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光から出てきたモノ

 突然現れたんじゃなく、突然移動したように錯覚しているのか。

 なるほどね。


 混戦になった左軍と中央軍だが、残された右軍の前にも敵が現れていた。

 タツザマ達の前に、突如現れた鉄砲隊。

 タツザマも何故気付かなかったのかと憤っていたけど、アレは無理だね。

 だってタツザマ達の視点だと、本当に突然現れたようにしか見えないもの。

 でも僕達が居る江戸城の最上階から見ると、何が起きたのかハッキリと分かった。

 アレは突然現れたんじゃない。

 突然移動してきたんだ。


 え?

 意味が同じじゃないかって?

 同じと言えば同じだけど、違うと言えば違う。

 何が違うかと言われたら、それは移動距離かな。

 例えば瞬間移動と聞くと、はるか遠くから移動してきたように思える。

 それこそブラジルから、地球の反対側である日本に移動してくるみたいな感じかな。

 だけど彼等は、せいぜい数百メートルといったところだろう。

 ただしその数百メートルを、何百人という数が一斉に動いてきたのだ。

 まるで一つの部隊を、丸ごと移動させているような感覚。


 ここからは推測だけど、僕と官兵衛の中では、アレは石田の仕業じゃないかという事でまとまった。

 彼は空間を拡大したり縮小して、操る能力を持っている。

 だから僕達は、こうではないかと考えた。

 一人一人を移動させたのではなく、部隊の前にある空間を縮小させたのではないか?

 縮小させた事により、今留まっていた場所から突然現れたように感じたんじゃないのか?

 音も無く現れたのは、彼等達が移動したわけじゃないから。

 その場に居たら、勝手に移動していたみたいな。

 動く歩道で立っているのと、同じようなものか?


 改めて考えると、かなり危険な能力だと思う。

 無音で空間を弄られるのだ。

 ピンチになれば遠ざかり、チャンスと見れば自動的に近付く。

 石田のさじ加減次第で、どうとでもなるという事だ。

 長い間、勝てると思うまで行動を起こさなかった秀吉。

 こんな能力者が仲間に居るなら、そりゃ裏切りもするよね。

 こりゃ面倒な相手だ。








 ぬあぁぁぁぁ!?

 なんだコイツ等!

 どうして突然現れた?



「あの黒い塊を通り抜けてきたみたいですね」


「アレか!」


 混戦ばかり気にしていたせいで、見落としていた。

 秀吉も大坂城で暗躍しているみたいだな。



 ちなみに魔物は、江戸城方面にも向かってきている。

 お市はすぐに指示を出して、ハクト達バンドを守る為に妖怪を前方へと移動させていた。



「うん?コレ、お館様が使った戦術じゃないか?」


「ボブハガーが?どういう意味?」


 オケツはコレに近いやり方を、つい最近体験したらしい。

 それはボブハガーが捕らえた魔物を、空腹にして解き放ちオケツ達を襲わせるという作戦だった。

 今回はそれをアレンジして、黒い塊から魔物を登場させているみたいだ。



「でも少し違和感がありますね。魔物が痩せ細っていないという点かな?」


 望遠鏡を覗きながら、答えるオケツ。

 前回は空腹の魔物だったからか、目は血走っていたものの、体力が無かったから攻撃が軽かったと言う。

 だがコイツ等の攻撃は重そうだ。

 しかしそうなると、どうやって襲わせているんだ?



【うーん。俺、なんか見覚えがある気がするんだけど。俺達もコレと、近い事をされたような?】


 僕達も?

 そんな記憶無いなぁ。



『いや、あるぞ。魔王の記憶には、ハッキリと残されている。山下という名だ』


 あらやだ!

 人の記憶を勝手に覗いちゃって。

 でも山下だったか!

 そうか、山下かぁ。

 ・・・誰だよ!



