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二人がかり

 話を聞かない人って、どうしてますか?


 福島はアープを取り込み、パワーアップして復活した。

 しかし復活した福島は、ベティ達の言葉も聞かずにアープがベティ達にハメられたと思い込んでいた。

 ベティが何度言っても聞かない福島だけど、これには僕も経験があるからなぁ。

 その経験というのは、幼少期になる。

 そう、子供の頃にムッちゃん達とゲームをしていた時の思い出だ。


 当時のムッちゃんは今のようにムキムキな身体ではなく、至って普通の子供だった。

 もし普通じゃないという点があるのなら、極端に不器用だという事だろう。

 あの頃のムッちゃんは、とにかくゲームが下手だった。

 対戦をしてもめちゃくちゃ弱くて、全勝していた記憶しかない。

 でも逆に考えてみてほしい。

 あまりに手応えが無くて、つまらないんだよね。

 そこで僕はムッちゃんに、ある程度は上手くなれるようにアドバイスをしていたんだ。

 例えば、攻撃しかしないんじゃなくてガードもしようとか、前に出るだけだとワンパターンだよとか。

 言ってる事は当たり前と言えば、当たり前かもしれないんだけど。

 当時のムッちゃんは、それが出来なかった。

 まあ今も出来ていない気がするけど。

 だから横で教えながらムッちゃんの動きを見ていたのだが、まあ上手く出来ない!

 ガードをしようと教えれば、とにかく後ろに下がるだけ。

 前に出るのが駄目ならと、今度はひたすらジャンプ攻撃。

 確かにガードはしてるし、前には出ていない。

 でもそれしかやらないのは、どうなのよ!?

 しばらく諦めなかった僕は、ムッちゃんへのアドバイスを続けたが、いい加減キレた。

 わざとやってんじゃないのかと思うくらい、本当に上手くならなかったから。

 そして僕は悟ったよね。

 無理だと。


 話を聞かない人。

 もしくは聞いてくれても、おかしな聞き入れ方をする人。

 今度ベティに、僕のそういう人への対処法を教えてあげようと思う。

 諦めが肝心ですよ。








 バカにしているのか?

 ベティはフラフラしながら立ち上がると、カッちゃんを睨みつける。

 だがその目は本気そのものであり、このままだと危険だと察したベティは、福島を見た。



「アナタ、あの男の居場所が知りたいんでしょ?」


「っ!?アープはまだ生きてるのか?」


 そんなの知らねーよ。

 ベティは怒りに身を任せてそう言いたかったが、言葉をグッと飲み込む。



「彼ならアナタが居なくなったのに気付いて、本陣に戻ったわ。アタシ達は指揮官が一時的にも居なくなるなら、戦況が楽になるからね。だから見逃したのよ」


「何と!?私が居なくなった?」


「もしかしたら、アナタが一時的に居なくなった事を報告されているんじゃないかしら?アナタも戻って、木下に弁明した方が良いんじゃない?」


 ベティは口から出まかせを言うと、福島は目を白黒させる。

 確かに自分の中で、一部記憶が抜けている。

 その時に戦場から離れていたとしたら、アープが不利になっていたのは間違いない。

 身の安全を考えて一時戦線離脱して本陣に戻り、新たな仲間に救援を求めていてもおかしくはない。


 だが、部下を見捨てていくのはどうなのだろうか?

 アープの行動は無責任ではないだろうか?

 そう糾弾したい気持ちはあるが、いかんせん自分に記憶が無い。

 もし本当に自分がここに居なくなっていたら、むしろ責められるのは自分である。


 弁明ではなく謝罪を。

 福島はベティを見て、こう告げる。



「佐々成政、一時休戦にしないか?」


「ベティと呼びなさい。その提案に、アタシ達にメリットはあるのかしら?」


「その怪我で、よくもまあ言える」


 福島と会話をしていても、血が流れ過ぎて頭がフワフワしている事は否めない。

 ベティはこれ以上は自身が戦うのは厳しいと、福島の提案を飲んだ。



「今日は、今日だけは軍を動かさないわ」


「分かった。こちらもその条件を飲もう。ではさらばだ」


 福島は狼煙を上げると、秀吉軍に動揺が走る。

 しかしベティも同じように撤退命令を出した事で、両軍は何か約束事があったのだと理解した。

 福島が下がった事で、ベティの周りから殺意が消えた。



「こんの野郎!アタシを見捨てやがって!」


 ベティは完全に男口調で、本多にブチ切れている。

 胸ぐらを掴み睨むと、逆に手首を掴まれた。



「喚くなよ。さっき言ったのは本心だ。もしあの場に参戦していたとしても、共倒れになっていた可能性は否定出来ない。それよりも、まずは治療を。そして福島の分析をする方が優先されるんじゃないのか?」


「・・・チッ!分かったわよ」


 ベティの手首を放すと、彼を担ぎ上げるカッちゃん。



「お詫びと言っちゃなんだが、このまま運んであげるよ」


 さっきのシリアスな顔とは真逆に、突然おちゃらけた表情を見せると、ベティも強張った顔が緩む。



「好きにしなさいな」









「というわけで、情けない話だけど戻ってきたわ」


「いえ、命あっての話です。むしろ福島の新しい力に関して話が聞けたのは、大きな収穫でした」


 ベティが僕達の前に戻ってきたのは、昼過ぎた頃だった。

 太田やイッシー達はまだ戦闘中だが、ベティの怪我を見る限り撤退は正解だったと思う。



「魔王様は福島の新たな力、どう思われます?」


「官兵衛と同じ感想ではあるけど、おそらくはアープとかいう男の見えない銃の能力。アレを取り込んでると思うんだよね」


 官兵衛と僕は、ベティの大出血を城から見ていた。

 ここから見ていても、真っ赤な鮮血が派手に飛び散っていたのだ。

 その時に兄は、血が付着した日本号の穂先に似た何かを見たと言っていた。



「問題は福島が、どんな力を使っているかという点になりますが。佐々様は御自身で、何か気付いた点はありますか?」


「官兵衛ちゃん、ベティって呼んでちょうだい。そうね、もうアタシ以外にも魔王様は気付いてるみたいだけど、アレは日本号の穂先が消えてるわ」


「やっぱりね」



 だけど、それだけでこんなにベティが苦戦するものなのだろうか?


