表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/1299

砦の最終兵器

 ドランが負傷した。

 それは僕達にとって少し予想外のものだった。

 報告によると、敵は急に強くなったらしい。

 どうやら敵側にはネズミ族の強力な魔法使いが居るらしく、ソイツが支援魔法を使っているとの事だった。

 敵の策略に嵌り、前田兄弟とドワーフ達は分断されてしまった。


 彼等を助けるべく二階へと上がると、高らかな笑い声が聞こえた。

 どうやら敵に囲まれたというのに、余裕があるらしい。

 しかし、二人の所まで行くには敵の数が多かった。

 温存している残りの魔力を考えていると、後ろから突然声を掛けられる。

 存在を忘れていた男、佐藤さんだった。

 又左と同等の強さを誇る彼なら、この戦線を突破出来るだろう。


 合流した僕達は半兵衛の作戦で、このまま三階へと向かう事となった。

 厄介な支援魔法を使う、グレゴルという敵を抑える為だ。

 三階には敵も精鋭部隊を配置していた。

 慶次の槍を弾き飛ばす事が出来るくらいの強い兵達。

 彼等が守っているのは、件の支援魔法使いだと言う。

 得物を奪われた慶次。

 流石に精鋭部隊を相手に無手で戦うなど、不可能だと思われたのだが。

 しかしそんな慶次に、兄である又左からある物を渡されていた。





「お前なら使えるだろう?」


「これは!?よろしいのですか?」


「武器を余らせておく程、今は余裕があるわけではないのでな。ただし、耐久力にはまだ不安がある。気を付けて使うのだ」


「ありがとうございます!」


 兄が弟に手渡した物。

 それは内蔵型の長槍だった。

 いざという時用というか、普段は腰のベルトに装着出来るようにしてあった。

 どうやらベルトは自作したらしい。

 見た目は少し不格好だが、実用性には特に問題は無いみたいだ。

 そんな腰から手渡した長槍を、慶次は思い切り振りかぶった。


「な、なんだ!?」


「鞭?槍だと!?」


 急激に伸びた槍が、敵の一人の頭を直撃する。

 穂先が頭に刺さり、そのまま倒れて絶命した。


「やるではないか!」


「軽いですね。なるほど。長さを変えられると、このような使い方も可能なのか」


 どうやら慶次は、初めて手にした内蔵型の長槍に少し戸惑いを感じていた。

 しかし、元々は能登村に居た頃に扱っていた長槍。

 すぐに慣れたようだ。

 それに驚くべき事に、又左とは全く違う使い方もしている。


「これは面白い!」


「ちょっ!お前、私より使いこなしていないか?」


「そうですか?兄上にやられた事をしてみたのですが」


 慶次は内蔵型の長槍を、上手く使いこなしていた。

 又左にやられた事。

 それは咄嗟に伸ばして、腹に一撃を食らった事だろう。

 あの時は伸びきっていなかったので穂先も出ていなかったが、今は伸びきり穂先の刃に血が滴っている。

 それに彼の凄い所は、その長さを調整した事だ。

 敵が近い場合と遠い場合で、使い分けていた。

 そんな機能付けたかな?

 どうやつているのかは分からなかったが、三メートルしか伸びなかったり、五メートル以上伸びたり。

 見ている方は面白いのだが、敵としては堪ったもんじゃないだろう。

 何せ、間合いが分からないのだから。


「慶次!その槍どうだ?」


「使いやすいです。何故だか分かりませんが、しっくり来ます」


 ふむ。

 これは二人に使い分けで与えても良いかなって思えてきた。

 元々は長過ぎて、携帯するのに不便だからという理由で作った内蔵型。

 しかし慶次の槍捌きを見る限り、これは全く違う武器にも思える。

 というより、慶次にはコレを上げても良い気がする。


「欲しい?」


「欲しい!」


「じゃあ上げる」


「え!?」


 おい!

 前見ろよ!

 しかも兄弟二人でこっち見るな!

 二人揃って顔を此方に向けてきたが、その表情は真反対だった。

 慶次は貰えるとなって嬉しそうな顔に。

 しかし又左は、自分が貰った特別な物が弟に行くという、悲しそうな表情をしていた。


「別に又左の物をそのまま渡すんじゃないよ。慶次用に新しく作るから」


「なんと!?」


 またしても二人してハモっている。

 むしろ慶次には、少し改良した物を上げても良いかもしれない。

 長さを調整するのに、もう少し簡単にするとか。

 それと慶次本人が希望するなら、更に長さを伸ばすとかね。

 なかなか面白いと思う。


「良いなぁ。俺も新しい武器欲しいなぁ」


 チラッチラッと敵を殴りながら見てくる佐藤さん。

 アンタの手甲、ミスリル製でかなり高価だから!

