勝手に改造
合う人と合わない人って居るよね。
今回は中央に、アンデッドではなくハイタイガーとブックベアーが現れた。
その影響から、中央にはこちらも長秀と阿吽だけという布陣で臨むこととなった。
それに対して右軍をタツザマ隊だけでなく、イッシー隊も送る事にしたんだけど。
当初はトキドを送ろうかという案もあった。
でもここで浮き彫りになったのが、相性である。
トキドとワイバーン隊は、どちらかというと大味な攻撃が多い。
トキドは言わずもがな、ワイバーンの炎もそうだが、広範囲に渡る攻撃が多いのだ。
その点タツザマはスピードが生命線であり、統率された部隊の動きが鍵となってくる。
そう考えるとトキドとタツザマは、二人だけならまだしも、お互いが部隊を率いて戦うとなると、メリットよりもデメリットの方が大きいという判断になった。
そこで考えてみたのだが、じゃあこの二つの部隊は誰が合うのか?
ちなみにイッシー隊は、どちらとも協力して戦った経験がある。
どちらも普通にサポート出来るという、特異な部隊であるとも言えるので、ここで例に挙げるのはやめておこう。
となると他の部隊になるんだけど、タツザマ隊であれば意外と蘭丸が合う気がする。
彼は周りを見ていて、他人に合わせようとしてくれる。
タツザマ隊の動きに慣れれば、蘭丸のサポートはかなり強いと思った。
では逆に、トキド隊はどうなのか?
ここで思ったのが、合う部隊って居なくない?
トキド隊には部隊での援護よりも、個人の援護の方が強いんじゃないかって思うんだよ。
その最たる例が、水嶋の爺さんだと思う。
彼なら遠くから、トキドやワイバーンを狙う敵を的確に撃ち抜いてくれる。
要はトキド達が気持ち良く戦える、最高のサポートキャラになれるんじゃないかって話だ。
まあそれを言ってしまうと、水嶋の爺さんは誰とでも合うという話なんだけど。
彼の他だと、意外に佐藤さんもアリかなと思ったりしている。
あの自由自在に素早く動ける佐藤さんなら、ワイバーンの炎やトキドの攻撃も避けられると思えるからね。
ただし地上戦に限るけど。
公には仕事でぶつかり合う二人でも、仕事が終わったら一緒に飲みに行く仲。
トキドとタツザマって、そんなイメージかもしれない。
「ふむ。福島がそう言うのは珍しいな」
「すいません。生意気な事を言ってしまって」
目の前に居る秀吉に、頻りに頭を下げる福島。
だが秀吉は福島の反応を見る限り、それがあながち間違っていないと、藤堂と加藤の様子を盗み見していたので分かっていた。
「帰ってきたら、殴っても良いと思う」
「え?それはやったら怒られますよ」
「許す。二人ともゲンコツを落としてやれ」
ニヤニヤしながら言う秀吉に、福島は恐縮しながらも了承する。
「それでは私もそろそろ、出撃の準備をさせていただきます」
「油断するなよ」
「お任せを」
福島は立ち上がると、日本号を持って出ていった。
「福島正則、さてさて何処まで強くなれるやら」
「盗み見は良くないな、博士」
福島と入れ替わりで入ってくる、頭が爆発もとい、天然パーマでアフロのようになった男。
彼がコバがライバルと認めた、M博士だった。
「博士は何をしに?」
「実は、藤堂と加藤が面白い事をしていたのでね。ちょっと私も、参加してみようかと思いまして」
「例の三機目か。博士の事だ。何か勝手に手を加えたのだろう?」
秀吉は楽しそうに言うと、M博士は薄く笑った。
「仕方ないでしょう。彼等は確かに、城造りには長けている。でも兵器という面では、全くの初心者だ」
「見かねて手を貸そうと?」
「いえいえ、手を貸すつもりはありませんよ。私ならもっと上手くやれると思うんでね」
