江戸城奪取
似てないモノマネを人前で自信満々にやる人って、どう思う?
頑張ってるなと感心するか、馬鹿にしてるのかと怒るのか。
僕はこのどちらかだと思う。
相変わらず福島は、似てないモノマネを続けていた。
というよりそれが攻撃の鍵になるのだから、仕方ないと言えば仕方ないのだが。
福島は日本号を持っていたからジャパンと叫ぶのだろうが、これにはちょっとした違和感もあった。
何故ならこの日本号、史実なら福島の手を放れてしまうからである。
だったら他の槍でも良くない?
もしそうしていたら、日本号になぞらえて叫んでいた、ジャパンと叫ぶ必要が無くなる。
むしろジャパンと叫ぶからあまり強くないのであって、普通の扱い方をしながらビームを出せるようにしていたら、もっと強かった可能性まである。
この槍の製作者は、そこまで考えなかったのだろうか?
日本号に関してこき下ろした僕ではあるが、ただし叫びたくなる理由も分からなくもない。
元々必殺技というのは、叫んでナンボである。
7つのボールを集める主人公だって気功波を放つ際に叫ぶし、腕が伸びるゴム人間も殴ったり蹴る時に、必殺技の名前を言う。
そう、いつだって必殺技を叫ぶものだ。
だからこの槍の製作者は、ある意味分かっていると言っても良い。
しかし、どうしてモノマネの出来が必殺技に左右してしまうのかは理解出来ない。
製作者は福島がこの槍を扱うと、知っていたのだろうか?
もし知らなかったのであれば、まだ分かる。
でも知っていたとしたら、この人は馬鹿なんじゃないかと思う。
史実では日本号は、秀吉が福島に下賜した槍でもある。
その後の酒の失敗で奪われてしまうのだが、この世界の秀吉の配下には黒田と名乗る人物は居ない。
だから秀吉は、奪われる事の無い名槍を福島に上げたのかなと、なんとなく僕は思っている。
山田は江戸城内に、爆弾が仕掛けられている事を官兵衛に知らせた。
それは親切心からではなく、自分と仲間の命にも危険があるからだった。
しかしそれを聞いた官兵衛は、全く動じない。
「早く見つけないと、危ないですよ!」
「爆弾の数は知っていますか?」
「いや、そこまでは・・・」
「そうですか。ではもう少し調べてみましょう」
「え?」
山田は官兵衛の言葉を聞いて、驚いた。
彼は既に、その事実を知っていたのだ。
そして彼の言い方からすると、自分達が目を覚ます前に爆弾を発見しているのが分かった。
「ど、どうして分かったんですか?」
「貴方達の主君は、必要無いからといって敵に明け渡すようなまねをしますかね?」
「しませんね」
「だから入城してすぐに調べたのです」
官兵衛は秀吉なら、効率良く破壊すると読んでいた。
そしてその読みは当たり、城を支える大きな柱を調べると、爆弾が仕掛けられていたのだった。
「しかし、どうやって外したんですか?」
「そこは魔王様に頼りましたよ」
「とは言っても、僕も大変だったけどね」
「ま、魔王!」
僕が戻ると、山田は少し緊張気味になった。
どうやら勝手に助けた事が、微妙だったらしい。
「あの爆弾は、触れたらすぐに爆発する仕組みだと聞いている。どうやって外したんですか?」
「どうやってというか、外してないからね」
「え?」
「爆弾の外側をミスリルで覆って、被せたんだよ。それで軽く小突けば、爆発するでしょ」
爆弾を覆うくらいの箱なんて、創造魔法で簡単に作れる。
ただこの考えに至る前は、どうやって外すか考えていた。
結果外す方法が思いつかなかったので、発想を変えて爆発させる事にしたんだよね。
もしここが安土だったら、僕は金子くんを呼んできて彼の能力で心の壁を作ってもらったんだけど。
やはりわざわざフランジヴァルドまで空間転移をして、彼を連れてくる程ではないなと感じた。
「なるほど」
「それと、お前達の身体を調べさせてもらった」
「えっ!?」
服装が乱れていないか確認をする山田。
それを見て僕は、とても不快になった。
「そういう意味じゃないから!お前達が秀吉から、監視されていると言ってたからだよ」
「あ・・・」
もし彼等が本当に監視されているのなら、助けた時点でバレているはず。
僕達が江戸城に入ったのを確認して、爆弾を起爆させられたはずなんだよね。
でもそれが無かった。
少し疑問に思った僕は、本当に監視されているのか確認する為に、調べたというわけだ。
「結論から言うと、監視なんかされてないね。キミ達の被害妄想です」
「なんだって!?」
山田は驚きつつも、その後に顔が真っ赤になった。
まあ分からなくもない。
だって監視されているなんて言っておいて、何も無かったんだから。
それってただの自意識過剰だし。
最初はそれをニヤニヤしながら見てたけど、ちょっとすると安堵するような表情に変わった。
「でも良かった。だったら私達は、自由になったんだな」
「キミ達は秀吉に、自ら従っていたわけじゃないのか?」
「違いますよ。いや、違わない人も居たんですけど。私達は帝国に召喚された後、内密に木下様から誘いを受けただけですので」
「そうなの!?」
何だよ。
てっきり秀吉の配下って、皆がアイツに心酔してるのかと思ってた。
僕が驚いた時に大きな声を出したからか、他の山田二人も目を覚ました。
最初は身構えていたが、山田から説明を受けると、すぐにもう一度座った。
「ちなみに自ら従っているっていうのは、誰に当たるんだ?」
「基本的にヒト族じゃない人は、皆そうですね。羽柴さんは木下様の遠い親類なので別として、福島や加藤殿、藤堂殿は木下様の忠臣と呼べるんじゃないでしょうか?」
うーむ、福島と加藤は分かるんだけど、藤堂高虎が忠臣?
