マッツン達の処遇
人のフリ見て我がフリ直せ。
自重しないと同じ目に遭いそう・・・。
竹原は水嶋の爺さんとイッシーの二人による攻撃を胸に受けて、最期は再び死ぬ恐怖に怯えながら消えていった。
僕に勝ちたいという気持ちは、分からなくもない。
自分が強いとか、自慢してるわけじゃないよ?
ただ身近に居る人に、これだけは負けたくないとかあると思うんだよね。
僕の場合なら、兄にはスポーツ以外では負けたくないと思ってるし。
竹原の場合はそれが、僕だったんだろう。
素人だと馬鹿にしていた僕に、ほぼ完敗に近い形で負けたからね。
ただし能力が上がるくらいに、恨みながらアンデッドとして復活したのは、僕としても予想外だった。
強い気持ちがあれば、意志のあるアンデッドとして蘇るにしても、まさかそこまで悔しかったのかと思った。
それでイッシー達を撃退して喜びまくって、挙げ句の果てにやられるとか。
本当にやられたかは知らないんだけど、官兵衛が狙われていない辺り、また死んだんだろう。
ハッキリ言って、ちょっとダサいと思う。
自信家な発言をしておいて、気付いたら死んでるとか。
謙虚な人だったら、全く違う印象にはなったはずだよ。
でも僕が知ってる竹原は、完全に自信過剰な人間だった。
プロでもないのにプロゲーマーって名乗ってたり、それでいて僕に敗北するんだから。
自信があるのは悪い事じゃないし、相手に対して色々と言うのも、僕は好きじゃないけどアリだと思う。
格闘技や何の世界においても、トラッシュトークというのはあるものだしね。
ただし、それは終わってからラグビーでいうノーサイドの精神が無いと駄目だと思う。
誰彼構わず噛みついて、勝ったら更に貶すとか。
そんなの敵だけ増えるだけで、味方なんか居なくなるだけだ。
最初にも言ったけど、僕も竹原と同じような考えに陥る時がある。
特にマッツンやロックに対してだけど。
でもその二人が、今回は大きな鍵を握っていたりする。
やっぱりどんな人でも敬う精神というのは、持っていた方が良いと思った。
えーと、これは真面目な話として聞いた方が良いのだろうか?
僕の中では、だから?という気持ちの方が大きいのだが。
しかしマッツンを見る限り、かなりマジな目をしているんだよな。
「それはマッツンだけなの?」
「違う。カッちゃんやベティ、柴田のおっさんも同じだ」
むむ!?
そうなると話が変わってくる。
マッツン一人なら仕方ないねー、で流して終わるつもりだったのだが、囚われていた全員となるとね。
まず最初に考えられるのは、秀吉による能力。
もしくは、副作用的な何かだと思われる。
これが一番有力ではあるが、ただ微妙な点もある。
要は味覚障害に近い話だと思うんだけど、状態異常攻撃としてはとても弱い気がするんだよね。
例えばあの中に囚われていた人達全員に、麻痺や倦怠感みたいな状態にするというのなら、話は分かるんだよ。
そうなれば仮に今回のように脱出が出来たとしても、マトモに戦える状態ではないんだから。
しかしただの味覚障害に、何の効果があるのか?
狙いがあるなら分からんでもないけど、これはあまりにも弱い気がする。
そしてもう一つの可能性は、マッツンの能力だ。
何故そう思うのか?
理由は簡単。
マッツンの能力が全くの不明だからである。
ハッキリ言おう。
何千何万という人数分の食べ物や飲み物を、何も無い所から対価も無く出すというのは、あまりにも不自然だ。
だってそんな事が可能であれば、兵站なんか必要無いし、もっと言ってしまえば食糧難も無くなる。
そんなとんでもない能力に、何のリスクも無く使えるなんてあり得ないと、僕は思うんだよね。
だからマッツンが向こうでやってきた事の、何かしらの副作用なんじゃないか?
そう考えると、まだ納得出来るんだよね。
「うぅ、腹減った」
「酒飲んでばっかりで、食べてないんじゃないの?」
「違うわい!俺様は食って飲んで寝るがモットーだからな。だから飲んでる時も沢山食べる!」
自慢にならんわ!
でもおかしいな。
普通はビールみたいな炭酸飲料を飲めば、腹が逆に膨れるのに。
「魔王様、問題が発生しました。こちらにお願いします」
やって来たのは、後方を任せていたテンジである。
彼には異空間から出てきたばかりのゴブリンと鳥人族、そして妖怪達の世話をさせている。
その彼が慌ててやって来たという事は、マッツンが今言っていた事にも関係しているっぽいな。
僕はテンジに案内され、彼等が居る場所に向かった。
「な、何じゃこりゃ!?」
凄く異様な光景だ。
酒を飲んでも酔えないからか、馬鹿みたいに一気飲みしている。
その横では一気飲みにも目もくれず、ひたすら食べているゴブリンも居た。
「なんか皆、目が血走ってない?」
「食べても腹一杯にならないようです」
なぬ?
