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 沖田はとても緊張していたけど、慶次は全くの逆だったな。

 二人を足して割ったら、丁度良かったのに。


 沖田と慶次は、秀吉との交渉で直接対決をするという事を決定事項として持ち帰ってきた。

 沖田はそれに関して、勝手に決めてしまって申し訳ないといった感じだったが、慶次は逆に決めてきてやったぞ的な雰囲気だった。

 沖田が緊張するのは分かるんだよ。

 それって会社での大きな事案の最終決定を、主任クラスの人間が勝手にしちゃったようなものだし。

 持ち帰ろうにもそれが出来ない。

 だから最善の策を、彼なりに決めたという事なのだろう。

 もしこれが仕事だったなら、沖田は叱られていたかもしれない。

 でも僕は、彼を怒らなかった。

 だって逆の立場になったら、頭が真っ白になりながら同じような選択をしていたと思うから。

 しかも下手な選択をすれば、殺されるかもしれないという恐怖もあっただろう。

 ・・・この二人に限って、それは無いかも。

 それを差し置いても、沖田が悩み抜いた苦渋の選択と考えれば、僕に彼を叱ろうという気持ちは全く無かった。


 逆に慶次の場合は、ちょっとイラッとしている。

 お前は何故、決めてきてやったぞというような、ちょっと偉そうなスタイルなんだ?

 俺達、決戦するの決めたから。

 これ、決定事項だから。

 シクヨロ!

 みたいな感じの態度が、慶次である。

 少しは申し訳無さそうな態度を取れよ。

 別に決めちゃったのは仕方ないとしても、その態度はどうなのよ。

 せめてポーズだけでも、そういうところを見せてほしかった。


 ただ僕は、この決戦というのはスタイル、ちょっと気になっている。

 どうして秀吉は、わざわざそんな事を言ってきたんだろう?

 いつものように暗躍しながら活動した方が、絶対に僕達に与えるダメージは大きいと思うんだよね。

 向こうもそれを選ばざるを得ない事情が、何かあるんじゃない?

 なんて勘繰った考えを持つのは、僕がひねくれてるからなのかな。

 何にせよ、これは決定事項なのである。

 残り一ヶ月、悔いの無いように準備をしよう。








 肩透かしを食らった?

 慶次と沖田は、自分達が勝手に決定してしまったのが気まずいからか、早々に特訓でもしようという考えだったみたいだ。

 でも官兵衛は、それに待ったをかけた。

 まずは休養。

 沖田と慶次はあの秀吉達が居る大坂城へ、たった二人で乗り込んだのである。

 身体的な疲れは無くても、精神的には疲れているはず。

 そんな状態で身体を動かしても、下手をすれば怪我をするだけだ。



「二人とも、まずはゆっくり休みなさい。身体を動かすなら明日明後日からでも、問題無いじゃない」


「しかし」


「責任感があるのは良いと思う。でも今後の事を考えるなら、無理して今からやる必要は無いからね」


 僕は優しく諭すように沖田に言ったところ、納得してくれたようで引き下がってくれた。

 だが慶次は、そんな沖田を見てもお構いなしって感じである。



「拙者は疲れていないでござる。だからタケシ殿、ちょっと手合わせを願いたいのだが」


「え?俺?」


 だから休めと言うているのに。

 人の話を聞かないとは、腹立つなぁ。

 なんて思っていたところ、沖田がスススッと近付いてきて、僕の背後から耳打ちする。



「兄上との真剣勝負を、途中で止められてしまったんですよ。不完全燃焼だと思うので、仕方ないかもしれません」


 なるほど。

 慶次の気持ちを考えると、それで気持ちに整理がつくなら許可するのも良いか。



「俺、ちょっと休みたいんだけどなぁ」


「イッシーも休んで良いよ。だがムッちゃん、テメーは駄目だ」


「阿久野くん、ポーズ決めるねぇ」


 佐藤さんが茶化してくるが、それはそれ。



 どうして僕がムッちゃんだけは許さないのか?

 それは彼が、ほとんど活躍していないからである。

 イッシー隊が活躍していたのは聞いている。

 だがムッちゃんは、途中からトライクの後ろに乗っていて動いていなかったらしいじゃないか!

 イッシー隊の素晴らしい連携やフォーメーションに、丸腰のバカではついていけなかったのが原因と言っていたが、だったら肉壁くらいになりなさいよというのが、僕の気持ちである。

 多少撃たれたり吹き飛んだところで、死なないんだから。



「決めた。佐藤さんとムッちゃんは、慶次の相手をしてあげて」


「俺も!?二人とも素手がメインだけど、それで良いの?」


 あ・・・。

 深く考えていなかったな。

 まあ今回は、慶次の身体を動かして、モヤモヤした気持ちを発散させるのが目的だし。

 気にしなくても良いかな。



「怪我しない程度に、本気でやって良いよ」









「というわけで、今回忙しいのはコバ殿です」


 官兵衛はコバに説明する。



 もし一ヶ月で戦闘力を上げるなら、どうすれば良いか?

 それは単純に、装備を強化するに限る。

 半年や一年といった期間があれば、皆で特訓して強くなれただろう。

 でも一ヶ月、たった一ヶ月なのだ。

 一ヶ月で急に強くなれると思う?

 それが例えば成長期なのであれば、突然強くなったりするだろう。

 中学までは無名でも、高校から急に強くなる人だって居るでしょう。

 格闘技だけじゃなく、野球やスポーツでもそうだ。


 しかし敢えて言おう。

 我々は大人だ。

 むしろおっさんである。

 イッシーやロックなんか、初老と言っても良い。

 イッシーはロマンスグレーを目指しているみたいだけど、ロックはただの勘違いした若作りおっさんにしか見えない。

 そして佐藤さんやムッちゃん、太田や慶次も年齢的にはおっさんなのだ。


 おっさんがさ、急に強くなると思う?

