砦攻略2
半兵衛の虚弱体質改善には、栄養摂取が大切だと思われた。
それにはやはり食事が一番だと思う。
ハクトに頼み、新たに開発したガッツリ系のラーメンを作ってもらった。
苦しいと言いつつもほぼ完食した半兵衛。
そしてテンジとドランも同様に完食。
満足した二人だったが、安土で他のラーメンを食べると言ってのけたテンジに、ドランはズルイと反発したのだった。
昼の攻撃は一方的だった。
此方は死亡者ゼロに対して、向こうは約三百。
その差は籠城に攻める側と守る側だろう。
軽傷者は今や回復魔法で、既に戦線に復帰している。
要は此方の被害は無いのだ。
半兵衛はこれを機に、作戦の決行を決意する。
翌朝、全員の準備は出来ていた。
ハクトと蘭丸はトライクの運転。
ドワーフは門を破壊。
ネズミ族は秀吉の捜索。
前田兄弟は撹乱。
皆、自分のやる事が分かっていた。
「上流組へ連絡を」
決行を連絡し、僕は塀の上から川が氾濫する様子を見守っていた。
砦へと襲いかかる土石流。
ぶつかった勢いは凄まじく、砦内へも入り込む。
作戦の第一段階は成功。
しかし予想外の出来事も起きた。
急流に流された大木が、一夜城へと向かってきていたのだ。
僕では対処出来ない。
代わりに兄さんが、大木の処理を行う事になった。
「へんっしん!トゥ!」
久しぶりにヒーローの出番だ。
ここはやはり、俺のカッコイイ姿を皆に見せた方が盛り上がるだろう。
そうすれば士気も上がる。
「天知る地知る誰が知る!」
「魔王様」
「困った奴は俺を呼べ!」
「魔王様!」
「そう!俺の名は・・・」
「魔王様!!」
「うるさいな!」
今が一番見せ所だろうが!
何で声掛けるんだよ。
「そんな事どうでも良いので、早くやってください」
「そんな事!?馬鹿野郎!皆が見ているだろ!」
「見てませんよ。皆、作戦に集中していますから」
振り返ると、誰も塀の上を見ていない。
これから自分がやる事に集中しているようだ。
「あら?」
「誰も見ていないのに名乗って、悲しくないですか?」
「・・・お前が見てるじゃん」
「じゃあ目を瞑るので、早く大木をどうにかしてください」
コイツ、ムカつく!
俺、一応魔王よ?
何でこんな扱い酷いの?
しかも半兵衛とはそんなに知り合って間もない。
親しいわけでもないのに、扱いが雑なのはどうなのよ?
「終わりましたか?」
「もう良いよ!やるから目を開けろ!」
「早くした方が良いですよ。おそらく手前の堀まで来ると、水の流れが変わって動きを読むのが難しくなると思います」
下を見ると、深めの堀があった。
そういえばこんなの作ってたな。
この先端の強度を考えると、大木が直撃すれば穴が開くだろう。
ここは半兵衛の言う通り、さっさとぶち壊した方が良いみたいだ。
「半分に折れば問題無いか?」
「綺麗に折れればですが」
「それは難しいかも」
仕方ない。
狙うより数で押す方が良さそうだ。
悪いが、球を作るのは任せるぞ。
(分かった。手の中に鉄球を作って行くから、そのまま投げる準備しちゃって)
「半兵衛。危険度の高い大木から順に教えてくれ」
「分かりました。まずは左から二本目」
アレか。
見た感じ一番大きい。
確かに一番危険だろう。
ピッチャー、第一球投げました!
真ん中から少しズレたが、半分には折れた。
「まだです!大きい方をもう一度」
アレじゃまだ大きいのか!?
第二球!
あ、当たったと思ったら砕けた。
「次、一番右!」
早いな。
これか。
手投げでも折れそうだな。
二球連続でぶつけとくか。
「また右です」
大きいな。
さっきより球速上げてと。
「終わりかな?」
「お疲れさまでした。あの魔法、凄いですね」
どの魔法?
