対砦最後の作戦
武器が無くなった慶次に渡した物。
それは内蔵型の長槍だった。
能登村に居た頃は扱っていたものの、ブランクがある。
しかしそんな時の流れを感じさせない、そして今まで見た事の無い使い方をしていた。
その槍捌きを見た僕は、彼に新しい長槍を作る事を約束した。
佐藤さんと蘭丸を加えた前線は、敵の精鋭部隊を数多く倒していた。
その結果彼等は及び腰になり、半兵衛の策で大半の者達が投降した。
命の保証を約束した後、これで終わるかと思った。
しかし肝心のグレゴルが居ない。
そして最上階から、最後の敵であろうゴーレムが現れた。
何か機械的な物がゴーレムに着いている。
おそらく召喚された科学者によるものだと推測した。
そんなゴーレムだが、動きは速いが単純に殴打しかしてこない。
このゴーレム、なかなか面倒かも。
そんな事を思っていると、何処からか老人の声が聞こえた。
四階から降りて来い。
そんな挑発をしたら、降りられないと自分で言ってのけた。
なかなか頭のよろしくない男だなと思っていると、半兵衛は呆れたように言うのだった。
自分に支援魔法を掛けて降りれば良いと。
半兵衛のアドバイスは、僕でも思いついた。
そもそも支援魔法だと言っても、結局は強化魔法の一種だ。
自分に掛ける事だって出来る。
確かに元々の身体のスペックが低ければ、大幅に強くなる事はないだろう。
それでも、四階から三階に降りるくらいの強さは、どんなに弱くても強化すれば出来るはずだった。
「まさか、そんな事も思いつかなかった?」
「そんなわけないでしょう。それにアレだけ大きなゴーレムです。ゴーレムに手を貸して貰えば、簡単に降りられたはずですよ。仮にもですよ?この砦を任されていたなら、そんな事に気付かない馬鹿は居ないと思われます」
先程の会話から、挑発を繰り返した。
僕の考えをすぐに読み取った半兵衛は、すぐさま反応する。
その結果がこれだ。
「私の事を馬鹿だと!?この砦を任されたこの私を!天才の私の考えなど、愚かな連中には理解出来ないだけだ!」
顔を真っ赤にしながら、四階から降りてきた。
自分に支援魔法を掛けて、強化したようだ。
しかし仮にも頭が良いとしても、結局自白していたら馬鹿と変わらない。
とりあえずこの老人が、砦のトップだと分かった。
コイツを抑えたら、秀吉の場所は分かるだろう。
「なるほど。では、このゴーレムとあの爺さんを倒したら終わりですね」
「おのれ!謀ったな若造!」
自分で話し始めたのに、騙されたと語るグレゴル。
やっぱり頭が足りない。
「頭は悪いですが、魔法の腕は確かです。油断だけはなさらぬように」
小声で相手には聞こえないように注意してきた。
三本の指だったか。
その実力は如何程かな?
内蔵型の長槍では、軽く傷付ける事しか出来ない。
此方の強度がある組立式なら、行けるか?
