表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1220/1299

倒れない騎士

 とにかく短かった。


 秀吉との決戦までの一ヶ月という時間。

 僕達はやれるだけの事はやったと思う。

 この一ヶ月間で一番働いたと思えるMVPは、間違いなくコバになるだろう。

 彼は寝る間を惜しんで、ひたすら皆の為にアイデアを出し続けてくれた。

 官兵衛程ではないにしろ、疲れた脳を更に酷使する為に、甘い物を沢山食べていたのを僕も目にしている。

 腹に溜まるようにおはぎを作ったり、原料が米だからという理由から煎餅を作ったりした。

 ちなみにこれは、僕の手作りになる。

 いつもならハクトに頼むところなのだが、彼もバンド活動が佳境を迎えていて厳しい。

 だから僕が作り方を調べて、コバの為に作ったのだ。

 しかし予想外だったのが、アンコ作りである。

 てっきりすぐに出来る物だと思っていたけど、アンコを作るだけで半日近く掛かってしまった。

 その時僕は思ったね。

 和菓子屋って、朝から大変なんだなぁと。

 日本に居た頃、もっと食べていれば良かったよ・・・。


 そんなおはぎだけど、コバ以外にも疲れている人は多数居た。

 疲れには甘い物が良いと聞くから、とびきり甘くしたのだが、これが失敗だった。

 官兵衛やコバ、昌幸達にはとても好評だったのだが、慶次や佐藤さんからは苦い顔をされてしまったのだ。

 甘い物を食べて苦い顔をされるとは、想定外だったよ。

 ちなみにハクトや蘭丸にも甘過ぎると言われたのだが、ロックは美味いと食べてくれたんだよね。

 その後、慶次達はハクトの作ったラーメンを食べて満足したらしい。

 その時気付いたのが、頭脳労働組と肉体労働組の差である。

 コバやロックは、完全に頭を使う仕事だった。

 コバはアイデアを絞り出すのに頭を使うのは当然だけど、ロックも音をまとめるという意味では頭を使っていたようだ。

 それに反して慶次達は、ひたすら身体を動かしていた。

 要は塩分を欲していたようなのだ。

 その辺の配慮が足りなかった事に、後から気付いた。


 数日後、僕は彼等の為に料理と甘味を毎回作るようになったのだが、人それぞれに用意するのは本当に大変だった。

 ハクトの偉大さを、改めて思い知ったよ。

 そして僕はこの一ヶ月間で、料理の腕前だけは上がったと自負している。

 え?

 戦闘能力は上がってないのかって?

 それは兄の仕事なので、僕はノータッチです。








 お市に言われて耳を澄ませると、確かに太田とゴリアテの大きな声が聞こえてくる。



「被害報告をして下さい!」


「よくやった!お前達のおかげで、今の攻撃は後方には届かなかったぞ!」


 太田が味方の確認を。

 ゴリアテはそんな仲間達に、労いの言葉を掛けている。

 まさか、あの巨大ビームに耐えられるなんて。

 僕が呆気に取られていると、お市はパラパラと雪を降らせる。



「熱を冷やすというよりは、頭を冷やすといった感じじゃな」


 オーガ達はあのビームを防いだ事に自信を持ち、興奮が冷めないでいるみたいだ。

 そこにお市は雪を降らせて、冷静さを取り戻させようという魂胆らしい。


 しかし、どうやって今の一撃を防いだんだ?



【なんだ、見てなかったのか?】


『我は見てたぞ。奴等、盾の角度を前後で変えていた』


 な、なんだって!?

 二人とも見ていて、分かっていないのは僕だけ?



【なんて説明すれば良いんだろう。前から4、5列が順に角度を変えていって、滑り台みたいにしていたって言えば良いのか?】


 なるほど。

 ジャンプ台を作って、逸らしたのか。

 直撃して耐えるよりも、逸らした方がダメージも少なそうだし。

 なかなか考えている。

 でもゴリアテも、よく相手がビームなんて使ってくると想定していたな。



「量産型アイギスの盾が、最初から活躍するとは」


「コバ殿に感謝ですね」


 量産型?

