リストのチェック
サウナ作りたいなぁ。
沖田と慶次は、大阪城の中で出会ったヘカトンケイルと呼ばれる男に、苦しめられる事になった。
戦闘力は不明だが下手な攻撃は通じず、身体から放出される異常な発汗作用が、辺りを蒸し風呂のようにさせたのだ。
それはさながら、ミストサウナのようなものだろう。
そう、僕はサウナに入りたい!
意外に思うかもしれないけど、僕はスーパー銭湯とかサウナが、嫌いではない。
その大きな理由が、サウナは基本的に言葉を発しないからだ。
暑い中で目を閉じ、悶々としながら自分と向き合う。
それが良いんだよ。
まあ考えてる事なんか、他の人から大した事ではないんだけども。
何考えてたのかって?
そんなのゼミの研究とか、ゲームの事ですよ。
・・・まあ後半が八割以上だけど。
どうしても勝てない相手との戦いを思い出しながら、あそこで違う行動をしていればとか、不用意な攻撃をしたなとか、そういう反省をしていたんですよ。
え?
くだらない?
うるさいな!
だから言いたくなかったのに。
ただし一つだけ苦手な事もある。
ロウリュである。
アレをやられると、突然湿度や温度が爆上がりするので、考える余裕なんか無くなってしまうのだ。
健康には良いのかもしれないけど、僕の目的とは大きく離れてしまう。
だから僕がよく行っていたスーパー銭湯では、ロウリュをやっていなかった場所を選んでいた。
ちなみに平日の早朝からやっているようなスーパー銭湯にたまに行くと、本当に人が少なくて開放感に浸れます。
温泉に行けないという人に、ちょっとオススメです。
って、僕は何を宣伝しているんだろう?
大階段滑り台が却下された今、次はサウナを頼んでみようと思います。
僕、この戦いが終わったら、サウナに入るんだ。
慶次の顔は本気だった。
対して沖田は、まさか自分が?といった感じだ。
慶次は沖田に対して、ライバル意識を向けていたのだ。
そもそも沖田は、魔王や蘭丸達の方が歳が近く、若者と呼ぶべき年齢になる。
それに対して慶次は、又左とは少し歳が離れているとはいえ、沖田よりもかなり歳上である。
親子ほどではないにしろ、例えるなら歳の離れた甥っ子といった感じだ。
そんなおじさんと呼べる慶次が、沖田に負けじとしている。
おっさんが大人気ないと取るか、おっさんが若者について行こうと無理をしていると取るか。
それは人それぞれだが、本人からしたら他人の評価など気にしていない。
それくらい本気で、ヘカトンケイルに聞いていた。
「どうなのでござるか?」
「そりゃ、警戒の方が上じゃないか?」
「拙者が沖田に負けていると!?」
「俺は知らないよ!お前等の事なんて、このリストでしか知らないし」
ヘカトンケイルは実験体である。
長い間外に出る事無かった為、慶次はおろか魔王や他の存在も知らなかった。
ヘカトンケイルが捕まったのは、太田が岩戸の中に閉じ籠っている頃になる。
そして帝国に連行された彼を、秀吉が内密に引き取り、実験体として扱われていたのだった。
それを知らない慶次は、馬鹿にされているように感じ、ヘカトンケイルに不用意に近付いていく。
「やる気か?」
「待て!まだ攻撃する意思は無い。一つだけ、頼みがあるでござる」
「何だ?」
「そのリスト、見せてほしいでござる」
この人は何を言っているのだ。
見せる必要性が無い。
しかしヘカトンケイルは少し悩んだ後、懐からノートを取り出した。
それを慶次に軽く投げると、しっかりとキャッチする。
沖田はその隙を突いて慶次が、攻撃されるのではないかと身構えていたが、それは杞憂だった。
「ほら」
「これは!顔までそっくりに描かれている」
「コレ、写真ですね。コバ殿も似たような機材を、持っていましたよ」
沖田も横から覗くと、ノートの中身を確認する。
そこには名前と顔写真。
そして得意な武器や性格などが、事細かに書かれていた。
最初のページには魔王が書かれているが、流石に書き込み数はダントツで多い。
それもそのはず。
身体は一つだが中身は二人。
性格も戦闘スタイルも違うのだから、それだけ情報も多いのだ。
「なるほど。前半が要警戒人物で、後半が要注意人物になるみたいですね」
「・・・拙者は後半だと?前に書かれている連中より、弱いというのでござるか!」
激昂する慶次。
乱暴に沖田にノートを渡すと、慶次は上に向かって叫んだ。
「木下!拙者を甘く見るなよ!その評価、絶対に後悔させてみせるでござる!」
「慶次殿!見てるかなんて分かりませんから」
「沖田、お前自分が前に載ってるから、調子に乗っているな?」
「何を言ってるんですか!?」
いちゃもんをつけてくる慶次に、沖田は呆れながらノートの他のページを見る。
すると彼は、あるページで指を止めた。
「もしかしたらこのリスト、強さは関係無いかもしれませんよ?」
「何?どういう意味でござるか?」
「だって見て下さいよ。要警戒リストの二番手と三番手、官兵衛さんとハクトくんですよ」
「何だと!?」
明らかに慶次より弱いと思われる二人が、魔王の次に名を連ねている。
口から出まかせじゃないかと疑う慶次は、再びノートを見る。
「いや、この二人は魔王様と仲が良いでござる。だから蘭丸もこの次に・・・あら?」
「蘭丸さんは、要注意の方に載ってるんですよね。官兵衛さん達よりも強いのは、確実なのに」
