福島の秘密
石田めぇ!
僕の大事な大事な息子を、痛めつけやがって!
使い物にならなくなったら、どうするつもりだ!
石田は僕の股間を、とにかく痛めつけた。
一つだけ言えるのは、奴は分かっていないという事だ。
普通はね、こういう戦いにおいて股間を狙うなんていうのは、あり得ない話なんだよね。
異世界モノの小説とか読んだ事ある人は、分かるはず。
何処に股間を攻撃して、敵を倒す奴が出てくるよ。
偶然当たって悶絶したり、避けたらたまたま当たっちゃいましたみたいな話はあったりする。
しかし奴は違う。
わざと狙ってきたのだ。
しかも一度ならず、二度三度と繰り返しやってきた。
これが許せますか!?
否!
許せないでしょう!
だから僕は、奴の攻撃に対して応戦したんです。
ハッキリ言っておこう。
僕はここまでやるつもりは無かった。
仕方なかったんです!
もしここで僕が引いたとしよう。
まず間違いなく石田は調子に乗って、僕の大事な息子をずっと狙ってきたと思う。
それを回避するには、こうするしか方法は無かった。
目には目を、歯には歯を。
魔王らしからぬ事だとは分かっていたんです。
それにこんな不毛な戦いは、誰も得はしないと。
そう僕は思っていました。
だがしかし!
そうではなかった。
どうやらこの不毛な争いの中で、僕は石田の新しい扉を開いてしまったらしい。
あふん!ってなんだよ・・・。
流石にちょっと引いたわ。
子供の頃にふざけて、こたつの中で股間の蹴り合いとかをした人が居た。
その時のキックで、新たな目覚めに気付いた人も居る。
目覚めた方はそのキッカケを覚えているかもしれないけど、目覚めさせた方はそうではない。
だけど今回ばかりは、僕が目覚めさせてしまったと認めざるをえないだろう。
良い子のみんな、アソコばかりを攻撃するのは、例えおふざけでもやめておこうね。
僕のネオ日本号は、消えてしまった。
もう立ち直れない。
とは言わないけど、やっぱりショックである。
「魔王様のお許しも出た事だし、そろそろ決着をつけましょうか」
「アレ?三人がかりで襲ってくるわけじゃないの?」
福島は沖田だけが相手だと分かり、不思議そうな顔をした。
確かにそっちの方が早いけど、この男を相手にそれをやると、どうもこっちが悪者っぽく見えちゃうんだよね。
秀吉配下の中でも、福島はちょっと特殊だと思う。
なんというか、先輩から可愛がられる後輩タイプ?
だから大人数でタコ殴りみたいな事は、なんとなくしづらいのだ。
「貴方くらいは僕一人で倒さないと。という事ですよね?」
「う、うん」
違うけど、そういう事にしよう。
ネオ日本号が手に入らない今、どうでも良いし。
「ありがたい。でもその余裕はいつまで続くかな?エブリバディ、キャモーン!」
エブリバディ?
もしかして囲まれてるのか?
「・・・誰も来ないじゃないか!」
僕とハクトは、わざわざ下の階から誰か来るのかと覗き込んだ。
だが城の広さが元に戻った今、一斉に大勢で上がってくる事は出来ない。
だから人が居れば、すぐに見つかると思ったのに。
「違う違う。エブリバディ!」
「なっ!?」
ビームの数が倍以上に増えてる!?
もしかして、手を抜いてたのか?
「ハクト」
「分かってる!」
僕とハクトは、そのまま階段から下の階へ降りた。
あのまま居たら、狭くなった部屋の中でとばっちりを受けかねない。
「ジャパアァァン、ゴーで〜す!」
二桁はあるビームが、沖田に狙いをつけた。
一斉に発射されるのかと思ったが、どうやら任意で遅らせられるらしい。
沖田もそれは予想外だったのか、避けながら福島に近付くつもりが、一定の距離から近付けないでいる。
「あわわわ。もう少し離れよう」
「下までビームが貫通してきてるね」
多分石田の空間があった時は、他の階には影響が無いようになってたのかな。
さっきまでは綺麗な作りだったのに、今じゃ穴だらけである。
というか、コイツ等江戸城をこんなにぶっ壊して良いのか?
ボブハガーとか戻ってきたら、怒りそうな気もするけど。
それに僕達もあまり壊されるのは、嬉しくない。
この城は僕達が乗っ取る予定なのだから。
「沖田、早く倒してくれ!」
「もう!難しい事を言ってくれますね!」
沖田は柱や壁を蹴りながら、急転換しながら移動をしていた。
そんな中で納刀された剣を、突然おもいきり振った。
鞘だけが一直線に飛んでいくと、福島はそんな物が飛んでくるとは思わなかったのか、思わず自分の槍で鞘を受け止める。
「ビームが止まった!」
沖田は福島の集中を途切らせた事で、ビームを止めたようだ。
それにあの攻撃は、何かしら叫ばないとまた発射されない。
それは連射が出来ない事を表している。
だから沖田は警戒しつつも、真っ直ぐに福島に向かって走っていった。
「遅い!」
福島の喉に剣が突き刺さる。
はずだった。
「何故!?」
「どうした?」
僕とハクトは、頭を引っ込めていた為、上の階で何が起きているのか分からない。
そこで僕は、ガイストを使って偵察する事にした。
『ふむ。何故か分からぬが、逃げた石田が戻ってきているぞ』
「へ?」
僕は急いで、上の階へ上がった。
すると沖田の剣が福島の喉元の直前で、何かに阻まれているのが分かった。
「逃げたと見せかけて、隠れていたのか!」
「卑怯だなんだと言いながら、結局は自分が卑怯なんじゃ・・・ん?」
石田の様子がおかしい。
何故か知らないが、涙目である。
いや、よく見ると殴られたのか?
