突撃カッちゃん
こうやって勘違いを増やしていくのか。
マッツンは負傷したタツザマに代わり、カッちゃんを派遣してくれると約束してくれた。
本来ならマッツンは、カッちゃんみたいな強い人を自分の周りに置きたがる傾向にある。
特に戦場に近ければね。
でも今回、カッちゃんを戦場に送り出した。
ハッキリ言って嘘臭いと思ったのだが、どうやら違うらしい。
なんとマッツン、心を入れ替えたというのだ!
絶対に別人だ。
僕もそう思った時がありました。
だけどマッツンが心を入れ替えたのには、理由があるという。
それが今回の異空間騒ぎである。
彼の中でゴブリンが秀吉にやられていくのは、たまらなく悔しかったらしい。
自分の不甲斐無さに怒りを感じ、それが秀吉の前に出るキッカケになったとも言っていた。
仲間想いのマッツンにとって秀吉の行為は、自分の弱いと分かっていても、許せなかったのだろう。
それがあの覚醒に繋がったのだから、今となっては秀吉に感謝だね。
異空間の中でも慢心せず、それなりに特訓らしき事をしたらしい。
だけどマッツン、特にそれについて言及しなかったんだよね。
腹減ってそれどころじゃなかったのかもしれない。
でもそんな重要な話には、少しくらい情報が欲しいところだ。
もしかして、特に何も無かった?
いや、何も無かったらカッちゃんは手元に置きたがるか。
うーん、分からん。
ただそれでも分かる事はある。
マッツンは自分の身に、危険を感じていないという点だ。
ヤバかったらカッちゃん以外のゴブリン、半ちゃん達を呼んでもおかしくない。
それをしないという事は、マッツンがそこまで問題視していないという事だろう。
なんて思ったんだけど、そんな事を考えていたら、兄から違う意見を聞かされた。
それは面倒な事は他の人に任せて、マッツンは確実に安心だと思われる僕のそばから離れるつもりは無いんじゃないかと言うのだ。
僕は目から鱗だった。
少しだけその考えをほのめかしたら、マッツンの目がバタフライくらい派手に泳いでいた。
やっぱり人の心根は、そう簡単には変わらないんだなぁ。
やる気を見せる長秀。
新しい武器が気になって、戦場に向かいたいといった感じかな。
しかし、ムッちゃんが言ってる事を鵜呑みにして良いものなのか。
問題はムッちゃんが恐れている巨大な何かが、僕達に見えない事なんだよなぁ。
魔法で幻を見せられてるだけで、救援に来た連中に対して罠を仕掛けているとも限らない。
これが逆パターンで、長秀が見つけてムッちゃんが救援組だとしたら、問題無く行ってくれと頼めるんだけど。
「中央軍も幻を見ている可能性は?」
「あり得ないとは言い切れませんね。しかしここで退けば、あちらに勢いが着きます」
タツザマを倒したというのは、秀吉軍全体にも広がっていると思われる。
調子づいた秀吉軍に対して、こちらがまた後退するとなれば・・・。
士気にも関わるしなぁ。
「行くしかないか。頼めるかな?」
「お任せを!」
即答か。
意外に長秀も、新しい物を試したいという欲には勝てなかったか。
「ムッちゃん。長秀が行くんだから、今度はビビらないでよ」
「ビ、ビビってなんかねぇし!ただ驚いたのと、報告しないとなぁって思っただけだし!」
佐藤さんと慶次は戻ってきていない。
太田達が気付いているなら、二人だって気付いているだろう。
じゃあ二人は、その巨大な何かを無視してる?
「それじゃ、もう一度行ってくる。丹羽さん、よろしくです」
「その巨大な何かは任せて下さい」
二人は何やら話しながら、戦場へと向かっていった。
「カッちゃん、ありがとね」
ベティは隣に居る本多忠勝に、お礼を述べた。
だが言われた当の本人は、目を白黒させている。
「何か感謝されるような事をしたかな?」
「フフ、アナタがそう言うなら、アタシももう言わないわ」
「そうか」
立ち止まった二人の後ろには、青い顔をしたタツザマ。
血の量が少ないからなのか、貧血気味で歩くのも大変そうだ。
「しかし、空にも敵を連れてきているとは」
「アタシ達対策ね。アレはヘリだったかしら?」
秀吉軍の上空には、戦闘ヘリが複数機飛んでいる。
ベティは魔王とコバから、ヘリの恐ろしさを聞いていた。
滞空する事が出来るヘリは、鳥人族にとって天敵である。
ベティは周囲を見回すと、タツザマにとんでもないお願いを言い始める。
「ねえ、タツザマちゃん」
「タツザマちゃん!?はあ、何かな?」
「アナタ、アタシの部下の指揮を執らない?」
「ハイ!?」
タツザマは少し興奮すると、ふらついて椅子に座る。
目眩で焦点がおぼつかない視線をベティに向けると、彼は同じ事を言った。
「何故、そんな事を頼むんです?」
「簡単よ。アタシ、あの銃使いをボコボコにしたいの。そう、アナタの仇も兼ねてね」
「それは・・・」
少し嬉しいような、少し情けないような。
やれるなら自分の手でやるべき。
だがこの戦いに、私情は挟む余地は無い。
悩むタツザマに、ベティはもう一言付け加える。
「それにあの男、結構強いから。アタシも集中せざるを得ないかもしれないし」
「なるほど。指揮をしながらの戦闘は、難しいというわけですね」
「こう言っちゃアレだけど、アナタとイッシーちゃんの部隊は、群を抜いているわ。それは統率している人の差でもあるでしょうね」
