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サネドゥとスマジ

 今回ばかりは、感謝の言葉しかない。


 権六とベティ、そしてマッツンの三人は、各々の部下や仲間を引き連れて、とうとう僕達の所へと戻ってきた。

 ちょっと意外だったのは、自力で戻ってきたという点である。

 そもそもどうやって、脱出に成功したのか?

 凄いのは本人が、それを分かっていないという事だ。

 自覚無しに何かをしたと思うのだが、それが何なのか、話を聞いても僕にも官兵衛にも分からなかった。

 おそらくはマッツンの能力に関係しているという話だが、これは本人ですらどのような能力なのか分かっていない為、どのように調べれば良いのかも分からない。


 しかしマッツンも怖いもの知らずというか。

 自分が理解していない能力を、よくもまあ使う気になるものだ。

 理解していないというのは、とても危険な事だ。

 自分がどれだけの能力があるのか、分からなければ大怪我をしかねない。

 例えば階段を降りる時、何段まで飛ばして降りられるか。

 一段や二段飛ばすくらい、ほとんどの人は出来ると思う。

 だけど三段は、ちょっと恐怖心が出てくる。

 四段以降は、人それぞれだろう。

 自分が怖いと思う、四段や五段を階段で飛ぼうとする。

 もしかしたら成功するかもしれない。

 でも恐怖心が付き纏う中、成功する方が稀なのだ。

 そして失敗をすれば、階段から転げ落ちて大怪我をする。

 下手をすれば骨折、最悪の場合歩けなくなるかもしれない。

 自分が出来る範囲を理解していないと、どのように返ってくるのか分からないのだ。


 マッツンはそんなワケの分からない能力を、平然と使いまくっている。

 そして今回ばかりは、それのおかげで皆が助かったと言わざるを得ない。

 ありがたいと思う反面、反動が怖い。

 マッツンにもしもの事があれば、今回助かった面々は、皆が自責の念を感じかねないからね。

 願わくば、今まで通りの馬鹿であってほしいな。








 まさか三人とも、マッツンの提案に乗るとは。

 カッちゃんは分かるよ。

 徳川家康の一番槍とも呼べる、本多忠勝なんだから。

 でも権六とベティは別じゃない?

 史実では信長の配下時代は、そこまで仲は悪くなかった。

 石山合戦と呼ばれる石山本願寺との戦いでは、家康と柴田勝家は一緒に戦ったりしている。

 ただその後、信長の死後は後継者争いで反目して、二人は敵同士になっている。

 ベティというか佐々成政も、徳川家康には小牧長久手の戦いで半分裏切られたような形を取られている。

 言ってしまえば、二人とも徳川家康とはあんまり仲がよろしくないはずなんだけど。

 ただしそれは、二人とも信長の死後の話。

 僕が信長と同じような役割を果たしていると考えると、これはあり得る話なのかな?



