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新たな局面

 単にレベル差があっただけじゃないんだよね。


 サネドゥはタコガマを、必殺のショルダータックルをぶちかまし、一撃で葬った。

 しかしタコガマだってハッシマーの内乱以来、ただ寝て過ごしていたわけではない。

 オケツに置いていかれた感のあるタコガマとニラは、実力を伸ばすべく修行していたらしい。

 ハッシマーに寝返った彼等が、要職に就くのは難しい。

 とはいえ、タツザマのような件もある。

 本当にオケツを支える気があったなら、彼等だってもっと良い職に就いていただろう。

 だけどそれがオケツを見返す為って話になると、別になる。

 実力をつけたところで、結局はオケツの足を引っ張る為だったという事だからね。


 しかしそんなタコガマだけど、実際にはサネドゥとの実力差はあんなに大きくは無かった。

 むしろ拮抗した実力があってもおかしくないと、他の連中どころか、サネドゥ本人も思っていたくらいだ。

 では何故、一撃で葬るくらいの実力差が生まれてしまったのか?

 答えは簡単。

 ハクトとマリーである。

 この二人の歌には、強化と弱体化という両極端な効果があった。

 ハクトは強化を担当し、マリーが弱体化をさせる。

 サネドゥが残党軍の攻撃に対して無傷で居られたのは、本人もなんとなく予想はしていたらしい。

 しかし彼が驚愕したのは、一緒に戦場に赴いた配下の連中である。

 彼等はサネドゥの鎧の硬度よりも、数段落ちるレベルにある。

 それなのに彼等すら、怪我という怪我を負っていなかったのだ。

 それを見たサネドゥは、タコガマの攻撃は無に帰すと分かっていたし、一撃で致命傷を与えられると確信していた。

 だから彼の提案を飲んだのだ。

 問題は守備力のみ上がっていたと勘違いしたサネドゥは、自身の攻撃でタコガマがあのような事になるとは、想像していなかった点だろう。

 後から聞くと、顔に出さないようにするのが大変だったと言っていた。


 何にせよ僕が思ったのは、ハクトとマリーの相性は最高だという点。

 アンコールしか聞かなかったけど、アレならロックは泣いて喜ぶくらい、売れると思った。

 もしちゃんとしたライブをやるなら、僕もチケットを並んで購入したいと思います。

 転売、ダメ絶対。










 どうしよう。

 お断りしたい。

 ハッキリ言って、オケツにそこまでの期待はしていないんだよね。



「どうしてオケツが?オケツは騎士王なんだから騎士王国に残って、トキドとかタツザマでも良いんじゃないの?」


「ダメです。あの二人は騎士王国に必要なんです」


 うん?

 自分は必要無くて、二人は必要?

 コイツは何を言っているんだ。



「もしかして、騎士王を辞任するつもり?」


「それは無いです。むしろお館様から背中を押してもらい、続けようという気概になりました」


 ボブハガーが?

 僕が試験でヒィヒィ言ってる頃、二人だけしか分からない何かがあったっぽいな。

 流石にそこまで詳しく聞くのは野暮だと思うけど、オケツがやる気になっているのは、その影響が大きいんだろう。



「面倒だから聞くけど、何が狙い?」


「実績作り、ですかね」


「実績?ボブハガーを倒したのは、実績にならないの?」


「皆、半信半疑なんですよ。本当に私が倒したのか、全員寝ていて覚えていないので」


「あ・・・」


 まさかスタディーワールドによって、こんな弊害が生まれるとは。

 でもあの時は、スタディーワールドに騎士達を引きずり込んでいなければ、オケツ達は確実に押し潰されていた。

 そう考えれば、僕達がやった手は悪くはないはず。



「私としては騎士王である私が、魔王様と共にこの混乱した世を平定するのに手を貸した。そういう流れで、彼等に私の実績を残したいのです」


「復興が忙しい国を放置して、僕に手を貸すっていうメリットある?逆に反感を買いそうな気もするんだけど」


「そんな事は無いです。お館様が復活したりしたのは、秀吉の配下である羽柴秀長のせい。この国を混乱に導いた奴を倒しに行ったとなれば、国を放置したとは言えないですから」


