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慶次のやる気

 善処します。


 何とも便利な言葉であり、何とも曖昧な言葉でもある。

 オケツの意見を受け入れるかどうか、この言葉で有耶無耶にしてしまおうと考えた僕だったが、どうやら彼だけの意見ではなかったらしい。

 まさか騎士王を、本当に国外へ派遣する事を許すとは思わなかった。

 だって騎士王国って、今さっきまで内乱でゴタゴタしていた国だよ。

 そんな国のお偉いさんが、どうして国外へ出ようなんて思ったのか。

 そこにはオケツだけじゃなく、もう一人の男の意見もあったのだ。

 それが帝である。


 帝はボブハガーから、飾り以下の存在だと言われてしまった。

 そんな彼もボブハガーの厳しい言葉があったからか、少しは変わろうという気になったらしい。

 以前は政治に直接関わろうとしなかった彼だが、今は率先して動いている。

 それが復興支援という点である。

 特に帝が溜め込んでいた財の多くを、復興に割り当てると言ったのが大きかった。

 今回の戦いにおいて廃嫡となった騎士は多い。

 ボブハガーに協力した有力騎士の多くは、領地を没収されて平民落ちしたのだ。

 その領地をオケツに協力した騎士に割り当てられる事になったのだが、やはりオケツに協力した騎士の立場は弱く、金も持っていなかった。

 だからこそ帝が私財を投げ打って、彼等が安定して領地経営出来るように協力を申し出たのだ。

 何もしていないけど、金は出す。

 騎士からすれば、領地の経営は教してもらえて金も貰える。

 こんなにありがたい話は無いだろう。

 帝が政治に詳しいかは知らないけど、この事で存在感は大きくなったと思う。


 それと本当に極一部の者のみ、騎士の座を下の代に渡した連中も居る。

 領地縮小は免れず、下級騎士への降格もしたのだが、それ等を選んだ人達は後継者が優秀だと自負していた連中らしい。

 最下級騎士からでも、もう一度やり直せると自信を持っていた人達が、その選択をしたという話だ。

 だけど僕は思った。

 もしそんな優秀な後継者が居たのなら、ボブハガーに協力しようとした時点で、止めたんじゃないの?

 僕の中で優秀な人間というのは、先見の明がある人。

 それが出来ないなら、ある程度は中立を保って、それからどちらにつくのかを決められる人物だと思っている。

 どちらも出来なかった時点で、優秀じゃないんだよなぁと思いつつ、彼等の未来の話を聞く事を楽しみにしようと思った。









 なんという脳筋選択。

 しかし僕の頭の中では、もう一人の馬鹿が大きく頷いていた。

 まさかコレに賛同する奴は居ないだろう。



「秀吉はこちらでも謎が多い魔法を使います。下手にちょっかいを出してやられたら、目も当てられませんよ」


「官兵衛殿の言う通りだな。タケシ、お前は突っ込む事ばかり考えるな!」


「だって俺、それしか出来ないし」


 拗ねるムッちゃんだが、官兵衛はその案を聞いて、新たな別の提案をする。



「潜入捜査はどうですか?タケシ殿が言う通り、ちょっかいを出して敵の目がこちらに向いている間に、城に潜入する」


「大きな危険が伴いますよ?」


「それが厳しいと言えば厳しいんですが」


 どちらの役も危険と言えば危険。

 今のこの少人数では、あまり余裕は無い。

 しかしムッちゃんは、真面目な顔をしながら自分が引き受けると言った。



「オケツに入らずんばケツを得ず。やっぱりケツに突っ込まないと、ダメだと思う。俺がやるよ」


「タケシっち、それはあー!!ってなるって事?」


 うん、分かっている人は分かっている。

 だからこそマリーは顔を背けているし、ハクトもちょっと気まずそうにしている。

 ギュンターは呆れていたが、意味は理解出来ているからか、何も言わなかった。



「虎穴に入らずんば虎子を得ず、ですね」


「それだ!俺がやるよ。前回の戦いでは迷惑を掛けたし、俺がやるべきだと思ってる」


 おぉ、まさか騎士王国の内乱では空気だったのを気にしていたとは。

 しかしムッちゃんに、潜入捜査は向いていない。

 彼には陽動を任せて、潜入は他の人がやるべきだろう。



「この中で潜入が上手い人は・・・」


 沖田と慶次か。

 しかし慶次は、未だにハートブレイク中だからなぁ。

 あの騎士王国の内乱でも、全く鳴りを潜めていたし。

 選んで良いものか?



