表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/1299

陥落と救出

 作戦のトップバッターだった兄は、自分のミスを恐れて蘭丸にも協力をお願いしていた。

 蘭丸が弓矢を放った後に、油断したところを鉄球で狙う。

 半兵衛からの支持もあり、急遽手伝ってもらう事となった。

 後はタイミングだけ。


 そんなヘタレな兄が頼んでいた頃、前線では激戦が続いていた。

 佐藤は改めて、前田兄弟の強さを垣間見た。

 限界のはずの又左だったが、どうしても下がらないと言い切る。

 それは兄が弟に見せる意地だった。

 カッコ悪いところを見せたくない。

 そんな心を読んだ兄は、又左を激励した。

 自分にもそういった気持ちがある。

 知らなかった心の内を思わぬところで聞く事になったが、これは兄のプライドもあるだろう。

 聞かなかった事にするのが、弟の優しさ。

 いや、礼儀だと思った。


 そして体力に限界が来た又左によって、グレゴルは油断する姿を見せた。

 予定通りの弓矢を避けたグレゴルは、油断をしていた。

 しかしその油断した姿が、逆にアダとなってしまう。

 身振り手振りで語るグレゴルの杖が、鉄球の投球コースに入ってしまった。

 杖が粉砕される代わりに、窮地を脱したグレゴル。

 失敗した。

 項垂れる兄を横目に、時間は進んでいく。


 失敗だと思っていた作戦は、実は失敗していなかった。

 杖を破壊した事で、ゴーレムに掛かっていた支援魔法が弱くなったのだ。

 その隙を逃さなかった佐藤は、とうとうゴーレムの破壊に成功する。

 勝ちを確信した蘭丸やハクト達。

 しかしその後ろでは、グレゴルが最後の力で大きな炎を此方に放とうとしていた。





 死ぬかもしれない。

 そんな覚悟を持って挑んだこの戦い。

 いざ目の前に死が現れると、急に頭が真っ白になってしまった。


(走馬灯なんか、実際は見たりしないのかもね)