なんか違和感があるなぁ。
「山田、もう一人忘れてるぞ」
「他に誰か居た?あっ!石田!石田くんは別ですね」
「石田ってヒト族だよね?」
「そうです。彼も召喚者です」
「何故、石田は自ら従ってるの?」
「それは俺達も聞いた事無いな。二人とも聞いた事ある?」
山田達も石田が秀吉に心酔する理由は、聞いていないらしい。
山田五車星はスカウトされた順番がバラバラで、秀吉の下に来た時には既に石田が居たとの事。
「でも石田って、妙に木下様に気に入られてたよな?」
「それは俺も思った。エコ贔屓じゃん!って思ったけど、俺達より働いてたのは確かだと思う」
うーん。
石田は秀吉のお気に入りだったのか?
まあ石田三成と言えば、秀吉が亡くなった後に豊臣家の為に奔走する事を考えれば、分からなくもない。
でも召喚者である彼が、何故秀吉に傾倒する理由があるんだ?
凄く気になるな。
「まあそれは置いておきましょう。山田殿が知っている、他の有力な配下は居ますか?」
あ、それは重要だわ。
官兵衛が聞くまで、そんな質問全く頭に無かった。
「有力な配下・・・。戦えない人でも良いなら、教授かなぁ」
「教授とは?」
「教授は教授です。名前がコロコロ変わるから、面倒で教授と呼んでいたんです」
うん?
それ何処のコバ?
「森とか大森とか、フォレストにモーリー。奴は色々と名前を変えているのである」
「コバ!」
考えていたら本当に来た!
ちょっと驚いたけど、やっぱりコバの知り合いか。
「コバ殿はその人物を、詳しく知っているのですか?」
「詳しくは知らないのである。偽名ばかり使って、本当の名前は何なのか知らん」
「いや、名前じゃなくて」
「あぁ、そういう意味であるか。そうだな。一言で言えば、死の研究者であろうな」
なんだ、その物騒な呼び名は。
流石に官兵衛も、ちょっと眉を顰めたぞ。
「そこの三人は、奴がどんな人物か知っているであろう?」
「そ、そうですね。この世界で飛行機とか戦車を作った人ですかね。あと、福島の日本号も教授の作品です」
「えっ!?」
マジか!
だったらその教授とやらを捕まえれば、ビームランスが手に入るかもしれんな。
フフフ、楽しみが増えたぞ。
「それだけでは無かろう?奴の人体実験は見ていないのか?」
「そ、それは・・・」
山田達は三人とも口籠った。
どうやら見ているのは確定で、思い出したくない過去のようだ。
「魔王達と出会った時、吾輩が入っていた培養液があるであろう?アレを作ったのは奴だ。それ以外にも魔族の身体を切り刻み、魔法をヒト族が使えるようにと考えたのもな」
「な、何だそれは!」
「吾輩はそれを止めたが、逆に背信者として捕まったのである」
ちょっと待て。
それをしていたのは、帝国のはず。
となると、ヨアヒムが関わっているのか?
「ちなみにその実験、私も巻き込まれそうになったんですよね」
「えっ!?そうなの!?」
山田が青い顔をして、恐る恐る答える。
彼が言うには、保健体育の一環として骨や筋肉にも少し詳しかったのが、悪い方に働いたらしい。
しかし受験科目でもない保健体育は、人並みより少し詳しい程度だった為、結局は選抜されなかったとの事だった。
「えーと」
山田がコバを見た。
するとコバは、久しぶりにアレをやった。
「スタターン!ドクタァァァコバアァァァ!!」
「こ、コバさんで良いのかな?」
「それで良いよ」
「じゃあコバさん。知ってましたか?あの実験、帝国とは関係無かったのを」
「な、何!?」
コバが珍しく目を丸くした。
コバが驚く姿なんて、そうそう見ないのに。
「アレも実は、木下様がヨアヒムの命令と称して、内緒でやってたんですよ。だから見張りの帝国兵も、ほとんど変わらなかったと思うんですけど」
「い、言われてみれば確かに。あんな実験は知られてはいけないからだと思っていたが、そんな秘密があったとは・・・」
「とりあえず私達が知る有力な人物は、教授くらいですね」
「分かりました。情報提供ありがとうございます」
官兵衛はその男の情報を聞くと、何やら考え始めた。
あまり話しかけない方が良さそうだ。
「ところで山田」
「何ですか?」
「キミ達は助かったわけだが、今後はどうするつもりなんだ?」
「今後か・・・」
山田は三人で顔を合わせると、悩み込んでしまった。
まさか秀吉から離れる事になるとは、思っていなかったのだろう。
「俺の率直な意見だけど、二人の山田が死んだ。でもあの二人は、戦いが好きな奴等だった。こう言っちゃ悪いけど、死んでも仕方なかったと思える」
「でも私達は、そこまで戦いたいわけじゃないですね」
「俺も身体が頑丈ってだけで選ばれたけど、木下様は俺の事、あんまり好きそうじゃなかったしね」
頑丈な山田、確か家康だったな。
多分秀吉からしたら、名前が気に入らないんだろうなぁ。
「どうする?」
「・・・何処かでひっそりと暮らしたいな」
「良いですね、それ」
三人の考えが固まった。
「何処かで田舎暮らしがしたいんですけど。そんな場所ありますか?」