俺、身体強化以外使えないけど。
「とりあえず大木の方は終わったけど、水の方は問題無いか?」
あるなら早々に弟に変わらんといけない。
俺じゃ創造魔法で、壁の補強なんか出来ないからな。
「この勢いは想定内です。魔王様がキッチリと作り直してくれたおかげです」
俺じゃないけど、素直に受け取っておこう。
「ハッハッハ!そうだろうそうだろう!俺は凄い!」
(何を人の手柄取ってるんだよ!俺は凄いじゃないだろ)
だって何て言うのさ。
俺じゃないから、後でもう一回言ってって伝えるのか?
(それもおかしいか。でも俺は凄い!って、ちょっとアホっぽいよ)
それは自分で言った後に思った。
その辺のケアは、後で自分でしてくれ。
それよりも気になる事がある。
「向こうの砦、煙が上がってないか?」
「私にはちょっと見えないのですが」
まだ日の出には早い。
ちょっと見づらいから、分からないのもしょうがない。
「水の勢いはかなり弱くなりましたね」
「膝丈くらいの高さまで減ったかな?」
俺の出番はそろそろ終わりだろう。
お前が橋を作る番だ。
「城門を開けましょう。砦へ突入します!」
半兵衛は高らかに宣言した。
門前に居たトライクに火が入る。
というより魔力を込める。
ドワーフ達からも大きな掛け声が聞こえる。
「行くぞ!」
塀の下に降りて、僕達もトライクへと乗り込んだ。
僕は蘭丸の後ろへ。
半兵衛はハクトの後ろに座った。
「あ・・・」
問題が発生したようだ。
門を開けようとしているドワーフ達が、何やら困っていた。
「開きません・・・」
「何故?」
「重くて動きません」
どうして開かないの?
「魔王様。おそらく水圧で重くなっているのかと」
それか!
まだ完全に水が引いたわけじゃなかった。
水圧なんて、全然考えてなかった。
「もういいや。壊していこう」
門に手を翳して、鉄の門を鉄塊へと変えた。
水が城の中へ入ってくるが、そこまで慌てるほどの量じゃない。
後で掃除が大変かもしれないけど、そんな事は後で考えればいいのだ。
「今度こそ行くぞー!」
トライクが水飛沫を上げながら前進して行った。
「本当に煙が出てますね」
さっき兄さんが言った通りだった。
何で出てるんだろう?
「おそらく朝食の準備をしていて、そこに水が襲ってきて厨房で火が上がったのでしょう。千人以上の人数ですから、早くから準備しているのだと思いますよ」
「半兵衛くんってやっぱり凄いね!そんな事まで分かるんだ」
そんなストレートに言ったら、ほら照れちゃってるじゃないか。
顔が赤くなってるし。
ん?
顔が赤い?
「半兵衛。お前、体調はどうだ?」
「そういえば、いつもよりは楽ですね」
「念の為、糖分を摂取しておいた方が良いかな。握り飯食っとけ」
「むぐっ!」
ハクトが作った握り飯だ。
中には梅干しが入っている。
出来れば昆布とか鮭が欲しいよなぁ。
おっさん・・・じゃなかった。
早くキルシェ王女が王国の実権を握って、僕等と表立って手を組めればね。
まあ、それは先々考えておこう。
「着いたぞ」
蘭丸の声に後ろのキャリアカーから、ドワーフ達が覗き込んできた。
「それでは、橋の準備をお願いします。皆は上空からの攻撃に注意を」
砦を見たが、やはり上流側の方に人員が集中しているようだ。
此方には全く人が居ない。
無用心だなとは思うけど、それだけ切羽詰まってるのかもしれない。
「気付かれる前にさっさと作りますか」
地面の土と、上流から流れてきていた流木で橋を作り上げる。
土が思ったより柔らかくて、集中しないと上手く作れないな。
これは魔力の減少が早い。
「むう。キツイな」
水気を抜いてから土を盛り上げて、何とか小さな橋が完成した。
「ドワーフ隊、行くぞ!」
ドランの掛け声に、ドワーフ達が大槌を持って橋を渡っていく。
僕が壊せたら早かったけど、やっぱり魔力が残り少ない。
緊急事態に備える事を考えると、やはり此処で使うわけにはいかなかった。
「野郎ども!ドワーフの気合を見せろ!」
