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違った未来

 認めるべきところは認める。

 それもまた、上に立つ者としては素晴らしい素質だと思う。


 ハッシマーは自分を斬ったオケツの剣を、認めていた。

 良いものは良いと言えるというのは、敵ながらあっぱれだと思う。

 というよりも、僕の中ではオケツに対する考えが、ハッシマーとほぼ同じな気がした。

 誰にでも良い顔をしようとするからか、優柔不断な性格。

 その性格が招く、微妙な政策。

 ハッシマーがオケツを認めたくないと言うのも、分からなくもないのだ。

 そもそもオケツが騎士王になってから、ほとんどトキドやウケフジ、タツザマが仕事をしていると言って良い。

 君臨すれども統治せず。

 イギリスの政治体制として有名な言葉だが、ハッキリ言ってオケツがやるにはまだ早いと思っている。

 例えば王が、他の人から分かるくらいに結果を残したなら、その体制でも誰も文句は言わないだろう。

 しかしオケツには、まだ敵が多い。

 おそらく彼自身を慕ってくれていると思えるのは、トキド達くらいだろう。

 あの三人を慕う連中が居るから、まだ成り立っていると言っても過言ではない。


 だけど、そんなオケツにも素晴らしい点はある。

 それが剣の腕である。

 若くしてボブハガーの配下として頭角を現したのは、ブラフではないという事だ。

 ハッシマーもそれは気付いていたのかもしれないけど、オケツには大きな弱点があったからね。

 それは人付き合いだろう。

 ボブハガーの配下の中では、オケツはそこそこ有名だったかもしれない。

 だからシッチやタコガマ達も、オケツには警戒していた。

 だけど奴は、他の騎士との関わりが希薄だった。

 もっと他の騎士と仲良くなっていれば、オケツだって僕達に頼らず、ハッシマーと楽に対峙出来ていたと思う。

 まあ当時は、ヨアヒムがハッシマーに手を貸していたので、どちらにしろ僕達も首を突っ込んでいただろうけど。

 それでも国内に味方が居ると居ないでは、雲泥の差だったはず。


 ハッシマーはそういう意味では、オケツの事をしっかりと理解していたと思う。

 ただハッシマーの中で誤算があったとするなら、オケツが思った以上にしつこかったという点だろうね。

 ハッシマーもまさか魔族を味方にしてまで仇を討とうとするとは、思わなかっただろう。

 そういう意味では、僕もハッシマーもオケツが理解出来ていなかった点だと思った。










 なるほど。

 言われてみればなんとなく分かる。



 人間は筋肉に制限をかけている。

 普段は全力を出しているつもりでも、脳が勝手に力を抑えているからだ。

 しかしアドレナリンが大量に分泌されると、そのリミッターが外れていつもとは違う力が発揮出来る。

 という話は、知っている人も多いと思う。


 ではどうして脳は、普段は力を抑えているのか?

 答えは簡単、身体が壊れてしまうから。

 普段からそんな力を使うと、筋断裂や骨折等、様々なダメージが返ってくる。



 そんなリミッターを、ハッシマーは持っていなかった。

 しかも本人は痛みを感じないので、それに全く気付かない。

 これがもし生きている人だったら、無理をした反動で痛みを感じて、これ以上は無理だと判断して自ら力を抑えただろう。

 だってアンデッドは、痛みを感じないから。


 おそらくだけど、少しずつ身体が痛めたんだろうね。

 例えば耐荷重40キロのバッグに50キロの荷物を詰め込んでも、いきなりは千切れたりしない。

 少しずつ持ち手が切れていくのと同じ事が、ハッシマーの身体にも起きていた。



 そして今、ハッシマーも兄の言葉を聞いて理解したのだろう。



「考えてみなよ。どんなモノにも容量がある。多分タツザマだって、もっと速く動けると思うんだ。でもそれをしないのは、無理をすれば足が壊れるからだって、分かってるからでしょ?」


「・・・アンデッドの身体も、無敵ではなかったという事か」


「アンタの身体への負荷は、相当なもんだったと思う。じゃなきゃ、粉々に吹き飛ぶんじゃなくて、折れる程度で済んでたはずだからな」


 ハッシマーの足は、最早何処にも見当たらない。

 その足への負担が衝撃となって、粉々になってしまっていた。

 もし足が残っていたなら、アンデッドだから再びくっ付ける事も出来たかもしれない。

 しかし土塊どころか砂粒レベルまで粉々になっては、おそらく彼を蘇らせた羽柴秀長くらいしか、元に戻せないと思われる。



「さて、この状態で俺に勝てると思うか?」


「シッチの朱雀を使えばとも思うが、飛んでもあのスピードは出ないのは分かっている。ワシの負けだ」


 ハッシマーは敗北を宣言した。







 僕もハッシマーの近くまで歩いていくと、間近で見て初めて気が付いた。

 足どころか、身体までひび割れている。

 多数のケモノの力を使うというのは、足だけでなく身体に負担があるのだろう。

 もしかしたら一人につきケモノは一匹までというのは、身体への負担が関係しているのかもしれない。



「なるほど。ワシにも時間が無いという事だな」


 上半身を起こそうとしたハッシマーだが、腕もボロボロと崩れていく。

 ようやく自分の身体が限界だと気付くと、ハッシマーはどうにか転がって、仰向けになった。



「所詮ワシは紛い物か」


「紛い物って何だ?」


「本物と似ているけど、違うって意味」


 これくらいは知っていてほしいものだ。

 だけどそれを聞いた兄は、少し考えた後に口を開く。



「俺はさ、別にマネが悪いとは思わないのよ。通算安打数で世界記録を持っている人だって、昔は憧れた人のバッティングフォームをマネしていた。バットだって、その人の特注品を使っていたって言うくらいだ」


