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大将交代

 自分の身を犠牲にして、仲間を助ける。

 それは僕が知っている、越中国の領主ではないと思うんだけど。


 ベティは重傷を負ったタツザマを助け出し、福島とアープの二人を相手に戦闘を開始した。

 福島はそんなベティの行動に感動をしていたけど、ちょっと待ってほしい。

 それは本人の口から、出た言葉なのだろうか?

 僕が知っているベティは、元々仲間意識が薄いタイプである。

 そもそも鳥人族のトップは、一番強い者がなるという決まりがある。

 言うなれば、どれだけ頭が悪くても強ければ、越中国の領主になれるという事だ。

 ただし、馬鹿がトップでは国を治める事など出来ない。

 この場合の国は越中国に当たるけど、それは国じゃなく都市や街でも同じ事が言える。

 そんなベティは、ハッキリ言って治政に興味がある方には思えない。

 僕が彼から、越中国の細かい話を聞いた事は無いからね。

 おそらく、彼に従うマトモな文官が居るのだろう。

 いや、元々一番強い人に従うだけで、ベティに限った話じゃないのかもしれない。


 話を戻すと、こう言っては悪いがベティは特別仲間思いというタイプではないと思う。

 今でこそ鳥人族という括りであれば、仲間意識は強くなった。

 それもトキドに敗北した事がキッカケで、集団戦の重要性を教わったからに他ならない。

 集団戦をするには、仲間との絆が必要となる。

 だからベティも、部下達の事を考えるようになったんだろう。

 だけど前述の通り、それは鳥人族に限ってだと思う。

 領主同士で仲間という意識はあまり無さそうだし、敢えて言えば滝川一益と丹羽長秀の二人は、仲が良いかなと思えるくらいだ。

 魔族同士でもこのような関係性なのに、他国の騎士であるタツザマの為に、ここまで身体を張るか?

 僕は違うと思うんだよね。


 もしベティが、本当にタツザマの為に動いたとするとしよう。

 その場合、彼の中で何かしらの下心があるんじゃないか?

 タツザマの事を、性的な意味で狙っているとか。

 ただ、ベティの趣味に合っているのかと聞かれたら、僕も分からない。

 そもそもベティって、本当にLGBTQなのか分からないんだよね。

 もしかしたら僕達は間違った認識をしていて、ベティに騙されてるだけかも?