 そうか!

 防衛隊とイッシー隊には、それぞれ武器防具が用意されたと聞いたけど、これがそうなのか。

 確か選択式だったと思うけど、ゴリアテの部下達は皆、盾を選んだみたいだな。



「被害軽微。怪我人無し!」


「再度、進軍開始!」


 うおぉぉ!

 これ、本当に練習しなかったのかな?

 足並みが揃っていて、本物の軍隊みたいに進んでいく。



「魔王様、そういえば覚えていますか?」


「何を?」


 官兵衛が突然話し掛けてきたが、何の話だか分からない。

 聞き返すと、言われてから忘れていた事実を思い出した。



「オーガとミノタウロスは、とても仲が悪かったんですよ。それが今では、肩を並べてあそこまで揃っている。凄いですよね」


「そうだったなぁ」


 あの頃のゴリアテ達は帝国に押されていて、敗北は目に見えていたんだった。

 太田は変わり者だったから、ゴリアテ達からも変な目で見られるだけだったけど、普通のミノタウロスとは仲が悪かった。

 今にして思えば、あの頃の僕ならこの光景は想像出来ない。

 そう思うと、感無量といった気持ちになる。



「敵も押し上げてきましたね」


「お市、後方から奇襲はありそうか?」


「・・・無いな」


 僕達とは反対側を、望遠鏡で覗き込むお市。

 魔力での感知も出来るとはいえ、向こうは現代兵器を投入してくる可能性もある。

 そうなると目視で確認するしか、対処方法が無い。



「どうやら秀吉は、僕達とがっぷり四つで力勝負が望みらしい」


「しかし敵の主力は、アンデッドのようですが」


「は?」


 僕も望遠鏡を覗くと、フラフラとしながら前進してくるアンデッドが見えた。

 それ等を統率するようなアンデッドの姿は無く、簡単な命令で前に進んでいるだけにしか見えない。



「となると、左右からの挟撃が狙い?」


「向こうの左右の軍は動きませんね」


 このままだと無駄に、アンデッドを消費するだけに見える。

 奴等は何を考えているんだ?



「どうする?」


「・・・策がまだ見えないですね」


 敵の考えが読めない。

 ただ単に、アンデッドを前に押し出してくる秀吉。

 流石にこれだけの情報で先を読むのは、天才でも無理という話である。



「いや、動いたぞ」


「爺さん、何か見えるのか?」


 目を細めて遠くを見ていた水嶋の爺さんが、銃を構えて引き金を引く。



「左右からもアンデッドを押し上げてきている」


「またアンデッド?」


 秀吉の奴、何がしたいんだ。



「消耗戦狙いかな?」


「それは無いと思うんですけど」


「おい、このアンデッドは速いぞ!」


 爺さんが言うには、馬に乗っているらしい。

 となると、騎士王国の騎士?



「な、何だあの連中・・・。弾が当たってるのに、全く速度が落ちんぞ」


「ちょっと待ってね。どれどれ・・・」


 うーん、なんか見覚えがあるような連中だな。

 えっ!?



「消えた!?」


 望遠鏡を覗いていたら、突然アンデッドの騎馬隊が姿を消した。

 どういう事だ?



「ちょっと待て!奴等、イッシー隊の目の前に居る!」


 いつの間に!?

 爺さんは手前を見て叫ぶと、銃を構える。



「指揮官らしき人物は見つかった?」


「・・・見つかった。死ね」


 爺さんが馬上から指揮を執るアンデッドに向かって放つと、驚いた顔を見せる。



「避けられた!?この距離に気付くかよ」


「ここから狙ってるのがバレた?」


「完全にバレたな。アイツ、俺を睨んできている」


 この距離で見えるとか、なんて面倒な相手だ。

 面倒な相手?