「ハッハッハ!そのまま強奪しようというのか。やはり貴方は、私と考えが合う」
秀吉は立ち上がると、博士と共に部屋を出る。
そして藤堂達が共同で作り上げた、三機目の機体の前に移動をした。
秀吉はその姿を見ると、彼に詳細を尋ねる。
「これは?」
「ナパーム弾です。丹羽長秀は森魔法という植物を操る魔法を使うと聞いている。厄介なら燃やしてしまえば良いんですよ。人ごとね」
「こっちは?」
「電磁ネットです。古武術で奇妙な動きをするという話ですから。だったら動けないようにしてから、刺し殺せば早いでしょう?」
「ククク、人を効率良く殺す事しか考えていないな。やっぱりアンタは素晴らしいよ」
秀吉が博士を褒めると、彼はキョトンとした顔をする。
秀吉もそのような顔をされるとは思わなかったのか、誤魔化すように咳をした。
「そんなに不思議な事ですかね。私はやりたいから、やっているだけなんですけど。神に叛逆したい秀吉様も同じでしょう?」
「う、うーん?同じと言って良いのか?」
「まあ秀吉様がどう思おうが、別に興味ありませんがね。私は私のやりたい事をする。そのパトロンとなってくれる貴方が、私には必要だという事です」
「・・・まあ良い。私は藤堂達を見てくる。博士も頑張りたまえ」
秀吉はそそくさとその場を離れた。
少し離れた場所から振り返り博士の様子を見てみると、彼は何事も無かったかのように武器を増設していく。
「マッドサイエンティストって、本当に居るんだな」
ハイタイガーとブックベアーは、藤堂達が思っていた以上に苦戦をしていた。
その理由は、やはり阿吽が指摘した通りだった。
ハイタイガーやブックベアーには全方位にカメラが設置されていて、死角が無いように目の位置に関係無く見回す事が出来る。
しかしそれは、後方や足下等を見る事が出来るモニターがあるだけで、一斉に確認する事は出来ない。
それと同じ理由で、藤堂と加藤はハイタイガーとブックベアーを動かす事は出来るが、その動きに合わせて武器を上手く操る事が出来なかったのだ。
ブックベアーのロングソードは、まだマシである。
すれ違い様にその刃で斬る事が出来るから。
だがハイタイガーのビーム砲は違う。
相手の動きに合わせて砲口の位置を微調整し、止まった瞬間を狙って撃たなければならない。
それをやるには目も手も何もかもが足りず、二人にとって新たな武装は、ただの宝の持ち腐れだったのだ。
「昨日より弱くなっていませんか?」
「勝てそうだな」
阿吽と長秀は油断はしていない。
ただ事実を述べていた。
「ええい!加藤、やるぞ!」
「この状態でか?」
「そうだ。俺に合わせてくれ」
藤堂は覚悟を決めて、ただ阿吽に突撃していく。
それに合わせて加藤も、長秀に突っ込んでいった。
長秀と阿吽は並んでおり、二人は顔を見合わせて、ただの玉砕戦法だと思った。
「そろそろ仕留めましょうかね」
「今だ!」
ハイタイガーとブックベアーは獣形態から人型へと変形する。
そして前へと飛びつくように、二人に抱きついた。
「な、何をする!?」
「まさか、自爆!?」
長秀は先日魔王から、倒せないと思ったら自爆するロボットも居ると聞いていた。
彼等の行動がそれにそっくりだった為、このままではマズイと慌て始めたのだ。
「いや、そんな事はしない。まだ勝ち目はあるからな」
「来い、ナゴヤオルカス!」
加藤が叫ぶと、空から猛スピードで何かが飛来してくる。
それを見た長秀と阿吽は、まさかまだ出てくるとは思わなかったのか、唖然としていた。
「マズイですよ!このまま攻撃をされたら、逃げ場がありません」
