砦攻略3
久々の俺の出番!
ここは皆に、キャプテンの存在を知らしめてやるぜ!
と思ったのも束の間。
半兵衛から、さっさと大木を何とかしてくれと言われてしまった。
浪漫の分からない男だな。
言われた通りに狙ったが、なかなかすんなりとはいかなかった。
太過ぎて一度では処理し切れなかったり、流れが速くて外したり。
危険という程では無かったが、面倒ではあった。
全ての大木が城壁から外れ、俺の出番は終わった。
いよいよ打って出る。
少し門が開かない等のトラブルに見舞われたが、大きな支障は無かった。
砦へと辿り着き、川に向かって橋を作る。
大量の水分を含んだ土は、土台としては緩くて橋を架けるのに苦労した。
橋が掛け終わると、いよいよ後方で待機していたドワーフやネズミ族達の出番だ。
大槌を振るい門の破壊を試みるドワーフ達。
その後ろでは、ドワーフを狙う敵を牽制するネズミ族。
最後に門を前田兄弟がトライクでブチ抜き、中へと雪崩れ込んで行った。
秀吉を探す。
人数で劣る此方の目的は、敵の全滅ではなく秀吉の救出だ。
各自が自分達のやる事を行っていると、思わぬ敵の逆襲に遭った。
ドワーフ達のまとめ役、ドランが負傷したのだった。
伝令係が言った先で、二階から爆発音が聞こえた。
「前田兄弟はどうした?」
「今は先行し過ぎて、孤立しております」
マズイな。
うちの火力トップクラスの二人がやられたら、徐々に押し返されるだろう。
何か手を打たないと。
「何故、ドラン様がやられたのでしょう?」
「部隊長が出てきたとか?」
「いえ、急に敵が強くなったのです。その剣は重く、鋭くなった剣撃に混乱しまして」
敵が急に強くなった?
誘導する為に手を抜かれていたのか?
それとも、二階の敵は精鋭なのか?
「同じ敵が急に強くなったと?」
「そうです」
「支援魔法ですね」
「あ!なるほどね。相手の魔法使いに支援魔法が使えるのが居るって事か」
ん?
これって結構凄くないか?
数人が強くなるだけなら分かる。
でも何十人単位となると、相当な支援魔法だぞ。
「敵の中にグレゴルが居ます」
「グレゴル?誰ソイツ?」
「ネズミ族の魔法使いで、三本の指に入る強者です。主に支援魔法が得意な者ですが、かなり強力な魔力を持っております。まさか敵側に居たとは」
マジかー。
他の二本も敵で居たら、厄介だぞ。
「しかし、おそらくはグレゴルだけですね。もし他の二人も敵ならば、グレゴルがその二人に支援魔法を掛けているはずですから」
そりゃそうだ。
支援魔法で強者を更に強くした方が、その辺の連中を強くするより早い。
何十人もの一を二倍にするよりも、二人の百を二倍にした方が、効率は良いしね。
特にこのような、建物内という狭い場所なら。
「どうするの?僕達も前田さん達を助けに行く?」
「まずはお二人を助けに行きましょう。あの二人が負けたら、この作戦は破綻します。必ず助け出します」
半兵衛が言い切るくらいだ。
これはかなりマズイ状況なのだろう。
「上へ行こう。孤立しているなら、早く合流しないと!」
「グレゴル様!二階へと敵が上がってまいりました」
報告を聞くと、その伝令役に向かって怒鳴りつけた。
「何故もっと早く気付かなかった!貴様等がノロノロとしているから、後手に回るんじゃないか!」
お前が氾濫した水を、全員でどうにかしろって言ったんだろうが。
などとは、思っても口にしてはいけない。
どうせまた、癇癪を起こすのだから。
その敵は、三階である此処からも確認が出来た。
「獣人!?ドワーフとネズミ族が手を組んだだけではなく、犬の獣人まで参加しているのか!?」
「あの二人だけは別格に強いです。しかしその後ろのドワーフ達は、敏捷性に劣っているので分断が可能かと思われます」