「思い出した!スマジだ。ハッシマーの配下だった、スマジ・ホノヒサだ!」








「隊列直せ!」


 イッシー隊は突然目の前に現れたスマジ隊の対応に、大慌てで追われていた。

 並のアンデッドであれば、そこまで手を焼く事は無い。

 しかし彼等の戦い方は恐ろしくシンプルで、恐ろしく手強かった。



「まだ死なないのかよ!」


「残念、既に死んでいる!」


 ジョークを言ってくるアンデッドに対し、イッシー隊の面々はトライクごと薙ぎ倒される。

 武器を納めてトライクのハンドルバーを片手で握り、まあ片方の手を伸ばす。

 それを味方のトライク隊が掴むと、その勢いを利用してトライクを立て直した。



「走れるか?」


「問題無いです。しかし・・・」


 引き倒されたトライクを助ける為、イッシー隊のフォーメーションはバラバラになってしまった。

 その中を自由に走り回る、スマジの騎馬隊。

 すると隊長であるイッシーが、鞭で馬を引っ叩く。



「馬だ!馬を狙って倒せ!」


 やられたらやり返す。

 トライクを引き倒されたイッシーは、今度はこちらの番と言わんばかりに、馬を狙い始める。



「やった!」


 イッシーの作戦通り騎馬を狙うと、スマジの騎士は馬上から落ちていく。

 かなりの騎士が落ちると、イッシー隊は機動力で優勢になると信じていた。



「囲め!」


 イッシーが指示を出すと、それに合わせてスマジ隊も動き出した。

 その動きは常人には考えられず、イッシーも固まってしまう。


 なんとスマジは、イッシーに背を向けると突然中央に向かって走り出したのだ。



「た、隊長!」


「お、追え!」


 部下の困惑する声で、ハッとするイッシー。

 追撃を命令すると、彼等はガクンと動きが鈍くなる。



「フハハ!殿の後を追わせるわけがないだろう」


 落馬させられ見捨てられた騎士達が、両手に太刀を持ってイッシー隊に斬りかかる。

 防御を無視して攻撃をするスマジ騎士に対し、イッシー隊は距離を取りながら弓や銃で攻撃を開始する。



「邪魔をするな!」


 蜂の巣にされるスマジ騎士達。

 撃たれる度に身体が跳ね上がり、スマジ騎士は糸が切れたように倒れた。

 それを見て、イッシー隊は横を通り過ぎると、彼等も落車していく。



「っ!何だ!?」


「だから行かせないと言っている」


「うわあぁぁぁ!!」


 恐怖で叫ぶイッシー隊。

 横を見ると、身体中が穴だらけになったスマジ騎士の顔があったのだ。

 彼等はトライクに飛びつくと、そのまま運転手ごと再び自ら落ちていく。

 そしてイッシー隊の首を、噛みちぎっていった。



「こんのバケモノ共が!」


 大鎚で頭を粉砕すると、ようやく動かなくなるスマジ隊。

 想定外のスマジ騎士の行動に、イッシー隊はスマジ本人の姿を見失う。



「しまった!」


 イッシーが慌てて探そうとすると、空から銃弾が飛んでいくのが見えた。



「っ!?爺さんか!」


 何発も発射される銃弾。

 その行き先がずっと同じだと気付くと、イッシーはその先へと走っていく。



「続け!奴を止めるぞ」


 イッシーがスマジを追うと、再び何人かのスマジ騎士が途中で待ち伏せをしている。

 何度も何度も倒しても、しぶとく立ち上がるスマジ騎士。

 気付けばイッシーは、またスマジを見失った。



「スマジ騎士の意地、その身体で感じろ!」


 手こずるイッシーを横目にスマジは、太田とゴリアテ、そしてサネドゥが待ち受ける中央へと、後方から入っていく。







「フフフ。やはり戦場は良いのう。死してなお戦えるとは、本当に面白い。そして死んだ今、敵も味方も関係無い。行くぞ!狙いはサネドゥだ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