虎と熊
僕としては、親近感が湧く相手かもしれない。
長秀が藤堂の操るハイタイガーと戦っていた時、その背後から更なる敵の増援がやって来た。
それがブックベアーという、加藤清正が操る熊だった。
ちなみにこの熊は既に登場しており、以前ムッちゃんに一撃食らわされている。
あの時は名前が無かったけど、加藤清正が造り上げた熊本城が熊に変化したモノだった。
藤堂高虎と加藤清正。
この二人は、僕と似たものを感じている。
それが、ネーミングセンスの無さだ!
まずハイタイガーだけど、これはすぐに分かったよ。
日本語に直訳すると、高い虎。
そう、藤堂高虎は自分の名前を、あの大きな虎の乗り物に付けているのだ。
このネーミングセンスを、どう思いますか?
洋楽のバンドとかに、自分の名前を付ける人はよく居るよ。
特にハードロックやヘビメタの古いバンドには、多い気がする。
中でも有名なのは、多分ジミ・ヘンドリックスになるのかな?
彼のバンド名は、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスという、明らかに自分ですといった名前である。
そこまでめちゃくちゃ詳しくないので分からないけど、一つ言えるのは、かなり自分大好きって感じの名前だよね。
藤堂高虎だから、乗機はハイタイガー。
そして加藤清正の乗るブックベアーも、似たり寄ったりである。
最初は気付かなかったんだ。
ブックだから和訳しても本だし、動詞であれば記録するとか予約するという意味になる。
だから熊を予約するという、全く意味が分からない言葉を思い浮かべたりしていた。
でも途中で気付いた。
もっと単純に考えてみたんだよね。
ブックは本、熊はベアー。
反対にして読めば、熊本じゃないかって。
これだけは言いたい。
お前の頭は中学生か!
分かってるんだよ。
こうやって文句が言えるほど、僕は大した事無いって。
文句を言う事で、自分へのハードルが上がったのも理解している。
でも、それでも言いたい。
めちゃくちゃダサいですからぁぁぁ!!
残念!!
「阿形、吽形!」
長秀は立ち上がると、名前を叫ぶ。
二人に気付いた直後、自分の後方を飛び去っていく飛行機が目に入った。
「よく来てくれた。この危機を救ってくれた事を、感謝しよう」
「いえ、むしろ逆でございます。私達が出向かなければならない仕事を、ずっとお任せしてしまいました。ですが、ここからは私にお任せを」
長秀を庇うように、前へと出る阿吽。
しかし長秀も、阿吽の前へと張り合うように出た。
「何を?」
「待て待て。自分達が来たら、私はもうお役御免と言いたいのか?」
「そんな事は!」
畏まる阿吽に、長秀はフッと笑う。
「冗談だ。だが、私もやられたまま引き下がれと言われるのはな。だからこうしないか?」
「共闘、でございますか?」
「その通り。奇しくも虎以外に、もう一体出てきている。ならばこちらが二人でも、文句は言えんだろう」
「そうですね。して、どちらを相手に?」
阿吽が長秀に尋ねると、彼は睨みつけるように熊を見る。
「あっちだな」
「・・・かしこまりました」
阿吽は思った。
やっぱりやられたらやり返したいんだなと。
心の中でため息を吐きつつ、阿吽はハイタイガーへと近付いていく。
「というわけで、貴方の相手は私がするので。どうぞよろしく」
倒れているハイタイガーに冷たい視線を送ると、早速阿吽は頭を踏みつけた。
「うん?さっきも思いましたけど、硬いですね」
「おそらくだが、外側はミスリル製だろう。あまり素手で殴ると、手を痛めるぞ」
「そうですか」
しかし二人とも、執金剛神の術で大きくなった身体に合う武器など、装備していない。
素手であまり殴りたくないなと思っていたところ、踏みつけた頭を回すような不可解な動きをしたハイタイガーは、阿吽の足を跳ね除けて立ち上がる。
「この野郎、邪魔をしやがって!」
「藤堂、頭を冷やせ。単調な動きでは、負けるぞ」
「分かってる!」
立て直しを図る藤堂と加藤。
それに対して長秀と阿吽の二人も、これといった策も無く、お互いに攻め手に欠ける状態になってしまった。
「奴等、動いてこないが」
「何か考えているんだろう。妖精族の領主と守護は、古武術が得意だって話だ。油断するなよ」
二人が通信で話をしている中、長秀達も口元を隠して小声で会話をし始める。
「関節を極めるのはどうですか?」
「おそらく無理だ。私がタケシ殿と慶次殿を大きな虎の中に潜入させる為、力で抑え込もうとした。だが力が強く、上手くいかなかった。それにあの虎、生き物ではないからな」
「そういえばそうでした。痛みを感じないのに、無駄ですね」
関節技は、痛みを感じなければ無理も出来る。
無理をし過ぎれば壊れてしまうが、それでも生きている人間や動物とは比べものにならないくらい、可動域は大きいはず。
下手に関節技にこだわれば、手痛いしっぺ返しがあるだろう。
「ならば、アレを使うのはどうですか?」
「・・・良いな。その案、素晴らしいと思うぞ」
「ありがとうございます。では、熊の方の対応をお願いいたします」
長秀が阿吽の案に納得すると、阿吽はハイタイガーの方へとゆっくり歩みを進める。
しかし普通の歩き方ではなかったからか、ハイタイガーはそれに気付くのに遅れていた。