 そうかもしれない。

 頭の中に聞こえる声に返事をした俺は、床を叩き割ろうと魔力を込めた。

 しかし、その前に動いた影が見えた。



「お前が死ね!」


 傷だらけの身体に、頭から流血。

 明らかに疲労困憊で、見る人が見れば瀕死じゃないかと疑いたくなる人物。

 それは又左だった。

 炎の渦と俺達の間に入り、そのまま長槍を持って突進して行く。


「この死に損ない!邪魔をするな!」


「あぁん?テメーの目は節穴か!俺はまだ死なない!死ぬのはテメーだ!!」


 長槍を力の限り突き出す又左。

 それは炎の渦を越えて、向こう側に居たグレゴルの右肩を砕いた。


「ギャアァァァ!!」


「あぁ、胸を狙ったはずなのに。狙いが定まらん」


 グレゴルに重傷を負わせた代償に、槍は真ん中付近から折れてしまった。

 ずっと戦ってきたからという理由もあるだろうが、何より又左の力に耐えられなかったのかもしれない。

 武器が無くなった。

 しかし、彼は諦めなかった。

 その折れた槍を持って、炎の渦の中へと更に突き進む。


「近ければ当たるだろうが!」


「やめろやめろやめろおぉぉぉ!!!」


 やはり狙いが定まらない又左は、今度は左肩を穿つ。

 疲れているからなのか、その目は血を流し過ぎて目の焦点が合っていないのか。

 それとも両方なのかもしれない。

 炎の渦の奥から再びバックステップで現れた又左は、更に武器を要求した。


「慶次ぃ!槍ぃ!!」


「は、ハイィィ!!!」


 怒っているわけではない。

 だけど、それはもう怒鳴り声にしか聞こえなかった。

 自分が怒られているかのような錯覚をしたんだろう。

 物凄くビクビクした声で返事をした慶次は、すぐさま手に持っていた内蔵型の長槍を又左に向かってぶん投げた。


「トドメだジジイ!達者で暮らせ。あの世でな!」


 狙っていたわけではないだろう。

 手首を捻り更に回転を加えた長槍は、貫通力を生んでいた。

 咄嗟に作った土壁をも穿ち、その先に居たグレゴルの丁度喉の下辺りを貫いていた。


 喉をやられたのか、口の中に血が溢れて喋れないのか。

 言葉にならない事を言っていたグレゴルは、膝から崩れ落ちた。

 既に炎の渦は消えている。

 グレゴルの命の火も消えたようだった。




 グレゴルを倒した又左は、その場で立ち尽くしていた。

 アレだけ瀕死だったはずなのに、今は倒れる様子も見られない。


「なんか前田さん。ちょっと怖いね・・・」


「そうだな。飢えた獣って感じの雰囲気を纏ってるというか、話し掛けづらい」


 助けてもらったというのに、酷い言い草の二人。

 しかし、その感想はあながち間違っていない気がした。

 目の奥が何かを欲するような、危険な感じがしたからだ。

 そんな雰囲気も、次の瞬間には全て消え失せたが。


「魔王様!如何でしたか?私の活躍ぶりは」


「あ?あぁ、凄かったぞ。特に最後とか」


「最後、ですか・・・」


 やはり自分でも、何か思う事があるのだろうか。

 その言葉には、少し含みがあった気がした。


「最後、何かあったのか?」


「実はあの時、体力の限界でして。よろけてゴーレムの腕が迫って来たのが見えて、死を覚悟したんですよ。しかし、このままでは死ねない!と思ったら、何故か胸の奥から怒りのような衝動が湧き上がりました。その衝動のまま槍を振るったら、なんかグレゴルを倒せちゃったんですよね」


 倒せちゃったって。

 そんな簡単なものじゃなかったけどな。


「とりあえず、一言だけ言わせてください」


「良いぞ」


「死ぬほど疲れたあぁぁぁ!!!」


 又左が叫んだその声は、疲れ果てた俺達を笑わせるには十分だった。





 グレゴルとゴーレム。

 おそらくこの砦の最大戦力は、倒したと思われる。

 兄は疲れたと言い残し、それっきり何も言わずに入れ替わった。

 作戦は成功したけど、自分がミスをした事に落ち込んでいるんだろう。

 何も喋らないから分からないけど、自分の中でそんな雰囲気を感じていた。


 そして体力に比較的余裕があった蘭丸が二階を覗き込むと、そこは既に静まり返った広場になっていた。

 生き残った兵は武器を捨て投降。

 または大半が地面に転がっている。

 かなりの激闘だったのだろう。

 味方だったネズミ族の異端連中も、かなり死んでいた。


「二階があの様子だと、多分一階も終わっていると思う」


「しかし、何でまた急に投降したんだろ?」


「簡単ですよ。グレゴルの絶叫を聞いたからでしょう。それに又左衛門様の大声も、聞こえていたのでは?」


 なるほど。

 トップが死んだら、別に命令を聞く必要は無いって事ね。

 傭兵だったら尚更か。

 金を払ってくれる雇い主が死んだのに、命を賭ける理由なんか無い。


「ところで、四階は上がれそう?」


「少し時間が掛かりそうですね。身体強化が出来る程回復してしまえば、簡単に行けるとは思います」


 流石に余力が残っている連中は居ない。

 当面はこのまま、砦の完全制圧と内部の把握が優先かな。


「下の階から秀吉を見つけたという報告も無いし、やっぱり四階が一番怪しいよね」


「そうだなぁ。四階には敵の気配も感じないし、多分そうじゃないかなと俺も思う」


 蘭丸の言葉は少し曖昧だったけど、なんとなくそう感じているようだった。





「魔王様!」


 しばらくすると、男が二階から急いで駆け上がって来た。

 怪我をして退避したドランだった。

 斬られた部分の鎧は壊れていたが、その傷は見当たらない。

 痛そうにする素振りも無く、何かを説明をする為に慌てて来たようだ。


「木下藤吉郎秀吉殿、発見しました!」


「え!?下から?」


 まさかの報告で、かなり驚いた。

 四階が一番怪しいと思い込んでいたので、てっきり大金でも見つけたとかそういう報告だと思っていたからだ。


「何処に居たの?」


「地下室です。一階を探っていたテンジ殿が、隠し階段を発見。地下一階は宝物庫のようになっておりました。しかし、それは目眩しだったようでして。金銀の山の奥にまた隠し階段があり、降りていくと地下牢がありました」


「そこに秀吉が捕らえられていたと」


「その通りです。発見した時はとても衰弱していたようで、会話すらままならない状況だそうですよ」


 話も聞けないか。

 グレゴルを殺した今、誰が黒幕か分かるのは秀吉本人だけなんだよなぁ。

 ここはやっぱり半兵衛に・・・。

 って、寝てんのかーい!


