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アンコールステージ

 違う未来か。

 ほとんどの人は、そんな想像をするよね。


 ハッシマーと兄の戦いは、ハッシマーの自滅という形で幕を閉じた。

 その際兄は、ハッシマーに対して偽物からオリジナルへの昇華という話をした。

 これって意外と、僕達の身近にある話だと思う。

 一番分かりやすい例が、コンビニだろう。

 そもそもコンビニはアメリカが発祥になる。

 元々は氷を売っていたお店が、パンとか雑貨を置くようになって、便利、好都合という意味でコンビニエンスストアとなったらしい。

 しかしそんなコンビニだけど、オリジナルであるアメリカよりも日本の方が優れている面が多い。

 まず海外から来た人が驚くのは、品揃えの多さ。

 他国のコンビニもある程度はあるのだが、日本ほど多種に渡って揃っていない。

 他にも毎日掃除がされているという衛生面や、陳列も種類別にされているというのは他国では無かったりするらしい。

 それと海外では、トイレの貸し出しをしていなかったりもする。

 このようにオリジナルであるアメリカよりも、日本の方が優れていると言えるだろう。

 日本のコンビニでは、今では店舗でパンを焼いたり、おにぎりや弁当を手作りしている所もある。

 既にこっちは、日本がオリジナルだと思う。


 ハッシマーだって偽物だとか真似事だとか言われて、それなりに傷ついたのは分かる。

 でもそこから昇華しようという気が無かったのが、勿体無かった。

 もし彼が生きているうちに、雷炎蒼みたいな技を使っていたら。

 自分の身体に負担がかからないやり方も、見つけていただろう。

 それこそ色々な騎士の技も使って、誰かと誰かの組み合わせみたいな形で、新しい力を手にしていたかもしれない。

 それってもう、ハッシマーのオリジナル技と言っても、過言じゃないと思うんだよね。


 でもそういう考えに至らなかったのは、ボブハガーの配下時の同僚からの圧力とかもありそうかな。

 所詮は紛い物と言われたのは、この時期だろうし。

 この頃はまだ秀吉とも会っていなかっただろうから、シッチとかタコガマから言われたんじゃないかと、僕は思う。

 そう考えると、ハッシマーって職場環境に恵まれず、今風に言えば、病んでしまったという感じだったのかもしれない。

 今にして思うと、ハッシマーって意外と勿体無い人材だよなぁ・・・。










 ・・・えと、もう一回頭の中を整理しよう。


 音楽が止まった。

 戦いが終わった事を意味する。

 劣勢だったのはオケツ軍だったから、負けたと思った。

 急いで来たら、ハクト達は無事だった。

 だったらこの拮抗した状態を破る為、俺がボブハガーを倒せば終わりじゃないか!

 フハハ!

 主役は遅れてやって来る。



「さあ、ボブハガー!出てこい!」


「だから、騎士王がアド殿を倒しましたって。幼いのに耳が遠いとか、勘弁して下さいよ」


「うわあぁぁぁ!!俺のここまで来た意味ぃぃぃ!!」


 しかもタツザマの奴、さらっと俺の事バカにしてくれてるし。

 許せんな。



「だから、怪我人が多くて困っていると言ったでしょう。意味はあるんですよ」


「いや、それは俺じゃなくて、弟の仕事なのであって・・・」


「何を意味が分からない事を。行きますよ」


 回復魔法なんて、俺の管轄外じゃ!

 それよりも俺は、戦いたいんじゃ!



(脳筋は黙ってろという事でしょう。ハッシマーとの戦いで、満足して下さい)


 だってアレ、戦ったというよりアイツの自滅だし。

 不完全燃焼なんだけど。



(戦いが終わったなら、それは良い事なんだよ。文句を言わずに、早く走る!)


 それも疑問なんだけどさ。

 どうして俺、馬に乗せてもらえず、自分の足で走らされてるんだろう?

 まあ良いんだよ?

 身体を動かしたいって意味では、悪くはないからね。

 ただちょっと、モヤモヤした気持ちが残るだけ。








 回復魔法を使う為に交代した僕は、ひたすら騎士達の治療に当たった。

 今回は本当に激戦だったようで、かなり危険な重傷者も多く、色々な意味で大変だった。

 昼夜問わずに襲われた事で犠牲者も多く、怪我人以外にも過労死した人が居たらしい。

 ブラックな職場だと言う人も居るだろうが、自分の命が懸かっているのだ。

 戦って死ぬか戦って殺されるのかの、二択だったと思う。


 そして今、一番ブラックな立場にあるのが、ハクトだろう。

 彼は回復魔法を使用しつつ、大きな鍋で食事の準備までしていた。

 主な準備は他の人がやっているのだが、味付けに関しては一任されているようで、細かな調整をしているみたいだ。

 小皿にスープを入れて確かめては、回復魔法を使ってまた鍋をかき混ぜる。

 今一番忙しい男、ハクト。

 僕よりも騎士からの尊敬の眼差しは、かなり熱い。



 騎士の治療がひと段落した頃、今度は北から報告がやって来た。

 山田である。

 戦いが終わったと聞いて、スタディーワールドは解いて良いのか?

 という確認らしい。

 流石は塾講師をしながら、会社を経営していた人間である。

 報連相を怠らない姿勢は、素晴らしい。


 もし今、スタディーワールドを無断で解放していたら、戦闘態勢を解除して治療に当たっている騎士達は、突然の不意打ちに晒されていただろう。

 そういう意味もあって、本当に良い判断だったと思う。

 ひと段落と言っても、重傷者はまだ戦地に居たのだ。

 そういう人達を下げてから、スタディーワールドは解放させるべきだと、僕は考えていたからね。



 そして山田が長い試験から解放されると、騎士達は呆然としていた。

 まずはボブハガーの所在が分からず、何をして良いのか分からなくなっていたのだ。

 敢えて倒したと伝えず様子を見る事で、彼等の大半が如何に烏合の衆だったか理解出来た。



「さて、ここからライブステージだな」


「良いの?」


「存分によろしく」


 マリーというかつて僕達を追い詰めた彼女が、なんとハクトと一緒に歌っていたというではないか!

