鳥人族の狙い
人の良さが奏されるのかな?
福島はアープと組んで、タツザマが率いる右軍と対峙していた。
正直なところ、タツザマなら福島は相手じゃないと思っていたんだよね。
福島の力は強力だけど、それでもまだ完全に自分の力として扱いきれていない感があったから。
それに日本号も、どちらかと言うと中距離戦を主とする武器になる。
タツザマの速さに日本号の攻撃も翻弄されて、気付けば懐に入られて乱戦。
タツザマ隊は規律面では厳しいし、凄く統率が執れている。
それに福島個人の力は知ってるけど、軍を率いる力があるかと聞かれたら、それは不明だった。
でもタツザマ隊と比べたら、劣っていると思ってたんだけど。
想定外の事態だったなぁ。
まさかアープが、あんなに有能だったとは。
秀吉の配下も、もう顔バレしててほとんど知っているものだとばかり思っていたんだけど。
あんな人物がまだ隠れていたとはね。
ただ少し疑問に思うのが、福島はアープと同格のように思える。
なのに福島はアープの言う事を、素直に聞いている節がある。
アープの方が格上なのか?
それとも福島の人が良すぎるだけ?
普通はさ、自分を大きく見せたいとか自分の方が上だと誇示したいとか、そんな感じで対立するかなと思うんだけど。
又左と太田なんか、どっちが魔王の右腕かなんて話で、よく争ってたっけ。
それも今の話に繋がると思うんだよね。
まあ僕の周りは地位や権力に鈍いというか、固執しない人が多いけど。
本来なら蘭丸やハクトだって、それなりの役職に就いてるレベルだし。
蘭丸は不当に評価が低かった気もするけど、本人の自信の無さからそれも受け入れてた。
イッシーや爺さん、佐藤さんもそこまで気にしてないし、なんとなくそれが普通に思えてたけど、他の国の連中を見てると、僕達がおかしいだけなんだよね。
そう考えると、秀吉達ってどうなんだろう?
アイツがトップなのは間違いないけど、秀長とか石田、蜂須賀が二番手を争ってるのかな。
結構気になるところではある。
後方とは距離があった為、福島とアープは気に留めていなかったが、ベティの突然の介入。
それは二人だけでなく、タツザマにとっても予想外の展開だった。
「た、食べるって、魔族は人を食べるのか!?」
「バカ福島!直接的なそういう意味じゃない。もっと恐ろしい意味だろう」
「もっと恐ろしいとは?」
「バカ野郎!口に出せるか!」
福島を一喝するアープ。
その間にやられたタツザマの精鋭部隊は、後方と入れ替えが終わっていた。
「助かった、ベティ殿」
「別に礼を言われるほどじゃないわ。でも、これだけは言える。アナタ、負けてんじゃないわよ!」
「へ?」
突然胸ぐらを掴まれ、ベティに凄まれるタツザマ。
あまりの形相に、タツザマは素っ頓狂な声を上げる。
「相手は木下の配下よ。アタシはもう、二度と油断はしない。そしてあの男にも、負けるつもりは無い。ましてや配下に負けたとあっては、マッツンに申し訳ないわ」
「ま、マッツンに?」
ベティは異空間での生活で、マッツンへの信頼が爆上がりしていた。
タヌキの獣人に強者の雰囲気が感じられないタツザマは、それがとても気持ち悪く感じた。
「とにかく、死んでもあの二人を倒さないと。アタシ達の役目を果たすのよ」
ベティが福島に迫っていく。
日本号の刃は全て弾かれ、今は手元に無い。
慌てて呼び戻そうとする福島だが、ベティのスピードは尋常ではなく、喉元に双剣が迫っていた。
「っ!・・・死んでない?」
「アンタ、邪魔よ」
ドスの効いた低い声が、目の前から聞こえる。
福島は顔を上げると、ベティが銃弾を弾いていた。
すぐさま後ろに下がると、福島は日本号の穂先を再び発動させる。
「ジャパアァァン!!」
「うるさいわね!ベティよおぉぉぉん!!」
「福島、一旦下がるぞ」
アープのおかげで窮地を脱した福島は、ベティと距離を取る。
タツザマも怪我を応急処置してから、ベティの横へ並んだ。
「助かった。恩に切る」
「ホントよ。こんなに動いたから、お腹減っちゃったわ」
お腹を押さえるポーズをするベティ。
後からついてきた鳥人族達も、同様のようだ。
だが、後ろの鳥人族が何かを発見すると、全員の目の色が変わる。
「なるほどね」
「ベティ殿、何か弱点を発見したのか?」
「弱点?そんなものこんなに早く、見つかるわけないでしょ。アタシ達が見つけたのは、別のモノ」
後ろに下がる福島達を見て、ベティ達は口角を上げながら前傾姿勢を取る。
「アンタ達、自分で取った物は自分の物よ!」
後方から聞こえる歓声に、タツザマは違和感を覚える。
「取った物?」
「ちょっと隊を組み直しなさい。行くわよ!」
ベティはタツザマに、精鋭がやられて薄くなった部分を補強しろと言い残し、猛スピードで飛んでいった。
「アープ、何か来るぞ!」
目の前に迫ってくる集団。
それはタツザマ軍とは目の色が違う、ベティ達鳥人族だった。
「待て。奴等の狙いは俺達じゃない」
「上を通り過ぎていく?」
先頭を走っていた福島とアープは、後退時には殿へと変わってしまう。
その為自分達への追撃だと身構えた福島だったが、アープは彼等の狙いが自分達ではないとすぐに悟った。