思いきり上段から振りかぶった長槍を、ゴーレムの頭目掛けて叩きつけた。
「何だと!?」
その硬さに穂先は欠け、槍としては使い物にならなくなってしまった。
「馬鹿め!そんな柔な武器が、この試作型ゴーレムに通用すると思ったか!」
貰った槍が壊れたからか、又左の尻尾は項垂れている。
かなり気落ちしたと見られる。
「なかなか硬いね。だけど、これならどうだ!」
佐藤さんがステップを踏みながら、ゴーレムの懐へと潜り込んだ。
ミスリル製の手甲なら、たとえ鋼鉄製だとしても問題無い。
半円を描くようにジャブとストレート。
そしてフックをゴーレムの腹付近に打ち込む。
やはりミスリルは硬かった。
ゴーレムの一部を破壊したのだ。
「行ける!俺がトドメを刺してやるぜ!」
「甘いわ!」
次の瞬間、ゴーレムが光に包まれた。
薄い光の膜のような物が全体を覆い、ゴーレムの動きは一変した。
「速い!佐藤さん!」
振り回した腕を掻い潜ったが、避けた先に頭突きが待っていた。
咄嗟にガードをする事は出来たが、足元が地面にめり込む。
「ぐっ!重い・・・」
「まだ耐えるか。ならば、更に強化してみせよう」
ゴーレムを覆う光が強くなり、それと比例して力も増している。
佐藤さんは耐えきれず、地面に叩きつけられた。
「佐藤さん!」
少しだけ手が動いたが、どうやら意識は無い。
無意識に反応しただけだろう。
「佐藤殿!あの野郎、ブチ殺す!」
又左は佐藤さんがやられ、口調が元に戻った。
その勢いに任せて、壊れた槍で向かおうとする。
「待て!」
「止めてくださるな!」
「無闇に向かっていっても、勝てるものじゃないだろう?半兵衛の策に期待しよう」
半兵衛に丸投げしたけど、多分大丈夫だと思う。
駄目だったら、佐藤さん助けて一旦逃げればいいんだから。
「まずは佐藤殿を助けましょう」
前田兄弟がゴーレムを引き付けている間に、蘭丸が佐藤さんを此方へ連れてきた。
どうやら意識は失っているが、呼吸はしている。
ただ、気を失っただけのようだ。
「確か、頭にダメージを負ってイビキをしていると、脳に損傷があるとか聞いた事があるけど」
「大丈夫。そういうのは見受けられないよ」
「ハクトの回復魔法で、佐藤さんを助けられるか?」
「やってみる」
佐藤さんの容態はについては、ひとまず安心だと思う。
問題はこのゴーレムとグレゴルだな。
「何か良い案思い付いたか?」
「あるにはあるのですが、少し賭けになってしまいます」
その案はグレゴルの魔力が切れるまで粘り続ける事。
魔力が尽きれば、ゴーレムの速度も硬度も全て元に戻る。
そうすれば、佐藤さんのミスリル製の武器が通じたように、ゴーレムを破壊する事は可能だと言う。
ただし問題がある。
魔力がいつ尽きるのか分からない。
そして、その間に此方がやられるかもしれないという事だ。
「この賭けはむしろ分が悪いです。勝率三割も無いでしょう」
【三割は打率なら高い方だが、賭けとしては乗れない。皆を纏める者としては、そんな危険を冒しちゃ駄目だ】
そうだよね。
三割無いって言ってるし、危険の方が上回るのはちょっとね。
「他には何か無いのか?」
「グレゴルさえどうにかなれば・・・」
うーん。
アイツもこっちを警戒しているからな。
特にハクトの弓は、かなり警戒していた。
「あ!」
蘭丸がゴーレムに弾き飛ばされてきた。
殴られた傷痕だろう。
内出血した箇所が沢山見られる。
「クソッ!俺じゃまだ足手まといか・・・」
口の中を切ったのだろう。
血を吐きながら、悔しさを滲ませていた。
「後は俺がやる。あのふざけたゴーレム、絶対に壊してやる!」
振り返ると、回復魔法で意識を取り戻した佐藤さんが起き上がっていた。
「大きな怪我は?」
「多少は身体が軋むが、問題無い。絶対にぶっ壊す」
「その言葉、信じて良いですか?」
「当たり前だ!」
半兵衛の問いに怒りを露わにして答えた。
少し思案した後、彼は何かを決意したようだ。
「魔王様は流木を折った時のあの姿。どれくらいなれますか?」
「どれくらい?」
【もう残りの魔力、半分無いだろう?だったら数分が限界かな】
「数分が限界っぽい」
「なるほど。では魔王様とハクトさん。此処で全ての魔力を使ってもらいます」
全てと来たか!