 僕と兄は、有無を言わさずにアンコールを頼んだ。

 その結果、裏切った騎士達への制裁を込めたライブをやるという事になった。



「うへへ。最前列で観られるなんて、最高だなぁ」


「マオくん、ちょっと顔が気持ち悪い」


「チミ!ファンに気持ち悪いとか、言わないの!」


 最前列で敵に背を向けて、ハクトとマリーを観ている僕。

 ちなみにトキドやタツザマといったライブ未体験組も、自分達の背中を押した歌の力を見てみたかったようで、僕と同様に最前列に居た。



「キミ達は戦いなさいよ」


「アド殿が居なくなった今、あんな連中敵じゃない。今の騎士王なら、俺達抜きでも戦える」


 トキドとタツザマ、飛車角抜きで戦うというようなものだが、それでもサネドゥやウケフジといった有力な騎士はまだ残っている。

 対して向こうは、タコガマやニラ、ヌオチョモのような騎士である。

 オケツも今回は、体力の回復に努めるという意味で、指揮のみらしい。



「行くぜお前等!アンコールステージのスタートだ!」







「ど、どうするのだ?」


 ひとまず仮のリーダーをヌオチョモに定めた残党軍は、全ての指揮を彼に委ねた。

 彼自身は何でも任せる騎士の姿勢を見て、勝利の望みは薄いと確信していた。



「敵を迎え撃つしかないでしょうな」


「迎え撃つって、誰が?」


「・・・」


 騎士である自分等に決まっている。

 それすら考えていない騎士達に、ヌオチョモは最早自分の命を守る事すら危ういと思った。



「お館様が戻るまでの辛抱だ。ひとまずは守備寄りな陣形で戦おう」


「そうだ。お館様が戻れば、オケツ達など押し返せる。反撃はそこからだ」


 タコガマが言うと、ニラも賛同する。

 他の騎士もボブハガーが戻れば敵ではないと考え、戦場に赴いた。



「野郎共!アタシ達の歌を聞け!」


 マリーのシャウトを合図に、攻めてくるオケツ軍。

 その進軍は遅く、残党軍は嘲笑する。



「なんだなんだ。あの進軍は」


「最早疲れ切って、ヤケになっているのではないか?」


 夢の中でひたすら机に向かっていただけの騎士達に、精神的な疲れは別として、肉体的な疲れは全く無い。

 その為進軍が遅いのは、オケツ軍がアンデッドと魔物により、疲労困憊だからだと考えていた。

 しかしそれは、全く違っていた。

 残党軍はゆっくりとやって来たオケツ軍を囲むように迎え撃つと、簡単に前線は瓦解していく。



「な、何だこの勢いは!?」


「止められん!」


 ハクトの支援魔法で、今までよりも力強く進むオケツ軍。

 そして進行が遅い理由は、別にもあった。

 先頭を進むのが、サネドゥだからである。

 重い銀狼の鎧に身を包んだサネドゥは、戦場を悠然と歩いて進んでいたのだ。



「先頭の集団に、攻撃を集中しろ!」


 一度後ろへ引くと、ゆっくりと歩いているサネドゥ達はそれを追わなかった。

 そんな先頭集団に銃や弓矢、投石等、様々な遠距離攻撃を開始する残党軍。

 だが結果は変わらず、徐々に近付くサネドゥ達に、彼等は後退をするしかなかった。



「下がれ!もっと下がれ!」


「これ以上は下がれません!」


 残党軍は気付かなかった。

 既に後ろは、ヌオチョモが居る本陣だと。

 後退出来なくなった彼等は、仕方なく玉砕覚悟で攻めに転じた。



「重騎士隊、先頭集団とぶつかれ!」


 重い鎧に身を包んだ騎士なら、サネドゥ達の歩みを止められる。

 そう考えて、タコガマは彼等をぶつけた。

 サネドゥ達の進行は遅くなったが、やはり止まらない。

 そこを囲むように、他の騎士がサネドゥ達に斬りかかった。



「死ねぃ!」


 サネドゥ達に襲い掛かる残党軍だが、彼等はすぐにパニックに陥った。

 理由は、サネドゥ達の後方からの砲撃である。



「何だ!?」


「砲撃です!移動しています!」


 彼等はそれに、見覚えがあった。

 かつてサネドゥがハッシマー軍の中で使っていた兵器。



「さ、サネドゥ丸!」


 サネドゥ丸は固まっていた残党軍目掛けて、砲撃していた。

 しかし残党軍の中に呑み込まれたサネドゥ達が、何処に居るのか分からない。

 誤射もあり得るこの状況で、何故撃ってくるのか?

 それはサネドゥの一言が原因だった。


 私ごと撃て。

 彼は支援魔法で防御力も大幅に上がった事で、サネドゥ丸の砲撃に耐えられる騎士だけを厳選して、前線を組んだのだ。

 何もせず、ただ進むだけで敵が減っていく。

 そんな状況を目の前で見ていた残党軍は、パニックを起こし始めた。

 そして最後に、トドメの一撃である。



「マリー!」


 サネドゥの合図でハクトからマリーへとメインボーカルを変更すると、彼女は全員に聞こえるように叫んだ。






「オケツにやられたボブハガー。最期は一騎打ちにて獅子王は散った。それを知らずに寝ていたマヌケ。お前等全員、ピエロだな!」


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