沖田の願望
敵ながらあっぱれと言うべきなのかな。
山田牛一は最後の最後で、ダメージの肩代わりを自分へと戻した。
それはこの先の戦いを考えての、選択だったのかもしれない。
でも山田が凄いと思うのは、死ぬかもしくはそれに準ずる何かがあると分かっているのに、それを戻したという点だ。
それが生死に関わらない出来事なら、分からなくもないよ。
カンニングして満点取って、後からアレはカンニングでしたって告白して周囲からボロクソ言われようが、別に死なないんだから。
でも山田は、肩代わりした山田を見て、その恐ろしさを間近で見ているんだよね。
それでも自分に戻したという行為は、ハッキリ言って凄いと感心せざるを得ない。
でも一つだけ、山田が気の毒だなと思う点もある。
それは山田が勝手に肩代わりをしておいて、ダメージを食らってから色々と言ってきた事である。
僕が思うに、今までで一番酷い押し売りだ。
サラリーマンなんかで言えば、こんな感じだろう。
資料をまとめるのを手伝ってあげるよ。
なんて甘い事を言うから資料を渡したら、残業確定の量だった。
すると、さっきまでの甘い顔は何処へやら。
残業して外が暗くなったのを見て、それでキレてくるのが山田だろう。
お前がやるって言ったんだろうが!
って、僕ならキレる。
でも山田はキレなかった。
肩代わりしてくれた仲間への感謝なのか。
それとも違う考えがあったのかは、分からないけど。
なんにせよ、僕は山田をある意味尊敬した。
僕が戦って・・・というより、クイズを出し合っただけな気もするが。
仲間の為に命を懸けられるという人物は、敵であれ凄い人だと思う。
危なかったわ。
もう少し遅れてたら、俺の首は今頃180度回転してたかもな。
弟もギリギリで頼むなよな。
流石に殴られるのが分かってて交代するのって、嫌なモンだよ。
「た、堪えただと!?」
「山田のパンチを食らって大丈夫だった奴なんて、見た事無いぞ・・・」
「イテテテ。そうなの?じゃあ、初めてが俺って事で」
「効いてないのか!?」
軽口を叩いた事で、山田達は驚いてるな。
でも実際は、かなりヤバイ。
殴られた衝撃で目がチカチカするし、目の焦点が合わない。
アレが渾身の一撃で決まったと思ってくれたから良かったけど、そのままトドメを刺すつもりで連打を食らっていたら、流石の俺でも大ダメージ確実だったな。
あの大振りだけで止めたのは、山田がそれだけ自分の拳に自信があったからかもしれない。
「山田、コイツは油断出来ない。二人でやるぞ」
「分かってる!俺が奴を止める。後は頼んだ!」
山田には作戦があるみたいだな。
俺を止めるとか、かなりナメられてる気がする。
山田の一撃に堪えた事で、向こうも慎重になってくれたのが大きかった。
おかげで視界はクッキリ良好よ!
「バッチこいやぁぁぁ!!」
「行ったらぁ!」
山田がドスドスと真正面から突っ込んできた。
簡単に避けられる遅さだけど、来いと言った手前、避けるのはダサい気がする。
だから俺は、奴のタックルを食らってやる!
「へぶうぅぅ!!」
「よっわ!」
山田のタックルに堪えようとしたところ、逆に山田が吹き飛んだ。
この山田、弱いぞ。
「捕まえた・・・」
俺の肘が顔面に入ったのだろう。
目の周りが青くなっている。
しかしアレだけ派手に吹き飛んだのに、ピンピンしてるな。
ムッちゃんとは違うタフさがある。
「オラァ!」
「二度も同じ手は食わない」
山田が捕まえてると信じているからか、また大振りの一撃だ。
二人とも、バカの一つ覚えみたいに突っ込んでくるけど、流石に俺だって学習はする。
だからそのパンチは、ボクシングだとスウェーだっけか?