「長時間考えていたからか、凄く疲れたって言って寝ちゃったんだよね。今は起こさないであげてほしい」


 ハクトは自分の上着を半兵衛に掛けて、そう言った。

 こんな事言われたら、起こすに起こせない。


「命に別状は無い?」


「回復魔法は掛けていますが、私も詳しくは分からないので。おそらくは、としか言えません」


「ちなみに他には誰も居なかった?」


「牢には木下殿だけだったようです」


 じゃあ、秀吉が起きないと何も聞けないね。

 今は何も出来ないし、仕方ない。

 僕も寝ちゃうとしよう。





 翌日、起きるとそこは全く違う場所だった。

 どうやら三階で眠りこけた後、一夜城まで運んでもらったらしい。

 三階で戦った者は皆運ばれているらしく、特に前線で戦った三人は寝ている間に、回復魔法を掛けられていたとの事。

 一番最初に眠りに入った半兵衛は、既に起きて食事をしていた。

 沢山食べろという指示をちゃんと聞いていて、目の前には大量の食事が準備されていた。

 一人前、なのかな?


「おはようございます。何か食べますか?」


 どうやら一人で食べるつもりは無いらしい。

 寝起きですぐに食べろと言われてもね。

 僕は果物だけ手に取り、絞ってジュースにした。



「あのお三方も無事だったみたいですね。戦っていない私が一番最初に意識を失ってしまい、申し訳ありませんでした」


「戦ってない?いやいや!半兵衛の力があってこその、成功だから!」


「そうだよ。むしろ僕が一番何もしてない気がする。僕と比べたら、はるかに凄いと思う」


「それを言ったら、俺なんか怪我して戻ってきただけだぜ。あんな作戦をすぐに思いつくお前の方が、役に立ってたよ」


 二人とも起きていたらしく、半兵衛の言葉に反論した。


「だってさ。あんまり自分を過小評価すると、周りには嫌味に聞こえるぞ?」


「分かりました」


 少しだけ顔が赤くなっている半兵衛は、ハッキリと答えた。

 コイツも異端視された一人だからな。

 もしかしたら真っ当な評価なんて、されてきてなかったのかもしれない。

 秀吉もその他の重臣も、見る目が無いなぁ。



 半兵衛が大量の食事を食べ終える頃、ドワーフの一人が部屋へと訪ねてきた。


「失礼します。砦の捜索が全て終わった事を報告しに参ったのですが、少し見ていただきたい物がありまして」


「見てもらいたい物?半兵衛じゃなくて、僕が見た方が良いの?」


「ハイ。実はお呼びになられているのは、佐藤殿でして。私達もそれが何なのか分からないのです」


 佐藤さんが呼んでる?

 あの人が僕を呼ぶって事は、日本に関係した物だよな。

 それ以外に思い当たらないんだけど。

 とにかく行ってみよう。





「この上になります」


 なんと、ゴーレムが破壊していた四階へと上がる階段が、修復されていた。

 どうやら、ドワーフ達が数人で直したらしい。

 流石は鍛治が得意な連中だ。

 簡素な作りになっていたが、余程大きな奴、オーガやミノタウロスのような連中じゃない限りは、壊れる事は無いだろう。


「おぉ!来たね」


「昨日の今日で、随分と元気ですね」


「まあ俺は、ハクトくんに回復してもらったしね。その後は疲労だけで、そんなに怪我とかしてないから」


 あのゴーレム相手に大した怪我をしないってのも、かなり凄いとは思う。

 それでもちょっとした打撲痕は、身体のあちらこちらに見受けられた。


「ところで、見てもらいたい物があるって言ってたけど」


「そう!それなんだが・・・」


 少し言葉に詰まった佐藤さんだったが、意を決して続きを言った。


「四階に上がって見てほしい。自分の目で、どういう物か確かめてみてくれ」


 何だろう?

 少し不格好な階段を上がり、周囲を見回してみた。

 すると見た事の無い、大きな物が置いてあるのが分かった。

 大きさはなんとなく分かるが、全体は少し暗くてよく見えない。


「近付けば分かる」


 同じく階段を上がってきた佐藤さんが、すぐにそう言った。

 色々なケーブルがその大きな物体と繋がっているのが分かった。

 しかしケーブルの先は見当たらない。

 もう少し近付くと、僕はそれが何かハッキリと分かってしまった。

 しかし、何故こんな物が置いてあるのかが分からない。

 振り返った僕は、佐藤さんに聞いた。





「これ、帝国が使ってるエネルギーを抽出するカプセルですよね?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