変態
フハハハ!
自分より頭良いんだろうなって人を揶揄うの、楽しい。
どうも性格が悪いと言われる、魔王です。
僕と沖田は石田の空間能力により、一切前へと進めない状態に陥ってしまった。
走っても歩いても、むしろ立ち止まっても石田との距離は変わらない。
しかも兄の鉄球も届かないという、目の前には何も無いのにある意味鉄壁という状態だった。
でもどれだけ石田の空間が広かろうが、光が進む距離に比べたらどうか。
頭の良い石田は、多分それなりに広い空間を作り出したんだと思う。
それこそ北海道から沖縄までの距離とか、それくらいは考えていたんじゃなかろうか。
しかし光が一秒間に進む距離は、地球を約7周半するレベル。
どれだけ頭が良かろうが、30万キロや地球7周半という距離が思い浮かぶかと言われたら、絶対に出てこないと思う。
そして僕の思った通り、光魔法は空間をぶち抜いた。
でもね、これって石田とか山田牛一とかなら、知ってそうな知識なんだよね。
それを知っていながら、そんな攻撃を仕掛けてこないと思う辺りが、石田の驕りだと思う。
要は僕達を馬鹿にしているという事だ。
お前達はそんな事知らないだろう?
暗にそう言っているのと同意。
確かに僕には右顧左眄の森を使って、変な薬を作るとか出来ない。
というか考えた事も無い。
頭が良いから、僕達には想像出来ない事を考えるんだろう。
まあ僕は、そんな頭が良くなくても良いかなと思ってるけど。
他人と考えが合わないというのは、いつか孤立する。
だからコバも帝国では異端視されて、変な培養液に入れられたんだと思う。
天才はある意味羨ましい。
でも考えが理解されないというのは、やっぱり寂しい気もするんだよね。
だから僕は天才じゃなくて、努力して才能を得た秀才でありたいと思う。
なんて偉そうな事言ってるけど、僕は秀才でもなく凡人に毛が生えた程度だけどね。
出てくる?
意味が分からない。
怪我を治療して、前に出てくるという意味か?
というか、福島の姿が見当たらないな。
「沖田は福島が何処に居るか分かる?」
「それが、僕も見失ってしまったんですよ。城から脱出したんでしょうか?」
沖田も見てないのか。
まあ沖田の場合、水責めからひたすら上へ逃げていたからな。
地上を気にする余裕も無かったと思う。
となると、福島の場所を知っているのは、ハクトだけ。
「後ろだよ!後ろ!」
「後ろ?」
二人とも振り返るが、何も無い。
藤堂とやり合っていたハクトは、そんな僕達にイラッとしている。
「自分の後ろなワケが無いでしょ!藤堂の後ろだよ」
藤堂の後ろねぇ。
え?
「あんなのあったっけ?」
「何ですかね。あの白いモノ」
僕達は石田にばかり集中していたから、全く気付かなかった。
ハクトは藤堂と戦っていたから、彼の後ろにアレがあると気付いたのだろう。
・・・ん?
出てくると言ったけど、まさかあの中から出てくるのか?
「ハクト、アレは何だ?」
「分からないよ。福島って人が座り込んだと思ったら、あの白いのに包まれたんだから」
包まれた?
もしかして繭か?
そういえば福島は妖精族だったな。
妖精族って虫みたいに、完全変態で大きくなるのか?
長秀とか阿吽の二人も、そうなのかな?
考えてみると僕達、安土に居る連中以外の人達の詳しい話って知らないわ。
「マズイな。もしアレが繭だとしたら、福島は成長しようとしている」
「強くなるんですか?」
「そうだ」
「良いんじゃないですか。多少強くなっても」
「お前ねぇ・・・」
多少強くなるだけなら良いと思う。
でも多少の範囲が僕達の想像を超えていたら、どうするつもりなんだ。
「マオくん。白いのが少し割れてきたよ」
「な、何!?」
早いな!
普通は繭になってから成虫になるまで、約2週間近くは掛かるのに。
コイツは2時間も経ってないぞ。
「石田!福島が目を醒ます時が来たようだ」
「そうか。じゃあ時間稼ぎはこの辺で大丈夫かな」
コイツ、やっぱり時間稼ぎだったか。
石田が僕と沖田を近付けさせなかった理由は、多分繭の存在を知られたくなかったからだろう。
藤堂も僕達の方からは、繭が見えないような角度で立っていて、敢えてハクトと弓矢と魔法の撃ち合いに応じていたのも、それが大きな要因だと思われる。
「沖田、ハクトを守れるように準備しておいてくれ」
「分かりました」
沖田は少し下がると、ハクトの方へ近付いていく。
「起きろ、福島!」
藤堂が大きな声で叫ぶと、後ろの繭が割れた。
「グッモーニン!」
「は?」
「エブリバディ、グッモーニン!」
繭から出てきたのは、見た目が全く変わらない福島だった。
違っているとしたら、その無駄に陽気な性格だろう。
「グッモーニンじゃない!」
「アウチ!痛いよ、藤堂」
藤堂が繭から出てきたばかりの福島の頭を叩く。
完全に繭から出てきた福島だが、やはり見た目に違いは見受けられない。
おかしいな。
普通は昆虫だと、卵から幼虫になって、その後に蛹から成虫に変わる。
幼虫と成虫の姿が大きく変わらないのは、バッタとかカマキリといった不完全変態と呼ばれる様式になる。
あと僕達が嫌いなGも、そっちかな。
それに対して完全変態する虫は、蝶とか蜂なんかがそうなんだけど。
大きく異なるのは幼虫と成虫の姿が、全く違う。
イモムシが蝶になるように、姿が全く変わるのだ。
にも関わらず、福島の姿は変わっていない。
アイツは一体何の為に、繭になったんだ?
