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対砦最後の作戦2

 半兵衛と僕の挑発で、この砦を任されているのがグレゴルだと分かった。

 プライドが高い割に頭が弱いので、挑発したらすぐに自白したのだ。


 ゴーレムの破壊を試みる前衛部隊。

 内蔵型の長槍では、傷付けるのが精一杯だった。

 しかし組立式なら?

 そう考えた又左は頭を狙ったが、逆にその槍の穂先が欠けてしまった。

 項垂れる又左を横目に、ミスリル製の手甲を叩きつける佐藤。

 その拳はゴーレムの表面を砕いた。

 壊せる事を確信した佐藤は、懐へ飛び込んだ。

 油断したわけではなかった。

 しかしグレゴルの支援魔法で強化されたゴーレムは、皆の想像を上回る強さになっていた。

 地面に叩きつけられた佐藤は、気を失ってしまった。

 続けて蘭丸も負傷して戻ってくる。

 どうやらこのままではジリ貧らしい。

 そこで半兵衛は、最後の作戦を計画したのだった。


 佐藤が戦線に復帰する直前、その作戦内容が話された。

 それは魔王とハクト、佐藤の連携による攻撃だった。

 グレゴルに対して牽制。

 支援魔法が途切れたタイミングで、支援魔法を掛けた佐藤の一撃でゴーレムを破壊するというものだった。

 出来ないと弱音を吐くハクトだったが、兄の言葉に一転奮起。

 これから砦を落とす、最後の作戦が実行されようとしていた。





 あんな気合入れた事を言ったものの、よくよく考えたら俺がこの作戦のトップバッターだった。

 普段なら緊張とかしないんだけど、やっぱり戦いとなると違う。

 特に前線で戦っている三人の事を考えると、怖くなってきた。

 作戦の為とは言え、又左なんか無理して立ち上がっているのと変わらないからだ。

 それを思うと、自分が失敗するわけにはいかない。

 ここは念には念を入れておこうと思う。


「半兵衛。蘭丸にも手伝ってもらっていいか?」


「俺!?自分で言うのも悲しいが、あの三人と比べると俺は役不足だ。そんな俺が何をするんだ?」


「一体何をさせるつもりなんですか?」


 悔しそうに言ってはいるが、俺は悪い事ではないと思うけどな。

 自分の事を過大評価して仲間を窮地に陥らせるより、現実を見据えて出来ない事は出来ないって言う。

 それって、結構出来ない事だと思うんだよね。

 プライドだってあるんだから。


「そんなに難しい事じゃない。弓矢を放ってもらうだけだ」


「そんな物、当たらないぞ!さっきのハクトの矢のおかげで、奴は弓矢に警戒している」


 蘭丸の言っている事は正しかった。

 グレゴルは切れそうな支援魔法を再び唱えつつも、なんだかんだでチラチラと此方の様子を見ているからだ。

 余程あの弓矢が怖かったらしい。

 だが問題無い。

 当てる事が目的ではないからだ。


「いいか?別に奴に当てなくても構わない。弓矢が飛んできたという事が大事なんだ」


「どういう事だ?」


「奴に向かって弓矢を放てば、まずそれは警戒されているだろう。ほぼ必ずと言ってもいい。弓矢は防がれる。だがその直後に、更に速く重い物が飛んで来たら?」


「なるほど。警戒を緩めさせてからの、二段構えの攻撃ですか。それなら確かに当てる必要は無いですね」


「そういう事」


「それくらいなら、俺も手伝う事が出来そうだ」


 蘭丸も乗り気になってくれた。

 後はタイミング。

 これが一番難しいのだが・・・。


「狙うなら、あの三人の誰かに危機が訪れた時にしましょう。グレゴルなら必ず、その瞬間を逃さないはずです。だから我々も、その瞬間を被せます」


「分かった。一番最初で少し緊張するが、全力でやらせてもらう!」


 これでこっちの準備は出来た。

 後は、あの三人がどれだけ頑張ってくれるかだな。





 長い!

 正直なところ、凄くキツイぞ。

 俺が気絶してる間、二人だけで捌いていたのか。

 やっぱり前田さん、いや前田兄弟って凄いな。

 それでも限界はある。

 前田さんの方の体力が、そろそろ危険域に入っていると思われる。

 避け切れなくて、槍で防いだりし始めていた。


「兄上!少し下がっては如何でしょう?」


「それは駄目だ!」


「何故です!」


「ここで下がれば魔王様達に被害が及ぶ。それに、お前を残して、一人下がるわけにはいかんだろうが!」


 この人、根性だけでやり切ろうとしている感がある。

 もし無理をし過ぎて倒れる事があったら、流石に俺もそんなの看過出来ないぞ。

 作戦の為とは言え、ちょっと無理させ過ぎじゃないのか?

