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大きな影

 なんてこった!

 タツザマに続いて、ベティも重傷を負ってしまった。


 ベティは福島の新たな力によって、全身を斬り刻まれてしまった。

 ハッキリ言って、今回の福島の力は本当にチートだと思う。

 そもそも何十本もの刃を自在に操って、遠隔操作で攻撃してくるだけでも強いのだ。

 以前はモノマネの出来次第で、操れる刃の数が決まっていた。

 モノマネがあまり上手くない福島は、その時は戦力として数えるには少し実力が乏しいと思えたくらいだ。

 今の日本号は安定して刃を出せるし、それだけでも強い。

 そして今の福島は、アープの能力を取り込んでしまった。

 本人としては無意識だったんだろうけど、あの見えない銃弾が、見えない刃としてパワーアップしてしまったのだ。


 見えないっていうのは、相当怖い。

 夜に照明を使わずに、キャベツの千切りが出来ますか?

 真っ暗な部屋の中を、全力で走れますか?

 僕なら指を切る自信はあるし、タンスの角に足の小指をぶつける自信もある。

 それくらい見えないというのは怖いのだ。

 うん、全く関係の無い話だった。

 改めて考えてみよう。

 人間というのは、見えないモノに恐怖感が生まれるように出来ているものである。

 だから昔の人は暗闇を怖がっていたし、夜出歩くような事を極力控えていた。

 兄も幽霊やお化けは苦手な部類だ。

 僕も兄ほどではないけど得意ではないが、まだマシな方である。

 そこで福島が、もし夜間にこの力を使ったとしよう。

 暗闇の中で、見えない刃が突然襲い掛かってくる。

 知らぬ間に腕や足は斬られ、恐怖感を煽られているところに、首を刎ねられたりする。

 知ってる?

 人って首を刎ねても、少しの間は意識があるんだよ。

 それこそ自分の首の無い死体を、見続ける事もある。

 本当か嘘かは知らないけど、そういう時ってめちゃくちゃ時間がゆっくりに感じるらしい。

 長時間、自分の死体を眺めるハメになる。

 途轍もない恐怖感だろう。


 何が言いたいのか、自分でも分からなくなってきた。

 とにかく見えないモノは怖いのだ。








 官兵衛の案は、僕も最適解だと思っている。

 アープを取り込んだ時点で、福島は二人と言っても過言ではない。

 だからこっちも二人がかりで戦う。

 それに対して卑怯だと言うのなら、だったらお前が一人で戦えと言いたい。



「俺は構わない」


「アタシもそれで良いわ」


「ありがとうございます」


 カッちゃんもベティも、この案に乗ってくれる事になった。



 ペンキに関してはコバの所にあるはず。

 問題は、広くぶち撒ける方法かな。

 ある程度大きな缶を用意して、それを空からぶち撒けるしかないか。



「でもその作戦、ベティも大量に出血してるけど。大丈夫なのか?」


 言われてみれば確かに。

 マッツンに言われるまで誰も気にしてなかった。

 彼もタツザマと同じように、血は少なくなっているはず。

 貧血で動けないとか、本番で起きないよな?



