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 うーん、色々と自分勝手というか何と言うか。


 沖田と慶次は、停戦の提案を飲んだ。

 被害は少ないに越した事は無い。

 だから停戦は、悪い提案ではないと思っている。

 でもさ、そもそも攻撃というか、反旗を翻したのは秀吉なんだよね。

 僕達に関する記憶を封印して孤立させ、仲間だった人達を使って僕達に攻撃をさせた。

 仲間である権六やベティ、そしてマッツン達を何処かへ追いやり、騎士王国で再び内乱を起こした。

 しかも厄介な事に、秀吉の配下はまだ温存されているのだ。

 なのにここに来て、停戦をしてくれと言う。

 普通なら何か裏があるんじゃないかと、勘繰るよね。


 例えば停戦協定が成立したにも関わらず、裏で攻撃してくるとか。

 それこそ僕達の目の届かない地底から、何処かの国に攻撃してきたり。

 一番可能性が高いのは、多分騎士王国なんだろうけど。

 越前国も候補には入るが、雪が多いあの土地を地底から攻めても、出てくるまでが大変な気がするから、ちょっと無いかなと思ったりしている。

 まあ停戦協定を破れば、それだけ人としての価値が下がる気もするから、それはそれでリスクは大きい。

 帝国や他の国から、コイツは約束を守らない人物だなと思われれば、様々な交渉で支障をきたすだろうし。

 ちなみに逆も、また然りなんだよね。

 慶次達が停戦を飲んだとしても、それにお市や他の領主が納得するかと言われたら、どうかって話もある。

 領主を奪われた妖怪に、上野国を全壊させられたドワーフ。

 阿吽の二人に重傷を負わせ、戦力が大幅にダウンさせられた妖精と、秀吉への恨みは皆かなり大きい。

 僕だって安土が更地にさせられてる。

 あそこまでまた大きな街にするのに、どれだけの時間と労力が掛かるのか。


 そして問題なのは、停戦協定を結んでも納得せずに、他の領主達が秀吉に攻撃を仕掛けないとも言い切れない。

 そもそも停戦協定は慶次達が、魔王の代理として結んだとしても、他の領主には関係無いと言われたらそれまでなのだ。

 でももしそうなったら、僕達の監督不行届という感じで、責任を追及されるだろう。

 何にせよこの停戦、一筋縄では行かない気がする。








 面と向かって、アンタ老けたよね。

 相手が子供なら、多少言い方は変えられる。

 大人っぽくなったねとか、立派になったとか。

 でも大人になると、その言い回しが難しい。

 慶次はそんな遠回しな言い回しが思い浮かばず、おもいきり失礼な言い方をした。



「慶次殿!」


 石田や又左達の雰囲気が、明らかに殺気立っている。

 主君を馬鹿にされたのだから、そうなるのもおかしくない。

 沖田は咄嗟に爪を伸ばしたが、秀吉が右手を軽く上げると三人の刺々しい雰囲気が柔らかくなっていく。



「ハッハッハ!どうだ?髭と顔のシワが増えて、貫禄が出ただろう?白髪も目立つしな」


「どうしてそんなに、老け込んだでござるか?」


「なあに、私もこれからは威厳を出さないといけないからな。だからわざと、見た目を変えたのだよ」


「なんと!魔王様と同じく、姿を変えられると言うんですか!?」


 沖田は心底驚いた。

 かつて魔王から、魂の欠片を使って姿を変えるというのは見せてもらった事がある。

 だがそれと同じ芸当を、秀吉が使ったのだ。

 それは秀吉が、魔王と肩を並べていると言っても、過言ではなかった。



「そのような反応を見せてくれて、やり甲斐はあったかな。では本題に入ろう」


「停戦の件でござるな」


「そうだ。と言っても、正確には停戦の交渉ではない」


 沖田は三人に目をやる。

 停戦の話ではないのなら、騙されたのではないか?