「ほぅ?」
グレゴルの横に控えていた男が、助言をする。
その言葉に、グレゴルはいやらしい笑みを浮かべた。
「あの二人の始末は後だ。まずはドワーフ達をどうにかしよう」
「どうされるので?」
「二階に居る連中全員に、支援魔法を掛ける。そしてあの二人だけをわざと先行させ、孤立させよう」
言い終えたグレゴルは、下の階に向かって手を翳して詠唱を始めた。
「支援魔法、剛力!快速!強固!」
辺り全体が光り、下の階から声が上がる。
「身体が軽い!行けるぞ!」
「お前達。ドワーフ共を押し返せ!獣人二人は後回しでよい!」
三階からの声に反応する兵達。
その声に応じて、一気にドワーフ達は上がってきた階段の方へと押し戻された。
「ふむ。これなら問題無いな。後はあの二人をどう嬲るかだ」
前田兄弟を見下ろし、どう料理するか考えていた。
ドワーフ達は負傷者を出し、その勢いは目に見えて衰えている。
時間の問題だと判断し、グレゴルは再び椅子へと座った。
「さっさと皆殺しにしろ。問題が起きたとバレたら、お前達も始末されるかもしれんぞ?」
命令を下した後、彼は一息吐いた。
「ええい!慶次達が危ない!早く前へ進むぞ!」
ドランが焦り、前へ出ようとした。
そこへ先程とは比べ物にならない敵兵の剣撃が、ドランを襲う。
「うっ!」
慌てて鎚で防ごうとしたものの、数分前とは違う速さの刃に、彼の肩は血に染まる事になった。
「ドラン様!」
「心配要らん!致命傷ではない。しかし・・・」
慶次達の救援には向かえない。
そう続く言葉は出せなかった。
口に出したら、本当に助けられないと思ったから。
「お前達!ワシの事はもう良い。慶次達の救援に向かえ!ワシは足手まといにならんように下がる」
自分が居ても邪魔なだけ。
そう理解したドランは、自ら下がる事を決意した。
その時、下から上がってくる人影があった。
「ドラン様!」
「半兵衛か。すまない。功を焦ったようだ」
「又左と慶次はどうなった!?」
「二人は前線で孤立しております。我等が遅いばかりに・・・」
唇を震わせながら、悔しさを押し殺していた。
しかし撹乱を命じたのは僕等だ。
ドランは悪くない。
「あの二人の強さなら大丈夫だ。半兵衛がこの後の指揮を引き受ける。お前は下に行って手当てしてもらえ」
「面目ありません」
一言謝って降りていくドラン。
さて、この後はどうしたものか。
「兄上!後ろが塞がれました!」
「何!?ドラン殿達は無事か?」
「おそらくは大丈夫かと。多分兄上と二人、分断するのが目的のようです」
慶次の判断は間違っていない。
大きな戦力を孤立させて、疲弊させるのが目的だからだ。
「急に敵が強くなったのは、この為か。だが!」
長槍を振り回して、近くに居た敵を吹き飛ばした。
「この程度の敵ならば、我等の敵ではない!」
慶次も同じように又左の背を守り、襲い来る敵を刺し殺していった。
「ハッハッハ!我等兄弟、このような所でやられはせんわ!」
「その通り!」
自分達の仕事は撹乱。
ならばこのまま敵を倒すのみ。
そう考えて、とにかく目の前の敵を殺す事のみに集中していった。
「笑い声が聞こえるんだが・・・」
「まだ余裕がありそうですね」
しかし、体力がいつ切れるか分からない。
流石にいつまでも笑いながら四方を囲まれていられないだろう。
一点突破しないといけないんだけど、僕等も残りの魔力が怪しい。
倒すのは難しくないが、やはりそのグレゴルって奴の事を考えると、使うのはまだ危険だと思う。
「俺の事忘れてない?」
「え?」
振り返ると、その人は居心地悪そうに立っていた。
「俺さ〜、何の指示も与えられなかったから、ずっと後方の守りをしていたんだけど」
「佐藤さん!」
めちゃくちゃ忘れてた!