真顔でベティから言われたタツザマは、驚いた後に誇らしい気持ちが湧いてくる。
ベティもトキドに敗北して以降、集団戦の難しさを思い知った経験がある。
だからこそ統率する事の難しさ、そしてその統率力が高いタツザマなら、自分の部隊を預けようという気になったのだった。
「となると、俺の担当はあっちの妖精族かな」
「カッちゃんなら余裕でしょ?」
「うーん、どうだろう?なんとなく、変わった雰囲気を感じるんだけど」
「どんな雰囲気?もしかして、マッツンに似てるとか?」
「マッツンではないかな。どちらかと言うと、魔王様。あとタケシにも似てるかもしれない」
「魔王様とタケちゃん?」
カッちゃんは普段、あまり表情を変えない。
ニコニコしていて、何があっても動じないタイプだ。
しかし福島を一目見た彼は、少し怪訝な顔を見せた。
「それで、作戦は?」
「強行突破だ」
タツザマが二人に尋ねると、カッちゃんは即答する。
聞き間違いだと思ったタツザマは、再度聞いた。
「だから、強行突破だ。俺達が突っ込んでいく。そしてあの二人を分断するから、タツザマは俺に続いて割って入り、二人の距離を広げるんだ」
「アタシはあの銃使いに、陽動を仕掛けるわ。昨日の感じだと、あっちが指揮していたからね」
「なるほど。拙者は本多殿の後方支援と、空の戦いを見れば良いんだな。今回は馬ではなく、ワイバーンも居た方が良さそうだ」
タツザマはヘリと戦うワイバーン隊と、ゴブリンの援護をする騎馬隊の二部隊に分けた。
「そろそろ戦いも始まるわ。二人とも、よろしくね」
カッちゃんはトライクに跨ると、サングラスを掛けて颯爽と走っていく。
「テーテテー、テッテテテー」
「カッちゃん、自分でテーマ曲歌うのね」
「マッツンが居ないからな。皆も歌え」
ゴブリン達はBGMとして、走りながら突撃していく。
その異様な光景に、後ろで見ていたタツザマは首を傾げる。
「は、本当に大丈夫なのか?」
「タツザマちゃんはオバカね。カッちゃんはちょっとふざけてるくらいの方が、良いのよ」
「ど、どういう意味ですか?」
「彼はハッキリ言って、領主よりも強いわよ。柴田殿よりも強いかもしれないわ」
「えっ!?」
「集団戦となると話は変わるけど、対個人ならタケちゃんと並ぶかもしれないわね。でもあまり強い武は、時として周りと壁が出来るものよ。だからアレくらいふざけてた方が、親しみやすくて良いのよ」
戦いの最中にふざけるとは何事だ。
と言いたいタツザマだが、現にタケシもアホな言動が多い。
彼の場合は大真面目にやってそれなのだが、もし強くて真面目な奴となると、近寄り難いと自分でも思った。
「テーテテーテッテテテー」
「なんだ、あのふざけた連中は」
「弓で射殺せ」
福島兵が遠距離攻撃を開始する。
カッちゃんは矢の雨が降ってくる中、そのまま突入していった。
「お、おい!」
後方から見ていたタツザマが思わず声を掛けるが、既に聞こえる距離ではない。
慌てて援護に向かわせようとすると、カッちゃんが後部座席から布を取り出した。
「テーテテーテッテテテー。フン!」
左手に持った布を、力強く空に向かって振る。
すると大きな風が起こり、矢は逸れていった。
後方の連中も同じように布を振ると、ほとんどの者が無傷で矢の雨を通り過ぎていく。
「なっ!?な、何なんだ彼等は!」
「アレがカッちゃんよ。ふざけてるでしょ?」
大きな布だけでどうにか出来る。
タツザマは混乱している。
「アタシもそろそろ行くわね。ヘリも動くわ」
「任されました」
ベティが空に上がると、彼を見つけたヘリがこちらへ向かってくる。
それを確認したタツザマは、鳥人族とワイバーン隊を左右へと振り分ける。
「我々は急造隊である。だから無理に合わせなくて良い。お互いのテリトリーに飛んできた敵を、倒してくれ」
タツザマからの指示を聞いた両者は、左右に分かれて飛んでいく。
そこにチラッと、鳥人族からの声が耳に入る。
「ベティ様より分かりやすいな」
「こちらの事も考えてくれるんだな。ベティ様は自分の事しか考えてないのに」
「・・・うん、聞かなかった事にしよう」
自分の部下ならいざ知らず、他の部隊の不満を聞かされると、ちょっと気まずいタツザマ。
彼は敢えてスルーした。
「さて、後でアイツ等はお仕置きとして。見つけたわよ」
ベティの耳にも彼等の不満は聞こえており、振り返りながら誰が言ったのか確認する。
そして前を向き直したベティは、アープの姿を見つけ出した。
「福島、ヘリにあの男を攻撃させろ」
「だ、ダメだ。鳥人族が壁になって突っ込めない」
「誘導ミサイルで狙い撃て!」
「それが、鳥人族が邪魔でロックが取れないみたいなんだ」
福島の言葉を聞いたアープは、銃を抜いてベティに連射する。
しかしまだ距離はある。
ベティがあくびをしながら避けると、アープのこめかみに青い筋が立った。
「ヌルイわね」
「チッ!福島!前!」
空にばかり集中していると、前進していたトライク隊が猛スピードで突っ込んでくる。
スピードを見誤った二人は、慌てて左右に割れた。
「テーテテーテッテテテー!ドン!任務完了。それじゃ俺は、こっちの福島をどうにかするから。皆は横に広がって、壁を厚くしてくれ」