 逆でしょ。

 ぎっくり腰で突然動けなくなる事はあっても、突然強くなるなんて無いから。

 自分を鍛えて地道に強くなっていくのは、素晴らしい事だよ。

 でも今回ばかりは、時間が無い。

 だから装備を変えるのである。



「・・・全員は無理である」


「無理な人、というよりは変えなくても良さそうな人は誰?」


「即答出来るのはイッシー。アレは使う武器が、多過ぎるのである。だから諦めた方が早い。そして今は敵である前田兄。敵を強くする理由が無い」


 イッシーは僕も、すぐに気付いていた。

 多分イッシーの武器を作っていたら、他は全員諦める他ない。

 それと又左は、敵という言い方は適切じゃないけど、新たに武器を作っても一緒に戦える保証が無い。

 彼を取り戻す気ではいる。

 だけど無傷で秀吉達と戦える状態かと聞かれたら、否と答えると思う。



「他は?」


「魔王、貴様である。ガイストが加わり、自在に操れるオリハルコン製の腕がある。問題無いであろう」


 言われてみれば、僕には必要無いな。

 むしろガイストとの連携を、もっと上手くやれるように特訓した方が良い。



「他は大丈夫?」


「大丈夫ではない。助手である高野達を奪われたのである。手が足りないのである」


「あっ!」


 忘れていた。

 三人とも今や、ハクト達のバックハンドだ。

 ロックは三人にも練習が必要だって言ってるし、本来の仕事であるコバの助手に戻れるかは分からない。



「その辺はオイラが、どうにかしたいと思っています」


「官兵衛が?」


「えぇ、コバ殿にも後で説明をしますので」


 何か含みのある言い方だけど、対応策があるのかな?

 まあ官兵衛が大丈夫だって言うなら、僕が口を出す事じゃないな。



「それでは、コバ殿。太田殿やゴリアテ殿、他の方々に希望を聞きに行きましょう」


「分かったのである」


 長谷部を含めて三人は、早速新しい武器作りの案を聞きに行った。








 夜になった。

 黒騎士が居なくなったフランジヴァルドが、取り壊されるという話を聞いた僕は、この目でそれを見ようと一人で江戸城を抜け出す。

 トライクで北上を開始すると、月明かりが綺麗でなんとなく気持ちが安らいだ。



【内緒で抜け出して良いのか?】


「良いのかって言われたら、駄目だろうね。でもさ、僕はこの目で最後のフランジヴァルドを見ておきたかったんだよね」


【気持ちは分からんでもないが】


『センチメンタルというヤツか?そんな気持ちで敵と遭遇したら、危険だぞ?』


 ガイストから諭されるとは。



 でも、センチメンタルとは違うかな。

 僕がシュバルツ家の面々を誘って、帝国から離反させたわけで。

 もし僕達について来なければ、こんな事にはならなかったんじゃないかという気持ちもある。

 多分彼等は僕のせいじゃないと言うだろう。

 でもやっぱり、こうなったという責任は僕達にあるわけで、最後のフランジヴァルドの光景を、彼等に伝えなきゃいけないという義務感のようなものがあるんだよね。



【なるほどね。彼等は縁の下の力持ちだったからなぁ。安土に何かあった時は、後方から支援してくれてたし。分からなくもない】



 さて、話をしながら走ってきたけど、そろそろフランジヴァルドが見えてくる頃だ。



【本当だ。そしてアレが、秀吉の城か】


『大坂城と呼ぶのだろう?お前達の記憶に、似たようなモノが残されているが?』


 日本にある城を、真似したんだろうね。

 でも中身は、全くの別モノらしい。

 それに決戦と言うからには、あの城を落とすというより秀吉を倒したら終わりだろう。

 奴が籠城を選択するなら、外部から攻撃をするだけ。

 多分それは向こうも分かってるから、打って出てくるはずだよ。



【そうか。ちなみにその秀吉という人物、さっきからあの街の近くに居て、こちらを見ているのだが】


「え?」


「久しぶりですね」


「うわっ!」


 ガイストから指摘された直後、秀吉が後部座席に突然現れる。

 急ブレーキを掛けると、秀吉は飛び降りた。



「危ないですね」


「秀吉!・・・ん?本当に老けた?」


 僕の言葉に、秀吉の眉がピクリと動く。

 指摘されたくなかった?



「魔王様に対抗するべく、威厳を出す為に姿を変えたんですよ」


「なるほど。威厳を出さないと、皆はついて来ないと?」


「揚げ足を取らないで下さい」


 ちょっと嫌み過ぎたかな。

 でもこれくらいは言っても、怒られないはず。

 むしろ僕が受けた被害を考えれば、全然優しい方だ。



「この場で戦うか?」


「せっかく日取りを決めたのですから、やめておきますよ。それに今は、まだ勝てないと思いますし」


「今はまだ・・・ね」


 一ヶ月後なら、僕に勝てるという言い方だ。

 しかし僕も、コイツの魔法の秘密が、完全に解けたわけじゃない。

 今は五分といったところだろう。



「ところで、一人でどうしてこんな所に?」


「フランジヴァルドの最後を見に来たんだよ。お前に壊されるって聞いたから」


「そうですか。沖田殿と慶次殿から、話は聞いていますか?」


「ある程度はね。ただ、詳しく分からないところもあるけど。開始時間や戦闘範囲、援軍の有無とかね」








「では、今から細かいところを詰めていきませんか?このまま有耶無耶にして始めても、後から互いに不平不満は出るでしょう。これ以上は無いくらいに話をしておけば、文句の言いようも無いはずです」

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