 すると、後方から大きな声援があった。


「又左!お前のその気持ちは分かるぞ!負けるなよ!」


「御意!」


 阿久野くんの声が聞こえたおかげか、また元気を取り戻したようだ。

 何が彼をそうさせるのか分からないが、俺は俺のやるべき事を全うしよう。

 二人とも、頼んだぞ!





「マオくんは、前田さんの考えてる事分かるの?」


「分かるぞ。アレは意地だな」


「意地?」


「兄貴ってのは、弟の前では格好つけたいんだよ。だから意地でも、自分が先に倒れるわけにはいかないんだ。それにアイツの場合、今まで慶次の考えを蔑ろにしてたようなもんだからな。尚更、弱い所なんか見せたくないんじゃないか?」


「そこまで分かるなんて、凄いね」


 だって俺もそうだし。

 そりゃ別に隠すような事じゃないかもしれないけど。

 それでもこういう時こそ、兄貴面したいって気持ちは分かるんだよね。


(・・・今のは聞かなかった事にしてあげよう。兄さんでも、そういう風に考えているんだな)



「だが、それでも限界はある。おそらくは又左が一番危ないはずだ。砦に入ってからずっと、前線で戦い続けているからな」


「分かった。あの人の一挙手一投足を見逃さないようにする」


 蘭丸は弓を片手にしながら、グレゴルの位置を確認していた。


「簡単に気取られるなよ。当たらなくてもいいから、速射してくれ」


 そんな事言っているが、俺も他人の事は言えない。

 そろそろ集中して、蘭丸の弓矢が飛んでいくのを見逃さないようにしなければならないのだから。

 そして、その時は来た。





「馬鹿め!ゴーレムの猛攻から逃げ切れると思うな」


 今まで耐え続けてきた二人だったが、とうとう又左に限界が来た。

 膝が落ちて、前のめりに身体が泳いだのだった。

 その瞬間を見逃さないグレゴル。


「殺れ!!」


 ゴーレムの右拳が、又左を叩き潰そうとしている。

 来た!

「分かってる!」


 蘭丸は俺が何か言う間も無く、既に弓矢を放っていた。


「所詮はガキの浅知恵よ!」


 警戒していたグレゴルは、杖で飛んで来た弓矢をはたき落とした。

 その顔は優越感に浸っている。


「お前達のような者の考えなど、お見通しだ。策が通じず・・・うぉっ!?」


「なっ!?外した!?」





 蘭丸の弓矢は、上手く奴の警戒心を解いてくれた。

 次は俺の出番だ!

 半兵衛の後ろに隠れて、キャッチャーのように座っていた俺は、弓矢が飛んで行った直後に鉄球を投げ込んだ。


「半兵衛!退け!」


 その声に半兵衛は横に飛び、彼の真横を豪速球が飛んでいく。

 当たった!

 そう思った。


「うぉっ!?」


 命中はした。

 しかし当たったのは、奴の杖だった。

 優越感に浸っていた奴は、身振り手振りで役者のように語っていたのだった。

 そしてタイミングが悪く奴が振った杖に鉄球が当たり、そのまま杖は粉砕したものの、鉄球自体は逸れて奴に当たらなかったのだ。


「あぶっ!危ないじゃないか!小僧がよくもやりおったな!」


 未だ元気なグレゴルに、俺は失敗を確信した。

 俺のせいだ!

 このままだと前線の三人が危ない。

 助けないとマズイ。

 頭では分かっているのだが、失敗したという事が尾を引いているのか、変身が既に解けてしまっていた。

 残りの魔力も既に僅かしかない。

 力が入らずに俯いた俺は、予想だにしない声を聞いた。


「ナイスタイミングだ!ハクトくん!」





 ゴーレムの向こう側で、派手な爆発音のような音が聞こえた。

 ゴーレムが壁になっていて何事か分からないが、おそらくはあの鉄球だろう。

 作戦は上手くいったらしい。

 あのゴーレムを包む光の膜が、明らかに薄くなっている。

 行くしかない!