 それで満足しなさいよ!


「三人とも、意外と余裕ありますね」


「やっぱり強いから。蘭丸も行ってきていいぞ」


「お前達の護衛は良いのか?」


 半兵衛、ハクトの護衛を出来るのが、僕しか居ない事を懸念しているのだろう。

 でも階段を背にして、後ろからの敵はほとんど警戒する必要も無い。

 前から来る敵だけなら、僕とハクトでも何とかなる。


「やはり実戦に慣れておくべきだぞ」


「お前がそう言うのなら!」


 ハクトに支援魔法を掛けてもらった蘭丸は、佐藤さんの近くまで寄って行った。

 前田兄弟は二人でお互いをカバーし合っているが、佐藤さんは一人で捌いていた。

 そこに蘭丸が加わると、かなり楽になったのだろう。


「助かる。本来ボクシングは、一対一でやる競技だから。ちょっと大勢は苦手なんだよね」


「まだまだ未熟ですが、お願いします!」


 どうやら、趨勢は決まったかな?





 どうしてこうなった?

 目の前に居る精鋭達なら、侵入者など簡単に始末出来るはず。

 そう思っていたグレゴルは、精鋭部隊が続々と倒れていくのを目の当たりにした。

 敵の強さが想定以上だったからだ。


「こうなったら仕方ない。最後の切り札を出すしかあるまい」


 彼は最上階である四階へと上がった。

 そこには、複数の大きなカプセルのような物が並んでいる。

 中には得体の知れない液体が入っていた。

 そして驚くべきは、カプセルの中には人が漂っていたのだ。


「実験もせずにいきなり実戦投入だが、致し方ない。聞いた話なら、相当な強さを持っているはず」


 そのカプセルと繋がっていたのは、大きな人型をした物だった。

 座り込んだ状態から動かないが、その状態でも二メートル近くある。

 立ち上がれば三メートル以上あるだろう。


「行け!ゴーレム!敵を殲滅しろ!」


 グレゴルがレバーを引くと、カプセルと繋がっていたケーブルが背中から外されていく。

 全てが外れるとその目は青く光り、立ち上がったのだった。


「お、おぉ!これなら奴等も一網打尽だ」


 しかし予定外の事が起きた。

 ゴーレムは階段を降りようとするが、サイズが合わずに降りられない。

 そのゴーレムは、困ったかのように動かなくなった。


「階段など壊してよい!早く下に降りて、敵を殲滅してこい!倒せるなら、多少砦が壊れても構わん」


 命令を聞いたゴーレムは、階段を破壊しながら下へと降りていく。

 そしてグレゴルは思った。

 自分が降りてから、ゴーレムを行かせれば良かったと。


「・・・高いな。どうやって降りよう」





 どうやら敵は及び腰になっているようだ。

 精鋭だったはずの自分達が、たった四人に倒されていくからだ。

 次にやられるのは自分。

 そう考えているのか、最早自ら斬りかかる敵は居なかった。


「頃合いですね」


 何の?


「控え!控えい!」


 ん?