 なんて思ったけど、そこまで深く考えてないだろうな。








 ベティの身体が、ゆっくりと地上へ落ちていく。

 アープは当たった事を確信すると、左手の銃をホルスターに納める仕草をする。

 その瞬間、ベティの右手が動いた。



「うわっ!」


「チッ!外しちゃったわ」


 ベティが投げた短剣が、福島の右腕を掠った。

 彼は自分の頭に飛んできた銃弾を、右手に持った短剣で弾いていた。

 当たったように見せかけて、隙を突いて確実に当てるつもりで投げた短剣だったが、銃弾を弾いた際に右手が痺れてしまったのだ。

 その痺れが取れない状態だった為、彼は外してしまった。



「な、何故だ!?何故生きている!」


「はあ?アンタバカなの?当たってないからに、決まってるでしょ」


「俺はお前の行動を予測して、お前はその通りに動いていたはずだ」


「だから、アタシも気付いたからに決まってるでしょ」


「ど、どうやって気付いた!」


「バカね。誰が敵にネタバラシをする人が居るのよ。あ、ここに居たわ」


 ベティはニヤニヤすると、アープの顔が真っ赤になっていく。

 ベティはアープと福島の会話を、落ちながら聞いていたのだ。

 左手に隠された見えない銃と、それを撃つ時だけ見える未来。

 福島に勝ち誇るように説明した秘密は、全てベティにバレてしまったのだった。



「くっ!だが、バレたところで見えなければ分かるまい。福島!」


「わ、分かっている。ジャ、ジャパオアァァン!!」


 動揺する福島は、マトモに言えていない。

 モノマネが下手でも発動する日本号だが、それでもここまで酷いと、穂先の数は少なかった。



「この程度なら、片手でも対応出来るわ」


「福島、しっかりしろ!」


「うぅ、真面目にやってるよぉ・・・」


「自分のミスを仲間に押しつけて文句とか。アンタ最悪ね」


「うるさいな!」


 日本号に対応しているベティの隙を狙うように、バントラインスペシャルでベティを撃つアープ。

 だがベティに当たる気配は無い。



「オホホホ!無駄よ、無駄無駄」


「小癪な!」


 ベティに良いように遊ばれる二人。




 しばらくすると、両陣営から狼煙が上がる。

 夕方になり、両軍から撤退の合図が出たのだ。



「今日はこの辺りで勘弁してやる!」


「フフフ、勘弁してやる!ですって」


 自分のマネをするベティに、アープは左手の銃をコッソリと抜く。

 突然の発砲音に周囲の敵味方は驚くが、ベティは右手で頭を、左手で心臓を守っており、弾が当たる事は無かった。









「申し訳無い」


 タツザマは僕に、深々と頭を下げてくる。


 彼は重傷を負い、かなり危ない状況に陥っていた。

 回復薬や魔法による治療をするも、出血が激しく時間との戦いでもあった彼は、助けるには僕しか居ないと城の前まで運ばれてきたのだ。

 ゆっくりと治療をしていると、失血死してしまう可能性がある。

 その為僕に白羽の矢が立てられ、完全回復させたというわけだった。



「完全回復と言っても、体力までは戻らないよ。流れた血は多いし、無理は出来ないから」


「それでは右軍は!?」


「指揮者交代だね」


 タツザマは激しく肩を落とす。



 実は後から聞いた話、タツザマはこの戦いに凄く入れ込んでいたらしい。

 騎士王国で軍を率いるとなると、名前が挙がる筆頭はトキドである。

 個人でも集団でも強い彼が、まず第一に選ばれるからだ。

 しかし今回は、そんなトキドを差し置いてタツザマが選ばれた。

 僕とオケツに選ばれたという事実が、彼の中でとても嬉しかったようだ。

 まあ言ってしまうと、その気持ちが大きかった分だけ入れ込んで、平常心を保てなかったというのもあるのかもしれない。

 普段の彼なら、もう少しマトモに戦えた気もする。



「オケツ、すまないね」


「な、何故魔王様が謝るんです!?」


「だって今回の戦いは、僕と秀吉の戦いが発端だからね。それに巻き込まれた形で、騎士王国は参戦してる。その騎士王国から借りた強い騎士を、危うく失いかけたわけだから」


 タツザマは騎士王国でも有数の騎士だ。

 もし戦死していたら、大きな損失になっていた。

 それを考えると、ベティには感謝しかない。



「それは違いますよ。あの男は私達騎士にも、喧嘩を売ってきた。お館様を蘇らせ、騎士王国をグチャグチャにしたんです。はらわたが煮えくり返る気持ちなのは、こちらも同じですから」


「お、おう」


 ちょっと驚いたな。

 まさかこんな堂々と返されるとは。

 今までのオケツなら、そんな事無いですよ!とか慌てて言ってくる感じだったのに。

 ・・・本当に騎士王になったんだな。



「しかし問題は、タツザマ殿がここで戦線離脱となると、誰を大将に据えるかですよね」


「それに関しては、官兵衛が」


 ん?

 いつもならここで、次の人選は済んでいますくらいの勢いで言ってくるのに。

 あれれ〜、おかしいなぁ。



「か、官兵衛くん?」


「はい、何でしょう?」


「話聞いてた?」


「右軍の大将ですね。それに関しては、柴田様にお願いしようと思います」


 権六か。

 無難な人選ではあるが、大丈夫なのか?



「駄目じゃ」


「え?」


 後ろからお市の声が聞こえると、官兵衛はいつもとは違う声を上げる。



「ウチのは城の防衛を任せる」


「それは・・・」


 お市の独断に、官兵衛は反論したいが言い淀む。

 しかしお市も、ただ単に近くに居たいからと決めたわけではなかった。



「・・・あまり言いたくないが、ウチの柴田は秀吉には勝てんじゃろう。前線に出て再び対峙すれば、また同じ異空間に飲み込まれるのが、目に見えている」


「そうとは限らないんじゃないの?秀吉が大坂城から出てくるとは思えないし」


「それは向こうも同じじゃな。魔王が早々に戦場に出向くとは、考えておらんかったはず」


 う・・・。

 反論出来ない。



「官兵衛、妾の考えは浅はかか?」


「・・・いえ。向こうがあのタイミングで皆を異空間から出した理由が分からない以上、可能性もあります。アレが木下勢も予想していなかったアクシデントだったなら、もう一度狙われてもおかしくないですね」


「となると、権六もベティも駄目か」


 そうなると軍を率いて戦えるような人物。

 ・・・居なくない?



「滝川と丹羽は何をしている?」


「まだ戦場には出られないんです」


「チッ!役立たずの青二才どもが」


 青二才って・・・。

 二人とも領主をしている年長者なんだけどな。

 お市からすれば、皆青二才扱いになってしまう。



「ウケフジ殿に任せますか?」


「彼は後方支援を任せたいですね。貴重な人材です」


 オケツの案も却下されたし、こうなったらサネドゥかゴリアテを右軍に回すしかないか。



「ゴリアテを右軍に」


「アタシがやるわよ」


「ベティ!?って、何を食べてるんだ?」


「魔物よ、その辺で狩ってきたの」


 なんかの骨肉を食べてるけど、ちょっと臭い。

 ハッキリ言って、食べたいとは思えない。

 だけどベティは、それを平然と頬張っている。



「コレ?どうせ味なんかしないんだし、腹に入りゃ同じなのよ」


「あ、そう。でも大将やるって、どういう意味だ?」


「アタシが軍を率いるわ。タツザマちゃんは後方から、自分の軍の指揮だけしなさい」


「それなら出来なくはないが・・・」


 タツザマは先頭に立って戦わなければ、問題は無いと言う。

 個人的にはそれもやめてもらいたいけど、騎士王であるオケツがGOサインを出しているのだ。

 僕が止めるのも野暮というものだろう。



「良いのか?秀吉が出てきたら、また・・・」


 僕が言い終える前に、ベティの雰囲気が変わる。

 明らかに殺気立っている感じだ。



「ネズミの話はしないでちょうだい。もし許されるなら、単独で殺しに行きたいくらいなんだから。でもアタシが本気を出しても、確実に勝てるか分からない。だからあの男達で、我慢してあげる」


「そうか。助かるよ」


 お腹が空いたと事あるごとに言うベティだが、戦う気力はあるらしい。

 空腹よりも怒りの方が上。

 そういう事なんだろう。



「でもタツザマ殿に重傷を負わせた奴等に、勝てるんですか?」


「騎士王、アナタはアタシが負けるとでも?」


「確実に勝てると言わなければ、負傷者が増えるだけですから」


 睨みを効かせるベティにオケツは怯むかと思ったが、やはり強くなったようだ。

 ベティも通用しないと分かったからか、素直に白状し始める。








「戦いに確実なんて無いわよ。でも勝てる算段はある。あのアープとかいう男と、福島という男。別々に戦えば、怖くは無いわね」

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