「待て待て、それは無いだろう。今私達を攻撃すれば、この二人にも攻撃が当たるぞ。味方を巻き添えにしたりは、流石の木下軍でもしないだろう」
ガッチリと捕えられた二人は、何とかこの拘束から抜け出そうと力を入れている。
しかし長秀と阿吽よりも力が強い、ハイタイガーとブックベアー。
彼等はモーターをフル稼働させて二人の抵抗を阻止していた。
優勢な藤堂達は、さぞ仲間の登場に喜んでいるかと思われた。
だが実際は、二人も混乱していたのだった。
「藤堂、お前がやったのか?」
「ち、違う!基本設計は加藤だっただろ。名古屋城に合わせて鯱鉾から取って、鯱をコンセプトにしていたのは知っているからな」
「じゃあどうして、見た目が鯱から鳥になってるんだよ!」
二人が混乱していた理由、それは自分達が知らない機体が飛んできたからだった。
「おっと、呼ばれたか。予定より早いが、まあ良い」
博士は機内で改造を施していると、何やら信号をキャッチした事に気付く。
外装や武装のチェックは終わっている。
満を持していたわけではないが、博士はそのまま操縦桿を握った。
「行け、イグレット!」
カタパルトから飛び出していく機体。
それは加藤が作り上げた鯱の形ではなく、鳥の形をしていた。
単純に身体の左右に翼を取り付けただけなのだが、安定感はまるで違う。
人が乗る事を前提で考えていなかった加藤は、余計なパーツを排除していたからだった。
「居た居た。ふむ、なるほど。だったら丁度良いな」
博士はハイタイガーとブックベアーの上空までやって来ると、何も言わずにあるボタンを押した。
「お、おい。何か落ちてくるぞ?」
「藤堂、お前何か取り付けたのか!?」
「ち、違う!俺じゃない!」
藤堂と加藤のやり取りは、最早通信機を使っていなかった。
その為長秀と阿吽にも、それが想定外の出来事だと分かった。
「どういう事ですかね?」
「分からない。だが今が好機というのは間違いないだろう」
二人は拘束を振り解こうと、両腕に力を入れる。
だが二人は、上空から落ちてきた物により、それどころではなくなってしまった。
「うわあぁぁ!!熱いぃぃ!!」
「クッ!考えが甘かった!」
ハイタイガーに命中した落下物は、当たると辺りを巻き込んで炎上し始めた。
それはハイタイガーが掴んで離さない長秀だけでなく、隣の阿吽と味方であるはずのブックベアーまで巻き込んでいた。
「なっ!?誰かが操っているな!」
「おい、お前達。二人ともこの手を放さなければ、お前達も焼け死ぬぞ?」
阿吽の燃焼範囲は大きい。
ハイタイガーに当たって散った物を、一番被ってしまったからだ。
今すぐにでも助けなければならない長秀は、冷静を装って藤堂と交渉を始める。
だが彼は、全く聞く耳を持たなかった。
「馬鹿め。俺達の装甲がこの程度の炎で負けるものか」
「・・・チッ!ならば、土壁!」
長秀が土壁を作ると、ハイタイガーに身体を預けるようにして、土壁を蹴り飛ばす。
すると土壁が阿吽に降りかかり、炎が少し弱まった。
更にその土は、運良くブックベアーの肘関節のアクチュエーターに異常をきたし、阿吽は弱まったブックベアーの腕から脱出した。
「クソッ!」
その手を振り解いた阿吽は、すぐさまハイタイガーの頭をスティレットで貫く。
「うわっ!」
ハイタイガーが逃れた長秀は、阿吽と共に大きく飛び退いた。
そして二人は、上空を飛ぶ物体に目をやる。
「アレは一体?」
「分からない。しかし向こうも戸惑っているようだ」
追撃をしてこない様子から、藤堂達も予想外の攻撃だったようだ。
そして加藤は、怒りをぶちまけながら叫んでいた。
「おいコラ!俺のナゴヤオルカに乗ってる奴、早く降りてこい!俺の鯱を勝手に鳥に変えやがって。許さんぞ!」