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夜に駆ける

 頭はね、本当に怖いんだよ。


 慶次はヴラッドさんの手を借りて、植物人間状態から脱する事が出来た。

 でも、本当に運が良かったと思える。

 現代の日本でも、脳梗塞や脳出血みたいな頭に関わる病気は本当に怖い。

 さっきまで元気に話していた人が、突然パタリと倒れたりするんだから。

 若い人にはあまり無いかもしれないけど、中高年になるとこういう病気が身近になってくる。

 僕も大学時代、先生が突然倒れたという話を耳にした事がある。

 それは直前まで話をしていて、お茶を淹れようと立ち上がった瞬間に倒れたという話だった。

 幸い近くに人が居たからすぐに119番をして、救急車が駆けつけてくれたみたいだが、もし誰も居なかったらと考えると、本当に怖い。

 そして慶次の場合、輝虎がすぐに助け出してくれたのが大きかったと思う。


 しかし、ヴラッドさんにはちょっとした恨み節も言いたくなる。

 あっ!って大きな声を出したと思ったら、頭に血を一気に送り過ぎたみたいな事を言うんだから。

 上手くいったから良かったものの、日本なら医療ミスで訴えられるよ。

 しかも魔王の配下に対してやったとか、国の議員とかにミスしましたっていうのと、同じレベルだからね。

 とはいえ、ここは日本じゃない。

 慶次本人も強くなって喜んでいるし、結果オーライで済ませるのがベストだろう。

 下手にヴラッドさんにイチャモンをつけても、今後の吸血鬼との仲を考えると、引くべきところは引いた方が良い。

 それに頼んだのはこちらだし、むしろ感謝するべきだろう。


 しかし感謝するとなると、お礼は何をしたら良いんだろうか?

 せっかくトマトで生活出来るようになったのに、血を渡すというのはあまりやりたくないし。

 こうやって考えてみると、彼等って結構謎が多い種族だな。

 好戦的なようで、今回の戦いには関わりを持ちたくないと言っていた。

 戦いを好まないなら、今後はもっと深く付き合っていきたいな。








 また思わず言ってしまったけど、慶次は気にしてない様子。

 だけど本当に大丈夫なのか?



「不調は無い?」


「無いでござるな。むしろ絶好調でござる」


 立ち上がって腕や足を動かすと、僕達にも分かるくらい軽そうな印象ではある。

 それを見ていた輝虎は、安心したような表情を見せた。



「慶次、調子が良くなったのは分かった。でもその前に、まずは言うべき事があるんじゃない?」


「そういえばそうでござった。輝虎殿が拙者を助けてくれたと聞いた。感謝するでござる」


 頭を下げる慶次。

 すると輝虎も慌てて頭を下げる。



「あ、頭を上げろ!むしろこっちが先に助けてもらったんだ。ほ、本当にありがとう」


 むむ?

 感じるぞ。

 これは、ラブコメが始まりそうな予感だぜ。



【許せんな。それは魔王として、許せん】


『魔王ではなく、お前個人としてだろう』


【お、お前!心を読むのはやめろよな!】


 うん、アホな事を言っているな。

 でも兄さんの気持ちは、僕も同意する。



「ところで上杉殿には、慶次殿を助けていただいた恩があるのですが。今後はどうなされるのですか?また藤堂高虎の下に、戻られますか?」


 そ、そうだった!

 彼女は藤堂に雇われた傭兵だった。

 傭兵の契約は、どうなっているんだろう?