さっきマッツンも言っていたけど、彼等も同じなのか。
「それで、問題とは?」
「このペースで食べられると、我々の分がありません」
「ナニィ!?」
調理班は嘆いていた。
作っても作っても、すぐに新しい注文が入ってくる。
しかも見てみると、全然味わっている様子は無い。
とにかく腹に入れば良いような食べ方をされて、作り甲斐が全く無かった。
「というわけでして、調理班も疲労困憊。食料在庫も一晩で、三分の一が無くなりました」
テンジが言うには、この食料はかなり余裕があったらしい。
マッツン達が居ない想定だが、それでも一ヶ月は戦える量はあったという。
しかしマッツン達の復活で、彼等の分を含めると今や数日で無くなるという計算だった。
「ど、どうしますか?」
どうしますかと言われても・・・。
ゴブリンや鳥人族、妖怪が戻ってきたのはかなり大きい。
今や戦力だって、秀吉と五分以上だと思う。
むしろ勝っているんじゃないか?
だけどこのままなら、こちらの自滅で終わりかねない。
どうするべきか・・・。
【俺の考えだけど、コイツ等は別の場所に移動させるべきじゃないか?】
移動?
何処に?
今や安土は無いし、越前国だって遠い。
一番の問題は、彼等を受け入れるだけの食料に余裕がある場所なんて、無いと思うんだけど。
【あるだろ。戦場から離れてて、めっちゃ野菜とか作ってる国が】
「王国か!」
【その通り。戦闘には役に立ってないんだ。避難民扱いで一時預かってもらっても良いんじゃないか?】
なるほど。
それはアリかもしれない。
【受け入れ拒否をされたら、お手上げだけど】
それはさせない。
もし受け入れ出来ないとか言われたら、帝国と騎士王国から正式な形で、非難声明を発表してもらう。
ヨアヒムもオケツも、それくらいは簡単にしてくれるだろう。
【お前、酷い事考えるな】
秀吉に不当に囚われていた彼等だ。
心身共に衰弱して、特に食べ物に関して困窮しているとでも言えば良い。
それくらいなら王国にだって支援が出来るはずだし、出来ないと言えば国の沽券にも関わる。
フフフ、人道支援だよ。
【怖っ!】
「官兵衛を呼んでくれ。相談がある」
「オイラも魔王様の考えと同じですね」
官兵衛は僕のマッツンの能力による副作用という考えと、兄の言っていた王国に一時避難という考え、両方とも賛成してくれた。
ただし官兵衛は僕達の案をもう少しアレンジして、全員が王国へ向かうのではなく、戦力になる人だけをここに残すという提案をしてきた。
「精鋭を残すという事か」
「各自100人を選抜して、ゴブリンと鳥人族、妖怪合わせて300人だけ残ってもらえると、助かりますね」
「テンジ」
万の人数から300人。
これなら余裕があると思うんだけど。
テンジも計算し直した結果、二週間近くは補給無しでも戦えるという計算に至ったようだ。
「よし!代表としてゴブリンにはカッちゃん、鳥人族はベティ、妖怪は権六に選抜してもらおう」
「早々にやってもらいたいものです・・・」
テンジは心底そう思っているようで、嘆くように言ってくる。
一時間後、選抜はすぐに終わった。
選ばれた人以外は、今夜すぐに王国へ出発してもらう。
何故残っていても、本当に朝まで食べているという判断をしたからだ。
それに夜間に移動をしてもらえば、秀吉達にもこちらの人数が減ったという事を誤魔化せる。
もしまた人数で勝っていると気付かれたら、向こうがまた勢いに乗る可能性も否めない。
「またな、皆!この戦いが終わったら、また皆で飲もうぜ!」
「お前はまた死亡フラグを立てて」
マッツンが王国に向かう連中に、手を振っている。
というか、マッツンは一緒に行かないのか?
「マッツン、戦えるの?」
「おいおい、俺様があのネズ公と戦ったのを、見ていないのか?俺様だって戦えるんだぜ」
勿論忘れていない。
あの秀吉を、慌てさせた男だからね。
ただ問題は、またあの時のような力を、ちゃんと発揮出来るのかって話だ。
あの時はたまたま発動しましたという話なら、マッツンはただのお荷物である。
だが後から聞くと、カッちゃんが戦力として真面目に考えていると言われてしまい、否定出来なかった。
「ちゃんと働いてくれよ」
「働きたくない。だが酒で酔う為には、俺様が動かなくてはならないようだな。任せろ!」
酒で酔う為ではないんだけど・・・。
まあやる気になったところに、水を差すのもね。
「期待してるよ」
「という話のようです」
蜂須賀は秀吉に、見てきた事を報告する。
「それは好都合。やはり数は力だよ。ゴブリンというG並みにすぐ増える種族は、私としても厄介だと思っていたのだがね」
ゴブリンや鳥人族達が、王国に移動をする。
それは秀吉にとって、懸念していた事が解決したのと同意だった。
動きの鈍いアンデッドと言えど、数が多ければ脅威になる。
しかしそれと同等の数を持つ相手で、尚且つ動きもマトモであったなら?
劣勢に立つのはこちら側。
それを考慮した上で秀吉は、ゴブリン達を異空間へと閉じ込めたのだった。
「向こうの被害は?」
「水嶋という銃使いが負傷して、能力を使えなくなったとの事です」
「対してこちらは、スマジとゲーマーか。所詮はアンデッド。被害にも入らないな」
秀吉は被害は軽微だと吐き捨てると、ある男を呼び出す。
「お前、そろそろ働け」
「どうして私が?」
秀吉が睨みつけると、男はそっぽを向く。
だが蜂須賀がその視線の先に回り込むと、男は渋々従った。
「へいへい。でも今まで呼ばなかったのに、急にどうして?」
「簡単な話だ。向こうのガンマンが使い物にならなくなった。だったらこっちのガンマンに、働いてもらおうと思ってね」