輝虎隊の受け入れ
ドSな女性は好きですか?
輝虎は捕まえた敵に対して、厳しい目を向けた。
沖田を探している事やリーダーが又左である事。
この情報を得られたのは、確実に彼女達の仕事が大きかった。
しかし彼女の言動は、僕達が思っている以上に過激なものが多い。
敵は殺せとか、痛めつけても文句は言わなかったりとか。
言ってる事は分からなくもないんだよ。
僕だってそれに近い事を言う時もあるし。
でも直接的に殺せとか、そういう言い方はしない。
あくまでもオブラートに包んで言うから。
それに輝虎は女性である。
見た目は小さくて可愛いといった印象なのに、中身がここまで苛烈だと怖いよ。
まあ一部のマニアには、そのギャップが堪らないって人も居そうだけど。
多分彼女の部下の中には、そういう人も居るんだろうな。
もしかして慶次も、そんなギャップにやられているのか!?
そうか、そうなのか。
慶次はMっ気があるんだな。
本人に言ったら、遠くから槍が伸びてきそうだから、ここらでやめておこう。
でも輝虎は、そうせざるを得ない点もあるのかもしれない。
さっきも言ったけど、彼女の見た目は小さくて可愛らしい。
傭兵という力が周囲に大きな影響を与える仕事では、ナメられてはいけないと思う。
だから自分が心では思ってもいない事でも、もしかしたら言わなきゃいけなかったとも考えられる。
彼女はわざと、粗野に振る舞っているとも言えるのだ。
そう考えると、僕もやられてしまうな。
これがギャップ萌えかと。
もしそうだとしたら、僕は慶次の事を笑えなくなってしまう。
オリジナルの団扇とか作って、応援しちゃうのかな。
慶次と一緒に並んで、掛け声とか出しちゃうのかな。
なんて馬鹿な事を考えたけど、話をする限り彼女は分別の出来る人物のようだった。
今までのは僕達の妄想だけど、もしこれが本当だったら、彼女はハクトやマリーと並べるレベルだと思う。
足首を掴まれ、力を入れて引き抜こうとしても動かない。
慶次は次第に涙声になっていく。
本気で怖いと思っているようだ。
「まさか、本物なのか?」
「本物のお化けが、やってるんじゃないかって事だよ」
「うわー!うわー!」
暴れ始める慶次。
輝虎も慶次の足を掴むと、二人がかりで引き抜きにかかった。
二人で協力した甲斐があったのか、足は抜けて勢いよく後ろへ倒れ込む二人。
「うわー!足首に手形がー!」
「このお化け野郎!ぶっ殺してやる!」
慶次は赤い手形が足首にあるのを見て、目を白黒させた。
そして泡を吹いて、気絶してしまった。
それに対して輝虎は、剣を抜くと穴に向かって突き刺そうと構えた。
すると穴の中から、男の声が聞こえてくる。
「剣を抜いたね。僕とやり合おうって言うんですか?今の僕は苛立っているんでね。手加減出来ませんよ」
「お、お化けが喋った!?」
「お化け?僕は生きてますよ。まさかここまで又左殿の部隊が迫ってきているとは」
「又左殿?お前、前田慶次とは知り合いか?」
剣を構えたまま尋ねる輝虎。
その名前を出した途端、穴の中から殺意が消えた。
「貴方、慶次殿の知り合いですか?」
「沖田総司だな?私は上杉輝虎。訳あって、魔王軍に傭兵として雇われている。そして初任務として、お前を探していたんだ」
「なんと!では、穴から出してもらえますか?」
穴の中に隠れていた人物。
それは彼等が探していた沖田だった。
輝虎が剣を納めると、穴の中で同じく剣を上に構えていた沖田も爪を元に戻した。
そして手を差し出すと、輝虎が沖田を引っ張り上げた。
「助かりました。改めまして、僕は沖田総司」
「上杉だ。おい、お前の仲間見つかったぞ!」
慶次は白目を剥いて倒れている。
反応が無い事に気付いた輝虎は、鞘に納まった剣で慶次の腹をぶっ叩く。
「うごっ!」
「起きたな。目的は達成した。撤収するぞ」
「て、撤収?あ!沖田殿!」
「慶次殿、無事で良かった」
沖田の姿を見て安堵する慶次。
しかしよくよく見てみると、致命傷は無いにしろやはり身体中が傷だらけだった。
「厳しかったみたいでござるな・・・」
「久しぶりに死ぬかと思いました。又左殿には、本当にしてやられました」
「話は帰ってからにしろ。敵は前田利家だけじゃないからな」
輝虎が警告すると、二人は頷き合う。
彼等は江戸城へと帰還するのだった。
朝焼けが見えてきた頃、慶次と沖田は輝虎達と戻ってきた。
沖田の格好は泥まみれで、尚且つ傷だらけだった。
生きて戻ってきただけ、良かったと思う。
「無事で良かったよ」
「すいません。作戦は失敗しました」
謝ってくる沖田だけど、むしろ今回は僕や官兵衛が謝罪するべきだろう。
潜入して秀吉を倒そうなど、見通しが甘かったのだ。
そして、これで一つ分かった事がある。
潜入が得意な二人でも、今回ばかりは難しいという事だ。
秀吉は強い。
だけどその強さに驕らないようだ。
自分の強さに自信があるから、誰が来ても構わないといったスタイルなら、あわよくばという事も狙えたのだが。
僕と同様にそうではないらしい。
「慶次と沖田。二人とも今日は休んでくれ。上杉隊も、休んでくれて良いよ」
「それじゃ、お言葉に甘えてと言いたいのだが。休む前に一つだけ頼みがある」
「何かな?」
「仲間の一部がまだ合流していない。私達が魔王軍に移籍した事を、どうにか分からせる方法は無いか?」
彼女の仲間はゲリラ戦が得意らしく、バラバラに散らばっているようだ。
その為連絡しようにも、出来ない状態にある。
ここで彼女が休んでしまうと、見つかっていない仲間は輝虎がこちらに鞍替えした事を伝える方法が無い。
下手をすれば攻撃してくるし、秀吉軍からも裏切り者として攻撃される。
下手に秀吉軍に合流しようものなら、意味も分からず殺されかねないのだ。
その為どうにか全員を集める方法がないかというのが、彼女からの頼みだった。
「とは言っても、何処に居るのか分からないんじゃなぁ」
「長年一緒に戦ってきた連中だ。こんな形で見捨てたくはない」
水嶋の爺さんが気付かなかったくらいだ。
輝虎隊はかなり練度が高い。
どうやって探し出せば良いんだ。
「ハーイ、グッモーニン!」
「何だ、このおっさんは」
「ウホッ!キミ、キャワウィウィね〜。初めて見る顔だけど、誰かな?」
うわっ!