「ヘカトンケイル。このリスト、基準が分からないでござるが?」
慶次はずっと待っていたヘカトンケイルに話し掛けると、彼も少し怒りながら返答する。
「そんなの知るか!そもそも俺が知ってるのは、魔王は危険だから手を出すなという事。その次の二人は厄介だから、殺せるなら殺せ。もしくは捕まえろというくらいなんだが」
「厄介だからか。なら僕も厄介なのかな?」
「お前は特に言われてないな」
「あ、そうですか」
要警戒という割に気にも留められていない沖田は、釈然としない顔で返事をした。
そして慶次は全てのページを見た後、こう結論付けた。
「このノート、適当でござるな」
太田は要警戒で、又左は要注意。
どういう分け方なのかさっぱり分からない慶次は、兄が要注意な時点で調査不足だと決めつけたのだった。
「さて、ヘカトンケイルよ」
「お、戦うのか?」
「その前に、まずはお礼を言っておこう。感謝するでござる」
ノートを返しつつ、お礼を言う慶次。
その態度にヘカトンケイルも、妙な顔になる。
「これから戦うというのに、お礼とか言われると変な気持ちになるなぁ」
「だが、ここからは別でござる。勝負は勝負。命の取り合いでござるよ」
腰の槍を再び抜く慶次。
元がミノタウロスであるヘカトンケイルの身体は、太田並みに頑丈である。
本気でやらないと、逆に命は無い。
そう判断した慶次の顔は、先程とは違って険しい。
「沖田、まずは拙者がやるでござる」
「えぇ!?僕も先に・・・まあでも、良いですよ」
沖田は自分が先にやりたいと言おうとしたが、これでリストの事が頭から消えてくれるなら、後々文句を言われなくて済むかなと判断する。
「お前は武器は持たないのか?」
「持つよ。さてと、ドッカン!ってな」
大階段の横を蹴り飛ばすヘカトンケイル。
すると階段の一部が開き、中から無数の剣が出てくる。
「な、何だこの量は!?」
「えーと、手前にあるこの四本で」
無造作に近くにある剣を拾うヘカトンケイル。
四本の腕に四本の剣。
盾が無い分、攻撃が防がれる心配は少ない。
「じゃあ俺から行くよ」
ヘカトンケイルは足に力を込めると、さっきまでのノロマな空気とは裏腹に、俊敏な動きで慶次に近付く。
慶次に的を絞らせないようにしているのか、ステップを踏んで動きが不規則だった。
「甘い!」
ステップの動きを読んだ慶次が、ヘカトンケイルの行き先に、先に槍を伸ばしている。
ステップした直後に槍が飛んでくるのを見たヘカトンケイルは、二本の左手の剣を交差させて、槍の進行方向を逸らした。
「な、何だと!?」
致命傷とは行かずとも、怪我を負わせるくらいは出来ると思っていた慶次は、本気で驚いた。
さっきと違い本気の一撃である。
そう易々と逸らすなんて、出来ないと思っていたからだ。
「だから俺が攻撃するんだって」
槍が戻ってくる前に、ヘカトンケイルは近くまでやって来てしまった。
一旦手を放して、普通の槍を構える慶次。
「ぬうぅぅあぁぁぁ!!」
「慶次殿!避けて!」
右手の二本の剣を、慶次目掛けて叩きつけるように振り下ろす。
慶次は槍で受け止めると、その重さに耐えきれず、左膝をついた。
その瞬間、槍にヒビが入った音が聞こえる。
「このっ!」
沖田は移動すると、ヘカトンケイルが用意した無数の剣の一本を拾い、慶次を助ける為に投げつける。
左手の剣でそれを弾いたヘカトンケイルは、もう一つの顔で沖田を睨む。
「邪魔するなよ!」
「慶次殿、一人では不利です!」
一本では助けられないと分かると、慶次に当たらないように手当たり次第剣を投げつける。
すると一本の剣が、ヘカトンケイルの脇腹を掠った。
流血するヘカトンケイルを見て、慶次は槍に力を込める。
「ぬあっ!」
剣を弾き返した慶次の槍は、真っ二つに折れた。
そのままゴロゴロと、床を転がりながら脱出する慶次。
間近で見ていた彼は、さっきまでのヘカトンケイルとの違いを指摘する。
「頭の回転が速くなって、動きも俊敏になった。だけどそれ等を得た代償に、防御力は格段に落ちたでござるな?」
「ご名答。流石はリストに乗る人物だ」
「慶次殿!大発見じゃないですか!」
ヨイショする沖田。
慶次は満更でもなく、少し胸を張って答える。
「ハッハッハ!お前のおかげでござるよ、沖田。さっきの剣が掠っていなければ、拙者も気付かなかった」
槍が刺さりもしなかったはずなのに、投げただけの剣で流血した。
それを見逃さなかった慶次は、沖田の提案に乗る事にした。
「四本の腕に二つの頭。後ろも見えるようで、死角も無さそうでござる。沖田、手伝ってくれ」
「はい!」
「二人がかりか?」
「その腕と頭は、ちと反則でござるよ」
ヘカトンケイルは慶次に対して、プライドを刺激するように挑発をする。
しかし慶次はそれを受け流し、軽口を叩いた。
「拙者が撹乱する。沖田は奴に致命傷を負わせるでござるよ」
「一人で撹乱するんですか!?」
沖田の言葉に慶次は更に腰に手を回して、もう一本槍を取り出す。
右手と左手に一本ずつ持つと、腕を大きく引いて一気に前に突き出した。
「不規則な動きをする槍が、左右から伸びてきたらどうする?奴とて、そう簡単には防げないはずでござる。沖田なら奴の隙を見逃さないだろう?行け!沖田!」