ヘカトンケイルの攻撃
アナタは自分の評価が気になるタイプですか?
慶次はヘカトンケイルが持っていたリストに、自分が要警戒ではなく要注意に入っていた事に憤慨した。
しかしリストには又左も要注意だった事から、慶次は兄と同じという理由だけで満更でもないといった感じになった。
しかしこのリスト、後々に話題になったんだよね。
秀吉が僕達に対して、どんな評価を下しているのか分かる一端でもあったから。
要警戒リストに僕が一番書かれているのは、魔王だから当然だろう。
しかし二番手と三番手が、官兵衛とハクトである。
これには少し驚きを感じた。
だってこの二人、強さで言ったら下の方だからね。
官兵衛は別として、ハクトより弱いかなって思えるのは、ロックくらいかな。
そのロックも実力を隠していたから、本当のところはどうだか分からないし。
もしかしたら戦える中では、一番弱いかもしれない。
それでも要警戒の三番手に居る。
この二人が僕の次に載っていたという事から、秀吉は単純な強さよりも、どれだけ厄介かという点を重視しているんだろう。
その最たる例が、官兵衛になる。
本人が弱くても、周囲をどれだけ適材適所に送り込めるか。
そして彼が考える策が、秀吉にとってどれだけ脅威であるか。
ハクトも同様の理由だと思われる。
やはり食事や回復魔法、後方支援という意味では、彼が一番優れている。
どれだけ負傷者を増やしても、ハクトの回復で前線復帰されると考えれば、叩かなくてはいけない存在になる。
沖田が要警戒なのは、単純な戦闘力以外に偵察任務もこなしているからかもしれない。
ただし、一人だけ理由が不明な者が居る。
それが太田だ。
アイツが強いのは知っているけど、又左が太田に劣るかと言われたら、そうじゃないと思うし。
自称魔王の片腕の二人が、要警戒と要注意に分かれた。
コレはかなり色々な議論が交わされたけど、明確な理由は分からないままである。
そして僕達は、こういう結論に至った。
太田は暴走してそのまま放置すれば、自爆するから危ないんだろうなと。
慶次の両腕から放たれた槍は、大きくしなりながらヘカトンケイルの左肩と右脇腹へ向かっていく。
それを読んだヘカトンケイルだったが、槍は更に動いた。
慶次が防がれないように、手首を少し捻ったのだ。
しかしそれがアダとなった。
「は、外した!?」
「危なかった・・・」
慶次の槍は一本は肩に向かっていったが、もう一本は地面に向かって急降下してしまった。
何故、慶次は外してしまったのか?
それは単純に、槍の二本持ちをした経験が少なく、軌道が読みきれなかったのが大きい。
そしてもう一点は、伸びる槍を片手で持つのは、腕に大きな負荷が掛かり、それに耐えられなかった為に腕が下がったのが原因でもあった。
「安心するのはまだ早いですよ!」
槍に集中していたヘカトンケイルの視界から消えていた沖田は、背後に回っていた。
下から跳ね上げるように左腕の一本を斬り落とそうと狙ったところ、頭の一つと目が合う。
即座に反応したヘカトンケイルは、もう一本の左手の剣を斜めにすると、沖田の剣を受け流した。
「まだまだ!」
その場で足を止めた沖田。
尋常ではないスピードで何度も斬りかかるが、四本の剣による鉄壁のガードを崩せない。
逆にヘカトンケイルに反撃され、その怪力でピンボールのように弾き飛ばされる。
「脱出しろ沖田!」
慶次が槍を伸ばし、沖田の後退を援護する。
しかし沖田はそれを逆手に取り、ヘカトンケイルの剣を受けた直後に自ら回転した。
すかさず左手で鞘を持つと、回転の勢いのままヘカトンケイルの足へ鞘を叩きつける。
「ぐおっ!」
「効いてる!慶次殿!」
ヘカトンケイルは一瞬怯んだが、その手は止まらない。
慶次の次の攻撃で、ヘカトンケイルの間合いから脱出した沖田は、身体中から鈍い痛みが走った。
「アザ?」
袖を捲った沖田は、自分の身体が防いだはずのヘカトンケイルの剣によって、アザだらけにされていた事に気付く。
剣も刃こぼれを起こし、斬るのは難しいと判断する。
「大丈夫でござるか?」
「身体中が痛いですよ。でも、動けない程じゃないです」
慶次は沖田を気遣うと、ヘカトンケイルが動く。
ゆっくりと階段に向かって歩いていく、ヘカトンケイル。
するとまた違う箇所を蹴り飛ばし、今度は別の場所が開いた。
「近付かれると厄介だな」
中から取り出したのは、ヘカトンケイルの手に合わせた球。
二人はそれに見覚えがあった。
鉄球かどうかは不明だが、二人はそれを見て冷や汗を流す。
「沖田、どう思う?」
「魔王様と比べると、かなり大きいですよね。ただ、大きくても速くなければ、当たるものも当たりませんよ」
「もし同じ速さなら・・・」
二人の間に緊張が張り詰める。
「食らえ!」
ヘカトンケイルの右手が、バレーボールサイズの球を投げてきた。
「速い!」
「でも下手でござる」
ヘカトンケイルの投げた球は、二人のはるか右斜め上へと飛んでいく。
狙ってあそこに投げたのか?
