イッシーと水嶋
居たな、そんな自意識過剰くん。
僕は官兵衛に言われて、なんとなくその相手を思い出した。
だけど思い出したのは顔だけで、名前はサッパリ忘れていたよ。
自称プロゲーマーの竹原。
しかし僕の前に、無惨に敗北したんだっけ。
こう言うと嫌われるかもしれないけど、覚えていないのには理由がある。
だって、あんまり強くなかったんだもの。
オンラインでもゲームセンターで対戦するにしても、ある程度強い人や特徴がある人は、覚えているものである。
例えばCPUとの対戦で使うならまだしも、対人戦ではあまり使われないキャラが居たとする。
そんなキャラを使い本当に強い人と対戦をすれば、それは記憶に残るものである。
でも主人公やそのライバルでカッコイイキャラというのは、基本的に人気がある。
そんなキャラを使ってこられても、本当に強くなければ覚えていない。
竹原はそれに、当てはまる人だった。
彼の場合、この言葉が当てはまると思う。
井の中の蛙だ。
日本ではゲームの腕前が並だったとしても、この世界では違う。
だって格闘ゲームなんて無いし、言ってしまえばビデオゲームの概念すら無いんだから。
例えるならオンライン対戦が出来ない国に行って、イキリ倒しているような感じかな。
やっぱりオンライン対戦が出来るようになってから、対戦ゲームというのはとてつもない勢いでレベルが上がったと思う。
それは何のゲームでも言える事で、インターネット環境が整っていない国はちょっとレベルが劣っているように感じる。
竹原はそれをこの世界でやって、調子に乗っていた人物だと言えるだろう。
特にムッちゃんみたいな超絶下手くそを相手にしてたら、そりゃ調子に乗るかもしれない。
ただ気になるのは、またムッちゃん狙いかと思っていたんだけど、そうでもなさそうという点である。
体力が無限回復するようなチートキャラを諦めるとは。
自分で言ってて思ったけど、体力がすぐに回復する格闘ゲームって、トレーニングモード以外ではあり得ないんだよね。
ムッちゃんってそれを考えると、チートじゃなくてバグキャラと言っても良いのかもしれない。
M博士は無表情の裏側で、コイツは何を言ってるんだという面倒そうな顔を隠した。
それに気付かない竹原は、得意顔で博士に説明をする。
「今の見てたでしょ?相手のスナイパーを俺が倒したんだよ」
「あの老人か?」
「そう。あの人の能力は、狙った所に必ず飛んでいくっていうチート能力だから。それを倒した俺凄くない!?」
「わー、凄い凄い」
感情を全く込めずに言う博士だが、気分が良い竹原はそれを真に受ける。
「まあね。だから言ったでしょ。俺はFPSの方が得意だって」
「でもお前、色々なアンデッドを操って、アンデッドの身体ごと撃ち抜いてるけど。それはチートとか言わないのか?」
「フレンドリーファイアの事?良いんだよ!コイツ等に、ダメージなんか無いんだから。ダメージどころか意志も無いから、ゲームも簡単に勝てる。だからいろんな奴が操れるんだがな」
アンデッドを後ろから撃つ竹原。
腹を撃っても普通に歩いているアンデッドに、竹原は蔑むような視線を送る。
だがM博士は、こう思った。
アンデッドにダメージが無いって、それは負けても認めないという意味で、自虐で言っているのかと。
「でもお前、どうしてアンデッドなのに、そんな強い意志を持っているんだ?」
普通はアンデッドでも、ただただ動き回るだけになるか、もしくは意志を取り戻しても、その力は衰えてしまう方が多い。
しかし竹原の場合は、逆に操るという意味では能力が上がっていると言える。
一人しか操れないはずが、複数人を操る能力へとバージョンアップしていた。
それを聞いた竹原は、凄く嫌そうな顔で渋々答え始める。
「ムカつくが、やっぱりアイツに負けたままが嫌だったんだよ。俺が手を抜いたからたまたま勝てたくせに、それをさも自分が強いからみたいな言い方しやがって!」
「・・・それは魔王の事か?」
「あぁそうだよ!俺はアイツに手を抜いて負けた。だから俺は、本当に得意な事で勝ってやるんだ!」
「負け惜しみもここまで来ると、尊敬するな」
「あ?」
「何でもない」
博士のボソッと言った独り言に、反応する竹原。
しかし彼は知らなかった。
魔王はFPSゲームには、手を出していない事を。
「ところで官兵衛。竹原は一人しか操れないはずだけど。どうやって操ってるんだろう?」
「分かりませんが、おそらく一人しか操れないのは間違いないでしょう。その代わり、操れる相手を選択出来るようになったと思われます」
「なるほど。だから撃った後に、別の場所からまた撃てるのか」
「仕組みは分かりませんけど」
操作出来る相手を選択出来る。
撃ったら狙撃ポイントがバレる。
狙撃ポイントというのは、一度撃ったら必殺でない限りは移動するのが定石だと聞く。
避けられたら今度は、自分が狙われるからだ。
だけど自分じゃないなら、バレたらすぐに違うキャラに変更すれば良い。
撃たれても死なないし、当たっても痛くないので喚かないなら居場所もそうそうバレない。
それに今は遠くからの狙撃に集中しているけど、接近されたら今度は格闘に特化した奴に切り替えれば良い。
ムッちゃんみたいなとんでもないパワーは無くても、無茶な動きは出来るはず。
