決着オケツvsボブハガー
オケツとボブハガー。
どちらが騎士王かと聞かれたら、確実に後者だと答える。
二人はギュンターの狙い通り、一騎打ちへと持ち込まれた。
現騎士王と元騎士王。
この二人の評判は、比べるとどうなのだろうか?
まずボブハガーに関してだが、僕の中では強引といった印象だ。
かつて一度だけ戦った事があるが、アレは魔王としての僕の実力を、見たかったのだろう。
あの時は僕達が勝利したが、今にして思えば本気じゃなかったんだと思う。
もしかしたら負けたのも、向こうとしては僕を立ててくれたのかなって気もするし。
何にせよ、強引なタイプだと思うけど、空気を読まないという人間では無かった。
まずその大きな理由の一つが、越前国との取引だ。
ボブハガーが唯我独尊といった性格なら、間違いなくお市が瞬間冷凍させていたはず。
彼が下手に出るようなタイプだとは思えないけど、相手を下に見る事無く、越前国とは対等な付き合いをしていたと思われる。
強気なタイプではあるが、相手によって変えている気がした。
いわゆるTPOと呼ばれるものを、ちゃんとわきまえた人物なのだろう。
それに対してオケツはどうか?
まず彼が騎士王になった成り行きを考えると、あまり好印象じゃない人が多い。
何故ならオケツは、仇討ちがしたかっただけという印象もあるからだ。
ボブハガーを裏切ったハッシマーを、どうにかして倒したかった。
騎士王国中の騎士を敵に回してでも、やり遂げたかったという強い意志も感じられた。
その為に手段を選ばず、僕達に協力を要請するという、良く言えば機転が効く。
悪く言えば、ズルイと言えるやり方で戦ったとも言える。
それを考えると頭は悪くないし、決めた事をやり抜く強さもある。
だけどそれは、本当に自分が決めた事でしか、発揮出来ないタイプなのだろう。
騎士王になりたかったわけじゃないオケツは、揺れに揺れて優柔不断な男になってしまったんだと思う。
強気なタイプだけど、臨機応変に立ち回れるボブハガー。
頭は良くてそれなりなのに、優柔不断な態度が周囲の印象を悪くさせるオケツ。
どちらも敵を作る事には変わらないけど、やっぱり仕事が出来るという意味では、ボブハガーの方が騎士王っぽい気がするかな。
やっぱりオケツは、あんまり上に立つタイプではないのかもしれない。
真っ直ぐ立っているつもりなのに、頭が揺れているオケツ。
次第に耳鳴りや頭痛も酷くなってくる。
「失敗した・・・」
耳栓だけでも良かったんじゃないか?
今になって後悔するオケツだったが、やってしまったものは仕方がない。
覚悟を決めたオケツは、麒麟の能力を駆使して移動を試みた。
「何処に攻撃をしている?」
ボブハガーから自ら離れるように、オケツが遠ざかっていく。
真っ直ぐに走れない。
オケツは状況が悪化したのではと、焦り始めた。
「ど、どうしよう・・・」
「来ないならこちらから行くぞ!」
獅子王の咆哮は、もう通用しない。
しかし獅子の牙や爪といった力は、まだ残されている。
オケツはそんなボブハガーの攻撃に対し、のらりくらりと運良く避けていた。
「ワシを馬鹿にしているのか・・・。動くな!」
思わず叫んだボブハガーだが、オケツは意に介さずフラフラとしている。
その人を小馬鹿にするようなフラフラ具合が、ボブハガーを刺激した。
だが、当の本人はそれどころではない。
避けないといけないと思っても、自分でも驚くくらいフラフラしているからだ。
そんなオケツに対してボブハガーは、太刀を納めて両手で掴んだ。
そして地面に投げつけると、抑え込みに入る。
「このまま首をへし折ってやる」
「うぅ・・・。でも!」
鬼の形相で首を絞めてくるボブハガー。
普通であれば焦るところだが、オケツは逆に冷静さを取り戻した。
立てずに地面に寝転んでいるから、手や足が普通に動かせる。
それに気付いた彼は、腰に差してある短刀を抜いた。
「無駄だ。ワシはアンデッド。そんな短い刀で刺しても、ワシには通用せんぞ」
「お、オケツ・・・ふ、ふぐぅ・・・」
何か言おうとしているオケツだが、首が絞められて何を言っているのか分からない。
しばらく顔を真っ赤にしてそれに堪えていると、ボブハガーはある異変に気付いた。
「何だ?身体が鈍い」
力は入るが、どうも動かしづらい。
ボブハガーがその異変に気付いたのは、オケツの口元を見た時だった。
「息が白い?貴様、何をした!?」
驚きと激昂の中間といった声を出すボブハガーに対し、その隙を見逃さなかったオケツは足でボブハガーのバランスを崩し、そのまま抑え込みから脱出する。
「スウゥゥゥ。おえっ!」
大きく息を吸い込むと、やり過ぎたのかむせるオケツ。
空気孔も小さい閉所空間である。
気付けば空気も薄くなり、頭痛も激しくなってきていた。
そんな空気孔から入ってくる細い光が、オケツの口から白い息が出ているのを見せる。
「さ、寒・・・」
震えながら呟くと、ボブハガーを警戒して距離を取った。
オケツを取り逃したボブハガーは、現状把握を優先して、周囲を見たり壁を触れてみたりしている。
「・・・凍っている?」
ようやく身体が鈍い理由を理解したボブハガー。
しかし何の為にこのような事をしたのか。
