江戸城攻防戦
沖田にとって土方は、どういう存在だったんだろう?
沖田は土方を倒した。
だけど階段から覗き見た感じ、言い争いも無いし特に険悪な雰囲気も無かった。
土方を再び黄泉の国へ送ったというのに、やられた側も悔しさを見せたくらいで恨み言も聞こえなかった。
沖田と土方って、どんな関係なんだ?
改めて考えてみると、ちょっと不思議な関係でもある。
二人は親子でもなければ、兄弟でもない。
でも二人の仲は、多分それ以上の関係に思えた。
僕には兄が居るけど、もし僕が沖田の立場だったなら、誰が土方に当たるんだろうか?
歳の差を考えると、親子ほどは離れていない。
ちょっと歳の離れた兄弟といった感じか。
一つ言えるのは、領主である連中は全員違うだろう。
次に外れるのは、年齢差のある水嶋の爺さんとイッシー、ロック辺り。
歳下である、官兵衛や沖田も違うかな。
そして性別を考慮すると、長可さんも違う。
こうなると次に考えるのは、親しさだろう。
そこで外れるのは、太田と又左、ゴリアテかな。
二人とも僕を敬うような人間であり、親しいかと言われたら少し違う気がする。
そして蘭丸やハクト、ムッちゃんなんかは、兄弟というより親友と呼ぶ方がしっくり来る。
この辺りが除外されるべき人であり、残された人が候補になるのかな?
残された人で思い当たるのは、佐藤さんと慶次。
魔族や安土の人以外であれば、ヨアヒムやオケツ辺りも入るか?
とは言っても、オケツは明らかに違うから除外しよう。
慶次も親しみやすさがあるだけで、なんか違う気がする。
最終候補は、佐藤さんとヨアヒムか。
ではこの二人を、あの時階段から見た土方に当てはめてみよう。
・・・なんか違う。
佐藤さんは妙に頼りない時があるし、ヨアヒムは頼り甲斐はあるけど、あの関係とは違うように思える。
やっぱり沖田と土方って、特別な関係だったんだろうな。
そりゃそう言うわな。
でもすまない。
俺も弟も、その武器めっちゃ欲しいんだわ。
(槍だからランス?ビームランスなのかな?しかも普段は縮小されているとか。ああいうギミックもまた、カッコイイよね)
ふむ。
弟の中ではもう、自分の物になっているらしい。
既に頭の中で持っている自分を、想像しているっぽい。
「お前等、盗賊と一緒だな!」
「盗賊じゃないから。ジャイだから」
「だったら俺に、ネコ型ロボット用意してくれよ!ネコえも〜ん!って泣きつくから」
コヤツ、なかなか考えているな。
しかし残念だったな。
この世界にネコ型ロボットは居ない!
もし泣きつきたいなら、猫田さんに頼めば良い。
そしたらこっちも、更なる手に出るから。
「ハクト、ちょっと」
俺は福島達に聞こえないように、ハクトにあるセリフを言えと教えた。
「え?本当に言うの?」
「大丈夫。アイツも分かってる」
奴ならこのセリフを言われても、怒るはずが無い。
さあハクト、言うんだ!
「ふ、福島のくせに生意気だぞ」
「っ!いやダメだ。認めないぞ」
「な、何だと!何がダメだって言うんだ!?」
「魔王よ、この子はイケメン過ぎる!もっと目の細いキツネ目で、金持ちの坊ちゃんじゃないとね。じゃないと認められないよ」
「くっ!」
失敗した。
確かにハクトにやってもらうには、顔のレベルが高過ぎた。
しかし沖田に頼んだところで、ほとんど変わらないだろう。
せめてこの場に、イッシーが居てくれたら!