朝一番会いたくない奴がやって来た。
何でロックは、こんなに早起きなんだよ。
あ、おっさんだからか。
「おはよう、ロック。彼女は上杉輝虎。昨夜から傭兵として雇ったんだ」
「よ、傭兵!?こんなキャワウィウィ子が!?」
仕事と見た目のギャップが激しいからな。
驚くのも無理はない。
「でも、なんか困ってたみたいだけど」
「実はね」
あんまり役に立つとは思えないけど、ハイテンションなおっさんなら今の僕より、頭の回転が速いかなと思った。
だから説明をしたんだけど、意外にも名案を即答で返してきた。
「だったらハクトっちとマリーに、歌で呼び掛けてもらおう」
ハクトとマリーには、輝虎が魔王軍に移籍したという内容を、歌ってもらった。
ただ歌にして伝えても、誰が来るのか分からない。
その為輝虎隊を名乗る人物には、輝虎と彼等しか知らない情報を、幾つか教えてもらう事にした。
「これだけあれば、輝虎も休めるよね」
「後はお任せ下さい」
官兵衛が輝虎隊の受け入れを担当するようだ。
人数も多くやって来る事を想定して、長谷部だけじゃなく一益も護衛に使う事にした。
「それじゃ遠慮なく休ませてもらう」
慶次との厳しい戦いの後、慶次を助ける為に秀吉軍を裏切って、更に夜通し沖田を探してくれた。
そりゃ肉体的にも精神的にも、疲れるよね。
背中を見る限り、疲労感が濃いし。
一緒に探してくれた輝虎隊は雑魚寝だけど、彼女には慶次を助けてもらった恩もある。
城の中でも豪華な部屋を用意しておいた。
「では私も帰ろうかな」
「は?」
「慶次殿も助かりましたよね?もうお役御免で良いと思うんですけど」
控えめな声で言ってきたのは、ヴラッドさんである。
しかし僕は、彼に対してちょっとした不信感があった。
それは転生者であると、内緒にされた事。
おかげで余計な疑心暗鬼をする羽目になってるからね。
だから悪いが、ちょっとだけ意地悪をさせてもらおう。
「ヴラッドさん、もう少しここに居てもらっても良いかな?だって慶次、まだ安心出来ないでしょ」
「もう大丈夫ですよ。元気だし」
「いやいや!頭に勢いよく血が流れてるんだよなぁ。毛細血管とかブチブチ切れてる可能性も、否定出来ないんだよなぁ」
「うっ!」
痛い所を突っ込まれたからか、めちゃくちゃ苦い顔をしている。
でも、これは本音なんだよね。
火事場の馬鹿力を使えるようになったからといっても、それを使ったせいで倒れたなんて話になったら、元も子もない。
だから彼には、何かあった時にすぐに駆けつけてもらえるよう、ここに居る責任がある。
まあヴラッドさんに力を使わせたのは、僕なんだけど。
その辺は口にしないでおこうかな。
「どうでしょう?」
「そ、そうですね。慶次殿の身体、まだ心配ですもんね。彼の代わりに、少しは仕事していきますよ」
「え?」
「え?」
ちょっと予想外の返事が来た。
まさかヴラッドさん、慶次の代わりに戦ってくれるみたいだ。
これはかなり助かるぞ。
「魔王様!」
官兵衛の大きな声が、こちらに聞こえてくる。
何かと思ったら、オーガと獣人族と妖精族の集団がこっちに向かってきていた。
「誰?」
「間者です!輝虎隊に紛れて、こちらへ潜入しようとした連中です!」
なるほど。
輝虎隊しか知らない情報は、確かに有効だったようだ。
「魔王だ!殺せ!」
襲ってくる一団だが、一益やドワーフ達が抑え込み始める。
安心して見ていると、オーガの一人がナイフを投げつけてきた。
「それでは、少しだけ仕事させてもらいますよ」
僕は自分の魔法で、それを防ぐ事も出来た。
しかしそれを使う前に、目の前に真っ赤なヴェールが出来上がったのだ。
トマトジュースを薄くしたような、向こう側が微かに透けて見えるくらいの膜。
だけどそれは強靭で、オーガの力で投げたナイフでも、軽々と防いでみせた。
しかしよく見ていたから分かるけど、これはヴラッドさんの血じゃない。
「誰の血だ?」
「おお、よく私のじゃないって気付きましたね。正解は、投げた本人の血でした。やっぱり朝から血を使いたくないし、そこは有効活用ですよ」