「何の話だ?」


 野球に例えても、ハッシマーには通じていない。

 むしろ時間がもう残されていないハッシマーからしたら、こんな話は迷惑だと思う。



「要は俺、こう思うワケよ。モノマネから入って、オリジナルになる事もあるよねって話。憧れから世界一になる事も、あるんだよってな」


「モノマネからオリジナル・・・」


「こう言っちゃアレだけど、雷炎蒼?アレは凄かった。もしこれをもっと磨いて自分のモノにしていたら、足は砕けずに済んだかもな。まあ、今となっては遅いけど」


「そうか・・・。マネをする事ばかり考えて、そこから先を見ていなかった。確かに今となっては遅いな」


 ハッシマーは少し悲しそうな感じだが、妙に晴れやかそうな気もする。

 気のせいか、少し笑っているようにも見えた。



「自分の能力にモヤモヤを感じたワシだが、今の一言はワシのコンプレックスを、少しだけ解消してくれた気がする。感謝しておこう」


「うーん、もうちょい早く俺と会っていればなぁ。もっと教えてやれたと思うんだけど」


「教えるって言ったって、野球じゃ意味無いからね」


「あ、そっか」


 やはり間違っていたか。

 良い事を言っているように見えて、方向がズレているな。



「いや、間違っていないかもな。魔王と早く会えていたら、全く違った人生を歩んでいた。そうだなぁ、秀吉と出会って居なければ、お館様に刃を向けるなんて大それた考えもしなかった」


「なっ!?」


 僕は思わず大きな声で反応した。

 しかしハッシマーはもう意識も薄らいでいるのか、僕の声に反応しない。



「ワシだって、名を残したいという夢があった。やり方は間違えたが、それも叶った。だけどもう少し今の話を早く聞いていれば、オケツとワシでお館様の両腕として活躍出来たのかもしれないな・・・」


「そうだな。そんな未来もあったかもしれない」


「そうか。勿体無かったな」








 オケツの身体は、ボロボロに崩れた。

 最期の言葉を聞く限り、少し後悔しているようにも思えた。


 オケツと二人で、ボブハガーを立てていた世界か。

 もしもそんな世界線があったなら、僕も帝国もオケツとは敵対していた気がする。


 でも秀吉の名前が出てきたのは驚いた。

 ハッシマーがこんな風になったのは、秀吉の影響もあるのかと思う。

 そう考えると、ハッシマーが最期に言っていた世界線もあながち無い未来じゃなかったんだよなぁ。



「なあ」


「ん?」


「音楽が聞こえなくなっちゃったんだけど」


 音楽?

 そういえば、微かにアニソンが聞こえていたような。

 アニソンを流すなんて事するのは、ロック達しか居ないのは分かるけど。

 アレ?

 音楽が聞こえないって事は、もしかして・・・。



「戦いが終わった?」


「ちょ、ちょっと待て!演奏が止まったって事は、ハクトと蘭丸がやられたって事か!?」


 その可能性がある!

 僕は人形から身体の中に戻ると、兄は本気で走り始めた。









 戦いは終わったのか?

 俺は森を抜けてようやくたどり着いた先には、やけにその辺で寝ている騎士達の姿が目に入った。



「何だ、コイツ等。戦場で寝るとか、アホなのか?」


(違うよ。コイツ等が山田のスタディーワールドに取り込まれたんだ。まだ寝てるって事は、試験に合格してない事を意味してるんだよ)


 全員!?

 山田の能力、ハンパないな・・・。


 それにしても、ハクト達は何処なんだ?



「新手か!?」


 うおっ!?

 騎士に囲まれてしまった。

 しかしコイツ等、凄い汚い格好だなぁ。



「俺は阿久野。魔王なんだけど、騎士王国を助けに来た」


「ま、魔王!?本物か!?」


「オケツに会えば、って騎士王にいきなり会うのは難しいか。だったらトキドかウケフジ、タツザマ辺りに連絡してくれると早いんだけど」


「承知した」


 一人の騎士が馬に乗って走っていく。

 俺は囲まれたままだけど、見た感じ戦いは終わってる?



「今は休んでる最中なの?ハクト達は無事?」


「敵か味方か分からない者には、ちょっと答えられないな」


 うーむ、下級騎士には顔が知られていないのは痛い。

 このままだと、助けに来たのに何も出来ないぞ。


 囲まれたまましばらく待っていると、タツザマが馬に乗ってやって来た。



「魔王様!」


 タツザマの一言が、下級騎士達を跪かせた。

 ちなみに俺に分からないとか言ってきた奴は、顔面蒼白になっている。



「とりあえずそこのキミ。怒ってないから、そんなビビらなくても平気だから」


「ありがとうございます!」


 命を救われたみたいな顔をするのは、やめてほしい。

 俺が、血も涙も無い悪魔みたいな奴に見えるじゃないか。



「ところでタツザマ、ハクト達は無事?それと俺がボブハガーやっつけようか?」


「え?」


「俺、やる気満々よ?」


 ハッシマーとは戦ったけど、やっぱり勉強なんかずっと時間を使っちゃったからな。

 まだまだ活躍するぞー!



「ハクト殿達は、今は長時間歌っていただいたので、もう休んでいただいてますが」


「そうなの?じゃあ俺がボブハガーと戦う?」







「非常に申し訳難いのですが、既に戦闘はほとんど終わっています。魔王様にやっていただきたいのは、怪我人の治療くらいかと」

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