僕達のBダッシュ
「お~い、阿久野~!野球やろうぜ!」
僕は何処の坊主頭ですか?
こんにちは。気付くとガキ大将ポジションに居る、どうも僕です。
村の生活にも慣れ、今では寺子屋で文武両道で通ってます。
しかし女子には人気ありません。
周りの連中は背も伸びて、少し大人っぽくなってきてます。
僕も少しは成長し、背も高くなりました。
って言えたら良かったのに・・・。
なんだろう。全く背が伸びてない。
周りが皆大きくなってるのに、自分だけ取り残されている。
なんていうか、クラスの皆は中学生なのに、自分だけ小一のままみたいな感じ。
何故か豆チビなのにガキ大将。
これが経験の差というヤツか。
というわけで、最近は野球やってます。
何故、野球をやっているかというと、一応理由があったりする。
実は以前、火球の練習の際に試しに投げてみたら、威力と命中率が上がったという事があった。
勿論、これをやったのは兄だ。
普通の火球は掌を対象物に向けて発射するイメージで放つ。
しかし、ようやくビー玉の阿久野の名を返上した兄は、やっと野球のボールくらいの火球サイズになったからか、目一杯の力で投げ込んだ。
そうすると威力が上がったのもさることながら、貫通力まで上がったのだ。
それを見た先生は、ビー玉の阿久野を珍しく褒めてくれた。
ビー玉改め投手阿久野。
周りの男子から、どうすれば威力が上がるのかとちやほやされた結果、野球やると良い!と言ってしまったのだ。
野球ってなんぞ?となったのだが、流石は野球部。
どのようなものなのか教えていき、今では男女関係なく魔法の実技の一環としてやっている。
ちなみに異世界ルールとして、ボールは自前の火球。
捕手は水魔法で手をガード。
内野と外野は風魔法や身体強化等を駆使して守備。
打者は身体強化をして、バットの代わりに鉄棒を持つのだ。
今では四属性を使ってやる実技として、寺子屋推奨の勉強に組み込まれている。
異世界で教育現場を変えてしまった・・・。
そんな元野球部キャプテンの兄のポジションは、ほぼ審判である。
何故、本職の捕手をやらないかって?
坊やだから・・・ではなく、まだルールが分かってないからさ。
先生もまだ完璧ではないので、審判の勉強しつつ先生も選手をやっている。
なんか先生の方が楽しそうなんだよなぁ。
【自分が出来ないのはちょっと寂しいけど、こうやって楽しんでくれてると教えがいがあるんだよね。特に今時は、野球をやったことないって子供もいるらしいから】
なるほどねぇ。
でも兄さんもまだ下手だから、魔法の練習しようね。
【分かってるよ!だから審判やりながらさりげなく風魔法使ってるよ!顔に爽やかな風が来るくらいだけど・・・】
ちなみに今は兄の代わりに審判をやっているけど、ぶっちゃけあまりストライクとボールの判断がよく分からないのは内緒だ。
兄に内心でどっちだったか聞きながらやっている。
あと最近になって野球以外だと、大人に混じって魔物退治に出かけたりするようになった。
理由は主に兄の身体強化。
視力アップで索敵に活躍している。
身体強化をすれば大人より動ける自信はあるが、流石に前田さん達からは戦闘は止められている。
止められてはいるんだけど、まあ明らかに手出してるよね・・・。
【だって誰も居ない時だってあるじゃん。自分の身を守る為です。大人を呼ぶのが面倒だからとか、決してそういう理由ではないです】
はい、言い訳乙。
初めて魔物と一人で戦ってる時、僕はもう冷や汗が止まらなかったよ。
今では安心して見ていられるけどね。
【そんな事言っておいて、お前も魔法でぶっ飛ばしてたじゃないか!しかも最初はビビって、明らかにオーバーキルしたいのか火力おかしかったし】
やっぱり最初は怖いよ。
それよりもその後が大変だったなぁ。
威力が大き過ぎて大人が集まってきて、一人で戦ったのがバレちゃったし。
正座で説教をされたの、人生で初めてだった。
そんな事を思い出しながら審判をしていたら、何やら周囲が騒がしくなってきた。
前田さん達が走り回っているのが見える。
村長、汚職でもバレたか?