「な、何だ!?」
「藤堂、下がれ!」
加藤の操るブックベアーが、阿吽に向かって体当たりを敢行する。
しかしその前に立ちはだかったのは、先程痛い目を見た長秀だった。
「加藤と言ったか。私はね、心が広い方なんです。だから、万倍とは言いません。千倍ほどやり返したら解放して差し上げますよ」
「何を言っている?のあぁぁぁ!!」
前に出た長秀がブックベアーの額辺りに手のひらで触れると、突然身体が反転する。
背中から落ちたブックベアーは、反転した視界で阿吽に投げられるハイタイガーを目にする。
「力だけなら負けないからな。お前達もハイタイガーに押し潰されるが良い」
「むう!」
ハイタイガーに腕を掴まれた阿吽は、痛みで顔を歪める。
長秀の言った通り、力では勝てそうにない。
それを悟った阿吽は、掴まれた腕から手を引っ剥がすかのようにハイタイガーの腕を捻った。
「いっ!?」
二の腕からハイタイガーの手が離れる。
だがそれは、耳たぶに強力な洗濯バサミを付けて、それを引っ剥がすかのような痛みが、二の腕に走った。
見てみると、掴まれた箇所が赤く腫れていた。
「意外と侮れない」
「無理はするなよ」
長秀のアドバイスを聞き、組み合うのをやめる阿吽。
逆に藤堂の方は、阿吽にダメージを与えられたと確信し、行けるという判断をする。
「加藤、動けるか?」
「ちょっと驚いたが、特に問題は無い」
「この男なら、何とかなりそうだ。合体Kバージョン、行くぞ!」
藤堂の声に応えた加藤は、ひっくり返ったブックベアーを急に起き上がらせ、ハイタイガーに向かって走っていく。
そしてハイタイガーの後ろに回り込むと、突然ハイタイガーがジャンプをした。
「合身!」
「応!」
ハイタイガーのジャンプに合わせて、下で待機するブックベアー。
当然落ちてくるハイタイガーは、ブックベアーの上に乗る形になった。
「合身金太郎モード、完成!」
声を合わせて言う藤堂と加藤。
それに対して長秀と阿吽は思った。
「阿吽よ」
「何でしょう?」
「私の見間違いでなければ、跨っただけのように見えるのだが」
「間違っておりません。跨ってるだけです」
「・・・何が合身なのだろう?」
呆れるように聞く長秀に、阿吽は答えない。
いや、答えが分からなかった。
「突撃、ブックベアー!」
「食らえよ!必殺の、え?あっ!ちょ!加藤ちょっと!」
猛烈な勢いで走り始めるブックベアー。
それに対してハイタイガーは、その背中でガクガクと揺れている。
それはさながら、凶暴な牛の背中に乗るロデオボーイのようだった。
「何だ?」
「ちょっとストップ。無理・・・」
「もう目の前まで迫ってる。止まれないぞ」
「マジか・・・。ひ、必殺のハイタイガーブロロロロロ!!」
「藤堂?藤堂!?お前まさか・・・」
藤堂からの返事は無い。
藤堂を心配する加藤だが、既に目の前には阿吽が居る。
勢いよく頭から突っ込んでいくと、その上のハイタイガーが阿吽に向かってパンチを繰り出した。
斜め上から下に素早く叩きつける、必殺の右。
まさに猫パンチだった。
「あまり痛くない?」
ブックベアーの突撃を避けたが、上に乗るハイタイガーの攻撃は避けきれなかった。
阿吽はダメージを我慢しようと歯を食いしばったが、それは徒労に終わる。
「藤堂、大丈夫か?」
「大丈夫じゃない。足元が酸っぱいぞ」
「・・・休戦を申し込もうか?」
「大丈夫。エチケット袋は常備している」
外には聞こえない通信で、そんなやりとりをしている二人。
心配する加藤に藤堂は問題無いと答えていたが、それはただのやせ我慢だった。
酸っぱい臭いが更に気持ちを悪くさせ、声では分からないが明らかに顔色は悪い。
それでもこれは負けられない戦いだからと、強がったのだった。
「分かった。合身はやめよう」
「そうか!」
加藤から辞めようと言われたのを機に、即飛び降りる藤堂。
そして彼は、もうヤケクソだと言わんばかりに、阿吽へと攻撃を開始した。
「やはり強いでござるな」
慶次は共に落ちた上杉輝虎と、真っ向勝負を続けていた。
ハイタイガーの中では苦戦した慶次だったが、今は外に居る。
使い勝手の悪かった槍という長い武器も、外でなら強力になる。
そのおかげか、今は輝虎とも互角以上の戦いを繰り広げていた。
「そっちこそ。やっぱり魔王の片腕っていうのは、伊達じゃないな」
「片腕?それは拙者ではなく、兄でござる。それに今、兄は・・・」
「隙あり!」
「そう見せたのでござるよ!」
「しまった!」
又左の件で気落ちするフリをして、輝虎の攻撃を誘った慶次。
彼女はまんまとハマり、慶次の槍で剣を弾かれてしまった。
「チィ!」
「観念して投降するでござ、危ない!」
武器を失った輝虎に対し、投降勧告をしようとした慶次。
だがそれを言い終える前に、彼は輝虎目掛けて走っていた。
「な、何を!?」
慶次に突き飛ばされると、輝虎の目の前には大きな何かが落ちてくる。
それはヤケクソになった藤堂の操る、ハイタイガーの足だった。
「まさか、敵である私を助ける為に?」
ハイタイガーの足が上がると、そこにはペシャンコに潰された慶次の姿があった。
「せ、拙者の負けでござる。何故か咄嗟に、身体が動いてしまった・・・。トドメを刺すでござるよ」