最後だから出し惜しみするなって事だな。
「これが失敗したら、我々も撤退しなければなりません」
「阿久野くんが居れば大丈夫だろう」
「そうだね。マオくんがやってくれる」
「分かりました。最後の作戦です」
「このクソ人形が!」
「兄上!」
流石に体力の限界か。
又左はとうとうゴーレムの振り回す腕に被弾した。
壁まで吹き飛ばされ、頭から血を流している。
「慶次。お前の武器では無理だ。守備に徹しろ!」
壁にめり込みながらも、弟の心配をする又左。
身体は言う事を聞かない。
最早これまでか。
そう思った矢先、自分の目の前を颯爽と走る男が居た。
「前田殿は寝ていてくれ。俺が代わりに倒してやるよ。そしたら俺の方が強いって事で良いよな?」
「それは看過出来ませんな。俺はまだ佐藤殿にも負けてない!」
立ち上がる又左。
既に足はガクガクして、まともに立っていられなかった。
「言う事を聞かんか!」
自分の太腿を石突きで叩き、その震えを無理矢理止める。
それを確認した又左は、再び前へと向かった。
「魔王様の一番槍。前田又左衛門利家、参る!」
「この作戦は拍子を合わせる事が大事です」
「拍子って何だ?」
(拍子はタイミングって事だと思う)
なるほど。
タイミングを合わせないと駄目だって事ね。
「まず魔王様は、グレゴルが此方から視線を外した隙を狙ってもらいます。外しても良いですが、必ず支援魔法を途切れさせてください」
「分かった」
「そしてハクト殿と佐藤殿。お二人には、ゴーレムの破壊をお願いします」
「俺達二人で?」
「佐藤殿はこの中で唯一、ミスリル製の武器を携えております。他の方より強力な攻撃が与えられます。ただし、それでもグレゴルの支援魔法が邪魔で、倒しきれないでしょう。そこでハクト殿の出番です」
「僕の出番?」
ハクトは自分がまさか大仕事の一端を担うとは、思っていなかったらしい。
かなりおどおどしている。
「ハクト殿には佐藤殿に、支援魔法を掛けていただきます。それも攻撃のみに特化したものを」
「剛力で良いのかな?」
「ハイ。それをタイミング良く、全ての魔力を込めてお願いします。此方が佐藤殿に剛力を使用したのがバレれば、グレゴルも更に強化するでしょう。だから魔王様」
「俺があのジジイの気を引いて、その間にハクトが佐藤さんに支援魔法を掛ける。そして佐藤さんが、ゴーレムに一撃を加えて破壊するって事だな?」
「その通りです」
確かにこの作戦は難しい。
自分一人でやるのではなく、誰かと合わせないといけないのだから。
「先程も言った通り、この作戦は拍子が大事になります。私が指示をした後だと、遅れる可能性もあるはずです。だから、各々でその拍子を考えてください」
「僕が考える!?そんなの無理だよ!」
「ハクトくん。俺を信じろ!自分に自信が無くても、俺を信じる事は出来るだろう?」
「佐藤さんを信じる・・・」
ハクトは弱音を吐き、自分の自信の無さを大きく露呈した。
佐藤さんは信じろと言っているが、他人を信用するなんて簡単に出来るものじゃないんだよ。
「ハクト!お前は又左との特訓で何を学んだ?」
「何って、長距離走とウサギ飛び?」
「それだけじゃない。お前はあの脳筋又左に鍛えてもらったんだ。そしてやり遂げた!」
「やり遂げた・・・」
「いいか?自分が出来ないと思っていても良い。でもお前は、他人から任せられた事は必ず成し遂げる男だ。ラーメン作りも又左の特訓も、他人から言われた事はやり遂げているんだよ。だから先に言っておく。お前は佐藤さんに合わせて、支援魔法を唱えろ!」
強く言うと萎縮する人もいる。
だけどコイツは、そんな柔なタマじゃない。
いつだって言えば、それに応えてくれるんだから。
「流石は親友。分かっているね」
「茶化さないでくださいよ。でもコイツはヘタレじゃないですから。必ずやってくれます」
佐藤さんの言葉に、緊張も解れた。
ハクトの顔も少し余裕が出てきている。
「ハクトくん。俺は最初左拳だけで牽制する。そしてあの光の膜が弱くなったら、右拳を思い切り叩きつけるから。右拳を使う時、それがキミの魔法を使うタイミングだ」
「タイミング・・・。それが僕の拍子ですね!」
「よし。これで行けるな」
ハクトの覚悟も決まった。
前田兄弟も既に限界だ。
又左に至っては、立っているだけでキツイだろう。
急がないとマズイかもな。
「焦りは禁物!だけど、急いでください」
「心はホット、頭はクールってヤツだっけ?言われたの初めてだけど」
「そんな感じです。後はよろしくお願いします!」
「よっしゃ!体育会系の男共の根性、見せてやるぜ!」