等と思いつつ、打席に立つ先生に聞いてみた。
「先生、村長達が騒がしいですけど、何かあるんですか?」
「今日はね、女エルフの戦士団がやってくるんだよ。時間までまだあるから、歓迎の準備を・・・そい!」
話ながら打席に立ってるから、盛大に空振りをしている。
集中しているところをごめんよ。
「っとと。思ったより球速くなってるな・・・。それで歓迎の準備をしているんだと思いますよ?って、おぅりゃ!」
ボン!という音を立てながら火球を打ち返し、センター前ヒットで走っていく先生。
おっしゃあ!じゃないよ!
へいへい!ピッチャービビってるぅ!とか言ってるし。
野球に関してはもう教育者の顔では無い。
でもさっきの言葉、聞き間違えではないと思う。
【あぁ、これは絶対に外せない案件だ】
女エルフ!
それは異世界で最も待ちわびた瞬間と言っても過言ではない!
もしかしたら、身体を取り戻すより大事な案件である。
【激しく同意だ!俺達がこの世界に来たのは、女エルフとの邂逅の為だったのかもしれない】
兄が珍しく、難しい言葉を使っている。
それだけ本気という事だ。
しかし!まだ分からない。
エルフと言えばやはり美人系の背の高いお姉さん、いやお姉さまを思い浮かべるだろう。
だが現実は非情だ。
もしかしたら全然違う、そう胴長短足の出っ歯系お姉さんかもしれないじゃないか!
過度な期待は禁物だ。
あ!前田さんが手を振ってる!
これは、戦士団の方々が来たのでは?
塀の向こう側からちょっとした歓声が聞こえてきた。
これはもう到着したという事だろう。
あ!エルフっぽい人の頭が見えた!
塀の高さより頭が出てるから、やっぱり背は高いんだろうね。
僕の身体強化で視力アップしたけど、あまり見えないな。
(ってアレ?身体が入れ替わってる!?)
うるさい!お前にも見えるように視力アップするから!
(おぉ!めっちゃ綺麗じゃん!グラビアアイドルとか目じゃないな!ってうわっ!)
俺は全力で塀の入り口まで走った。
魔物を相手にする時よりも速く走った。
(兄さん!何するの!?)
何をするだって!?勿論決まっている!
曲がり角で偶然ぶつかって、「あ、お姉さん!ごめんなさい!」作戦だ!
(何だそれ・・・)
いいかよく聞け。俺達の背は伸びていない。
そして今の俺達の頭の位置は、エルフ達の頭より下。
そう!胸の辺りだ!
(ま、まさか・・・)
気付いたか。もしこのまま偶然を装ってぶつかったとしよう。
ボニョンという天使の包容、もし胸が薄くてもフニョンくらいはあるだろうが!
(お、おぬし!天才か!!)
それに考えてもみたまえ。
俺達は今・・・子供だ。
多少の御触りをしても、そこまで怒られないだろう。
あれれ~?おかしいな~?第二弾!
身体は子供、性欲は大人、ゲスの極み阿久野!
(このゲスが!だが悪くない。感覚は共有させてね?)
当たり前だ、弟よ!
もうそこを出ればエルフのお姉さまが。
阿久野、行きま~す!
どん!
・・・ん?痛い。
ボニョンでもフニョンでもない。
強いて言えば、ゴスっ!
「坊主、前を見ないと危ないぞ?」
う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!!
な、なんということだ!
これはない!これはないよ。
俺達は狙い通りにお姉さまにぶつかった。
そこに待っていたのは、たわわなOPPAIではなかった。
胸は胸でも、大胸筋と呼ばれるものだった・・・。
そう、お姉さまは綺麗なお姉さんではなく、屈強なアマゾネスだったのだ。
そういえば、戦士団だもんね。
そこまで考えてなかったよ。
ちくしょおぉぉぉぉ!!!!
俺達は人生で初めて膝から崩れ落ちた。