「今中央は、イッシー達と太田ゴリアテ、それとサネドゥがごちゃごちゃに戦ってるから。混戦している中で魔物を中央に入らせると、かなり面倒かもしれない」


「だったら私が、中央に合流しましょう。外からやって来る魔物は、排除します」


「へ?」


 権六が名乗り出ると、マッツンはちょっと渋い顔をする。

 コイツ、妖怪を戦力として考えてやがったな。



「大丈夫よ。アタシはマッツンと行くわ」


「た、頼りにしてるから!」


 意外とベティは、マッツンを信頼してるんだな。

 小牧長久手の戦いでは家康側についてたし、マッツンが裏切らなければ本来は仲が良かったのかもしれない。

 が、それも一瞬の出来事だった。



「ベティ殿!すまんが手伝ってくれ。戦闘機がやって来る。ワイバーン隊だけでは、対応しきれないかもしれん」


「トキドちゃん!?」


 空から声を掛けてきたのは、遊撃隊を任されているトキドだった。

 偵察部隊によると、大坂城の方から爆撃機及び多数の戦闘機が向かってきているとの事だった。

 自分達だけで対応出来るか心配だったトキドは、タツザマではなく、突然現れたベティを頼る事にした。



「えっと、ベティちゃん?」


「ゴメンねぇ、マッツン。やっぱりアタシも行けないわ。空はアタシ達に任せてちょうだい」


「やっぱり!?」


 マッツンは頭を掻きむしる。

 これだけの大軍なら、余裕で秀長を見つけられると思っていた。

 特に空から探せるベティにはかなり期待していたのだが、気付けば自分の周りには、いつものゴブリンだけになってしまった。



「じゃあマッツン、頼んだよ!」


「ちょ、ちょっと!何処へ行く!?」


「城に戻るんだよ。秀長をよろしくぅ!」


「おーい!」


 マッツンが何かを言っている。

 薄情だとか嘘吐きとか、何も聞こえない。

 僕は颯爽と、江戸城へと戻った。









「何処だ!何処に居る、サネドゥ!」


 執念と言うべきなのか。

 左軍を任されていたイッシー隊を振り切ったスマジ隊は、中央へと流れると、横からオーガとミノタウロスへの攻撃を開始した。

 しかし彼等の狙いは、オーガでもミノタウロスでもない。

 秀吉から知らされたサネドゥの位置が、たまたま中央軍だっただけだった。



「そこまでだ。それ以上は進ませない」


 スマジの怒涛の進撃を阻む者。

 それは標的としていたサネドゥだった。

 スマジは不気味に笑みを浮かべると、高笑いを始める。



「ハーハッハッハ!そうかよ。そうやってハッシマー殿を裏切って、オケツの懐へ潜り込んだのか」


「何も知らない奴が、ふざけた事を言うな!裏切ったと言うのなら、向こうが先だ!」


「別に裏切りに関しては、咎めはしないさ。ただこれだけは言いたい。のうのうと生き延びて、成功を掴んでいる貴様が憎い!」


 スマジはそう言い捨てると、早々にサネドゥへ斬り込む。

 だがサネドゥの鎧はとてつもなく硬く、スマジの剣を難無く弾いている。



「無駄だよ。お前の太刀は、この鎧を傷付ける程強くはない」


「そうかい。他にもやりようはある。宿れ、黒犬!」


 スマジはケモノを宿すと、途端に納刀する。

 不思議に思ったサネドゥだが、剣を納めたからといって手を緩める必要は無い。

 彼はスマジに向かって、左拳を連続で突いた。

 だがスマジは、それを軽々と避けてみせる。



「ハッハッハ。無駄だよ。お前の拳は、私を傷付ける程強くはない」


「貴様!」


 ものの数分前に自分が言ったセリフを、そのまま返されたサネドゥ。

 顔を真っ赤にして怒りを見せるが、再び避けられた事で次第に冷静になっていく。



 サネドゥは佐藤に、拳による戦い方を教わっていた。

 インファイターとアウトボクサーでは使い方は違うが、基本となるジャブの打ち方などは同じである。

 その為サネドゥの左ジャブは、今までの比ではないくらいに速くなっていた。

 それは初見で避けられる程遅くはなく、サネドゥは何かカラクリがあると冷静さを取り戻したのだった。



「ならば、これはどうだ?」


 今度は左と右のコンビネーションを使うサネドゥ。

 左ジャブばかり打てば、右へと避けられるだけ。

 しかし右でもパンチを打てば、逃げる方向を限定出来る。