そこまでは分からなかった。
「凍らせようが問題無い。また貴様を捕まえれば良いだけの事」
ボブハガーは攻めてくるオケツを待ち構えた。
勝つ為には、攻めてくる以外に道は無い。
「い、行きます」
オケツは再び抜刀の構えを見せると、物凄いスピードで移動を開始する。
自分でも予想していた通り、また明後日の方向へ向かっていく。
しかし、ここからが違っていた。
オケツはスピードを落とさずに、方向を急転換したのだ。
ボブハガーは暗いこの空間内で、オケツがどんな動きをしたのか、見極められなかった。
「で、出来た。予想通り」
「予想通りだと?」
「お館様。私の最高の一撃。いや乱撃を、とくと味わって下さい」
「何?」
「全放電!」
オケツの身体から、とてつもない光が発せられた。
本陣から見ていたハッシマーは、ボブハガーがオケツと共に見えなくなった事を機に、静かに動き始めた。
「お前達」
「何でしょう?」
「ワシは少しここを離れる」
「えっ!?」
意志ある騎士として、複数人が本陣に残されていた。
ボブハガーから責任を任されていたハッシマーが、突然離れると言った事に、彼等は驚いている。
「なあに、お館様の密命だ」
「そんなの受けてましたか?」
「知らぬのも無理はない。密命だからな」
「なるほど。それで、どちらに?」
「北方にある城から、援軍を呼ぶのよ」
勿論嘘である。
ハッシマーは江戸城が既に落ちている事は知らなかったが、この場を離れる言い訳に利用したのだった。
「魔物の数も減っている。そろそろ数が乏しくなってきたからな」
「おぉ!大役ですね。それでは本陣はお任せ下さい」
「あぁ、任せたぞ」
ハッシマーは本陣を一人で離れると、そのまま姿を消した。
オケツが放電を開始すると、その光を足下へと全て集中させる。
そのまま抜刀の構えをすると、彼は再び足に力を入れた。
「速い!」
明るくなった空間内で、オケツを見失うボブハガー。
攻撃をされまいと太刀を抜くと、周囲をキョロキョロと見回しながら激しい足音に耳を澄ませる。
「また別の方向か!」
平衡感覚を失ったオケツは、ボブハガーの左方向へと向かっていく。
それに気付いたボブハガーは、岩にぶつかる瞬間を狙おうと考えた。
「捉えた!何だと!?」
反射の瞬間は、スピードがゼロになる。
が、ボブハガーは空振りをした。
オケツのスピードが落ちなかったからだ。
彼は反撃を警戒して、壁に背を合わせた。
オケツが発する光が、空間の中を明るくしている。
壁に背中を預けたボブハガーは、ようやくこの空間内の異変に気付いた。
「全面が凍っている!?」
今更ながら寒さの理由に気付くと、ボブハガーは両腕を斬り落とされた。
「なっ!?」
痛みも無く、気付くと地面に腕がある。
ボブハガーは攻撃する手段を失うと、オケツの言葉がその耳に入った。
「雷光一閃」
ボブハガーの身体が、斜めに落ちた。
「まだだ。今止まったら、もう動けない・・・。動ける限り、放電を続ける!」
オケツは今まで蓄え続けた充電を、全てここで使い切るつもりだった。
騎士達の代わりに前線に出て、ひたすら稼いだ充電。
使い所を間違えれば、命は無い事は分かっていた。
当初彼は、ボブハガーに組み伏せられた時に放電をしようと考えていた。
しかしそれをやめたのは、腰に差した短刀を思い出したからだ。
それは魔王がオケツに渡した、クリスタル内蔵の特注品だった。
封じられた魔法を使えば、ただの短刀に戻ってしまう。
これもまた使い所を考えなくてはいけなかったが、それがこの時だった。
最初は短刀を、ボブハガーに突き刺そうと考えたオケツだった。
しかし効かないと本人から言われると、それを地面に突き刺し、首を絞められながらも掠れた声で彼はこう言った。
オケツ、フリージングと。
地面を伝って冷気が空間内に充満すると、地面に氷が張られた事に気付いた。
その時、彼はある賭けに出た。
氷が光を反射してくれるんじゃないか?
彼はそれを実行に移すと、自分の考えが間違っていなかった事に気付く。
「これならお館様に勝てる」
しかし問題があった。
真っ直ぐに動けない。
オケツは平衡感覚を失い、超スピードで動いても狙った場所には行けなかったのだ。
そこで考えたのが、とにかく移動する事。
そしてボブハガーが目の前に現れたら、その瞬間に抜刀する。
ただそれだけだった。
地面も四方の壁も天井も、全て凍っている中でオケツは勝負に出た。
目の前に見えたボブハガーに太刀を抜くと、攻撃が浅く両腕だけが斬り落とされた。
失敗したオケツは、もはや頭痛と眩暈で何も考えられなくなっている。
もう一度チャレンジすると、なかなかボブハガーの前には現れられない。
身体の限界を感じつつ、我慢の一手で動き続けるオケツ。
すると、とうとうもう一度ボブハガーの目の前に自分を持ってくる事が出来た。
その瞬間だった。
「雷光一閃」
オケツは下から斜め上に太刀を振り上げると、そのまま壁を蹴り上げると、足がもつれて地面へと勢いよく激突した。
「ど、どうなった!?」
オケツは顔を上げてボブハガーを探すと、半分の身体になった主君が、聞こえないオケツに向かって口を開いた。
「見事だ」