それこそ無茶苦茶な動きをして壊れたとしても、また違うアンデッドに変更すれば良いだけだからね。
壊れても代えが利く。
まさにゲームと同じである。
「爺さん達、勝てるかな?」
「・・・難しいでしょうね」
官兵衛は勝てないと言い切らない代わりに、難しいと答えた。
だけど僕も馬鹿じゃない。
勝てないという事は分かっている。
だって現状では、操っている竹原の位置が分からないんだから。
元凶である奴を見つけ出さない限り、キャラ変更という名のアンデッド変更をされ続けるだけで、一向に敵は減らないからだ。
「一旦退かせよう」
「そうですね。え!?」
「どうした?」
「水嶋殿が回復薬を使用した後、イッシー殿とオケツ殿を巻き込んで、再び敵陣へ入っていきました・・・」
「自殺行為だろ!」
官兵衛に言っても仕方ないけど、無茶過ぎる。
要は敵を突っ切って、大坂城に居る竹原へ向かって行こうって考えだろう。
イッシーが入っていったせいで、イッシー隊も同様に再び中央軍の中へ入っていったし。
「このままだと作戦が・・・」
「ね、練り直します」
官兵衛は爺さんの独断に、頭を抱えていた。
「い、良いの?私、知りませんよ!?」
「俺だって同じ気持ちだよ!」
水嶋の護衛として一緒に後部座席に座るオケツは、運転をしているイッシーに確認をする。
するとイッシーもヤケ気味に、アクセルを回しながら答えた。
「アイツだ。死ね!」
水嶋は戦場に居る銃持ちの敵を見つけては、ひたすら頭に向かってショットガンを放っている。
頭が破裂すれば、アンデッドといえど動けない。
彼は敵の狙いが分からないまでも、とりあえず八つ当たり気味にアンデッドを撃ちまくっていた。
「こんな事をしても、無駄じゃない?」
「そうですよ!だって操ってる人が、ここには居ないんですから」
「だったら操ってる奴の所へ行け」
「それが分かったら、苦労はしないっての!」
イッシーが怒り気味に言うと、オケツが弾を弾き返す。
やはり死角から飛んでくる銃弾に、水嶋は反応出来ていない。
「騎士王、お前はどうやってそれに反応している?」
「え?そりゃ、嫌な感覚というか。なんとなく?」
「勘か。役に立たない」
「ちょっと!?」
せっかく答えたのに、何故か馬鹿にされるオケツ。
イッシーは仮面の下で笑うと、オケツから鞘で後ろから突かれた。
「や、やめろよ。運転中は危ないから」
「っ!?マズイ!急ブレーキ!」
オケツの大きな声に反応して、急ブレーキをかけるイッシー。
しかしほんの少しだけ遅かった。
上空から降ってきた爆弾の衝撃が、トライクを横転させる。
「ぐはっ!」
「老公!」
イッシーと水嶋はそのまま地面に転がると、水嶋の腹に再び銃弾が命中する。
イッシーはすぐに盾でガードした為、致命傷にはならなかった。
「爺さん!出血が酷いな」
「動脈から出血してるんでしょう。回復薬は?」
「今は無い。お前達を乗せる為に、仲間に武器と一緒に預けてしまっている」
そういえば色々と下ろしていた。
オケツはそれを思い出すと、水嶋の顔色が悪くなっていくのに気付く。
「撤退です」
「爺さんの命が優先だな。トライクを起こすのを、手伝ってくれ」
イッシーとオケツは、二人がかりでトライクを起こした。
オケツが水嶋に肩を貸すと、彼はトライクに乗り込むのを拒否し始める。
「何をしてるんです!?早く乗って下さい。じゃないとまた攻撃されますよ」
「な、ナメるなよ。俺は戦場で生き抜いてきた男だ。敵に背を向けてまで、生きていたいとは思わん!」
「爺さん、言う事を聞いてくれ!」
「貴様等には、大和魂というものが無いのか!?」
爺さんが叫ぶと、その直後に吐血する。
事態は一刻を争うと分かったイッシーは、トライクから降りた。
「爺さん、最後だ。最後の一発だけ、俺も手伝ってやる。しかし、アンタが最後に込めた一発を撃ったら、俺達はすぐに撤退するぞ」
「ふざけるな!だったら俺を置いていけ」
「ふざけてるのはアンタだ!俺は仲間の命も背負っている。イッシー隊に無駄な血は流させないし、アンタも同じくここで死なせるつもりは無い」
「老公、これは騎士王として命令です。私は魔王様から、貴方を守るように仰せつかっている。私も、貴方を無理矢理連れて帰りますよ」
無理矢理連れて帰る。
怪我をしている今、抵抗しても敵わないと悟った水嶋は、二人の言う通りにする事にした。
「仕方ない。うっ!」
「爺さん、手伝うって言っただろ?」
「て、手伝うなら、お前の本気も見せてみろ!」
「本気?・・・チッ!俺も回復薬を使わないと駄目かよ」
イッシーは自分の手を、水嶋の手の上に置く。
すると一気に集中力を増して、何かを見据えた。
「な、何だ?この感覚は?」
「お、俺にも何だか?」
水嶋とイッシーは、二人とも戸惑うような声を上げる。
それもそのはず。
二人は同じ感覚を共有していたからだ。
「どうしたんですか?」
「幻ではないのか?」
「多分違うと思う。でも爺さん、アンタも見えてるんだよな?」
「あぁ、多分同じ光景だろうな」
二人にしか分からない会話をされて、オケツは不満そうにもう一度尋ねる。
「何を見てるのか、私にも教えて下さいよ!」
「爺さん」
「どういう仕組みか分からんが、今俺達は敵の姿が見えている。はるか遠くの、大坂城内に居る奴だ。コイツが操作をしているのは、間違いないと思う」