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高杉の実力

 そういえばそうだった。

 島田魁って新撰組だけど、壬生狼ではなかった。


 新撰組は秀吉に洗脳されたヨアヒムが、別大陸の人達を連れてきて作り上げた集団である。

 中には敵対していた者同士も居たし、ほぼ関わりを持たなかった人も居た。

 それは沖田の所属していた新撰組の中でもあったようで、それに該当する人物というのが、島田魁だった。

 ちなみに後日ヨアヒムに、どうして新撰組を壬生狼だけにしなかったのか聞いた事がある。

 すると返ってきたのは、予想外に考えていた言葉だった。


 島田魁は土方歳三がやっていた隊士の粛清にも、関わっていたらしい。

 壬生狼を粛清するなら、それなりに力のある人物という意味もあって、彼に島田魁と名付けたという。

 西郷と逆じゃ駄目だったのかなとも思ったけど、彼は自ら壬生狼の中に入ると言ってきたという話だった。

 どうやら向こうの大陸でも一大勢力を誇っていた壬生狼が、気になっていたらしい。

 だから近藤や土方とはそこそこ話をしていたと、ヨアヒムは言っていた。

 沖田は島田魁が気まずそうだったと言っていたけど、実際は二人があまり話す機会が無かっただけで、関係は良好だったみたいだ。


 しかしそんな中で、唯一一人だけそうではなかった人物が居た。

 それが同じく別の種族から壬生狼に入った、服部武雄になる。

 彼はサーベルタイガーの獣人で二刀流の使い手だったと聞いたけど、元々向こうの大陸では仲が悪かったようで、ほとんど会話も無かったみたいだ。

 服部武雄というと、新撰組の中でも強くて有名な人物。

 組長ではなかったので知らない人は知らないけど、ヨアヒムはそんな人物と同じ名前を付けたという事は、彼は相当な実力者なのだろう。

 そしてその服部武雄と争っていた島田魁も、本当は強かったんだと思う。


 アンデッドとして蘇らせられたのは気の毒だなと思うけど、そんな中でも島田は、味方である高杉に呆気無くやられた。

 何の為に蘇ったのかと考えると、彼が一番可哀想な人だったと思う。










 俺の為に死ね。

 まさに唯我独尊を地で行くような男だ。

 こんな奴にハクトがやられたのかと思ったら、なんだか腹が立ってきた。



「仲間を仲間と思わない、その所業。やはり最低な奴ですね」


「もしかして、元からこんな感じ?」


「僕達は元居た大陸で、コイツとは何度も戦いました。味方を囮にして僕達を誘い込んだり、仲間を犠牲にして僕達を一網打尽にしようとしたりしましたから」


「一網打尽?袋小路に誘い込まれた感じ?」


「そんなに甘くないですよ。逃げる味方に爆弾を隠し持たせて、捕まったタイミングで僕達諸共ドカンですよ」


「捕まっても死ぬし、逃げても死ぬ。俺の為に死ねるんだ。なかなか良い考えだろう?」


 なにいぃぃぃ!?

