騎士王の選択
何においても、やはりリーダーというのは大事だと思う。
スタディーワールドから解き放たれた、ボブハガーへと寝返った騎士達。
彼等は目が覚めると、アンデッドとボブハガーが居ない事に気が付いた。
ボブハガーというリーダー不在の状況で、彼等はどういう選択をするのか?
そもそもボブハガーは、大きなカリスマ性を持ったリーダーであり、彼に従えば間違いないと思わせてくれるような力があった。
ただそんなカリスマ性を持ったリーダーにも、大きな欠点がある。
それが後進の育成だろう。
ボブハガーの後進と言えば、今回ならハッシマーとオケツになる。
ハッシマーは秀吉に言いくるめられたとはいえ、自分がリーダーになるという気概があった。
しかしボブハガーと違い、力による恐怖政治のような施政だったとも言える。
それに対してオケツは、ボブハガーとは全く真逆だった。
カリスマ性という意味では、ほぼ皆無。
他の騎士からはナメられても、協調性を重視して歩調を合わせていくようなやり方だった。
ハッシマーのやり方は周囲に不満を持つ者を増やし、オケツのやり方はナメられて制御不能に陥っていた。
でも二人とも、ボブハガーとは違うと理解していたからこそ、違うやり方を選んだんだと思う。
残党軍は、死してなお強烈なリーダーシップを持つボブハガーを失うと、途端に優柔不断な連中と化していた。
ハッキリ言って思うのが、オケツにボロクソ言って寝返ったくせに、自分達はどうなんだって話だ。
結局はヌオチョモを仮のリーダーに立てたみたいだけど、僕からするとそれも、責任逃れにしか見えないんだよね。
ボブハガーが見当たらない今、誰かに頼らないとやっていけないというのが、目に見えている。
誰かに従うというのは、かなり楽だと思う。
言われた事だけやれば良いんだから。
でもリーダーというのは、そうはいかない。
僕も魔王だけど、周囲が優秀だからやっていけてると思っている。
責任がある立場だけど、それを理解しているからこそ任せられるという点では、ハッシマーやオケツと比べて気が楽だなと思った。
なかなか辛辣な言葉だけど、反応は様々なようだ。
信じられないと言いながら、サネドゥ達に攻撃をする連中。
ボブハガーの姿とアンデッドが見えなくなった時点で、実は察していた連中。
真実を知って愕然とし、崩れ落ちる連中等が居るらしい。
と言っても、僕はライブに集中していたから、終わった後に聞いたんだけどね。
「抵抗するなら始末する!だが武器を捨てるなら、命までは取らない」
サネドゥの宣言から、戦闘に駆り出されていた騎士達のほとんどが、武器を放棄した。
抵抗をやめた残党軍は、サネドゥ達に道を開けていく。
そしてサネドゥの圧力に下がりに下がっていた為、少し進むとヌオチョモ達有力な騎士が居る本陣に、すぐにたどり着いた。
「クソッ!お館様が斃れたなど、虚言に過ぎんわ!」
太刀を抜くタコガマ。
サネドゥがタコガマの前に出ると、ケモノを宿したタコガマとサネドゥの戦いが始まった。
「タコガマ殿は玄武だったな」
「若造が。この最硬と名高い玄武の守りを、打ち破れるか?」
本陣まで無傷でたどり着き、余裕を見せるサネドゥ。
それに対してボブハガーが敗北したと言われ、大半の騎士が戦意を失った残党軍。
ここでサネドゥを倒せば、巻き返しの一手となると考えたタコガマは、サネドゥに一騎打ちを申し込んだ。
「構わないが。一撃で終わるぞ?」
「フハハ!ならばこうしよう。貴様の一撃に耐えられるか。それで勝敗を決しようではないか」
さりげなくハードルを下げていくタコガマ。
サネドゥのたった一撃に耐えられれば、自分の勝ちにしろと言ったのだ。