 誰かが突然何かを仕掛けてくるのではと、警戒する。

 それを察した秀吉は、沖田にこう言った。



「大丈夫だ。今はまだ、何かしようとは思っていない」


「今はと言うのなら、この交渉が終わったらやるという事ですか?」


「違う。私が提案するのは、魔王軍と私達の決戦だ」


「決戦?それは、今までと何が違うのですか?」


 沖田は疑問に思った。

 そもそも秀吉達は、裏で動いた方が得策なはず。

 ボブハガーの件でも、協力している騎士王国の力を削いでいるし、わざわざ大々的に決戦と称して戦う必要性があるのか?

 それに対して秀吉は、沖田の疑問に答える。



「そうだな。もう力を隠す必要が無くなったと言うべきか。それにそちらとしても、直接戦った方が都合が良いと思うのだが」


 勘繰る沖田に対し、提案を跳ね除けても良いと言う秀吉。

 逆にそう言われると断る理由が無い沖田は、答えに詰まってしまう。



「うーん。私達だけでは、決めかねるレベルなんですけど」


「私からの提案としては、一ヶ月後。一ヶ月後にこの地で戦う。それまでは他国にもお前達にも、一切の干渉はしないと約束する」


「他国にも・・・」


 連合はリュミエールが居る事で、アンタッチャブルである。

 だが騎士王国だけでなく、帝国や王国側にも何もしないというのは、かなり大きい。

 帝国はまだしも、王国は利を取って秀吉と繋がる可能性があったからだ。



「どうかな?」


「分かったでござる」


「慶次殿!?」


 勝手に返答をする慶次。

 沖田はそれに異論を唱えるが、慶次の一言で彼は黙る。



「どちらにしろ、断れば拙者達の命は無い。魔王様なら許してくれるでござるよ」


「官兵衛殿は?」


「・・・」


 官兵衛は許してくれないかもしれない。

 慶次は目を泳がせたが、既に返答済みである。

 しかし停戦を飲んだ事で、予想外の言葉も返ってきた。



「そういえばフランジヴァルドの住民の大半は脱出したようだが、まだ残っている連中も居たはずだ。彼等を脱出させよう」


「え?」


「黒騎士と呼ばれる一部の連中だ。一矢報いる為のようだが、彼等が牙を剥いても無駄死にするだけだろう。連れて帰ると良い」


 沖田も慶次も知らなかった事実に、二人は顔を見合わせて驚く。


 そして秀吉は、再度強く言う。



「一ヶ月後だ。一ヶ月後に、この地で待つ。黒騎士を連れて行ったら、戦場を広げる為にフランジヴァルドも消滅させる予定だ。良いな?」









 不安を残しつつ、秀吉との交渉を終えた沖田と慶次。

 二人はイッシー隊と合流すると、フランジヴァルドへ向かった。

 それを見送った秀吉は、突然呼吸が荒くなる。



「ハァハァ!気付かれていないな?」


「問題無いと思われます」


 石田が秀吉に近寄り、水を手渡す。

 喉を潤した秀吉は、椅子に深く腰掛けて大きく息を吐いた。



「まさか、このタイミングで迫ってくるとは」


「魔王との決戦の準備に、間に合いませんでしたね」


「だが、大坂城は完成している。加藤と藤堂、そしてMが居れば問題無い」


「今はプロフェッサーでしたか?」


「コロコロと変えるから、もう覚えていない。M博士で良いだろう」


 現代兵器を作るコバのライバル。

 彼は名前や呼称をしょっちゅう変える為、秀吉達も既に諦めていた。



「しかし、一ヶ月後で大丈夫なのですか?」


 心配そうに石田が言うと、蜂須賀も同じように心配して見ている。

 秀吉の顔だけでなく、手もシワだらけになっている。

 もう一口水を飲んだ秀吉は、石田の問いに答えた。



「タイムリミットは二ヶ月。いや、一ヶ月半だろう。それを過ぎると、この身体は崩壊する」


「代わりの身体では駄目なんですか?」


「この術は、そう簡単には使用出来ない。一度乗り換えたら、寿命の直前までもう使えないのだ」