 確かに逃げる敵を追うのは、誰でもやってしまう事だろう。

 沖田達が騙されるのも分かる。

 でもそれって、明らかに人の道からかけ離れたやり方だろ。



 かつて日本も、同じような事をしてきた過去がある。

 自分達に爆弾を持たせて敵の船に突っ込んで行く、アレだ。

 でもあの頃は戦争で、誰もが頭がおかしかった。

 それを考える人もそうだし、受け入れる人もそうだ。

 コイツはそれと同じ事をしていた。

 明らかに普通じゃない。



「沖田、勝てるか?」


「分かりません。コイツだけは、以前よりある意味では強くなっている気がします」


 ある意味か。

 確かにその通りだな。

 コイツは生きていた頃にあったストッパーが、完全に破壊された感がある。

 どうせ味方も死んでいるのだから、殺しても変わらないという考えなんだろう。



「アハハハ!褒められているという事で、良いのかな?では死んでくれ」


「沖田!」


 再び持った大砲の射線から横っ飛びで離れると、後ろの壁に大きな丸い穴が空いた。

 それを何度か繰り返していると、その音を聞きつけた敵が、大勢駆けつけてくる。



「形勢逆転ってヤツかな?」


「この野郎、潜入した意味が無くなってしまったじゃないか!」


「一旦城から離れますか?」


 このままだと囲まれて終わる。

 沖田は撤退を考えているようだが、それは騎士王国の面々の戦いが無駄になってしまう。



「駄目だ!絶対にこの城を奪い取る」


「・・・それは、半壊でもよろしいという考えですか?」


「半壊!?」


 半壊かぁ。

 僕達の拠点として考えているんだけど、もう高杉に壊されまくってるし。

 コバに改装させるって考えれば、多少ぶっ壊れてても関係無いか?



「許す。やってしまえ!」


「了解です!」


 沖田が集まってきたアンデッドに攻撃を開始する。

 どうやら集まってきたアンデッドは、ほとんどが意思の無い者達らしい。

 大きな音を聞いて集まってきただけみたいだな。



「一度亡くなりし魍魎達よ、動くな!」


「助かります!」


 ハクトの音魔法によるサポートで、アンデッド達は動きを止めた。

 それは高杉も変わらず、身動きが出来なくなっている。



「あぁ!?何だよコレは!」


 腕も足も動かないからか、イライラしているみたいだな。

 でも安易に近付けば、何をされるのか分からない。



「アイツは危険だ。先に仕留めるぞ」


 ハクトの横から高杉に向かって魔法で攻撃しようとした矢先、何処からかこちらに向かって銃弾が飛んできた。



「誰だ!?」


「ひ、土方さん!?」


 沖田が発砲音に気付き、辺りを見回したらしい。

 すると下の階から現れたのは、沖田の仲間だった土方歳三だった。



「まさかお前が城に潜入してくるとはな。アドと一緒に行かなくて良かったぜ。高杉!」


「ハクト、離れるぞ」


 土方の発砲により、ハクトは集中が途切れてしまったらしい。

 高杉が慌ててこっちに攻撃を仕掛けてきた。



「あまり城を壊すなよ」


「壬生狼がぁ!俺に命令するな!」


 高杉が土方に大砲を向ける。

 すると土方も銃を高杉に向けた。

 二人とも躊躇無くお互いに向かって攻撃すると、どちらもそれが威嚇だと分かっているかのように微動だにしない。



「命令を聞かなければ、戻ったアドにまた半殺しにされるぞ?」


「うぅぅるせえぇぇ!!アレは油断しただけだ」


「な、何があったのか、僕達も聞きたいな?」


 ボブハガーに高杉が半殺しにされた?