「慶次殿、僕と一緒に行きませんか?」


「は?」


「お兄さんが気掛かりなのは分かります。しかし貴方が腑抜けていると、こちらの戦意にも関わるんですよね」


 お、沖田の奴、攻めるなぁ。

 まさか腑抜けてるとまで言うとは。

 図星のは誰が見ても明らかだが、言われた本人はたまったものではない。

 だから彼は、沖田に憤った。



「腑抜けている?拙者はしっかりと仕事はこなしている!」


「それって魔王様が出来ない事を想定して、出来る仕事を選んでいるからでは?」


「何だと!喧嘩を売ってるのか!?」


 腰の槍に手を掛ける慶次。

 沖田はそれを見ても、剣には手を掛けない。



「だから僕と行こうと言っているんですよ。安土城の跡に城を建てるなんて、嫌がらせじゃなければ」


「重要視している?」


「ですよね?」


 沖田が官兵衛に話を振ると、彼は頷いている。

 情報が少ないからどちらかは分からないが、秀吉の性格なら嫌がらせの可能性もあり得る気がした。



「もし重要な城であれば、それなりの人を配置しているでしょう。僕達はほとんどの城を落としてきました。新たに城を建築していないなら、お兄さんもそこに居るのでは?」


 慶次はバッと勢いよく顔を上げた。

 その可能性を考えていなかったと言いたげな顔だ。

 沖田はニコリとすると、慶次は毒気を抜かれてため息を吐く。



「なるほど。自分の目で調べろと言うのだな」


「他人から言われても、信じられないでしょう?」


「分かったでござる。拙者と沖田、その城に潜入する」


 慶次は少しだけ、顔にやる気が見えた。

 今までは言われた仕事をこなすだけだったが、今の彼は自ら動こうという気概が感じられる。



「じゃあ、もう一人の陽動役が必要かな」


「それは俺がやるよ。無理をしないって話なら、俺達が一番向いていると思う」


「イッシー隊か」


 確かに適任かもしれない。

 フライトライクなら、陸からも空からも逃げられるし。

 それにイッシー達って、砦で待機してて余裕もあるはず。



「決めた!ムッちゃんとイッシー隊に任せよう」








 今回、救援に駆けつけてくれたマリーは、江戸城にて待機となった。

 ギュンターは僕と空間転移で帝国に戻ってもらうのだが、マリーはこのまま僕達と共に過ごす事になる。

 それを喜んだのはロックだった。

 このままハクトと高野達とのバンドの完成度を上げて、来るべき時に備えようと言われてしまった。

 内心では全く違う事を考えていそうだけど、そう言われてしまったら断るに断れない。


 それにハクトも蘭丸も、騎士王国内乱で活躍した人物達だ。

 疲れを取る意味でも、今回はあの時仕事をしていない連中に、頑張ってもらおうと思う。



「じゃあ俺達が、一進一退の攻防を演じている間に」


「僕達が潜入します」


「近くまでは俺達が送ろう。一緒にトライクに乗っていくと良い」


 イッシー隊は慶次と沖田も乗せていくと言って、すぐに出発していった。


 それを見送った僕達だが、やっぱり懸念もある。



「慶次の奴、大丈夫だと思う?」


「どうでしょうか。オイラには兄弟が居ないので、分かりかねます」


 その言い方はズルイな。

 それってこの場に居る中では、僕と兄しか分からないと言っているようなものだ。

 そして弟という立場から、僕が一番理解出来るんじゃないかと、官兵衛は暗に言っている。



「うーん、僕と慶次は大きな違いがあるからなぁ」


「大きな違いとは?」


「兄を尊敬しているかいないか」


『オイィィィィ!!お前、それはどういう意味だ!?俺のような兄に何の不満がある?甲子園では活躍して、ドラフトにも選ばれた兄ちゃんだぞ!?』


 頭の中でギャアギャア喚き散らしているけど、そんなのスポーツが出来るだけだし。

 ドラフトで選ばれたって、一軍で活躍出来なきゃ意味が無い。

 それにプロ野球選手になる前だった時点で、全てはたらればなんだよね。



『・・・シクシク』


 静かになった。



 とは言ったけど、選ばれた人間だというのは分かってる。

 でもそれを本人に聞こえるように言うのは、やっぱり恥ずかしいものである。



「私は少し危うい気もするな」


「ギュンター殿。理由は何ですか?」


「彼は兄を敬愛している。それは間違いないな?」


「そう・・・ですね。尊敬していて、尚且つ超えるべき壁だと思っていると、オイラは感じます」


 官兵衛はちょっと悩んだ後、そう言葉を続けた。

 隣に居る長谷部や蘭丸達の様子を見ても、概ね慶次の印象は同じのようだ。



「だからこそだな。ではその兄が、大きく変わってしまったとしよう。彼はどのような反応を示す?」


「難しいですね。既に洗脳されている時点で、大きく変わっていますから」


「洗脳された直後は、情緒不安定だろう。それは私も経験がある」


 ギュンターは少し遠い目をする。

 おそらくヨアヒムが洗脳された時の事を、思い出しているんだろう。



「官兵衛殿。その洗脳された相手から寝返るように言われたら、彼はどうすると思う?」


「っ!それは・・・」


 言葉に詰まる官兵衛。

 周囲も騒つき、意見が飛び交い始める。



「慶次さんは又左さんが好きだからね。もしかしたら・・・」


「馬鹿言えハクト。あの人は魔王の配下なんだぞ。マオを裏切るはずが無い」


「俺っちはあのお兄さんに言われたら、あの人は寝返りそうな気もするなぁ」


「私は慶次殿は頼もしいので、そんな事は無いと思いますが」


「慶次はアレで、芯の強い男である。何が大切かは、間違えないのである」


「コバ!?」


 知らぬ間にコバが、この議論に参加していた。

 その手にはコーヒーがある。



「江戸城について、調べ終わったの?」


「・・・色々と問題がある城だと、実感したのである」


 問題がある?



「まあそれは置いといて。慶次を心配するよりも、タケシを心配した方が良いのである」


「ムッちゃんを?」


 官兵衛や蘭丸と意見を交わしていたギュンターが、コバの言葉を耳にしてこちらを向いた。

 帝国の大将を心配しろと言われて、聞き捨てならない様子だ。



「どうして?今のムッちゃんなら、問題無いと思うんだけど」


「本当にそう思うのか?」


 そう言われると、少し心配になるけど。

 でも何が問題なのか、サッパリ分からない。



「あの男は強い。それは認めよう。しかし問題は、戦術も戦略も理解出来ないという点である。だから騎士王国では罠にハマり、全身を黒炭にされて何も出来なかった」


「あ・・・」


 オケツが大きな口を開けて反応する。

 早々に戦線離脱をした彼に、思い当たる節があるらしい。








「ハッキリ言おう。タケシは暴れるだけで陽動が出来るとは思わないのである。イッシーが一進一退をする際も、あの男はひたすら前に進む。下手をすると捕まり、再び洗脳されかねないのである」

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