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前日

 考えてみると、ドリームチームと言っても良い。


 官兵衛はコバの救援に、ドワーフのピンチに駆けつけた昌幸と、領主である一益を江戸城へと招き入れた。

 高野達を引き抜かれたコバに、一ヶ月足らずで戦力を増強させろというのは酷な話だった。

 そこで官兵衛が考えたのが、コバの盟友である昌幸と、その昌幸のライバルである一益だ。

 彼等はドワーフの都市である上野国を破壊されて、若狭国に身を寄せていた。

 昌幸はコバのピンチとなれば駆けつけてくれると思っていたけど、まさか一益まで来てくれるとは、嬉しい誤算というヤツだ。


 何故嬉しいかというと、ドワーフの名工が二人居るというのが大きいのだ。

 では二人が居ると、何が違うのか?

 それは発案者と製作者の問題になる。

 コバはどちらかと言えば、発案者側の人間だ。

 自らの手で作る事も出来るが、ドワーフと違ってかなりの時間を要する。

 考えてから現物を作るまで、細かく微調整をして開発していく。

 だけど一益と昌幸が居るなら、後半の作業は全て任せる事が出来る。

 しかも手作業による細かい調整は、コバよりも二人の方が圧倒的に優れている。

 例えば太田のバルデッシュで考えるなら、図面を作りどのような変形や効果を持たせるのか。

 それを考えるのがコバの仕事。

 そしてコバが考えた武器を、実際に作って完成させるのが一益や昌幸の仕事になる。

 それにコバの無茶振りだと思えるような要求にも、昌幸は応え続けていた。

 じゃあそのライバルである一益なら、同じレベルの要求に応えられないはずが無い。

 だからコバは、どのような武器や防具にするのか考える事だけに、集中する事が出来る。

 コバが考えた物を、一益と昌幸が作り上げる。

 普通は作るのに時間が掛かるのは当然だが、そこに二人居るという時点で、同時に違う物も製作に取り掛かれる。

 これはコバの負担がかなり減るだろうし、製作スピードも倍になる。

 あわよくば、断られたイッシーの分も作れたりするんじゃなかろうか?









 そぉい!

 何か変な声が聞こえたけど、気のせいだろう。

 思わず魔力を更に強くしてしまった。

 うん、変態っぽい人が何かを言っていたような気がする。

 気がするだけである。



「ちょっと!痺れが強くななななってきてるんででででですけど」


「これでも喋れるのか。せい!」


「あばばばば!!」


 ふむ。

 ようやく完全に麻痺したようだ。

 ライバルだった昌幸と一益が手を組んで、コバに協力する。

 胸熱な展開に少しテンションが上がってる時に、変な奴が現れる。

 そりゃ魔法もぶっ放したくなるよね。



「タケシ殿!ハッ!何故倒れているのでござるか!?」


「闇討ちされたんだよ。でもムッちゃんは死んでないから。用があるなら連れて行って良いよ」


「そうなのでござるか?じゃあ遠慮無く」


 慶次は倒れているムッちゃんの足首を雑に掴むと、起こそうとせずに引きずっていく。

 最早帝国の大将という威厳は、何処にも無い。



「は・・・」


「気付いたでござるか?何か言いたげでござるな」


「は、犯人は・・・」


 マズイ!

 兄さん!



「そぉい!」


「はうあっ!」


「何をするでござるか!?」


「何って、見ての通りだよ」


 股間に向かって鉄球を投げつけた。

 ただそれだけである。

 あまりのショックに、白目を剥いて気絶している。

 痛みというより、精神的なショックだろう。



「急所を鍛える練習だから。突然タマにたまたま重い球が当たる事だって、考えられるでしょ?だから不意を突いて、鉄球を投げただけ」


「か、考えられるでござるか?」


「相手は秀吉だからね。何が起きてもおかしくない」


「そういうものでござるか」


 無論、そんな可能性はほとんど無いと思う。

 でも秀吉が何をしてくるのか分からないのは、慶次も身に染みて分かっている。

 だから秀吉のせいにすれば、万事頷くしかないのだ。



「気絶している間に、連れて行くと良いよ」


「気絶していたら、役に立たないのでござるが。まあ良いか・・・」


 一件落着。

 慶次は不思議に思いながらも、諦めてムッちゃんを連れて行った。









 時間が過ぎるのは早いもので、もう約束の日まで残り一日となった。



 コバとドワーフ達は猛スピードで武器を生産し、意外にもイッシー隊やゴリアテの配下である防衛隊にも、ほとんど新しい武器を導入出来たという。


 彼等にはスタンダードな武器を何種類か作り、その中から選択させる大量生産品ではあったが、戦力は大幅にアップしている。

 その一番の理由として、それ等が全てクリスタル内蔵型の武器だという事が大きい。

 封じられる魔法と選択させたのだが、意外にも一番多かった魔法のリクエストは火魔法や風魔法のような攻撃魔法ではなかった。

 では光魔法で目潰しを狙うのか?