 何その面白いエピソード!絶対に聞くしかないでしょ。



「クックック。コイツはな、蘇った瞬間に」


「言うなあぁぁぁ!!」


「言われたくなければ、命令を遂行しろ」


「チィ!城は壊すな。侵入者は殺せだったな。善処する」


 渋々は土方の提案を飲む高杉。

 余程話を聞かれたくないのだろう。

 土方の意見に対して、こんなにすんなりと言う事を聞くとは思わなかった。



「魔王様、僕の頼みを聞いてもらっても良いですか?」


「土方と戦いたいんだろう?勝てるんだよね?」


「死んだ者に負けるつもりは無いです!」


 負けないと言い切る沖田だけど、どちらにしろ許可を出さなくても土方と戦うつもりなんだろうな。

 高杉をどうにかしろと下手に断っても、沖田は集中出来なくて逆にやられそうな気もする。

 だったら最初から任せるのが吉だろう。



「分かった。ハクトは後方支援で、このアンデッド達を。僕が高杉を見るよ」


「分かった」


「外からの侵入にも気を付けて」


 僕達が入ってきたみたいに、外から入ってくるアンデッドも居るかもしれない。

 ハクトも一度攻撃を受けて警戒しているとは思うが、高杉の攻撃はハクトの耳でも感知出来なかった。

 この城、何かあると思われる。



「魔王様、ありがたいです!」


「う、うん」


 ありがたいって言いながら、もう土方に向かって走ってる。

 近くに居るアンデッドを邪魔だと言わんばかりに斬っているけど、首を刎ねても動いている辺り、致命傷にもなってないな。



「沖田、お前が俺に勝てると思ってるのか?誰がお前を育てたと思っている?」


「思ってますよ。いつの話を持ち出しているんですか!」


 沖田の剣と土方の剣がぶつかった。

 ギリギリと音を立てる剣と剣は、力が互角なのか拮抗している。



「っ!高杉!」


「あっ!」


 土方と沖田が異変に気付き、すぐに離れた。

 しまった。

 二人のやり取りを見ていたせいで、高杉が疎かになってしまった。

 そのせいで自由になった高杉が、土方諸共沖田を殺そうとした。



「死ねよ!」


「どっちが?」


「どっちも!」


 答えてくれるんだ。

 どっちもって即答する辺り、土方が本当に嫌いなんだろうな。



「ま、魔王様、お願いしますよ」


「ごめんごめん。でも心配しないで良いよ。もう攻撃させないから」


「あぁん!?ガキが調子に乗ってるんじゃねえ!」


 高杉の大砲がこちらに向いた。

 そして何かが発射されると、僕の目の前で何かがぶつかり合い、強い風が僕の髪を靡かせる。



「なっ!?」


「やっぱりな」


「な、何をしやがった!」


「何って、魔法だよ。ただの風魔法」



 殺意を感じずに、いつ飛んでくるか分からない攻撃。

 そして何も見えない辺り、僕はそれに辺りをつけていた。

 一つは透明化した砲弾が飛んでくる事。

 しかしこれは、ちょっと疑問があった。

 島田の腹を貫いた後、ハクトにも攻撃が当たっていた。

 島田の腹には大きな穴が空いているのに対し、ハクトは脇腹が抉れただけで済んでいる。

 それでも重傷には違いなかったけど、もし見えない透明化した砲弾だったら、同じサイズの穴が空いていてもおかしくなかった。

 弾が島田を貫いた事で逸れたとしても、大きさが違う。


 そこで僕が気付いたのが、威力が弱まったのではないかという点だ。

 島田の身体を貫いた際、威力が弱まりハクトはあの程度で済んだ。

 そう考えると、自然だと思った。

 では透明な砲弾ではないのなら、何で攻撃したのか。



「答えは、空気で出来た弾だろ。いや、弾というよりは鋭利な何かかな?」


 僕の言葉を聞いた高杉は、耳をピクリと動かした。

 そして僕を見ると、大きく口角を上げる。



「正解だ。しかも弾じゃない事まで見極めるとは。ちなみに飛ばしていたのは、爪と牙だ」


 なるほど。

 鋭利な牙で腹を食い破り、ハクトの腹は爪で抉ったという感じかな。

 ん?

 そうなると、僕の考えに誤りがあるぞ。



「もしかして、連射出来る?」


「イエース!」


 高杉が大砲を構えた途端、僕の前では風が乱気流のように乱れ始めた。



「マズイ!」


 僕はすぐに土壁を作ると、出来た直後の土壁に風がぶつかる音がした。



「乱れた風の中に撃ち込めば、貫く事も出来るよな。それに気付いてすぐに土の壁に変えたのは、流石だと言っておく。だけど敵の姿が見えなくなるって、どういう意味か分かるか?」


 しまった!



「うわっ!」


 壁の向こうから、沖田の驚く声が聞こえてくる。

 すぐに土壁を解除すると、目の前には大砲の砲口があった。








「もう少し考えようぜ。じゃあな、魔王様よ」

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