周囲の残党軍も賑やかしのように、サネドゥにそれを受けろと騒ぎ立てると、サネドゥはため息を吐いてそれを飲んだ。
「馬鹿め。たったの一撃我慢するだけ。それくらいなら他愛もないわ。吐いた言葉、飲み込むなよ?」
「それはこっちのセリフだ。銀狼、そして金狼。やるぞ」
サネドゥの小さな言葉に反応する鎧。
すると銀色と金色が混ざり合い、彼の肩に大きな棘のついた鎧が出来上がった。
「生きていられるかな?セット!ハッハッ!」
片膝をついた後、踵を浮かせていつでも行ける態勢になったサネドゥは、自らに掛け声を出す。
それを見ていたタコガマは、身体を強張らせた。
しかしいつまで経っても来ないサネドゥ。
タコガマが緊張を解いた瞬間、サネドゥは動いた。
「ハッ!」
サネドゥの肩の棘がタコガマの腹に当たる。
一瞬だけ金属音が聞こえたが、次の瞬間には棘がタコガマの背中まで貫いていた。
「金狼の牙。耐えられなかったようだな」
突き刺さったタコガマにサネドゥは言ったが、タコガマからの返事は無い。
身体を振ると、タコガマが振り落とされた。
「さて、こちらの勝ちだが。どうするかな?」
生き絶えたタコガマの死体を見て、残党軍は言葉を失う。
すると代理として祭り上げられたヌオチョモが、我先に宣言した。
「投降する」
「タツザマ、声は掛けないのか?」
「勝者が敗者に何を言っても、嫌味にしかならない。ただワガママを言わせてもらえるなら、せめて命だけは助けてほしいと思う」
トキドからの問いに、タツザマは複雑そうな顔で、捕縛されたヌオチョモを見送った。
戦死したタコガマを抜いた有力騎士は、全員オケツの前へと連れてこられた。
「ヌオチョモ殿」
「仕方ない。責任は取るつもりです」
ボブハガーが居なくなった後、周りから祭り上げられただけでほとんど何もしていないヌオチョモ。
しかし代理とはいえ大将をしてしまった手前、彼は自分の責任を全うしようとしていた。
それに対して他の騎士達は、ヌオチョモに責任をなすりつけようと必死に言い訳をする。
声を大にして言い訳をする騎士を見て、同席にしていたある人物が、一喝した。
「黙れ腰抜け共!前線にも立たず、ひたすらボブハガーの機嫌取りをして、敗北したら責任逃れか。おい騎士王、妾が此奴等全員、始末してやろうぞ」
「お、お市様。一応私達はあくまでも援軍。客将という扱いですので、口を挟むのはやめておきましょう」
お市がブチギレて周囲の温度を一気に下げると、蘭丸は必死にそれを止めに入る。
しばらくして怒りが収まらないお市は、ギュンターと共に席を離れた。
「さてと、皆さんの言葉を全て聞く気にはならないので、こちらで決めさせてもらいます」
「オケツの分際で!ぐおっ!」
オケツに文句を言った騎士が、トキドに顎を蹴り上げられる。
その後に頭を踏まれた騎士は、トキドからこう言われた。
「敗軍の将が今でも生きていられるのは、何故だ?騎士王の情けがあるからだ!貴様等の命を誰が握っているのか、それが分かった上で口を開けよ」
「トキド殿、ありがとう。一応先に言っておきます。私はお館様、アド・ボブハガーと一騎打ちの末、私が勝利をしました。これは紛れもない事実です」
ニラが睨みつけるようにオケツを見るが、彼はそれを見ても怯まない。
そして言葉を続けた。
「貴方達は、騎士王国の膿です。それをお館様が示してくれました。私に対して言うだけなら分かるけど、貴方達は否定のみでこの国を良い方向に導こうともしなかった」
「何を根拠に!」
「では聞きますが、自領を良くする政策に、取り組んだりしましたか?私の足を引っ張るだけで、何もしていない。特にジャイアントとモールマンが現れて国が荒らされた時、何をしていましたか?」