「アタシは魔族よ。ヒト族より丈夫なんだから、問題無いわ。それにアタシは、自分の目で奴を倒すところを見ないと気が済まないの」


 なんか危険な考えな気もするけど、ベティ以外にそれを任せられる人が居ないからな。



「二人とも、明日までゆっくり休んでくれ。本番では期待してるよ」








 右軍が戦闘をやめて撤退した。

 しかも味方だけでなく、敵も同様に撤退している。

 そんな異様や光景が、本来なら中央軍でも見えるはず。

 だが彼等は気付かず、ひたすら一進一退の攻防を繰り広げていた。



「一体どうなっているんです!」


「太田殿、聞こえるか?・・・チッ!見失った」


 彼等は戦場に足を踏み入れてすぐ、目の前も見えないくらいの霧に覆われていた。

 その中で唯一見えていたのが、空高くそびえ立つ何か。

 太田達は知らず知らずのうちに仲間と散り散りになり、その大きな何かが敵かもしれないと、怯えながら戦うようになっていたのだ。



 幸いな事に、敵の大半はアンデッドである。

 倒すのは容易なのだが、問題は目の前も見えないくらいの霧に覆われた事で、同士討ちの危険性が高くなった事だった。

 そしてその不安は的中し、オーガ同士がかち合ったりミノタウロス同士が叩き合うという事案が多く起こっていた。



「ほらね、何か大きいのが居るでしょ」


「確かに見える事は見えるが。それよりもタケシ殿」


「何?」


「この霧の中、よく戻ってこられましたな」


 タケシと長秀は、二人で中央の戦場に足を踏み入れた。

 走っている途中で軽い目眩が起きると、長秀は目の前が霧だらけの空間になっている事に気付く。



「そういえば何でだろう?」


 タケシは気付かなかった。

 普段から方向音痴な彼は、見えなくなった事で逆に勘が鋭くなっていた事に。

 そして大きな何かとは反対方向に走った事で、その異様な空間から脱出出来たのだった。



「この霧、さっきよりも濃くなってる気がする」


「でしょうね。コレ、魔法ですよ」


「魔法!?」


「まず第一に、城から見たこの戦場は、霧なんか一切見えなかった。外部からは見えないように偽装されていたという事です」


 タケシも長秀に言われて、気が付いた。

 城から再びこの戦場に戻ろうとした際、霧なんか一切見えなかった。

 そしてある地点から足を踏み入れた途端、真っ白な霧の中に入っていた。



「第二に、この霧が魔法で吹き飛ばないという点です。私は試していませんが、まず間違いなく誰かがやっているはず。それなのに霧は晴れていない。という事は、この霧がただの霧ではないという証拠になります」


