魔王vs高杉
そこまで言うなら教えてくれよ。
高杉を音魔法で追い詰めた僕達だったが、土方の乱入という思わぬ出来事に、また振り出しに戻ってしまった。
しかし高杉と土方はあまり、ではないな。
とても仲が悪いようで、二人ともどちらかを攻撃するのに躊躇いが全く見受けられなかった。
史実ではこの二人は、全くの接点は無い。
高杉が志半ばで結核により倒れたのが大きいと思うけど、じゃあ仮に結核にならず、もし生き残っていたらどうなっていただろうか?
長州藩に生まれた高杉だが、彼は尊王攘夷志士として倒幕運動に励んでいた。
奇兵隊を作り、二回目の長州征伐で幕府を追い返した出来事は、大政奉還へと大きく傾いたと言える。
しかしその直後に結核で亡くなってしまったのだが、もし生きていたら、彼は戊辰戦争へ参加していたと思われる。
ちなみに高杉はいち早く西洋化を進めており、戦術戦略も天才的だったと言われている。
そして土方も後に西洋の戦術戦略を習っていて、砂が水を吸うように学んでいったと言われた。
じゃあこの二人が新撰組と奇兵隊を率いて、もし戦場で会っていたらどうなっただろうか?
これは僕の仮定の話だけど、戦場がもし大政奉還前の京都であったなら、新撰組が勝っていたと思う。
逆に大政奉還を終えて、東へと戦場を移動。
戊辰戦争へと突入した後であれば、やっぱり奇兵隊の方が有利だったと思う。
京都ではまだ新撰組の勢力の方が強かったと思うし、戊辰戦争では圧倒的に新政府軍が強かった。
だからもし京都に奇兵隊を連れてきていたら、高杉は新撰組に囲まれて斬られていたと思うし、逆に戊辰戦争に奇兵隊が参加していたら、土方は箱館まで行く事無く、白虎隊と共に会津で腹を切っていたかもしれない。
たらればの話なんかどうとでも言えると言えばそれまでだけど、歴史においてifの話をすると、止まらなくなるのは歴史好きの性なんだと僕は思う。
目の前の大砲から、圧縮された空気が発射される。
そう予感すると、頭が考える前に身体が動いた。
「ぬおりゃ!」
「な、何!?」
両腕を砲口に突っ込んだ俺は、手のひらを広げた。
手のひらの中には鉄球があり、その鉄球が押し出されそれに堪えると、手のひらが薄い刃に切られる感覚があった。
(兄さん、バットだ!その中でバットを作れ!)
ば、バット?
(上手くいけば大砲が壊れるかもしれない)
なるほど!
可能性はあるな。
俺は言われた通りにバットを作ると、大砲の一部に歪みが発生した。
おそらく大砲の中で、バットが立てられるように作られたからだろう。
風が上手くまとまらなくなったのか、さっきから薄い紙で指先を切っていたような感覚が無くなる。
俺は風が弱まるのが分かり、中でバットを握ると、それをおもいきり大砲ごと振った。
「フン!」
「なぁにぃ!?」
大砲ごと飛んでいく高杉。
自身が貫いた壁の向こう側へ飛んでいくと、彼は最後の壁を突き破り、外へと落ちていく。
「やったぞ!おー、イテテ」
両手を見ると、あまり見た事の無い切り傷が沢山あった。
あまり血は出ていないけど、ヒリヒリするような痛みがある。
まあバットを握れないくらい痛いわけじゃないけど。
(兄さん、ごめん。あのタイミングで代わってくれなかったら、死んでたかもしれない)
俺もよく自分が前に出られたなと思ったよ。
流石は俺!
なんて自画自賛すると、いつもなら調子に乗るなって怒られるんだけど。
今回ばかりはそうはならなかったみたいだ。
「魔王様、アイツは逃しちゃダメです!ここは僕達に任せて、追って下さい!」
「え?」
潜入したのに、わざわざ城の外まで追えと?