 慶次を助けてもらった手前、彼女と敵対するのは嫌だなぁ。

 と思ったけど、杞憂だった。



「誰が戻るか!あの男達は、私が居ると知っていて踏み潰そうとしてきた。今更契約だなんだと言ってくるのなら、奴等の顎を食い千切ってやる!」


「戻る気は無いという事ですね。それを聞いて、安心しました」


 官兵衛の様子が変わった。

 慶次を見舞う友人から、仕事モードに切り替わった感じだ。



「率直に言います。私達に雇われませんか?」


「何?」


「貴女の腕前。それと判断能力からして、部隊を率いる事も可能だと思います。雇用に関しては、とんでもない条件でもない限りは、ご期待に添えるかと」


 官兵衛の話を聞いた輝虎は、少し考え始めた。

 即答で断られなかった辺り、悪い条件ではないと判断してくれたかな。



「一つ確認したい。私は敵だったのに、そう簡単に信用出来るのか?」


 輝虎の言葉を聞いた皆が、フッと笑った。

 それが癇に障ったのか、輝虎は不機嫌になる。



「何がおかしい!」


「気分を悪くされたなら申し訳ないです。ただ慶次殿を助けてくれた時点で、信用に値すると思いますよ」


「それでは私からも言わせてもらいましょう。慶次殿を助ける為とはいえ、初対面でいきなり現れた巨大な私達の手に、よく乗ってくれましたね。それもあの咄嗟で、信用してくれたからでしょう?」


「あ・・・」


「そういう事です」


 阿形と吽形の話を聞いた彼女は、理解してくれたようだ。

 だから僕も感謝の意を込めて、思ってる事を言っておこう。



「傭兵じゃなくても良い。僕達の仲間になってくれても構わない」


「そんなに信用して良いのか?」


「良いんです!美人なお姉さんなら、良いんです!」


「そんな理由で?プッ!アッハッハ!」


 フフフ。

 本気で言ったのだが、緊張を解く為って感じで思われてそうだ。



「分かった。ならば我等上杉隊は、魔王に手を貸そう」


「そうか!ん?上杉隊?」


 彼女って部隊持ちだったの?

 慶次も初耳だったのか、驚いた顔を見せている。



「そ、その部隊って何処に居るの?あっ!まだ敵として戦ってるんじゃ!?」


「その心配は無い。伏兵として、潜んでいるからな」


「まさか、この城に!?」


「その通りだ」


 官兵衛が急ぎ動き始めた。

 どうやら城の周りを探るように、言って回ってるみたいだ。

 でも想定外だったかもしれない。

 まさか僕達が沖田達を向かわせたように、向こうも用意していたんだな。



「しかし慶次よ。沖田とは何処で別れたのであるか?」


「そうだった!沖田とは途中で、離れ離れになったでござる」



 二人には、隠密行動を頼んでいたのだが、気付けば敵に囲まれていたらしい。

 協力して脱出を図ったところ、慶次は戦場の方に出てしまい、逃げる為に味方に紛れたとの事。

 沖田は敵を斬っていたのを見たが、今は何処に居るのか分からないようだ。



「沖田の事だから、一人でも大丈夫だと思うが」


「・・・それはあの男の部隊だろうな」


「あの男って誰?」


「多分、お前の兄ではないか?」


 慶次を見て言う輝虎。

 慶次は目を見開いて立ち上がった。



「あ、兄上が大坂城を守っていると!?」


「私もそこまで詳しくは知らない。しかし攻撃は私達が、守備は他の獣人が任されたと聞いている。噂では、犬だか狼の獣人だと聞いた」


「犬の獣人・・・」


 秀吉の配下に、名のある犬の獣人族は居ない。

 だからそれは、又左の可能性が高い。

 となると、慶次と沖田は又左に追いやられたのか?

 もしかして慶次はわざと逃したけど、沖田は逃がさないつもりだった?



