騎士vs山田
良い判断なのかな?
山田達のひっそりと暮らしたいという要望に対し、僕達が提案した場所。
それはかつての故郷、能登村だった。
村と言っても、既に住民は全員安土へ移住してしまっている。
だから誰も居ない廃村なのだが、自給自足をして生活するのなら、困らない場所だろう。
初めて僕達がこの世界に来た時、近くには川があった。
そして適度に野生動物も居るし、魔物も数は多くない。
古い建物も残ってはいたけど、ちゃんと住むなら新たに建てた方が良いだろうね。
多分一番難しいのは、家造りになるとは思う。
まあ木造住宅なら力持ちの山田も居るし、何とかなるんじゃないかと思っているけどね。
問題は設計図かなぁ。
いくら山田の頭が良くても、建築系の専門知識があるとも思えないし。
やっぱり試行錯誤しながら、建てていくのかな?
でも僕達ですら犬小屋よりも酷い小屋から始まったわけだし、それくらいは覚悟してもらいたいね。
逆に言うと、最初から上手く建てられてしまうと、魔王である僕達の立つ瀬がない。
いや、あの頃は魔王じゃなかったから、ギリギリセーフかな。
待てよ?
古い家をリノベーションしていくという考えも、悪くないな。
どれだけ住める家が残っているか分からないけど、外の補修と中のリノベーションをクリアしたら、相当マトモな家に住めそうな気がしてきた。
案外、移住も簡単に済みそうかも?
ただし、道案内が居ないのが一番の懸念かな。
廃村だから見つければすぐに分かるだろうけど、その間の旅は難しいものとなるだろう。
願わくば、山田達が能登村を新たに作り上げてほしい。
蘭丸が拳を突き上げると、妖怪達は前進を始めた。
それを見ていたトキドとウケフジ、そしてタツザマも、この好機は逃せないと進軍を開始する。
「しかし生者の騎士は、何故倒れてしまったんでしょうか?」
「妾が知るわけ無かろう。理由が知りたいなら、魔王に会った時にでも聞け」
「俺も気になったんだけど。でも生者が倒れているのであれば、シッチは居ないな?」
ボブハガーの配下だったシッチとニラ。
彼等はまだ生きている為、トキドは倒れていると予想していた。
「空が自由なのであれば、偵察も楽ですね」
「そうだな。どうせだから、このまま奴等の本陣でも見てみるか?」
「危険ですよ。アンデッドはまだ健在なんですから」
ウケフジの忠告に、トキドも冗談だと言って引き下がる。
しかしタツザマは、本陣以外なら大丈夫なのではと提案してきた。
「流石にアド殿が危険なのは分かる。でも迂回して、魔王様と合流は出来るんじゃないか?」
「向こうは少人数だからな。挟撃に持っていくなら、俺達が向こうから攻めるのもアリか」
「向こうもアンデッドしか居ない。我々だけでも対処出来るでしょう」
タツザマの提案にトキドは乗った。
ワイバーン隊に指示を出すと、彼等はトキドと共に右側から迂回して江戸城方面へと向かう事となった。
「アンデッドだけとはいえ、まだ数で負けていますから。だから私も出ます」
「オケツ殿!?」
騎士王であるオケツが、自ら先行する。
ウケフジとタツザマは最初は驚いたが、この機を逃さない為には総力戦の覚悟が必要だと判断した。
「ウケフジ隊は騎士王の護衛を。タツザマ隊は騎士王の露払いだ!」
「お市様はどうされますか?」
騎士王国側は攻めると決まったが、魔族側は指揮系統は別にある。
現に慶次は単独行動を。
太田とゴリアテは、帝の護衛としてこの場に待機していた。
「万が一を考えると、残った方が良いのかのう。しかし、太田とゴリアテが帝を守護しておるのじゃ。ならばこれ以上の守りは不要」
「では」
「妾も出る」
「分かりました。私がトライクを運転するので、後部座席に乗って下さい」
お市は蘭丸がトライクに乗って戻ってくると、服装を変えて待っていた。
黒いジャケットに革のパンツ。
サングラスをかけて腕を組んでいると、いつもと違ったお市に、皆は目を奪われた。
「何じゃ?」
「い、いや、いつもの白い着物とは真逆のスタイルだったので。少々珍しいと思ってしまいました」
オケツはお市をガン見していたせいで、言い訳するハメになった。
しかしオケツの言い訳を聞いた者達は、皆同じ意見だった。
「魔王から聞いておる。この乗り物に乗って戦う時は、太田を見倣えとな」
「ワ、ワタクシですか!?」
「ヒャッハー!汚物は消毒だぁ!と言うのじゃろう?」
「それ、魔王様の趣味ですよ。別に言わなくても良いです」
「な、何じゃと!?」
「そうなんですか!?」
「え?どうして太田殿が驚くんです?」
オケツが魔王の趣味をぶち撒けると、蘭丸を含めた魔族全員が、驚きを隠せなかった。
「ワタクシ達は、絶対にやらなきゃいけないものだと教わっていたので」
「お、俺もそう聞いてましたよ。マオの奴、やってくれたな!」
「あら?私、余計な事を言ったのかしら?ま、まあ魔王様とはしばらく会う機会が無いし、関係無いよね?」
オケツは自分へ言い訳をすると、居心地の悪さから戦場へと出発していくのだった。
や、や、山田ぁぁぁぁ!!
凄い人数じゃないか!