えがったぁぁぁ!!って号泣してから、あまり近寄りたくないと思って避けてたんだった。
「途中で蘭丸くんに会ってね。上が大変そうだから、手伝ってやってくれって。そしたらドランさんが怪我して降りてくるし、俺もやらないとって思って」
「ナイスタイミングですよ!」
「この方は?」
半兵衛は自己紹介してないんだっけか。
まあ名前とかは後でいいや。
「又左と同等の強さを持つ人だ。このまま前田兄弟の所まで、穴を開けてもらう!」
「それは凄い!先に分かっていれば、もっとやりようがあった気もしますが」
それは言わないでくれ。
この人が鼻水垂らしながら号泣して、僕を天井に叩きつけなければ、こんな事にはならなかったんだ。
「時間が惜しい。ハクトも佐藤さんに、支援魔法を掛けてくれ」
「分かった!」
ハクトの支援魔法で、佐藤さんも身体が軽くなったはず。
「これは凄い。魔法ってこんな感じなんだな。手足がいつもより軽い。これなら!」
軽くステップを踏んだ後、一気に前進していく佐藤さん。
ワンツーのみでどんどんと敵を吹き飛ばして行った。
「あの方は素手で戦われるんですか!?」
「一応手甲はしているけど、拳で戦う人だよ。アレでも長槍を掻い潜って、又左の腹をぶっ叩いて骨を折った事もあるから」
「そ、そんなに強い方なんですか!?魔王様。そういう方は早く紹介していただきたかったですね」
それを言われると、謝るしかない。
でも、嬉しい誤算になったから良いじゃない?
「阿久野くん。見えたよ」
「速いなぁ」
今では僕じゃ、佐藤さんのジャブは見えない。
パンパン音を立てながら、敵兵の首が後ろへ吹っ飛んでいく。
「前田さ〜ん!」
「ん?佐藤殿か!?」
「兄上。あの方、強くないですか?」
「強いぞ!私の好敵手だ!」
「なんと!?」
あまり緊張感が無い再開だな。
自分達が危険だと分かっていたんだよね?
そう疑いたくなるくらいだった。
「合流したは良いけど、この後は?」
それは僕も気になった。
撹乱という事だったが、まだ此処に居座った方が良いのか?
「いえ、前進しましょう。このまま三階へ上がります」
「大丈夫か?六人しか居ないけど」
「むしろ佐藤殿が来てくれたので、大幅に戦力が上がりました。このままグレゴルを倒した方が、皆の危険が無くなります」
あの支援魔法は厄介だ。
ドランが斬られたくらいだし、こんなのが増えたら下の階に残っている連中も危ない。
「俺、役に立ってる?」
「めっちゃ立ってますよ。来てくれなかったら、前田兄弟がちょっと危なかったかもしれないくらい」
「それは駄目だ!せっかく仲直りしたんだから、二人はもっとお互いを理解していかないと」
キミは何処の小姑かな?
本人は仲の良い兄が、弟と仲直りしたのが嬉しいんだろうけど。
あまり干渉し過ぎるのも、どうかと思うよ。
二人が良ければ、問題無いんだろうけど。
「とりあえず、このまま三階へ行っちゃおう」
「三階の敵は少ないですね」
「確かに。でも構えに隙が無い連中も居る」
「精鋭って事ですか?」
前田兄弟と佐藤さんの会話から、敵は下の連中よりも強いと分かった。
正直、構えなんか見たって僕には分からんのだが。
魔力量で判断なら出来るんだけど。
「貴様等!先へは行かさんぞ!」
「先へは行かさない。という事は、この先に重要な人物が居るという事でしょう」
半兵衛は相手の言葉から、冷静に読み取っている。
まあ、ご丁寧に行かさんぞなんて言われれば、僕でも分かるけど。
でも、どっちが居るかは分からない。
「先に居るのは・・・藤吉郎様。ではなく、グレゴルのジジイっぽいかな?」
「小童が!グレゴル様に対して!」
あ〜、なんとなく扱いやすい人っぽいな。
説明係ありがとう。
「慶次。やっちゃっていいよ」
「承知!何!?」
慶次の槍が防がれた!
相手も槍を持っているが、そんなに強そうには見えないのに。
「支援魔法か!」
「クックック!ガキが大人を舐めるとどうなるか、思い知るが良い!」
慶次の槍が手から離れた。
どうやら力で持っていかれたらしい。
「二人も無手で相手出来るほど、俺達は弱くないぞ」
佐藤さんも素手だから、二人手ぶらだと思われているみたいだ。
この人はコレが凶器なので、心配は無いんだけど。
でも慶次はマズイ。
素手で戦えるような奴じゃないし、相手も槍を弾き飛ばすくらい強い。
「クソッ!此処まで来て、また足手まといになるなんて・・・」
「慶次!コレを使え!」