 彼が言うには、アープの弾丸は水嶋の爺さんとは違い、曲がったりしないという話だった。

 だから彼が早撃ちで銃を抜いたとしても、手の角度から何処に飛んでくるのかすぐに分かったらしい。

 それに合わせて風切り音を聞けば、避けるのは難しくないとの事だった。


 そして彼が苦戦する理由は、やはり他にもあった。



「問題は数よ」


「穂先の数?確か、七本が最高じゃなかった?」


 イッシーが奪った日本号は、それが最高だった。

 ここから見ていても、多くて十本だったはずである。



「あの子、覚醒して何十本、下手したら百本近く出せるようになってるわ」


「ひゃ、百!?」


「見えない刃が百本も飛んでくる。しかも直線的じゃなくて、色々な角度からね」


 無理だ。

 いくらベティが聞き分けられると言っても、数本が限界だろう。

 不規則、いや規則性があったとしても、何十もの刃を避けるには、見えていても至難の業である。



「厳しいな」


「タケシ殿をぶつけてはどうだ?」


 ムッちゃんを福島と対戦させるか。

 いや、無駄だな。

 死なないだけで、手足を斬り落とされて行動不可能になるだけな気がする。



「やめておこう。他の案は無いかな?」


 皆は唸るだけで、案は出てこない。

 官兵衛も難しい顔をしている。



「官兵衛でも考えつかない?」


「あると言えばあるのですが、ちょっと誇りが・・・」


 誇り?

 プライドって意味かな?



「誇りに関して、何か問題がある?」


 官兵衛は少し言いにくいようだ。

 だけどベティとカッちゃんは、気にしないと言ってくる。



「怒らないで下さい。福島一人を相手にするのに、二人がかりなら何とかなると思うんです」


 なるほど。

 カッちゃんは別としても、ベティは領主であり鳥人族で一番強い戦士に当たる。

 そんな彼が秀吉ではなく、福島を相手に二対一で戦えと言われているのだ。

 官兵衛も怒るんじゃないかと気にするのも、無理はない。



「俺は一向に構わないよ。マッツンも言ってるから。プライドなんかで腹が膨れるか。プライドで飯が食えたら、そんなもん売ってやるってね」


「おいおいカッちゃん。そんなに褒めるなよ〜」


 褒めてはいない。

 むしろ違う角度から見たら、プライドも何も無いただのクソタヌキである。

 だが僕も、マッツンの意見は分からんでもない。

 どちらかと言えば、最低限の人間の誇り以外は、要らないと思ってるからね。

 靴を舐めろとか、土下座して頭を踏まれろとか。

 そんな尊厳を踏み躙られるような事ではない限りは、捨てても良いと思ってる。


 だけど、それが捨てられない人も居るっていうのも、理解しているつもりだ。



「ベティにはちょっとキツイ条件だよね」


「・・・」


 無言か。

 やっぱり二人がかりで戦うのは、屈辱なのかもしれない。

 だったら、ちょっと考え方を変えさせれば良い。

 そして背中を押してやるのだ。



「ベティ、でも向こうも二人だったらどう思う?」


「それなら普通じゃないかしら?」


「そうだよね。カッちゃんと二対二で、条件は変わらないんだから。でも福島って、今や二人で戦ってるのと同じだよ」


「え?」


「だって福島は、アープを取り込んでしまってるんだよ。一人の身体に二人の力があるんだ」


 僕と兄さんみたいにね。



「納得出来ない?」


「理屈は分かるんだけど、考えが追いつかないわ」


「でもね、身体は分かってるはず。ベティは日本号による攻撃も、アープの見えない弾丸も効かない。だけど二人が合わさったら、さっきの大怪我だよ」


「・・・」


 今度も返事は無いけれど、理解はしているっぽい。

 さっきまでの否定的な表情ではなく、むしろ悔しいといった感情が見える。



「どうだろう?官兵衛の案を聞くだけ聞いて、それから考えても良いんじゃない?」


「・・・分かったわ」


 ベティが賛成してくれたおかげで、ようやく話が進む。

 官兵衛もちょっとホッとしていた。



「それでは進めます。ちなみに二人がかりと言いましたが、直接戦うのは一人だけです」


「なんだよ。だったらそう言ってくれよ」


「それでも二人がかりなのは、変わりませんので」


 ベティも官兵衛の前置きを聞いて、少し安心した様子だ。

 やっぱりそこは気になっていたんだろうな。



「それで、どっちが戦うとかあるのか?」








「戦うのは本多殿。サポートをベティ様にしていただきます。内容は、福島が日本号を使ったと分かったら、ベティ様には塗料をばら撒いてもらいます。見えるようになった日本号を避けて、本多殿が福島を攻撃。そして倒してもらいます。短時間での勝負です。よろしいでしょうか?」

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