【俺も記憶に無い。どうしてだろう?名前からして、召喚者な気がするけど】


『当然だろうな。我もこの記憶を見て、少ない感情が揺らいだぞ。此奴を忘れるのも、無理はない』


【どういう事?】


『此奴の死に方が異常なのだ。此奴はな、ドラゴンに食われて死んだ。お前達によって、エクスと名付けられたドラゴンに、食われたのだ』



「あぁ!居たな、そんな奴!」


「ビックリした!急に大きな声出さないで下さいよ」


「ゴメンゴメン」


 長谷部から怒られてしまった。

 この最上階にも、急な攻撃が来るかもしれない。

 そう考えると、官兵衛の護衛をしている長谷部は気を張っているんだろう。



【俺も思い出したよ。そういえば帝国の召喚者に、そんな奴居たな。直後のエクスの登場の仕方にインパクトがあり過ぎて、全部そっちに持っていかれたんだわ】


 そうだね。

 僕もそれしか思い出せなかった。



『その山下某が、魔物を操る能力を持っていたと、お前の記憶にある。おそらくだが、その山下某をアンデッドにして、魔物を操っているのではないか?』


 なるほどね。

 納得だよ。



「官兵衛は気付いてた?」


「そうですね。エクス様の記憶が大きくて、思い出すのに時間が掛かりましたが」


 やっぱり官兵衛も引きずられていたか。



 しかし問題は、この魔物がいったいどれだけ出てくるのか?