「秀吉様がこの身体に乗り換えて、もう20年近く。たまたま近くに居た中年の男を選びましたが、ある意味運が良かったですな」


「運が良かった?」


 蜂須賀の言葉に、秀吉以外の者は首を傾げる。

 その理由を二人は口にしないが、それでも石田達は納得している。



「先に言っておく。この身体は限界だ。私が魔王と戦うまで、堪えられるかどうかと言うレベルにある。だからお前達は、私と魔王が戦えるようにセッティングするのだ」


「分かりました。この場に居ない、加藤と藤堂には伝えますか?」


「彼等には違う仕事を頼んでいる。M博士と一緒に、遠く離れた場所で最終調整中だ」


 秀吉は疲れた様子で上を向く。

 アレだけの交渉で、精神的な疲れを感じていた。



「嫌だな。身体に精神が引っ張られるというか。たった少し気を張って話をしただけで、もう疲れを感じるんだから」


「そうなんですか?でも逆に言えば、若い身体になった時は気持ちも若返るんですか?」


 石田の素朴な疑問に、秀吉は笑う。



「ハッハッハ!俺は気持ちだけは、若いままのつもりだよ。でもどうなんだろう?そうなのかもしれない」


「気持ちだけは若いって。その言葉、うちの会社の課長とかが言ってましたけどね。若い社員からは、苦笑いしか出ませんでしたよ」


「・・・気を付ける」


 唯一ヒト族であり召喚者である石田は、かつての日本時代を懐古する。

 その言葉を聞いた秀吉は、真顔で石田の忠告を受け入れた。










 沖田と慶次、そして黒騎士を乗せて江戸城に戻ってきたイッシー隊。

 慶次と沖田は到着すると、すぐに魔王の下へと急行する。



「勝手に決めてしまい、申し訳ありません」


「いや、秀吉を前にして無事に戻ってきただけ、良かったと思ってるよ」


 権六やマッツン達のように、二人を何処かへ飛ばす事も可能だったと思う。

 最悪の場合、命だって奪えただろう。

 それを考えると、全然良い。


 だけど、それは僕だけかもしれない。

 恐る恐る官兵衛の方を見た僕は、その官兵衛と目が合ってしまう。



「い、良いんだよね?」


 作り笑いをしながら尋ねると、官兵衛も同じような顔をしてくる。

 もしかして、怒ってたりして・・・。



「ダメです!」


「マジかぁ・・・」


「とは言いませんよ」


 イタズラっぽい笑顔で、こっちに言ってくる官兵衛。

 どうやら最悪の展開ではないらしい。



「最善ではないですが、最悪ではないですね」


「最善は?」


「彼等の企みが、完全に把握出来る事。まあそれは、猫田殿が向こうに居る時点で難しいとは思ってました」


 影魔法の使い手で、スパイ活動の専門家とも言える猫田さん改め蜂須賀。

 彼が本気で動けば、沖田や慶次の行動も読まれていたに違いない。



「ちなみに最悪は、二人が死ぬ事でした。何の情報も得られず、戦力である二人が死ぬ。洗脳されるよりも最悪です」


 洗脳は僕が解ける可能性はある。

 でも死んだら、アンデッドとして敵の戦力に組み込まれただろう。



「じゃあ拙者達が締結した停戦協定は、無駄じゃなかったでござるか?」


「そうですね。むしろ最善寄りに近い結果です」


「おぉ!」


 沖田と慶次が安堵すると、二人は握手を交わす。

 最高の仕事をしたと言っても良いだろう。



「それで拙者達は、一ヶ月後までに何をするでござるか?」







「まず皆さんは休養ですかね。代わりにコバ殿には、ここから忙しく働いてもらう事になりそうです。個々の戦力の底上げに、アンデッドに対抗する為の、ハクト殿とマリー殿の活躍は不可欠。二人とロック殿達にも、これから頑張ってもらいます」

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