オケツの問いに、誰も反論しない。
騎士王国は色々な意味で、被害が大きな国だった。
モールマンがメメゾを連れて地上に出てきた時も、帝国や連合よりも被害が大きかった。
そして帝国が新撰組や維新志士の名を冠した魔族の襲撃でも、どの国よりも被害は大きかった。
復興支援は横並びで協力すれば早いのに、それすらしない反オケツ派の騎士。
協力もしないのに復興が遅いと、文句だけはオケツに浴びせる。
そんな状態が続いても、オケツは彼等を強く非難はしなかった。
だが、オケツも人である。
溜まった鬱憤もある。
それを今、この場でぶち撒けた。
「悪いけど役に立たない騎士は、騎士の称号を剥奪。そしてケモノとの契約をしている人は、破棄させる」
「は?」
「アンタ達はもう騎士ではない。だから領地も没収する」
「ふ、ふざけるな!」
「ふざけてるのはアンタ等だ!」
今までオケツから強い口調で非難された事が無かった騎士達は、今のオケツに怯んだ。
今まで通り文句を言っても、何も反論されないと思っていたからだ。
数の上では反オケツ派が、圧倒的に多い。
だから数に物を言わせて、彼等は言いたい放題だった。
「ではこうしましょう。騎士ならば責任を取るつもりはおありか?」
「責任!?」
「アンタ達が腹を切れば、領地は安泰。子が居るならその子を領主として認めても良い。ただし仕事が出来なければ、領主から降りてもらう事に変わりは無いけど」
「切腹!?」
責任を取るとは、そういう意味だ。
オケツの言葉に騎士達は口を閉じ、冷や汗を流し始める。
そしてオケツは、更に言葉を続けた。
「しかし騎士でないならば、責任は問われない。その人はもう、ただの平民なのだから」
「要は、騎士なら切腹。平民落ちなら領地没収で、命は助けるという事ですね?」
「ウケフジ殿、簡潔にまとめてくれてありがとう。そういう事です。すぐに決めろとは言いませんが、シンキングタイムは長くないですよ」
オケツは立ち上がると、ウケフジとトキド、タツザマにその場を任せてその場を離れた。
「って感じだったんですよ」
「フーン」
「しかし魔王様、私の話全く興味無さそうですよね」
そりゃそうだ。
僕は回復役としてしか仕事していないし、ライブもアンコールだから曲数が少なかった。
ハッキリ言って消化不良だから。
「でもお市様の一言は、ちょっとスッキリしました」
「まああの人は、そういうのは嫌いだから。でもそれ言うと、オケツも嫌いな部類に入ってたんだけどね」
「えぇ!?」
とはいえ、今回の件で見直されたと思う。
オケツも僕が知らないところで、何かあったんだろう。
今までよりも顔つきが精悍な気がする。
「とりあえず、国が滅びなくて良かったね」
「そうですね。でもこの戦いで、私達はほとんど戦えなくなってしまいました」
オケツは秀吉との戦いに協力すると言っていたが、今の騎士達ではそれも出来ないと謝ってきた。
僕もそれは仕方のない話だと思うし、それをすんなり受け入れると、代わりに代案を出してきた。
「後方支援だけでもありがたいけど」
「いえ、それだけでは今回の救援には見合わないです」
「でも、トキドもウケフジもタツザマも、皆復興には必要でしょ?」
「そうですね。でも大して必要も無い人も居るんですよ」
必要無い人?
誰だそれ?
「騎士王なんてどうせ飾りです。皆が居れば、この国はどうにかなる。だから私が、魔王様の援軍として戦いますよ。まあ太田殿や蘭丸殿みたいに、一騎当千かと言われたら怪しいですけど。戦闘なら役に立ってみせますから」