「マズイぞ。お市殿、後ろにも黒い塊が現れた」


「手が足らん!予備隊を回してくれ」


 この魔物、ただ単に突っ込んでくるだけじゃない。

 頭を使ってきており、野性とは思えないくらい連携も上手い。

 そのせいか妖怪達も、かなり手こずっている。

 だいだらぼっちは味方に被害を与えないように、大きくは動けないし。

 妖怪は前方で手一杯なので、後方はドワーフと妖精族に託すしかない。



「初日だというのに、もう予備隊を出す羽目になるとは」


「仕方ありません。やはりこちらの数が、圧倒的に少ないですから・・・」


 官兵衛も見誤っていた。

 雑兵だと思われたアンデッドの数が、想定の倍以上居る。

 そして更に雑兵だと思われる魔物が、まだまだ増え続けているという点だ。

 このままだと、石田達主力を出させる間も無く敗北してしまう。



「仕方ない。僕も参戦する!」


 僕は人形の姿になり、江戸城から飛び降りようと足を掛ける。

 足を変形させて空を飛ぼうとした矢先、オケツが異変に気付く。



「ま、待って下さい!何か前方の黒い塊の様子がおかしいです」








「流石は秀吉様!」


「魔物はまだまだ残っている。奴等を使って、初日で江戸城を陥落させる!」


 秀吉は手に力を込める。

 黒い塊の大きさが倍近くになると、更に大きな魔物も中から現れ始める。



「山下、全部操れるんですよね?」


「全部・・・じゃない!」


 秀長に尋ねられた山下は、突然ブルブルと震え出す。

 何が起きたのか分からない様子の一行は、山下の精神を不安定にさせるのは得策ではないと、話題を変える。



「あと何匹くらい居るんだ?」


「数千か一万くらい」


「それ、だいぶ差があるんだが・・・。まあ良い」


 不安定な山下に、これ以上話し掛けるのは危険だと判断した秀長。

 そんな話を耳にも入れない秀吉は、焦る江戸城付近を見て愉悦に浸る。



「ワイバーンクラスの魔物も通れると、城の最上階も攻撃出来そうですね」


「なるほど。石田、良い案だ」


「ありがとうございます!」


 石田は嬉しさで顔を紅潮させると、秀吉は両手を合わせてから広げるような仕草を見せる。



「これ以上大きくすると、少し不安定になるのだが。しかしトドメを考えるなら、それくらいしなくてはならないな」


 秀吉が手を広げると、黒い塊も伸びていく。

 しばらくするとその中から、何かが空に飛び出した。



「ワイバーンだ!」


「これで勝利はもらいましたね。おめでとうございます!」


 皆が笑顔でおめでとうと拍手をしている中、秀吉だけが妙な顔をしている。

 すると秀吉の口から、想定外の言葉が飛び出した。



「コントロールを奪われた!?」


 広げる仕草をやめて、むしろ手を勢いよく閉じるように叩く秀吉。

 しかし黒い塊は広がったままで、一切閉じるようには見えない。



「な、何だ?」


 真っ暗な闇の中から、少しずつ白い点のようなモノが広がってくる。

 それは段々と大きくなっていくと、突然大きな光に包まれた。









「眩しい!」


 望遠鏡を覗いて黒い塊を見ていたオケツは、それを間近で見てしまった。

 目がぁ!と言いつつ転がるオケツ。

 それを無視して僕達は、他のすべての黒い塊も確認する。



「魔王様、後ろも明るくなっています」


「前方の塊も、全部光ってるぞ」


「魔物の出現も止まってるね」


 官兵衛やお市が、僕を見てくる。

 あいにくと分からん魔法に、対抗策は無い。

 二人は飛び出そうとした僕の仕業だと思っているようだが、僕はそこまで有能じゃないよ。



「む!何かが飛び出してきたぞ。速い!」


 水嶋の爺さんが目で追ったが、速過ぎて見えなかった。

 爺さんが見逃す程の速さを持つ魔物?

 危険だな!



「待て!誤射する可能性もある。気を付けた方が良い」


「空を飛んでるぞ!この城にも来るかもしれない。長谷部」


「オウ!」


 長谷部は官兵衛の前に出ると、目を凝らして素早く動き回る何かを追う。

 僕も見ているが、妙に明るい色が色々と混ざっている。

 僕の記憶だと、目立つ色を持つ魔物は強かったはず。

 何故なら弱い魔物というのは、襲われないように目立たない地味な色をしている事が多かった。

 そして強くなるにつれて、少しずつ明るい色が増える印象だった。

 赤や黄色みたいな目立つ色は、本当に強い魔物しか持たない色なのだ。

 そしてこの魔物は、そんな赤や黄色が混ざっている色をしている。

 こんな目立つ魔物、強いに決まってる!


 すると官兵衛が、ロックに何やら指示を出している。

 彼はこっちを見ると、親指と人差し指で丸を作った。



「蘭丸っち、ミュージックチェンジ!メインボーカルマリー!」


「ボーカルを変える?」


 ハクトの支援魔法から、マリーにメインボーカルを変えるという事は、前線の支援が落ちるという事になる。

 更に危険なんじゃないか?



「ハッハー!お前、よくぞここまで弾けるようになった!」


 突然のヘビメタに変更される音楽。

 いきなりギターの速弾きから始まると、蘭丸がマリーから褒められていた。



「うるせえ!すげぇ苦労したわ!」


「行くぜ、野郎共!聴きな、アタシ達の魂を!」


 激しく頭を振るマリー。

 その横では、ハクトも同じく頭を振っている。

 頭を振る度に動く耳が、ちょっと可愛い。



「なっ!?アンデッドも頭を振り始めた」


 爺さんは驚いているけど、オケツも僕達もほとんど経験済みなので、そこまで驚く事じゃないと思う。

 いや、やっぱり驚いたわ。



「見ろ!あの速かった奴も、止まって頭を振り始めたぞ!」


 空に浮かんだまま、頭を振っている。

 アレ?

 音楽にノっているという事は、魔物じゃない?



「ちょっと待て。彼奴、何をしておるのじゃ!」


 お市は僕達より、いち早く誰だか気付いたらしい。

 というか、僕も誰だか分かった・・・。



「いやあぁぁん!!すんごいわ!コレ、すんごい。もうアタシのアソコがビンビンに感じる。こんなのノるしかないじゃないのおぉぉ!!」








「爺さん、撃って良し!」

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