彼なら昭和版でやってくれたと思う。
「あの〜」
「何だ?」
「そろそろこちらも関わって良いかな?」
藤堂はわざわざ、俺達の話が終わるまで待っててくれたみたいだ。
「別に良いけど。でもお前、俺達に勝てるとでも?」
「うっ!」
藤堂高虎は皆から聞いた話だと、あんまり強くないと思われる。
城を造るのは天才的だけど、本人の戦闘能力はそこまでじゃない。
だからそんなに脅威には、感じられないんだよな。
「こんな三下は良いんです」
「さ、三下!?おい、誰の事を三下だと言っている?」
「貴方ですよ」
むむ!?
沖田の奴、機嫌が悪い?
藤堂は沖田の睨みに負けて、何も言えなくなっている。
「ところで他の奴はどうした?」
「何故教えなくてはならないのだ」
「別に教えなくても良いけど。でもお前達、分かってる?」
こっちは三人。
向こうは二人。
ついでに言えば、俺は魔王で一人はエース。
そしてサポートを任せたら右に出る者がいないレベルのハクト。
どうやっても、負ける要素は無い。
と思われたんだけど。
どうやらもう一人は、ハクト同様にサポート役のようだ。
「・・・ん?」
「マオくん、僕がおかしいのかな?向こうの二人と距離が離れていってる気がするんだけど」
「間違ってないですよ。だってほら」
明らかに敵が遠くなっている。
沖田は剣を水平に構えると、福島と距離が出来ている事を証明してみせた。
「石田!ようやく登場かよ」
「石田さん、オンステージ!」
は?
オンステージって言うから登場するとは思ったけど、本当にステージがあるのか。
「藤堂、勝手に作り変えるなよ」
「え?福島がお前から、許可をもらったって言ってたんだが?」
「ギクッ!ソーリー。僕も使いたかったから、内緒で頼んでみたんだ。オーケイ!」
な、何だコイツ!
急にその場でクルッとターンしやがった。
「ジャパーン!」
「おっと!」
マジか。
ビーム部分は福島の声で、まだ伸びるのか。
まさかジャパンって叫ばれて、ビーム部分が伸びるなんて。
一番近かったハクトに届く距離だったけど、あんまり怖くないな。
叫び声で伸びるとしたら、前もって伸びるぞって自白しているようなものだし。
それにもっとジャパーーーンって伸ばすと、槍も伸びるって考えたら、こっちも予想出来なくはない。
「この男が空間を広げているんですね?だったら」
沖田は真っ直ぐに石田へ向かっていく。
だが石田が両手を横に広げると、沖田と石田との間に空間が出来た。
と言うよりも、空間が延びた?
「藤堂」
「火球!」
遠くの沖田に向かって、藤堂が複数の火球を放つ。
「邪魔ですね。この程度では僕は」
「ジャパーーーン!!」
「なっ!?」
伸びたネオ日本号で火球を貫くと、火力が一気に上がり伸びる速さが増した。
沖田が慌てて後ろにジャンプすると、俺達の目がおかしくなったのかと思うくらい、沖田が俺達の目の前に着地する。
「お前、さっきまで向こう走ってたよな?」
「え、えぇ。全然追いつける気がしませんでしたけど」
「どうして戻ってくるのは早いんだろう?」
トリックアートみたいな感じか?
それにしても違和感がある。
「あの男は危険だな。福島には荷が重いか?」
「そんな事は無い!と言いたいけど、沖田総司でしょ?名前だけで勝てる気がしないなぁ」
やはり転生者というのは本当みたいだな。
新撰組の沖田総司なんて、歴史に詳しくない俺でも知ってるレベルだ。
福島がそう思うのも仕方ない。
(ちなみに福島正則だって、素晴らしい武将だからね。酒での失敗した逸話が有名なのが、ちょっと残念だけど)
へぇ、知らんかった。
「沖田、お前は誰と戦いたい?」
「加藤、加藤清正という人物と戦いたいですね」
やる気の問題もあるし、戦いたい相手を尋ねてみたけど。
居ない人の名前を出されると思わなかった。
しかもわざとらしく、向こうの三人にも聞こえるように言ったし。
石田達の反応を見る限り、それは無理なんだろう。
「沖田くん、居る人でどうにかしてほしいんだけど」
「それだったら、誰でも良いですよ。誰が相手でも勝てますから」
オイィィィ!!