 自信満々に胸を張って言うけど、本当かよ。

 怪しいから、後でウケフジに確認してみよう。

 それが本当なら、オケツを受け入れるしかないかな。

 とりあえず困った時は、この言葉しかない。



「善処します」








「それじゃ、行ってみる」


「今生の別れとは言いません。平和が訪れたら、いつか来て下さい」


「ありがとな」


 スタディーワールドを解放した山田達は、山田の疲れが癒えた頃に旅立っていった。


 目標は、僕達の始まりでもある能登村。

 山田達は平和が訪れるまで、隠者として生活をするつもりみたいだ。

 僕達が能登村に行くまでは、平和がやって来たとは思わないような口ぶりだった。

 下手をすると、そのまま忘れそうな気もする。


 しかし三人の顔は、そこまで暗くない。

 新しい生活を楽しみにしているような気すらある。



「さてと、それじゃ私も」


「騎士王、頑張って下さいね」


「今のオケツ殿なら、魔王様の配下にも負けずにやっていけるはず」


「騎士王国の騎士王として、情けない姿は見せないでくれよ!」


 オケツは結局、僕達と同行する事になった。

 トキド達はオケツが活躍出来ると、信じて疑わない。

 陽キャにでもなったのか、ハイタッチして別れを惜しんでいる。



「オケツ、本当に良いんだな?」


「大丈夫です。行きましょう」



 意外にも、今回はオケツの考えが正しかった。

 ちょっと違ったのは、実績作りの為というよりも、援軍を率いて手を貸してくれた僕達に対する、御礼を込めてという意味の方が強いという事だ。

 言ってしまえば、妖怪の力なくしてこの勝利は無かった。

 その恩に報いる為に、騎士王自らが魔王に手を貸す為に、立ち上がったというシナリオになっている。

 要は実績というより、仁義に厚い騎士王という印象を、騎士達に植え付けようという算段になった。



「お市はどうする?」


「一度帰る。やはり越前国が心配じゃからな」


「分かった。気を付けて」


 お市達も最低戦力しか残さずに出てきたので、越前国が気になっているようだ。

 今回の戦いでかなり頑張ってもらった手前、今後の秀吉との戦いにはちょっと呼びづらい。

 と思ったのだが、本人は違ったらしい。



「秀吉と勝敗を決するというのであれば、必ず妾を呼べ。もし呼ばなければ、貴様に未来は無い」


 という死刑宣告を受けました。

 永久凍土に凍りつかされそうなので、絶対に呼ぼうと思います。








 騎士王国を出立した僕達は、官兵衛達が待つ江戸城へと帰還した。



「おかえり〜。敵は誰も来なかったよ。えっ!?」


 最初に出迎えてくれたのは、帝国軍の大将であるタケシことムッちゃん。

 今回の戦いにおいて、空気と化していた役立たずである。



「こんのアホタレ!」


 援軍のはずが留守番という役目を果たした彼は、ギュンターからお叱りを受けた。

 満面の笑みで僕達に応対していたが、ギュンターの顔を見てすぐに顔色が変わっている。

 その場で正座をさせられている様子は、全く大将としての威厳は無い。



「スゲーな。あのタケシを一喝してるぜ」


「ギュンターさんは、タケシさんの世話役だからね」


 マリーに間違った認識を教えるハクト。

 しかし誰もそれを否定しない。



「ところでアタシ達は、今後どうするんだ?」


「それはギュンターに聞いた方が良いかな。え?違うの?」


「話は済んでおります」


 官兵衛の仕事は早い。

 どうやら彼女達に関してはヨアヒムと話していたようで、今後は僕の下に入ってもらう事に決まったようだ。


 そして、今の話を聞いて発狂するように興奮していたのがこの男。



「イエス!イエスイエスイエース!ハクトっちとマリーっちのコラボが、このまま続く。俺っち興奮の極み!」


「うるせーよ」


「マオっち、出番が無いからって拗ねないでよ」


「八寒地獄の魔法でも、使いたい気分だな」


「申し訳ありませんでした」


 流れるように正座をするロック。

 土下座がここまでスムーズな男も居ない。

 いや、隣で怒られている男も負けていないか。



「でも僕達、また一緒に歌えるんだね」


「お、おう・・・」


 んん!?

 なんだこの甘い空気は。

 ハクトにその気が無いかもしれないが、マリーの顔は赤いぞ。

 この天然ジゴロが!

 僕は許しまへんで!



「それと魔王様。ご報告があります」


「秀吉が動いた?」


 静かに頷く官兵衛。

 やっぱりボブハガーは捨て駒だったか。

 多分お互いに、信用していなかったとは思う。

 でも騎士王国を半分に割るくらいの力を持つボブハガーを利用して、その間に何かをするんじゃないかという考えは予想していた。



「何があった?」


「実は安土城跡に、秀吉が城を建てました」


「は?跡地に!?」


 ちょっと待て。

 そうなるとフランジヴァルドも危険じゃないか!



「それで隣街に関してなのですが、どうやらジャイアントとモールマンが、避難誘導を行なってくれたようで」


「もしかして、脱出出来た?」


「今回の件に関しては、オイラもマルエスタに頭が上がりません」


 なんと官兵衛の弟子であるジャイアントのマルエスタが、独自で動いていたらしい。

 地下通路を更に掘り下げて地底路と繋ぎ、メメゾ車で住民を避難させていたというのだ。

 ちなみに安全地帯として運ばれたのは、連合になる。

 ヒト族も多く、そして絶対的な強者が居る場所。

 マルエスタの判断は間違っておらず、官兵衛も舌を巻くくらいだ。



「じゃあひと安心かな」


 後で避難した連中の滞在費とか、請求されなければだけど。

 人道的にはあり得ないけど、そのトップがヒトじゃないからなぁ。



「他に動きは?」


「他というわけではないですが、その城がかなり強固なもののようでして。落城させるのは、困難だと思われます」


 官兵衛がそこまで言うくらい厳しいのか。

 現状では手の打ちようが無いかな。



「ちなみにその城なら、陛下も気にしておられました。場所的には帝国領土と一番近いし、こちらの首都とも近いので」


「攻め入るなら帝国だと?」


「権力の誇示だけなら良いのですが、何をしてくるのか分からないのが、木下という男。気は抜けないようです」


 確かにな。

 まさか安土城の跡地に城を建てるなんて、想像もしてなかったし。

 そんでもって、秀吉がそこに居るのかも不明。

 アイツ等誰かを使う事に秀でてるけど、それを隠れ蓑にして本人達の動きが把握出来ないのが一番辛いところだな。



「その城の目的が何なのか。全く分からないな」


「官兵衛殿でも?」


「情報が少な過ぎますね」


 手詰まりとなった今、神妙な面持ちになる一行。

 そんな中、空気が口を開いた。







「だったらさ、一度行ってみれば良いじゃない。どうせ調べるんでしょ?だったらちょっかいでも出してみて、敵の戦力も探っちゃえば良いんだよ」

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