大槌を振り上げたドワーフ達が、一斉に門に叩きつけた。
派手な音の後に、ミシミシと言う音が聞こえた。
これなら数回叩けば、簡単に壊れそうだ。
「テンジ様!今の音で向こうも気付くでしょう。魔法で支援の準備をお願いします!」
「了解した!お前達。準備は出来てるな!?」
橋の向こう側にはネズミ族が大勢並んでいた。
砦の上の方に向けて、魔法を放つ準備をしている。
これならドワーフ達に、危険が及ぶ事は無いだろう。
「何だ!?ネズミ族とドワーフだと!?」
見張りが音に気付いて、此方へと駆けつけたようだ。
笛のような物を吹いて、砦付近に響き渡った。
「敵襲!敵襲!」
「気付かれたか!?」
弓矢を持ったネズミ族が、砦から下に向かって狙いをつけていた。
「放てぇ!」
準備をしていたテンジ隊が、弓矢兵達に向かって魔法を放つ。
直撃はいないようだが、牽制にはなっている。
「お前等!気合を見せんかい!一益様を笑い者にするつもりか!」
「オゥ!」
大槌が再び門へと叩きつけられ、大きくヒビが入る。
多分次で壊れるだろう。
しかし敵もそれを見過ごすほど、馬鹿ではない。
今では弓兵以外に魔法兵も攻撃に参加していて、此方に向けて放っていた。
「思ったより敵の集まりが早いですね。少しマズイかもしれません」
マジか!
半兵衛の予想を上回るとは。
「何か策はあるのか?」
「少し考えます」
今から!?
それは遅くないか?
「あるにはあるんですが、此方の被害も大きくなるんです!だから!」
「どけ!」
振り返ると、蘭丸のトライクに又左が乗り込んでいる。
「蘭丸!分かっているな!」
「ハイ!行きますよ!」
フルスロットルでトライクが門へと向かって行く。
どうやらそのままブチ抜くつもりのようだ。
「ヒャッハー!俺を止める奴は死ぬぜえぇぇぇぇ!!!」
バゴオォォォン!!!
何か雑魚軍団のつもりだったのに、すげー強そうに見える。
言動は雑魚なのに。
「突入!!」
破壊された門から、そのまま雪崩れ込むドワーフ達。
その後ろからはテンジ隊も入って行った。
しかし、そのテンジ隊よりも速く走っていく人影があった。
「兄上!槍を持っていくでござる!」
「おぉ!自分のを忘れていたわ」
トライクに積み込んだ数本の槍は、通常の長さの物だけだった。
一本は蘭丸が。
他の槍は投げ槍として使っていて、奥で魔法を唱えていた兵に刺さっていた。
「蘭丸はテンジ隊と合流しろ。慶次!」
「ハイ!」
「背中は任せた」
「え!?は、ハイ!」
慶次は又左から、そんな事を言われると思わなかったようだ。
驚きつつも、その返事は嬉しそうだった。
「慶次殿!頑張れよ」
「ドラン殿!ハイ!」
上野国から一緒に来たドランは、慶次に声を掛ける。
「お前等、前田兄弟に続け!」
又左が一直線に前へと進んでいく。
その後ろには慶次が続き、左右から来る敵を蹴散らしていた。
その後ろをドワーフ達が続く。
彼等は砦内でとにかく暴れる撹乱が仕事だ。
ドンドンと突き進んでいった。
その後ろからネズミ族の連中が追う。
「テンジ隊!藤吉郎様の捜索に入る。安全な場所から見て回るぞ。それと蘭丸殿」
「何でしょう?」
「半分任せる」
「俺、いや私がですか!?」
「下流で指揮をしていたのを見ている。キミなら任せるに値するよ」
「分かりました。若輩者ですが、全力で取り組ませていただきます!」
蘭丸の後に、百人近いネズミ族が続く。
少し遠慮がちだが、ちゃんとした指示を出していた。
「私達は撹乱組の後を追い、安全確保を主に行います。ついてきてください!」
そう言って奥へと進んでいった。
僕は一番後ろから、ハクトと危ない所を支援している。
「半兵衛。次はどうする?」
「そうですね。砦の部隊長をどうにかしたいですね」
「部隊長か。どうせ上に居るんだろうなぁ」
秀吉を監禁している場所を守っているくらいだから、それなりに強そうな気もする。
「失礼します。二階に上がったドラン様が負傷しました!」