僕は目の前の光景に驚愕した。
「な、何だコレは?」
「まだ陣から出ていなかったはず」
「何処だ、此処は?」
騎士達は何も無い世界に連れてこられて、どよめいていた。
目を覚ましたら、長机に等間隔で座らされている。
彼等は勝手に席を立とうとすると、真上から金タライが落とされた。
「うぐっ!な、何だ?」
「タライ?」
見上げても真っ白で何も無い。
何処からタライが落ちてきたのか謎に思う騎士達は、段々とこの場が不気味に思えてきた。
そんな時だった。
白い白衣をワイシャツの上に着て、スリッパで登場する謎の男。
「はい、注目!」
男が何処からか現れた教壇に立つと、マイクも無いのにはるか後ろまで声が通って聞こえた。
「お前は誰だ?」
「私は山田。このスタディーワールドを作った者です」
「作った?なら早く此処から出せ」
「お断りします」
「だったら!」
騎士達は鎧を着て帯刀している。
そんな人物が一斉に立ち上がり、剣を抜こうとした。
だが、立ち上がった瞬間にタライが再び落ちてきた。
運が悪い者は、タライのフチに頭を打ち、悶絶している。
「無駄ですよ。私の世界では、暴力は使用不可。実際にどうなるか、その目で見てみますか?」
山田は僕を見ると、剣を頭に向かって振れと言ってきた。
僕は不細工に剣を振ると、山田の前で剣が何かに当たり弾かれる。
「ご覧の通りです」
「本当だ・・・」
「ケモノの力を使ったらどうなのだ?」
「それも無駄と考えて下さい。この世界では、魔法も私には届きませんからね」
釘を刺される騎士達。
すると彼等は、知らぬ間に長机の上に結構なページ数の用紙がある事に気付く。
「こちらが今回の問題用紙となります。この世界とは異なる為、社会は除外していますが、代わりに古典と数学の問題を大量に増やしておきました」
山田は今回、中学生レベルの模試を用意したらしい。
基本になる5教科のうち、国語は古典のみに。
そして社会は無くして、数学に変更していた。
「時間は無制限。合格ラインは75点以上。自信がある方から、私に出して下さい」
「ふ、ふざけるなよ!」
騎士達が憤るが、そこで登場するのが、僕というわけだ。
「ハイ、エブリバディ。アイアム、魔王」
「魔王!何故こんな所に!?」
「ちなみに彼が証人です」
「この世界は、コイツがルールだ。僕も一度閉じ込められたから、知っている。彼のルール通り、この問題を解いて合格しないと、キミ達は一生この世界から出られない」
「一生!?」
それは嘘なんだが。
山田が任意で解放すれば、全員脱出出来る。
だけどこれくらいの脅しは、必要だろう。
「ふざけるなよ!私なら空を飛んで脱出出来る!宿れ、朱雀!」
「シッチか。まあやってみると良いさ」
彼は席を立ち上がると、朱雀を宿して空を飛ぼうとした。
足を曲げて勢いよくジャンプするシッチ。
その瞬間だった。
「ガハッ!」
「シッチ!」
とんでもない勢いでタライに自ら突っ込んだシッチは、タライがめり込むくらい頭をぶつけた。
隣のニラが心配をしたが、立ち上がろうとした直後にタライを気にして立つのをやめていた。
「と、このようになります。我慢して飛んでも良いけど、何処へ行ってもタライは落ちます」
「最悪だ・・・」
「だから兜だけ無くなっていたんだ」
逆らえばタライ。
しかもシッチが最悪の方向で良い例を見せてくれたおかげで、彼等はスタディーワールドからの強制脱出は不可能だと理解した。
そして騎士達は、諦めて用紙をめくり始める。
「ちなみにカンニング等の不正行為を働くと、もっと酷い罰が待っていますので。例えばこんな感じに」
後ろに待機していた山田が、コンパスを右手に持って左手を大きく開いた。
「フゥ・・・。行くぞ!ハアァァァ!!」
勢いよく左手の指の隙間に、コンパスの針を刺していく山田。
そして薬指におもいきり針を刺した。
「ギャアァァァ!!」
「て、手が貫かれた!?」
山田の馬鹿力は、自らの左手を貫通した。
血だらけで涙ぐむ山田。
それを見た騎士達は、顔を青くする。
「カンニングした人は、彼に貴方達の手で同じ事をしてもらいます」
「ファッ!?」
「何回貫通するか、楽しみですね」
全員がカンニングを諦めて、真剣に問題用紙に目を通し始める。
それを見た山田は、自分の仕事がひと段落したと、安堵のため息を吐いた。
「山田、傷は大丈夫か?」
「あぁ。魔王に治してもらったよ。貫通していたのに完治するなんて。流石としか言いようが無かった」
「これも魔王しか使えない魔法だから。これを機に、敬っても良いのよ」
「感謝だけはしておくよ」
素直じゃないな、コイツ。
さて、シッチやニラ達は苦戦しているみたいだな。
問題は、中学生レベルという点だが。
僕は一人だけ懸念している人物が居た。
ヌオチョモである。
「彼だけ解くのが早いですね」
「騎士王国の中では、異端児だった男だ。騎士というよりも、商人に近い人物と言える」
「数学が得意なんですね。でももうすぐ手が止まりますよ」
山田の言う通り、ヌオチョモの手が止まった。
どうやら数学エリアが終わったらしい。
それから頭を抱える姿を見て、ヌオチョモでも時間はかかると確信した。
「さて、僕の出番も終わりかな。山田、元の世界に出して」
「え?あっ!しまった!」
「どうした?」
「すいません。魔王様は敵認定したままなので、問題を解いていただかないと、出られない仕様のままでした」
「僕も机を並べて、問題を解けと?・・・そういうのは早く言ってよ!あぁ!時間のロスが半端ない!」