 しかも今は、中央軍の中に入り込み、狭い中での乱戦状態にある。

 逃げ場が少ない場所での戦いは、サネドゥにとって好都合だった。

 だが、サネドゥの予想は大きく裏切られた。



「反撃!?」


 スマジはサネドゥの攻撃を掻い潜ると、持っていた脇差でサネドゥを攻撃する。

 すると今までとは違い、サネドゥの鎧には大きな傷が付いた。



「何故!」


「相手の力を利用する。カウンターと呼ぶらしいが、知らないようだな」


「っ!」


 スマジの言葉に大きく動揺するサネドゥは、顔に出る。

 スマジはその表情から、サネドゥが何か知っている事を悟った。



「なるほど。お前にも近接格闘に長けた人物が、近くに居るな?」


 スマジは、サネドゥの拳が届く範囲へと入っていく。

 サネドゥは左右の拳を繰り出すが、それを容易に避けられると、何度も脇差で斬りつけられた。

 金色の鎧に多くの傷が付くと、サネドゥは佐藤のある言葉を思い出す。



『サネドゥさん、インファイターの一撃は、一発で敵を倒せる威力もある。でもアウトボクサーには、その力を利用して倒してくる人も居るからね』



 現にサネドゥは、佐藤の拳を何度も顔面に食らい、記憶が何度も飛んでいた。

 あんな技術は、異世界から召喚された佐藤しか持っていないと思っていた。

 だが目の前には、それと同様の力を持つ男が居る。


 それもそのはず。

 スマジのケモノである黒犬は、大きな力は無い。

 その能力は危機察知という、微妙とも言うべきものだった。

 しかしながら、それは使い方次第でとても強力な力にもなる。

 そして黒犬の能力は、カウンターというサネドゥにとっては天敵のような相手へと、昇華されたのだった。



「くっ!」


 拳を出せば、相手に倍にして返される。

 サネドゥは手を出すのを止めた。



「ハッハッハ。情けないな、サネドゥよ。戦意を失ったのか?」


 何度も叩きつけるように斬られるサネドゥ。

 だがスマジの方も、余裕は無かった。



「チッ!硬い鎧だ」


 脇差の刃がボロボロになると、それをサネドゥへと投げつける。

 周りのアンデッドが持っている脇差を奪うと、再び同じように攻撃を始める。



「武器ならいくらでもある。どれだけ硬くても、このように傷を付ける術はあるからな。ほら、手を出してみろよ」


 顔を前に突き出すスマジに対し、サネドゥは怒りの右拳を振るう。

 本人もそれが挑発だと理解しつつ、その攻撃も倍にして返された。



 そして、とうとう無敵の防御力を誇っていた金色の鎧に、ヒビが入る。

 それを見たスマジは冷笑する。



「ハッ!そのような力しか無い人間が、生き残るのかよ」


「戦いとは運も必要なんだよ」


「運だけで生き残った奴が!」


「貴様!」


 サネドゥはキレた。

 自分が生き残ったのは、弟による助けがあったからである。

 弟の命と引き換えに生き残った自分を、運だけだと嘲笑された。

 サネドゥが渾身の右ストレートを入れようとすると、スマジはそれに合わせて攻撃をしようとする。

 だがスマジは、その瞬間に後ろへと飛び退いた。



「どうした!それだけ言っておいて、逃げるのかよ!」


「うるさい!今はそれどころではない」


 スマジの様子がおかしい。

 今までとは違い、汗が急激に流れている。

 辺りを見回すスマジに、サネドゥも様子を伺う。

 すると今まで気付かなかったが、何かが近くで戦闘をしている音が耳に入った。

 それが近付いてくると、二人はそちらの方を気にしながらお互いを牽制する。

 お互いが少し動くとそれに反応したが、どちらにしろそれが本気ではないというのは、二人とも理解していた。

 意味の無い牽制を止めると、それは目の前に現れた。



「あら?もしかして戦ってたかな?陽動をやれって言われたんだけど、俺何をすれば良いか分からないから、戦いが激しい所に来たんだよね。邪魔しちゃったら、ゴメンね。すぐに向こうに行くから」








「タケシ殿?そうか、そうだったな。そういう戦い方もある。ありがとう、タケシ殿!」

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