 実はそんな支援や阻害系の魔法でもなく、一番多かったのは回復魔法だったのだ。


 これはやはり、個人で戦う慶次や太田とは違い、集団で戦うという彼等の心理が働いていたからだと思う。

 もし味方が大きな怪我を負っても、回復魔法を使えばすぐに助ける事が出来る。

 その回復量が少なくても、数が多ければ大怪我をした人でも助けられるだろう。

 これには僕達も、予想していなかった出来事だった。

 おかげで僕とハクトは、空き時間=回復魔法という日々がずっと続いたのだった。



 そして大量生産品と並行して、太田達にも新しい武器が用意されている。

 彼等にはミスリルではなく、オリハルコンで出来た武器が用意されていた。

 時間が無かったので細かい調整は出来なかったようだが、それでも試した結果は、皆が口を揃えて素晴らしいという一言を残していったという話だ。



 しかし今回の武器製作には、少し紆余曲折もあった。

 その一つが、蘭丸とハクトの武器は見送るという点だった。

 今までの結果から、二人も戦力になるというのには、誰も異論はほとんど無かったのだが、その二人に新しい武器は要らないだろうと言った人物が居たのだ。

 それは、ハクトと蘭丸本人である。


 二人は主に、バンド活動という名の後方支援に回る事が決定的になっている。

 ただし、今回は彼等を守る人達がほとんど居ない。

 ライブ中にアーティストに迫る厄介なファンは、今までセキュリティーという名の味方が弾き返してくれていた。

 しかし今回は、自分達の身に迫る危険は全て自分達で解決しなければならない。

 その為、新しい武器をという話が上がったのだが、それを二人は拒否したのだ。


 守りよりも攻めを重視する。

 それが二人が出した結論であり、マリーは自分達が守るという固い決意の言葉も聞けた。

 ちなみに高野達は守らないのかと聞いたところ、二人とも忘れていたかのように無言だった。

 男は自分等で何とかしろという話らしい。

 それを三人に内緒で伝えたところ、三人は部屋の隅っこに移動して泣いていた。

 小声で聞こえたイケメン許すまじ。

 更に暗い夜道に気を付けろは、多分冗談だろう。



 最後にコバは、最後の気力を振り絞って、予定外の武器も作り上げていた。

 それがイッシー専用の、オリハルコン製武器である。

 何種類もの武器を扱うイッシーには、オリハルコン製の武器は間に合わない。

 そう思われていたのだが、三人の総力を結集した結果、前日であるまさに今日完成したのだ。

 予定には無い武器にイッシーはえらく感激していたが、前日の夜に完成させたという事もあり、明日の決戦にぶっつけ本番で運用する事になってしまった。

 それでも新しい武器を作ってもらえたイッシーは、明日は先駆けは自分だと言わんばかりに、イッシー隊に明日は攻めると檄を飛ばしている。



「というわけで、吾輩は眠るのである。起きれたら、明朝起きる。期待はするな」


 コバはコーヒーを飲んだにも関わらず、フラフラしながら出て行った。

 一益と昌幸は流石にコバよりは体力があり、コバが設計した残りを作ると息巻いている。



「まだ完成してないのって、誰の武器?」


「ワシと真田殿。そして丹羽殿の三つだ。これはほとんど以前の物と変わらないので、問題は無い、ですな」


 取って付けたように、最後にですを付け加える一益。

 対して昌幸は、黙々と作業をしている。

 今は僕と話す時間すら、惜しいようだ。



「明日に間に合う?」


「それは・・・無理でしょうな。まずは丹羽殿をと考えて作っているが、流石に明日の朝までには完成させるのは、難しいです」


「じゃあ」


「明日は見守るしかないですね」


 明日はという言い方をする限り、二日目には間に合わせるという意味かな?

 二人とも目の下にはクマがあるし、寝てないのは確かなんだけど。



「大丈夫なの?」


「任せて下さい!良い物に仕上げてみせますから」


 体調の心配をしたのに、武器の完成度と勘違いされてしまった。

 僕、そこまでヒトデナシな考えをしていると思われてるのかな。

 ちょっとショック・・・。



「魔王様、オケツ殿が面会を求めてます」


「無視してヨシ!」


「え・・・」


 冗談ですよ。

 気まずそうな顔をするエルフに、僕は肩をポンと叩いた後、オケツが待っている部屋に向かう。



「偉そうに呼ぶんじゃないよ!」


「痛い!どうして!?私、ちゃんとした手順で面会を求めたと思うんですけど!?」


 うん、その他人行儀な感じが、ちょっとムカつく。

 手を貸してくれるのであまり悪く言えないけど、ここまでの付き合いなのだ。

 もっと楽に接してほしいんだけどな。

 彼の場合、騎士王としての自覚が大きくなったからか、むしろ距離が遠くなった気がする。



「それで、用件は?」


「騎士王国から連絡が来ました。援軍の準備、出来ています」


 オケツはわざわざ正座をして、真面目な顔をして言ってくる。

 正式な面会手順を取った事から、騎士王としての話みたいだ。

 僕も姿勢を正して、しっかりと頭を下げる。



「ありがとう。感謝する」


 頭を上げた僕は、オケツの目を見る。

 以前と違い、オドオドした感じは無い。

 そこで僕は、わざと砕けて話し掛けた。



「で、誰が来るの?トキドとタツザマ?国の復興を考えると、ウケフジは国に残っていた方が良いでしょ」


「違いますよ」


 違うのか。

 じゃあサネドゥかな?

 彼の頑丈さを考えると、盾役としては太田と並ぶ気がするし。

 でも攻撃には向かないから、守備メインのメンバーになりそうだな。



「サネドゥが来るなら、ハクト達の護衛がメインかな」


「違いますよ」


「サネドゥじゃないの?」


 僕の予想を否定するオケツ。

 するとオケツは、僕の予想の斜め上を言ってくる。







「援軍は全軍。騎士王国の騎士全員です。私の、騎士王としての大号令を発令しましたから。国を空にするつもりで魔王様に助力しろと、全員には通達しています。負傷していない動ける騎士、約五万はいつでも動けます」

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