないと、分かると思います」
「大きくなった!」
「私達と同じ、執金剛神の術を使った!?」
ハイタイガーとブックベアー。
そしてナゴヤオルカ改めイグレット。
この三体が合体した事で、三人の機体は一つになり、長秀達よりも二回りほど大きくなった。
そして特筆すべきは、武装の多さだろう。
両手にはブックベアーの後ろ脚に取り付けられていた、ロングソード。
そして両肩には、精度が皆無と言っていいレベルの、全く脅威ではなかったビーム砲が取り付けられている。
「本当に俺がメインパイロットなんだな」
「当たり前なのだよ。加藤が上半身、藤堂が下半身を。そして小生は、ビーム砲とその他兵装を任せてもらう」
「その他兵装?もしかして、オルカに取り付けてきたのか?」
「イグレットだ。その通りだと言っておこう」
「おぉ!博士の作った武器か!」
博士は名前を訂正すると、加藤と藤堂は初めて博士を褒めた。
すると藤堂がある事に気付く。
「もしかしてオルカに翼を装着させたのは、この合身の姿でも空を飛ばせる為!?」
「そうか!背中に翼が取り付けられた事で、空が飛べるようになったのか!」
興奮冷めやらぬ二人だが、博士は冷静に言い放つ。
「そんなわけあるか。だいたいこんな小さい翼が取り付けられたからといって、三体分の重さに耐えられるはず無かろう。翼を取り付けたのは、イグレットの飛行を安定させる為。この姿ではただの飾りなのだよ」