頬が腫れあがっているようにも見える。
「福島、行くよ!」
「え?見捨てて逃げたんじゃないの?」
やっぱりそうだ。
福島自身も、見捨てられたと思っているみたいだし。
何故今頃戻ってきたんだ?
「殿の命令だ!お前だけ残していったと知って、激しく叱責されたんだ!」
「あぁ、だから殴られたような痕があるのね」
僕が横から口を出すと、石田は厳しい目つきで睨んでくる。
図星だったようで、言い返してはこなかったけど。
「た、助かるんだったら、何でも良いよ!」
「ま、待て!」
「待たない!もう怒られたくない!」
石田は空間を広げると、福島を中に入れて消えてしまった。
「こ、これは・・・勝ちで良いんですかね?」
沖田は振り返ると、三人とも逃してしまった事から、成功なのか失敗なのか判断が出来ないようだった。
まあ僕も、似たような気持ちではあるんだけど。
「とりあえずは江戸城確保という事で、官兵衛からのミッションクリアしたから、成功で良いと思うよ」
「この馬鹿が!」
「す、すいません!ひぶっ!」
秀吉は石田の顔面に右フックを入れた。
倒れる石田に、藤堂は震える事しか出来ない。
「どうして福島を置いてきたのだ?」
「そ、それは・・・福島が我々の為に殿を買って出て」
倒れた石田に代わり、藤堂が説明を始める。
しかし秀吉の目には、二人に対する疑いが晴れていない。
「それは本当か?」
「え?」
「嘘偽りではないな?もし嘘だと分かれば・・・」
「も、申し訳ありません!しかし、福島が沖田の相手をしてくれなければ、我々は!」
それを聞いた秀吉は、藤堂に優しく諭すように言った。
「山田はまだ良い。だがお前達は、俺が長い時間を掛けて見つけた者だ。福島もそれは同じ」
「秀吉様」
「福島はまだ弱い。それは分かっている。だが逆に言えば、それだけ伸び代があるとも言える。分かるな?」
「伸び代ですか?はっ!いや!」
藤堂は怪訝な顔をして見せる。
しかし秀吉の言葉を疑っている事だとすぐに気付き、慌てて頭を下げた。
「何か疑問があるのか?」
「もしかして変態の事ですか?それなら私の前で、既に行なってしまいましたが」
「そうか」
「良いのですか?もう成長してしまいましたが」
「問題無い。アレは何度も繰り返し出来るからな」
「一度じゃないんですか!?」
「その通り」
石田と藤堂は、ようやく福島の希少価値を理解した。
何度も変態出来る人物。
それは成長の頭打ちが無い事を示している。
もしネオ日本号だけでなく、他の武器も取り込んでいけば、自分達を越えるのも時間の問題。
秀吉が福島に一目置くのも、当然だと思った。
「今から助けに行きます!」
石田は立ち上がると、そのまま空間の中に入っていった。
それを見送った藤堂は、秀吉と二人になる。
気まずい雰囲気に、藤堂はその場から立ち去ろうとした。
「何処へ行く?」
「ちょっと」
「福島が戻るまで、この場で待て。彼は秀長にアンデッドで蘇らせても、その強さは引き継がれない。もし死んでいたら、お前と石田には、アンデッドとなった福島に謝罪してもらうからな」
「は、はい・・・」
その場で正座をする藤堂。
石田が福島を連れて戻ったのを確認すると、石田と二人で藤堂はひたすら福島に頭を下げるのだった。
「う、うん・・・」
「官兵衛さん、目ぇ覚ましましたよ」
「だ、誰!?」
目を覚ました山田の目に入ったのは、目つきの悪いスーツ姿の男だった。
ちょっと怖いと思いつつ、他の二人が目を覚ましてない時点で、山田はビクビクしながら尋ねた。
「私達をどうするつもりですか?」
「どうするつもりって・・・。官兵衛さん、どうするつもりなんです?」
「どうもしませんよ。敵にならなければね」
「それは寝返ろと?」
山田が官兵衛に聞くと、彼は右手を顔の前で横に振った。
「そんな事期待してませんよ。オイラ達に攻撃をしないと約束してくれれば、別に何もしません」
「本当ですか?でも助けてもらったのに、それは・・・」
「だったらオイラ達に、この城の事を教えてもらえますか?」
「教えるのなら、得意です!」
山田牛一は官兵衛に近寄ると、目の前に長谷部が立ち塞がった。
「すいませんが、近寄るのはやめてもらっていいですかい」
「は、はいぃぃ!!」
「長谷部くん!」
「でも官兵衛さん、まだ信用出来ないんでね」
護衛として仕事をする長谷部だが、官兵衛はそれに対して困った顔をする。
「良いんですよ。それよりもさっき、城と言いましたよね?ここは魔王の城ですか?」
「いえ、江戸城ですよ」
「えっ!?」
「勝手に動くな!」
突然立ち上がった山田に対して、長谷部が木刀を抜いた。
しかしさっきまでと違い、山田は長谷部に噛みついた。
「急ぎ脱出しないと!」
「何故です?」
「江戸城には爆弾が設置されています!私達が敗北した後、爆破される事になってるんです!」