「どうして分かったんだ?」
「見ている先が、俺の後方だったからさ。しかし、気になるな。血走ったような目をして、何が目的なんだ?」
アープも福島も、飛んでいった前方をあまり気にしてはいられない。
逆に窮地に陥った自分達を、タツザマが狙ってくると思っていたからだ。
「な、何だ?前方で戦闘が始まっている」
「俺達と同じように、兵を減らすのが目的か」
アープ達はタツザマの周りに居る、精鋭部隊を削る事が目的だった。
あわよくばタツザマも倒す。
だけど大将を狙わなくても、周囲から倒していけばそのうち丸裸になる。
アープの狙いは短期決戦ではなく、今後も見据えた長期的な考え方だった。
そしてアープは、ベティが同様の作戦を狙っているのだとばかり思っていた。
しかしそれは、全くの見当違いだと気付くのは、もっと後になる。
「良いわね?腰よ、腰にぶらついてる物を狙うのよ。股間じゃないから、間違えないでね」
ベティが注意を促しているが、周囲の連中は聞いていない。
当たり前だが、誰も股間なんか狙わないからだ。
「獲った!」
「こっちもだ!」
鳥人族達は攻撃をしつつ、狙いは福島軍の兵の腰にある物に集中している。
彼等はその袋を奪い取ると、サッと上空へ逃げていった。
「ダメだな。やっぱり味はしない」
「良いんだよ。糧食なんて所詮は腹を満たすだけの物。美味くないのが、相場なんだから」
彼等は袋から出した物を口にすると、また下を覗き込む。
弱そうな面子を見つけ出しては、同じように腰の袋を奪っていった。
そして鳥人族のトップであるベティも同じだが、彼は他の人とはちょっと違っていた。
「ふむ、なるほど。ベティィィィィ、ナイスガイ!」
ベティは福島兵に目を通していくと、標的を見定める。
「行くわよ!」
猛スピードで降りていくベティ。
ある兵の袋を右手で軽々と奪い取ると、彼は空いている左手で兵の股間を触っていく。
「はわっ!」
「ミドルね」
福島兵の間をすり抜けながら、奪った相手の耳元で囁いていくベティ。
次のターゲットに近付くと、さっきと同様に袋を奪ってから股間を触る。
「スモール!ハズレだわ」
「なっ!」
小さいと言われて、ショックを受ける福島兵。
ベティは更に次のターゲットへ近付いていく。
先頭を走る福島兵は、混乱していた。
命を奪われた者は少ない。
奪われた者は、抵抗をした強者だけ。
しかし抵抗しても弱い人物は、ほとんど相手にされずに自分達の糧食だけを奪われていた。
糧食が奪われても、一日くらいは戦える。
そして夜になれば、本陣に撤退して普通に食事は出来る。
その為福島とアープが居ない先頭集団は、このまま糧食を奪われても命令通り撤退するべきなのか。
それとも抵抗して戦うべきなのか。
相手の微妙な行動にどのような判断を下すべきなのか、迷っていた。
「どうしたものか・・・」
迷いながらも後退していると、なんと先頭に鳥人族の長であるベティが姿を見せる。
派手な格好をして、舌なめずりをするベティ。
先頭を任されていた福島兵は、死を覚悟する。
「ここは俺が時間を稼ぐ。お前達は先に進むんだ!」
男は槍を構えて、上空を見据える。
そこには怒りに顔を紅潮させた、ベティの姿があった。
「短い人生だったが、少しでも手傷を負わせてみせる!」
ベティが襲ってくるのを待ち受ける男。
目は離していないつもりだったが、気付けばベティの姿は無い。
「何処だ!」
「うわあぁぁぁ!!」
自分を追い越した兵達から、悲鳴が聞こえてくる。
しかし足が止まったような気配は無く、後退は続いているようだ。
「卑怯な!俺を差し置いて、他の兵から殺すだと!?」
「あら、私は殺した覚えは無いわよ?」
「戻ってきた?」
上空を見上げると、糧食を食べながら下を見ているベティを発見する。
何故自分の居る場所に、戻ってきたのか?
彼には理由がサッパリ分からなかった。
だがある意味では好都合。
自分が犠牲になって時間を稼げれば、仲間達の逃げる時間がそれだけ増えるという事だ。
「鳥人族の長、佐々成政!来い!」
「そんな名前で呼ばないで。ベティと呼んでちょうだい」
身体をくねらせて言ってくるベティに対し、男は背中から寒気を覚える。
身震いしていると、男は再びベティの姿を見失った。
だが、何か嫌な予感がする。
槍を上に突くと、下から声が聞こえた。
「遅いわよ」
「しまった!」
目を下にやると、そこには再び舌なめずりをしたベティの姿がある。
死んだ。
男がそう思った時には、腰の糧食が奪われていた。
そして次の瞬間、男はゾワゾワとしたモノが身体を駆け抜ける。
「あふっ!」
「なんですって!?」
ベティが驚愕した声を上げると、そこには既に彼の姿は無かった。
ベティは上空で、左手と男を交互に見ている。
「もう一度!」
男は次こそは見逃さないと目を見張ったが、やはりベティの姿を追う事は出来ない。
そして股間に走る嫌な感触を味わうと、ベティが上空に戻っているのが分かる。
「ちょっとアナタ!凄いわ。今までで一番よ」
「な、何が一番なんだ?」
「何って、ナニに決まってるでしょ!アタシが見定めた兵の中で、アナタが一番大きかった。そうね、アナタはアナコンダと呼んであげる」