身体を後ろに逸らして避けるよ。
「避けられた!?でも!」
「危なっ!」
空振りの反動を利用して、裏拳を使ってくるとは。
ボクシングだと反則だぞ。
まあ佐藤さんみたいに速いわけじゃないし、見てても避けられるんだけど。
避けた結果、運が良かったらしい。
「あ・・・」
「おごっ!」
俺の足を掴んでいた山田が、裏拳に誤爆した。
俺の身体が陰になっていたのか、予想外の所から現れた裏拳に、山田はこめかみにヒットすると、受け身も取らずに頭を地面に打ちつけた。
その結果、足を掴んでいた手の力は抜け、気付けば白目を剥いて倒れている。
「すまん山田!・・・山田?山田ぁぁぁ!!」
自分が殴った相手が全く動かなくなった事で、山田は慌てている。
しかし山田は、俺の真後ろ。
無闇に近付こうとすれば、俺からの反撃があると分かっているのだろう。
「ちょっとタイム」
「は?」
「山田をこっちに寝かせよう」
俺の後ろで倒れているのは、タフで有名な山田家康。
このまま後ろに居られるよりは、違う場所で寝かせておいた方が、むしろ安全な気がした。
だから俺は、山田をスタディーワールドで昏睡状態になった山田牛一の横に、山田を寝かせる事にした。
「これでよし」
「・・・敵なのにすまないな」
「うん?まあ、この程度ならね」
少ししおらしくなったな。
「なあ、投降する気は無いか?」
「は?」
「言っちゃ悪いが、お前のパンチは威力が高いけど、俺には当たらんよ。それこそ山田が俺の足を捕まえていても、当たらなかったんだし」
「だが、山田を裏切る気は無い」
「コイツ等も助けると言ったら?」
山田が考え始めた。
コイツは裏拳で倒れた山田の事を言っていると勘違いしているようだが、俺の提案は二人とも助けるという話だ。
実はさっき山田を寝かせた際、スタディーワールドのペナルティーで意識を失った山田の隣にしたのだ。
その時、ペナルティーは死だったのか確認したところ、心臓は動いているのが分かった。
だから何かしらの方法で、ペナルティーを終わらせる事も出来るんじゃないかと思っている。
まあそれを言ったら、まだ戦えると奮起するかもしれないから、敢えて伝えないけど。
「だが、やはり無理だ」
「どうして?勝てないと分かっていても、俺と戦うのか?」
「そうだ。むしろ戦わなくちゃ、逆に俺達の命が危ない気がする」
「は?」
「俺達は見張られている。反旗を翻す奴を、秀吉様は許さないだろう」
なるほど。
可能性はかなり高いな。
猫田さんしか使えないと思っていた影魔法だけど、今や秀吉勢ではほとんどが使える。
誰が潜んでいるか、山田達も分からないんだろう。
「じゃあ次の提案だ。・・・させようと思うんだけど、どう思う?」
「何?」
「だから、・・・させるんだよ」
「聞こえないんだけど」
山田が少しずつ近づいてきている。
俺が投降しろと言ったからか、危害を加えられないと勘違いしているらしい。
だから俺は、ここぞとばかりに奴を掴むと、そのままぶん投げた。
「ガハッ!」
「正解は、お前を気絶させようと思う、だ」
背後を取った俺は、山田に絞め技を極めると、ものの数秒で落ちた。
「しかしコイツ等、警戒心ってものが無いのかな。不用意に近づき過ぎだろ」
三人を並べて寝かせると、俺はようやく沖田とハクトの相手が誰なのか、目にする事が出来た。
「久しぶりですね」
「あぁ、本当にな」
「お前が生きているとは思わなかったよ」
沖田は旧友でもある二人と、会話を楽しんでいた。
お互いの顔には笑みがあるものの、やっている事は真剣勝負。
顔の下では剣と剣とがぶつかり合っていた。
「やはり強いな」
「いや、俺達が弱くなったんじゃないか?」
「そうだな。俺達が沖田一人に勝てないのも、おかしな話だ」
二人は剣を緩める事無く、沖田を攻撃する。
しかし沖田には、その剣が当たる事は無い。
そして笑顔の沖田も、二人を挑発するようにその仮説を受け入れた。
「僕もそう思いますよ。今のお二人なら、僕は倒せないかなぁ。ハッキリ言って、残念です」
「クッ!こうハッキリ言われると、腹が立つな!」
「斎藤、頭を冷やせ。これも奴の作戦かもしれないんだから」
「永倉、それくらいは分かってるって」
二人はニヤリと笑うと、剣の軌道が変わった。
沖田はそれに反応出来ず、初めてその刃が身体を斬りつけられた。
「チッ!やっぱり性格悪いなぁ。油断させておいて、二人で本気を出すんだもの」
「それを読んで致命傷を避けたお前も、相当だよ」
「僕は性格が悪いんじゃなくて、二人の気配が変わったから避けられたんです」
「そんな余裕は無かったから、腹が切れたんだろうがな」
永倉と斎藤は、沖田を見て考えた。
普通に戦っても、沖田は危険だと。
そこで二人は、アンデッドの特性を利用した。
アンデッドとして蘇ると、本来の力より劣っている。
強い意志があればそれは当てはまらないが、二人はそれを意図的に隠していたのだ。
強い意志を持たずに、意志があるだけでそこまで強くない。
そう思わせておいての、本気。
まんまと沖田は引っ掛かり、腹をパックリと斬られてしまった。
ダメージはそこまでではないが、出血が酷い。
あまり時間は掛けられないと、沖田は無口になった。
「おいおい、本気になるなよ」
「俺達にとって戦いは、日常茶飯事だろ。その程度の傷、いつもの事じゃないか」
斎藤と永倉の言葉は聞こえている。
だが沖田は反応しない。
「余裕も無いか」
「悪いな沖田。俺達は勝つぜ」
二人は同じ構えを取った。
それを見た沖田も、全く同じ構えを取る。
「行くぞ!」
永倉の声が合図となり、斎藤と永倉は沖田へと走っていく。
沖田は左右に分かれた永倉と斎藤を見て、永倉側へ向かった。
「俺一人なら倒せるとでも!?」
「背後がお留守だぜ」
後ろから追ってきた斎藤。
後ろをチラ見した沖田は、鞘に手を掛ける。
「ウフフ、この命の駆け引き。やっぱり良いですね。しかも知ってる人を本気で斬れるなんて。最高だ!」
「な、何を言っている?」
「コイツ、気でも狂ったか?」
永倉と斎藤が不審に思うと、沖田が後ろを向いた。
永倉は背後から追う斎藤に攻撃を任せようと、全力で逃げる事に徹している。
その為、沖田が少しずつ遅くなっている事に気が付かなかった。
鞘を抜いて先端を斎藤に向けた沖田。
斎藤は鞘で攻撃してくるものだと、その先を注視していた。
そして、それがアダとなった。
「斎藤さん、僕の狙いは貴方です」
「何?」
「ありがとうございました。やっぱり二人は強いと思います。沖田、シャイニング」