高杉なんか放っておいて、先に城を占領する事を考えた方が良いんじゃないのか?
(いや、僕も追った方が良いと思う。あの男、手段を選ばない感じだし、最悪の場合はこの城を爆破して、土方諸共僕達を殺そうとするんじゃないかな)
それは困る!
しかもアイツの行動を見る限り、それは無いとは言えない辺り最悪だな。
「分かった。後は任せたぞ」
外に出た俺は、辺りを見回した。
おかしい。
まだ外は暗く、ちょっと見辛い。
でも俺達の存在がバレたからか、明かりは所々に見えている。
なのに外には、アンデッドはチラホラ見えるが人はほとんど見当たらない。
「誰も指揮する奴が居ないのか?」
(油断しない方が良い。多分待ち伏せされているんだと思う)
「高杉は俺が追ってくると分かっていた?」
(沖田が居るからね。追えって言われるのが、分かっていたんじゃないかな?)
なるほど。
沖田が高杉を知るように、高杉も沖田の性格を知るか。
しかし、どうして高杉は姿を見せないんだ?
と考えていた時、前方から見えない攻撃が飛んできた。
「コレか!」
高杉の空気砲。
避けた先の木に当たるのを見た感じ、爪が飛んできていると考えた方が良さそうだ。
もしくは先の尖った見えない銃弾かな。
「ん?今度は後ろから?」
同じような風の弾が、背後から飛んできた。
でも誰かが移動した気配は無い。
これが殺気の無い高杉のやり方?
(あのさ、気配が感じられなくても、聴力強化とかすれば移動してる音が聞こえないかな?)
それだ!
俺は早速聴力を強化して、高杉の移動に備えた。
「え?」
耳を澄ませて待っていると、聞こえてきたのは左から飛んでくる風を切り裂く音。
空気砲の音だった。
そして二歩前に出ると、今度は右から飛んでくるのが分かった。
「もう移動した!?」
早過ぎだろ!
衣擦れや歩いている音なんか、サッパリしなかったぞ。
(もしかしたら、僕達は考えが間違っていたのかもしれない)
間違っていた?
どんな風に?
(この攻撃、高杉じゃないのかもしれないって事だよ)
なぬ!?
じゃあ誰なんだ?
でも高杉じゃないなら、一度撃たれた方へ行ってみても良いか。
高杉は接近戦でも戦えると聞いた。
不用意に近付くのは危険だけど、警戒すればやられる事は無いはず。
というわけで、俺は最後に撃たれた右へと行ってみた。
もし仲間が居るなら、援護の為に砲撃してくるはず。
でも背後から撃たれるという気配は無い。
そして俺は、暗闇の中で大砲を持っている奴を見つけた。
「・・・誰?」
見知らぬアンデッドが大砲を持っており、俺が目の前まで接近しても、まるで反応が無い。
もう少し近付いて観察してみようと思った矢先、大砲が撃たれた。
「危なっ!お前、分かって撃ってるだろ!」
俺は怒りのあまり怒鳴ったが、全く反応は見せない。
ムカついてバットで頭を殴っても、こちらに反撃してくる様子は無かった。
「な、何だよコイツ」
(分かった。このアンデッドは、タイマー式の砲台なんだ。意志が全く無い代わりに、命令を忠実に遂行するだけの砲台なんだよ。多分、二、三分おきに発射するように命じられているんじゃない?)
特に狙いが定まっていなかったのは、そういう理由か。
だったら高杉は何処へ?
もう遠くへ逃げちゃった?
(どうだろう。このアンデッドを囮にして逃げてるかもしれないし、逆に逃げてると思わせて、虎視眈々と僕達に攻撃をしようと考えているかもしれないし)
そっか。
アイツの場合は、後者な気がする。
(それは僕も同意だね。だから警戒は怠らないように)
ふむ。
とりあえずこのアンデッドは倒しておこう。
その後、空気砲が飛んでくる方へ行ってはアンデッドを倒して回った。
しかし高杉が姿を現す気配は無い。
まあ気配が感じられないんだけど。
「もう居ないんじゃねーの」
(そうかなぁ。でも逃げる性格じゃない気がするんだけど)
「俺もそう思うけど。ん?」
今、アンデッドの頭をバットで叩いた時、チラッと明るくなったような?