コイツはまた聞こえるように言いやがって。
めちゃくちゃ煽ってるじゃないか。
でも沖田の発言に対して、向こうはお通夜みたいに静かだな。
怒らないんだ。
「確かに沖田は強い。だからお前は、除外する事にするよ」
「除外?」
「魔王様!」
な、何だぁ!?
俺の目の前に居たはずの沖田だが、突然声が聞こえなくなった。
「沖田くん!アレ?な、何だこれ?」
「透明な壁?」
沖田の周りには、俺達では見えない壁が出来ているみたいだ。
しかもかなり頑丈なようで、俺の全力のパンチでもヒビすら入らなかった。
「安心しなよ。空気や酸素みたいなモノは遮らないから。それと、ちょっとだけこっちに有利には働いてるけどね。福島」
「ジャピャアァァン!!」
福島がネオ日本号を、沖田に向かって突いた。
すると俺達が何をやってもダメだった透明な壁が、福島のネオ日本号は何事も無かったかのように通過している。
沖田は嫌な予感がしていたのか、身構えていたので何とも無かった。
「藤堂」
「水柱!」
「なっ!?」
マズイ!
沖田は透明な壁の中で、藤堂が作った水柱に取り込まれてしまった。
壁のせいで水柱をどうにか破壊する事も出来ず、沖田は我慢していた息を吐き出している。
「この野郎が!」
「おっと!」
藤堂に向かって鉄球を投げたが、気付けば藤堂との距離がとんでもないくらい離れている。
俺の身体能力なら、鉄球だろうが軽く100メートルは届くはず。
それが無惨にも、藤堂の足元に転がって届くのが精一杯だった。
「魔王と言っても、ざまあないな」
「テメェ」
「マオくん!それよりも沖田くんを!」
そうだった。
藤堂なんて三下より、まずは沖田を助ける事を考えなくては。
とは言え、俺は何をすれば良いんだ?
(兄さんなら簡単でしょうよ。兄さんが使える創造魔法は何?)
あ?
そりゃ身体超強化と・・・破壊だ!
「沖田、ちょっと衝撃が来るかもしれないけど、焦るなよ」
なんて言っても、聞こえるはずないか。
水の中で苦しそうな沖田は、体力を消費しないようにしているのか、目は開いているが身体を動かす気配は無い。
「何をしても無駄だよ。この空間能力を破った人は、秀吉様以外に居ないからね」
「あぁん?秀吉より俺が劣ってるとでも言うのか?俺を誰だと思っていやがる!俺はこの世界の魔王だぞ!」
水柱に触れようとすると、やはりその前に透明な壁がある。
それに手のひらを広げて触れ、俺は一気に魔力を解放した。
「そいや!」
明らかに壊れる音がした。
ガラスというより、アクリル板?
パリンではなく、バキッ!というような感じだった。
しかし壊れたのはまだ一部のようで、漏れてくる水の量が少ない。
「う、嘘だ!藤堂、福島!邪魔をしろ!」
「やらせないよ!」
ハクトが二人に対して、弓矢を連射する。
身体を狙ったというよりは、牽制の意味が強いようだ。
「それ、もういっちょ!」
今度は両手で叩くように破壊魔法を使うと、今度こそ派手な音を立てて透明な壁は壊れた。
「ブハッ!」
「大丈夫か?」
沖田は荒く呼吸をすると、こっちを見て微妙な顔をする。
「し、死ぬかと思いました。それにしても僕、川も両足を攣って溺れそうになったんですよね。水難の相でも出てるのかな。もう水は、こりごりなんですけど・・・」