「沖田、ハクト、気を付けろよ」
「分かってる」
「でも、あんまり強そうには見えませんね」
それは僕も感じてる。
変わったのは陽気な性格になったくらい。
強いて言えばクラスのモブだった奴が、突然陽キャになって戸惑うみたいな感じか。
「福島、やる事は分かってるな」
「オーライ。任せて下さいよ」
「お前の任務は沖田の始末だ」
何故だろう。
福島のキャラ変にイラッとするのは。
今までは似てないモノマネだったのが、ウザイキャラになった感じだな。
藪からスティック的なキャラに変わった。
「沖田、注意しろよ」
「行くよ。ヒウィゴー!」
「さっきより速い!」
福島の動きは、見違えるように速くなった。
あの動きからすると、さっきの負傷も回復していて、動きに支障は無いみたいだ。
だけど、この程度で沖田の相手は無理じゃないか?
「多少速くなって、自信を持ちましたか。でもこの程度では、僕には勝てませんよ」
沖田も自分でそれは分かっているらしい。
ん?
「ちょっと待てよ。福島の奴、武器を持ってないぞ」
「素手で僕に挑むなんて。無謀です!」
沖田は僕が目で追う事も出来ない速さで、剣戟を繰り出した。
あんな速さで攻撃をされれば、福島も復帰早々にサヨナラかと思われたのだが。
「ジャパアァァン!」
「何!?」
ビシッとしたポーズを決めると、突然福島の前からビームが飛び出した。
それは沖田の剣と重なり、そして攻撃を弾き返した。
驚いた沖田は、一旦距離を取った。
「フォウ!ゴーゴーゴー!!」
腰をクイッと動かすと、再びポーズを決める福島。
すると三本のビームが福島から伸びていき、離れた沖田に向かっていく。
「この力は、ネオ日本号!?」
「チッ!」
剣で上手くビームを逸らした沖田だが、福島の攻撃は止まらない。
両手を広げて身体を揺らす福島。
その両手をパンッと叩くと、何も無い場所沖田の左右からビームが現れ、それは沖田を中心に交差した。
「沖田くん!」
「い、今のは危なかった・・・」
背中を大きく反らし、左手の爪でビームを上手く逸らした沖田。
本当に焦っていたようで、さっきまでの涼しい顔が一転して、汗が凄い事になっていた。
「惜しいな。でもこの様子なら、福島に沖田を任せても大丈夫そうだね」
「イエス!」
「しかしウザイな。成長すると最初はどうして、こういうキャラはなるんだろうな」
「ウザイ!?ショック・・・。でも僕は負けない。この気持ちを沖田にゴーで〜す!」
マジか!
アイツの気分次第で、何処からでもビームが現れる。
真上から現れたビームは、沖田の反応を遅らせた。
「上だ!」
「うわっ!アチチ!」
服に掠ったのか、袖に火がついて慌てて消している。
僕が水魔法で火を消すと、沖田は福島を睨みつけた。
「どうやら油断出来ないみたいですね」
「でもさ、あの人の槍は何処に行っちゃったんだろう?」
はっ!
そういえば確かに!
「僕のネオ日本号は何処に行った?」
「僕の!?お前のじゃないわ!それにもう遅い。あの武器は福島が既に取り込んだからな」
「取り込んだ?」
考えられるのは一つ。
あの繭が武器と福島の融合だった。
「切り離せたりしない?」
「しないよね?」
「イエース」
「この泥棒!」
「いや、泥棒じゃないし!」
クソー。
僕のネオ日本号が福島に取られてしまった。
しかもあんな似てないモノマネを見せられて、余計にイラッとするわ。
「沖田、福島をぶっ倒せ。ハクトは藤堂を。僕は石田を倒してみせる」
「了解しました!」
沖田は意気揚々と走り出した。
福島に接近戦を挑むつもりらしい。
相手は槍だったら、懐に飛び込むのは正解なんだと思うけど。
今のアレは、槍って呼べるのかな?
「面白い。魔王が僕の相手とは。倒したら秀吉様が喜んでくれるだろうね」
「勝てると思ってるの?」
「思ってるよ!」
石田が両手を前に突き出してくる。
すると頭の中で、兄が叫んだ。
『伏せろ!』
言われた通りに身を屈めると、背後でボコンという音が聞こえた。
振り返るとそこには、壁が四角形に空いていた。
「僕はね、空間を広げたり縮めたりするだけじゃなくて、空間を飛ばす事も出来る。たまたま避けたけど、空間は見えないからね。いつまで運良く避けられるかな?」
「飛ばせるねぇ。でもあんまり、攻撃には適してない気がするよ?」
「負け惜しみを!」
石田は再び手を前に突き出してくる。
だけどコレ、結構簡単に読めそうなんだよな。
「水魔法、水霧」
僕は魔法で霧が発生させた。
夏場に使うと少し涼しい程度で、あんまりこういう戦闘の場では使う魔法じゃないんだけど。
やはり予想通りだった。
「あ・・・」
「やっぱりそうだよね。僕を圧し潰そうって考えなら、魔法で出来た霧も圧そうとする。その空間、ハッキリクッキリまるっとお見通しよ!」