(火花だ!爆発するかも!)
ハッ!?
後ろに飛び退くと、アンデッドの身体が爆散する。
すると身体の中から、金属片が大量に飛び散った。
「うっ!」
頭だけは辛うじて防いだけど、それが奴の狙いだった。
左肩に違和感を感じる。
「うおあぁぁ!!」
左肩が抉れてるぅぅ!!
後ろか!?
「い、居ない!?」
また空気砲!
今度はこっちか!
(下手に攻撃すると、また爆発するかも?)
だったら遠距離からだ!
鉄球食らえよ!
でも俺の作戦を読んでいたのか、アンデッドは爆発しなかった。
「何だよ・・・」
(ちょ、ちょっと待って。アンデッドが増えてない?)
え?
な、何だこれ!?
知らぬ間にフラフラとしたアンデッドが、俺の周りに集まっている。
これも高杉の策かよ。
「この!この!」
いかんな。
鉄球をイチイチ投げてると、倒すのに時間が掛かる。
まさか俺が鉄球使う事も、読まれていた?
(兄さん、接近戦で倒すしか無いよ)
それは・・・俺に爆散しろと?
(大丈夫。ちゃんと考えてるから)
うぅ、そう言われるとやるしかないのか。
(勿論後で、回復もするから)
そりゃそうだ!
お前の身体でもあるんだから。
「くっそ!やってやるよ!」
ワッシャーの創造魔法をナメるなよ。
創造とか言っておいて、ぶっ壊すだけだからな。
「オラァ!」
俺はバットをひたすら振っていった。
当たるだけで身体が崩壊していく。
そっか。
全て壊れていくから、埋め込まれている金属片も飛んでこないのか。
これなら勝てる!
すると叩いていないアンデッドが、突然爆発した。
「チクショオォォォ!!また読まれてるぅぅぅ!!」
油断したわ。
普通に腕とか足に刺さった。
堪えられないわけじゃないけど、血も出てきてるし。
「チィ!」
アンデッドを倒しているのに、続々と増えてきている。
気付けば暗いのに、周りはアンデッドだらけだと分かるくらいだ。
「この!この!」
叩いても叩いても減らない。
家の中でGを見たら、30匹は居ると思えと言うが、アンデッドも同じなのか?
「いつ終わるんだよ!」
「もうすぐだよ」
「なっ!?」
真後ろに高杉!?
背中にゴリッとした金属の塊が当たっている。
至近距離から撃つのかよ!
「じゃあな、死ね!」
「お前がな」
「え?」
俺は思わず変な声が出た。
高杉の悪意のある声の後、弟の声が聞こえたのだ。
その直後、背中に当たっていた感覚が無くなった。
恐る恐る振り向くと、そこには大きな土で出来た柱が出来ている。
その柱の後ろから現れたのは、魔王人形だった。
「何だよ。そういう事か。高杉は?」
「上」
上を見ると、真っ暗な中、アンデッドが一体だけ打ち上げられているのが分かる。
アレが高杉か!
「さあ兄さん、今までの鬱憤を晴らす時が来たよ」
オイオイ。
お前、絶対にイヤ〜な笑みを浮かべてるだろ。
人形の顔が無表情でも、俺は分かるぞ。
だけど、とってもとっても気分が良いのは、弟の言う通りだからだな。
でも俺には、ちょっとした懸念もあった。
「なあ、空中に打ち上げて身動きが取れないようにしたのは分かるけど、空気砲を使えば移動出来るんじゃないか?」
「あ・・・」
「そこまで考えて無かったんか〜い!」