最初はそう思った二人だが、悔しがるヘカトンケイルを見て、そうじゃないと判断した。
「これなら怖くないで・・・えぇぇぇ!!?」
二人がヘカトンケイルの球は、脅威ではないと思った矢先だった。
後方から爆発音が聞こえ振り返ると、そこには壁に当たり大きな穴が空いていた。
「い、威力は魔王様と同等でござるな」
「でもこのコントロールなら、当たりませんよ。だから接近戦もぉぉぉぉ!!」
鉄球が雨あられと言わんばかりに飛んでくる。
ノーコンとはいえ、一撃で壁を破壊する威力と大きさには、二人も余裕では居られない。
「バカにするなよ!」
二人に馬鹿にされていたのを理解したヘカトンケイルは、四つの手で子供がおもちゃを投げつけるように、ひたすら球を投げつけまくる。
「これはマズイでござるな」
「近付く余裕が無いですよ!」
「沖田でも無理でござるか?」
無理ではない!
と言いたかった沖田だが、無理だった。
もしこれが魔王であったなら、話は別だっただろう。
魔王が同じように球を大量に投げてきても、沖田は躱せるという自信はあった。
それは魔王のコントロールの良さにある。
的確に素早く、狙った場所に投げる魔王であれば、沖田は投げてくる場所などを読む事が出来るからだ。
しかしヘカトンケイルは違う。
狙った場所に投げられないからこそ、沖田でも狙いが読み取れないのだ。
下手な鉄砲も、数撃てば当たる。
このやり方では技術もへったくれも無いので、飛んでくるのを見てから避けるしかなかった。
「どうしましょうか」
「あの鉄球が尽きるまで、避け続けるか。それとも鉄球を掻い潜って近付き、接近戦で攻撃を仕掛けるか。どちらかでござるな」
「アレだけずっと投げて、投げ疲れてくれませんかね?」
「甘い考えでござる」
「じゃあ、こういうのはどうでしょう?」
沖田は真横に走り始める。
するとヘカトンケイルの顔の一つが、沖田の行方を追う。
慶次は沖田の意図に気付いた。
「なるほど。二手に分かれれば、手数も半分に減るという事でござるか」
慶次は一気に、余裕が生まれた。
今までは四本の腕を使って投げていたのが、二本に減ったからである。
勿論残りの半分は、沖田を狙っている。
しかし鉄球の豪雨が小雨に変わり、こちらもすっかり余裕が出来ていた。
「やっぱり二手に分かれるか。だったらこれはどうかな?」
「まだあるのでござるか」
心底うんざりした顔で言う慶次。
だがそれは顔だけで、頭から下はそうは言っていない。
腕を大きく引き、一気に前へ突き出した慶次。
反撃を受けたヘカトンケイルは、剣を持っていない為、回避するしか方法が無い。
一度動けば、そこからは早かった。
「覚悟!」
階段から離れたなら、鉄球を補充するのは不可能。
沖田は慶次が作った隙を見逃さず、一気にヘカトンケイルへと走り込む。
刃こぼれをした剣では、斬ってもダメージは半減する。
その為沖田の手は、一つに絞られた。
「っつう!だけど、我慢出来なくはない!」
「片腕を犠牲に!?」
ヘカトンケイルは読んでいた。
刃こぼれをした剣で攻撃するなら、突きしかないと。
沖田が急所を狙ってくると思ったヘカトンケイルは、心臓や喉、頭等、仕留めるならここだという箇所を腕で守ったのだった。
剣が刺さった腕に力を込めると、沖田は剣が抜けなくなる。
「しまった!」
「逃がさない!」
剣を引き抜こうとしたのが、失敗だった。
一瞬離れるのを躊躇したせいで、ヘカトンケイルに捕まる沖田。
すると掴んだ沖田をそのまま、地面へと叩きつける。
「沖田ぁ!」
すぐさま槍を伸ばす慶次だが、ヘカトンケイルは沖田を盾にしようと前へ突き出した。
「甘いわ!」
手首を捻り上手く沖田を回避すると、そのまま穂先はヘカトンケイルに向かっていく。
「ぐうぅ!」
「逃げられるか!?」
慶次の狙い通り、沖田を掴んでいた右腕の肩に槍が刺さる。
ヘカトンケイルの腕が少し緩むと、沖田は身体を揺らして刺さった槍を蹴った。
「があぁぁ!!」
槍が横に大きく動き、肩が抉れるヘカトンケイル。
沖田はその手からするりと抜け出し、慶次の方へと逃げ延びた。
「怪我は?」
「だ、大丈夫です」
慶次は肩で息をする沖田を見て、痩せ我慢だとすぐに理解する。
「あとは拙者に任せて、沖田は休んでいるでござる」
「駄目ですよ。まだ油断出来ませんから」
「しかしだな!沖田、どうした?」
沖田がヘカトンケイルを見て、目を細めている。
何か変わった点でも見つけたのか。
慶次も注目して見てみると、目を見開いた。
「なっ!?まさか・・・」
「やっぱりちょっと違いますよね?」
「勘違いだと思いたいが、まず間違いないでござる」
沖田が気付き、慶次が心配している事。
それはヘカトンケイルの身体が、少し大きくなっている事だ。
そして一番の懸念は、大きさではなく色である。
「慶次殿、何が起きてるか知っているんですか?」
「おそらく。いや、ほぼ確定でござる」
「だったら対策も、バッチリですね」
「対策?対策と言われると・・・逃げるしかないでござるな」
「へ?」
ヘカトンケイルの異変を知っているなら、安心出来る。
沖田はそう考えていたが、慶次は真逆だった。
幸いな事に、ヘカトンケイルが痛みで動きが止まっている。
慶次は頭をフル回転させて、他の手をどうにか考えていたが、次の瞬間、それを諦めた。
「無理でござる!拙者は官兵衛殿じゃない。考えても妙案なんか出てこないでござるよ」
「質問して良いですか?逃げるしかないというのは、どういう意味ですか?奴に何が起きてるか、慶次殿は知ってるんですか?」
「言った通りでござるよ。奴は攻撃を食らって、ダメージを蓄積している。そしてがダメージが溜まった時、それは始まるでござる」
「何ですか?」
「暴走だ」