「拙者、行くでござる」


「待て待て!もう夜も遅い。だから朝になってからにしておけ」


「沖田殿の強さを信じましょう。むしろ慶次殿も、病み上がりなのですから。明日までは休息を」


「官兵衛の言う通りだな。慶次はこのまま休みなさい。これは命令だ」


 僕達は慶次を無理矢理ベッドに寝かせると、そのまま部屋から出た。








 沖田は心配だが、多分大丈夫だと信じるしかない。

 そんな事を考えていると、輝虎から提案があった。



「私は一度、部隊を集める。その沖田という人物を、部隊で探しておこう」


「助かります。では、特徴を教えますので」


 輝虎に沖田の特徴を教えている間、僕は彼女にある物を作った。

 それは彼女が味方であり、慶次は無事だと知らせる書状だ。

 輝虎にそれを持たせると、彼女は暗い夜へと消えていく。



「本当に大丈夫かな」


「彼女に任せましょう。むしろ、太田殿とゴリアテ殿が心配です」


 そういえば慶次ばかりに気にしていて、皆が戻ってきているのを忘れていた。

 どうだったんだ?



 ・・・酷いな。

 手酷くやられている。

 流石に二人は無傷だけど、怪我よりも精神的な消耗が激しいようだ。



「二人には魔王様への連絡はせずに、休むように伝えました」


「それで、被害の状況は?」


「半分ですね。明日動けるのは、おそらく半分になるでしょう」


 そこまで減った!?

 あの大きい虎と熊にやられたんだ。


 魔法で霧を発生させて、動きを制限。

 動かない彼等を、上から無惨に踏みつける。

 まさか突然上から巨大な足に踏まれるなんて思ってもいないだろうし、やられても仕方ないか。



「分かった。他の報告を」


「魔王様!」


 官兵衛と僕が話していると、慌てて阿形が走ってきた。



「慶次殿が、居なくなりました」









「どうしてお前がここに居る?」


「すまないでござる。拙者も連れて行ってほしい」


 輝虎は夜闇を走っていると、突然立ち止まり後ろに声を掛けた。

 すると城で寝ていたはずの慶次が、木の陰から姿を現した。



「貴女が兄上と交えるかもしれないと、聞いたでござる。だから拙者も、貴女と一緒に戦わせてほしいでござるよ」


「良いぞ」


「良いのでござるか?」


 まさかの即答に驚く慶次。

 だが輝虎は、説得するのが面倒だと思っただけだった。



「それで、どのように部隊と合流するでござるか?」


「簡単だ」


 輝虎は剣を二本空に投げると、それがぶつかり合って甲高い音が鳴り響く。

 剣は空から落ちる気配は無く、等間隔で音を鳴らしている。



「このまま進むぞ」


 輝虎が北上していくと、暗闇の中から数人の獣人族が姿を現した。



「姉御、急にどうしたんですか?」


「作戦は中止。そして鞍替えだ」


「は?鞍替え?まさか、魔王軍に味方するんですか?」


「そうだ。私達の役目はまず、魔王軍の一人を救出だ」


 輝虎が何の説明もせずに、沖田の説明を始める。

 普通であれば理由などを問いただすところだが、彼等は何も言わずに頷いていた。



「仲間と合流しながら、進んでいけ。そしてもう一つ。向こうも同じように探しているはずだ」


「もしぶつかったら、どうするんですかい?」


「殺ってよし」


「えっ!?」


 輝虎は部下に命じると、彼等は闇の中を走っていった。

 音も無く消えていく輝虎の部下達。

 彼等が居なくなった後、慶次は輝虎に不機嫌そうに尋ねる。



「どうして殺して良いとか言ったでござるか?」


「何がだ?」


「向こうには拙者の兄も居るでござるよ。そして兄は、洗脳されているだけでござる。洗脳さえ解ければ、問題無いでござるよ」


 慶次が怒りを滲ませて言うと、彼女も反論する。



「あのなぁ、こっちから手を出さなくても、向こうは出してくる。躊躇していたら、こっちが殺される可能性だってあるんだ。それとお前は間違っている」


「何がでござるか?」







「お前の兄に関してだが、お前と同じくらいの強さなら、私の部下には勝てん。こっちだって命あっての傭兵だ。そんな相手に見つかったら、逃げるに決まってるだろうが」

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