 そう思って前に踏み出した。


 左ジャブで距離を測ってから、右ストレート。

 その威力は先程と比べ物にならないくらい、破壊力があった。


「ナイスタイミングだ!ハクトくん!」


 支援魔法で拳が光っているのが分かる。

 ワンツーからのコンビネーションに、そのまま俺はラッシュに入った。

 左右の連打を、息が続く限りゴーレムの腹に叩き込んだ。

 その鋼鉄製の身体がミシミシと音を立て、ヒビが入っていくのが分かる。

 何十発も叩き込まれたその腹は、とうとう蜘蛛の巣状の大きなヒビになった。


「行け!佐藤さん!」


 蘭丸くんの声が聞こえる。

 次がトドメだ!


「おあぁぁぁ!!!」


 渾身の右ストレートを叩き込み、ゴーレムの腹に大きな穴が開いた。

 パラパラと音を立て腹から残骸が落ちていき、そして後ろへと倒れ込むゴーレム。

 しばらくはファイティングポーズを崩さなかったが、反応が全く無くなった。


「つ、疲れたぁぁ!!」





「やった!やったよ!」


「佐藤さん、スゲェ!」


 失敗したと思った俺は、倒れたゴーレムを見て呆然としていた。

 何故、作戦が成功しているんだ?

 佐藤さんの声で顔を上げた俺は、ゴーレムに向かってもの凄い勢いでパンチを叩き込む佐藤さんの姿を見た。

 失敗したはずなのに、何故かゴーレムの腹はドンドンと壊されていく。

 そしてとうとう大きな穴が開き、ゴーレムは動かなくなった。


「何で?」


「おそらくですが、杖を媒介にして支援魔法を使用していたのでしょう。杖を粉砕された事で、効果が弱まったのかと推測されます」


 俺の疑問に半兵衛が答えてくれた。

 多分だと付け加えてはいるが、その説明を聞くと俺もそうだと思う事にした。



「とうとうゴーレムを破壊したんだ!」


 蘭丸は作戦が上手くいって、既に喜んでいる。

 半兵衛はその緊張感から解き放たれたからか、その場でへたり込んでしまった。

 そしてハクトも同じく、魔力を全て使い切ったので今は座っていた。


「お恥ずかしい。私も張り詰めていた糸が、切れてしまったようです」


「ハハっ!僕も足に力が入らないから、同じだよ」


 気が緩んでいたその時、俺達はまだ終わっていない事に気付いた。

 目の前に大きな炎の渦が現れたからだ。





「ゴーレムが、あのゴーレムが破壊されただと!?」


 粉砕された杖を手放して前を向くと、状況は一変していた。

 ミスリル製の手甲を装備したヒト族が、ゴーレムを正に壊す瞬間だったからだ。

 大きな穴が開いたのを見たグレゴルは、最早ゴーレムは動かないとすぐに確信した。

 そして気持ちをすぐに切り替えて、すぐさま詠唱を始めていたのだ。


「あのクソガキが!彼奴が居なければ、今頃は全て終わっていたものを。絶対に許さん!」


 今はゴーレムを倒して喜んでいる。

 此方の事など一切気にしていない。

 あのガキ共だけは生かして帰さない。

 それだけを頭に、その魔法の詠唱は終わった。


「死ね!地獄の業火に焼かれて、全て燃え尽きろ!」




 忘れていた。

 頭に当たらずに、杖だけを粉砕したんだった。

 おそらくはすぐに詠唱していたのだろう。

 そうでなければ、詠唱短縮や破棄でもしていない限り、あんな大きな魔法をすぐに放つ準備は出来ない。


「あ・・・」


 既にその頭脳をフル回転させてきた半兵衛も、体力の限界だった。

 魔力が切れて動けないハクトも同じだ。

 蘭丸と俺は自分達だけなら逃げる事は出来る。

 だが、この二人を担いでとなると、あの魔法の規模は不可能だった。


「私を置いて逃げてください!」


「僕も同じだよ!足手まといになるなら、このまま置いて行って!」


「馬鹿野郎!そんなの駄目に決まってるだろうが!」


 見捨てろと言う二人に対して、蘭丸がブチ切れた。

 しかし、今の状況ではどうしようもない。

 残りの魔力を使って、地面をぶっ叩いてみるか。

 運が良ければ、下の階に落ちて助かるかもしれない。

 魔力が足りなくて壊さなければ終わり。

 運良く壊せても、下の階で戦闘をしていても駄目。

 動けない奴なんか、すぐに殺されるだろう。

 随分と分の悪い賭けだな。


(そんなの賭けにならないんでしょ?)


 その通りだ。

 皆の命を、そんな危険な賭けに乗せちゃ駄目なんだ。

 だけど、他に方法が無い。


「死ね!地獄の業火に焼かれて、全て燃え尽きろ!」


 クソッ!

 何も思いつかなかった。

 やるしか無いか!





「お前が死ね!」

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