「流石は丹羽さん、頭が良い。俺にも分かる説明だったよ」


 長秀を称えるタケシ。

 こんなにストレートに言われ慣れていない長秀は、珍しく顔を赤くした。



「オホン!だからタケシ殿、私と逸れないように気を付けましょう」


「了解だよおぉぉぉ!?」


「誰だ!」


 タケシと長秀の間に、突然何かが突き抜けてくる。

 タケシは間一髪手を引っ込めて避けたが、そのせいで長秀と少し距離が空いてしまう。



「槍か。この!」


「うおっ!あの一撃を避けて槍を引っ張ったでござるか!?」


「ござる?」


「ん?タケシ殿か!?」


 攻撃してきたのは、慶次だった。

 タケシは自分の目の前の槍を掴んで引っ張った事で、それが判明した。



「慶次さん、ちょっと待ってくれ。丹羽さん?聞こえるか?」


 長秀からの返事が無い。

 あまり離れていないはずなのに、既に遠くに行ってしまったかのような感覚だ。



「丹羽殿と一緒に居たでござるか?」


「そんなんだけど、今の攻撃で逸れちゃったみたいだ。探さないと」


 そのまま手当たり次第に動こうとするタケシ。

 すると腕に、何かが絡まっている事に気付く。



「何だコレ?ゴミ?」


「それは、蔦でござるな。この辺りに茂みなど無かったはずでござるが」


「邪魔だな。何処で絡んだんだろう?」


 蔦を掴んで、その出所を探っていく二人。

 するとものの数秒で、目の前に長秀が現れる。



「タケシ殿、良かった」


「丹羽さん!?もしかしてこの蔦、丹羽さんがやったの?」


「私の魔法ですよ。霧の中でも探知出来て良かった」


「魔法すげーな」


 感心するタケシに、再び長秀は少し顔を赤らめた。









「暇だなぁ・・・」


 藤堂はボヤいていた。


 戦っているのは、ただのアンデッド達だけ。

 その背後には秀吉軍が控えていたが、彼等は姿を見せただけで今は既に後退している。

 何故なら彼等は、太田やゴリアテ達に姿を見せて今日からはアンデッド以外も参戦して、今までとは違うと思わせる為だけの演出だったからだ。

 その演出にハマった太田達は、進軍を慎重にさせ、気付けば秀吉が作り出した結界の中で彷徨っていた。



「文句を言うなよ。どちらかが呼ばれる事になってるんだから」


 もう一人暇をしている男が居る。

 それは加藤清正だ。

 彼も秀吉からある場所で待機を命じられ、藤堂か加藤、もしくは両名とも呼ばれると前もって伝えられていた。


 しかし朝から待機して、既に昼を回っている。

 いくら待機と言われても、いつまでも気を張って待っていられない。

 彼等は暇を持て余していた。



「本当に今日中に呼ばれるのだろうか?」


「そのはずなんだけど。ちょっと心配になってきた」


 既に五時間以上経過している。

 自分達は秀吉から、忘れられているんじゃないか?

 嫌な予感しかしていない二人に、とうとうあの方から声が掛かる。



「藤堂、出番だ。三人ほど抜けてきている。それを相手にしろ」


「か、かしこまりました!」


 気の抜けた状態で、背もたれに寄りかかっていた藤堂。

 突然の秀吉からの呼び掛けに、慌てて姿勢を正していた。



「というわけだ。すまんな」


「良いなあ」


 勝ち誇るように加藤に言う藤堂は、改めて準備に取り掛かる。

 目の前のスイッチを立ち上げると、モニターにはタケシと慶次、長秀の姿が映し出される。



「あの三人がターゲットだな。では藤堂高虎、参る!」








「丹羽さん、本当に凄いな!」


「拙者も驚いたでござるよ」


 タケシと慶次が褒め称えると、長秀は平静を装う。



「こ、この程度は普通ですよ。私の森魔法なら、迷う事無く進めますから。それに私の領地には、もっと迷える場所もありますし」


「アレだろ?うんこションベンの森」


「うこさべん!右顧左眄の森ですよ・・・」


「すいません。似てるけど、違ったか」


 地元を貶された気分になり声を荒げると、タケシは素直に謝った。

 そんな二人のやり取りを気にしない慶次。

 しかし何かに呆気を取られているかのようで、慶次は動かない。



「慶次殿、どうされた?」


「丹羽殿、拙者の目がおかしいのでござるかな?」


「何見てるんだ?」


 慶次が半分口を開き、ボーッとしながら少し上を見ている。

 タケシも同じ方向を見ると、彼は何度か瞬きを繰り返した。



「んん!?俺も目が疲れてるのかな?」


「二人とも、何か異変に気付いたら連絡しましょう」


「申し訳ないでござる。気のせいかもしれなかったから、言い出しづらかった」


「それで、何がありましたか?」


 長秀が改めて問うと、慶次は自分でも半信半疑といった感じで答える。



「霧のせいで気のせいかもしれないのだが、あの大きな影が動いているように見えるでござるよ」


「俺もそう見えるんだよ。でも違うようにも見えるし。霧が邪魔で、ハッキリ分からないんだよな」


「なるほど。あの影で・・・んん!?」


 長秀は目を何度も瞬きさせる。

 二人の言う通り、動いているように見える。

 だがあのサイズで動く物とは、何だ?



「慶次殿、クリスタルで風魔法は使えないですか?」


「あるにはあるが、霧は飛ばせないでござるよ」


「そうでしたね。では、もう少し霧の上に出ましょう。土壁!」


 長秀は片手を地面に置くと、土壁を作り出し三人とも霧よりも上へと向かっていく。

 十メートル近く上がった所で停止すると、彼等は大きな何かの正体を、ハッキリと目にして叫んだ。








「巨大な虎!?」


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