 これ見た事あるな。

 既にやられてるし。


「此方に座す方をどなたと心得る!安土を作り、魔族を統べる魔王様にあらせられるぞ!」


【BGMも必要ですか?】


 結構です。

 まさか半兵衛がこんな事言うとは思わなかった。

 思いもよらぬ出来事に、何も言う暇が無かったのもあるけど。


「お前達が誰の下に就いているのか知らない。だが、魔王様に楯突くとなると、今後は様々な種族の反感を買うと思い知れ!」


 その言葉に、武器を捨て投降の意思を示し始めた。

 まさか、こんな事になるとは。


「お前達の処遇は、追って沙汰する。抵抗をすれば、槍の餌食になると思った方が良い」


 半兵衛が近くに倒れていた男を指差す。

 その男は、槍で顔面を貫かれて死んでいた。


「命の保証はしてもらえるのでしょうか?」


 投稿した一人が半兵衛に聞いてきた。

 そりゃ、あんな死体を指差されれば、自分の今後が気になっても仕方がない。

 投稿したのに殺されるのだったら、生きられる可能性を賭けて反撃した方がマシだからだ。


「魔王様は寛大だ。必ず助けてくれるだろう」


 ワッという声が上がり、安心したのか座り込む男も居た。

 これで終わりか。

 そう思っていると、半兵衛がある事に気付く。


「グレゴルが居ません。もしかしたら、藤吉郎様を人質にしてくるやもしれません。あ!」


 半兵衛が言い終える前に、奥の方から異変が起きた。

 階段が崩落したのだ。

 最上階だと思われる四階には、行けなくなってしまった。


「アレは?」


「人型の何かが見えるんだけど」


 投降した者達の頭より、大きく飛び出している。

 相当な大きさだと思われる。


「敵、だよな?」


 蘭丸の質問には誰も答えられなかった。

 階段から落ちてきて以降、動かないので判断しようがない。


「グアァ!!」


 動いた!

 投降兵を薙ぎ倒し、此方へ一直線に向かってくる。


「テキハセンメツ!テキハセンメツ!」


「敵って俺達の事だよな?」


「当たり前の事を聞くな!」


 しかしあの図体で一直線に走ってきているが、かなり速い。

 細かな動きは出来ない気もするが、油断して殴られたら痛そうだ。


「半兵衛!」


「投降兵は速やかに此方へ!進路上に居ると、吹き飛ばされますよ!」


「次はデカブツか。あんな物初めて見る」


「ゴーレムってヤツかな?俺もそういうの詳しくないけど」


 又左も見た事が無いという人型。

 誰も乗っていないようなので、おそらくはゴーレムだろうと思われる。

 佐藤さんも同じような判断だった。


「ん?何か機械が見える?」


「機械?」


「阿久野くん!アレ、何かのコンピューターみたいなのが見えるよな!?」


「えーと・・・。うーん、何かLEDみたいな物が見えるような?」


 ハッキリとは見えない。

 でもおそらくは機械だと思われる。

 あんな物を取り付けているという事は、召喚者の誰かが作ったって事だろう。


「佐藤さんは、帝国に居た頃に科学者を見ましたか?」


「何人も居た。この世界の魔法を研究している者達と、元々の専門分野だった物を研究する者達と。二手に分かれていたのは知っているけど」


 って事は、その両者が手を結んで、魔法で作り上げたゴーレムに機械を取り付けた感じかな。


「来たぞ!速いから気を付けろよ」


「先手必勝!」


 前田兄弟が早々に動いた。

 又左は前に出てゴーレムの注意を引き付けている。

 その後ろから、慶次が長槍を伸ばして思いきり突いた。


「硬いな」


 右肩付近に命中したものの、少し欠けた程度の傷がついただけだった。

 ミスリル製では無さそうだけど、鋼鉄製か?

 中身は空洞というわけでは無さそうなので、相当の質量を持っていると思われる。


「エイヤ!」


 蘭丸の気合の入った槍が、ゴーレムの頭を狙う。

 しかし左手で簡単に払われ身体が泳いだ蘭丸は、逆にゴーレムのパンチを食らった。


「イッテェ!」


 咄嗟に槍を盾にして防いだようで、致命傷にはなっていなかった。

 しかし吹き飛ばされた時に出来たのか、所々に擦り傷があり流血していた。


「攻撃手段が未だ殴打のみですが、油断出来ません。皆、警戒を厳にしてください」


 半兵衛の言葉に皆が無言で頷く。

 そこに何処からか声が聞こえてきた。


「フハハハ!無駄な足掻きはやめろ!貴様等ではそのゴーレムには勝てんわ!」


「グレゴルか!?」


「いかにも!」


 その姿は何処を探しても見当たらない。

 この砦、スピーカーでも設置されてるのか?


「居た!」


「何処?何処に居る!?」


 ハクトが見つけたグレゴルの場所は、普通は見ない所だった。

 壊れた階段の先、四階から頭だけ逆さにして出していた。


「エイ!」


 顔目掛けて弓を放つハクト。

 慌てて顔を引っ込めた。


「あっ!あぶ!この野郎!危ないだろうが!」


 惜しい!

 もう少しで当たりそうだったのに。


「いつまでも降りてこないつもりか!」


「降りたくても降りられんわ!」


 自分の状況をわざわざ敵に伝えるグレゴル。

 ちょっと頭が悪いのでは?

 そんな事を思っていると、半兵衛が言った。





「自分に支援魔法を掛けて身体を強固にすれば、普通に降りられるでしょうに。貴方、馬鹿ですか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