カンニング
三人寄れば文殊の知恵。
僕達は沖田とハクトのおかげで、コレを体現している自信はある。
僕達はスタディーワールドの中で、山田達とチーム戦をしている。
チーム戦というのは意外と難しい。
例えば先鋒に一番強い人を持ってくるタイプと、一番弱い人を持ってくるタイプが居たりする。
勝ち抜き戦なら、一番強い人が先鋒に出て全員倒すという考えもアリだろう。
しかし星取り戦と呼ばれるものもある。
5vs5の場合なら、先に3勝した方の勝利というやり方だ。
この場合、誰が何処に当てはめられるかで、勝敗の予想は大きく変わってしまう。
一番強いからといって大将にする必要も無く、一番強い人が次鋒に来る場合も考えられるからだ。
今回の場合、こういう戦い方とは違うが、山田の肩代わりというやり方は、あながち悪くないと思っている。
一番頼りになる人を無傷で残し、他の人がダメージを肩代わりする。
ただしそれは、頼りになる人が圧倒的な時に限ると僕は思う。
だから僕は、山田達のやり方を取ろうとは思わなかった。
例えば僕達の場合、日本の歴史や数学等はハクトや沖田を圧倒している自信はある。
だけど魔物の知識なんかは、下手したら二人の方が上なんじゃないだろうか?
ハクトは料理をするから野草とかも詳しそうだし、それに沖田も僕達とは違う別大陸で育っている。
こっちには無い知識を持っているかもしれない。
要はお互いをリスペクトする気持ちだ。
それがあるから、僕達は上手くやっていける。
それに対して山田は、山田が不正解になると激怒していた。
アレは駄目だね。
自分から進んで肩代わりをしたのに、それで間違えたら怒るって。
山田の肩を持つわけじゃないけど、スタディーワールドを甘く見過ぎだと思う。
何にせよ、これだけは言える。
僕達が三人寄れば文殊の知恵なら、山田達は船頭多くして船山に登るかな。
リーダーくらい決めておかないと、大事な時に揉めるよね。
ところで山田達って、誰がリーダーだったんだろう?
アタシは敢えて、強い言葉を使った。
ああは言ったけど、実はまだ勝ち確というわけじゃないのよね。
ここから三連続で山田が正解してアタシが間違えたら、大逆転するんだから。
山田が分からないと思う問題は考えているけど、絶対じゃない。
だけど向こうも、アタシが分からなかった問題の傾向を把握した。
だからアタシは、敢えて高圧的に無理だって言ったのよね。
これで動揺してくれたら、かなり楽になるんだけど。
「ど、どうする?」
「もう俺だけでは無理だ。三人の力を合わせよう」
「山田の言う通りだ。俺達は確かに山田より頭が悪い。でもこれはもう、勉強よりもクイズだ。俺達も頑張ろうぜ」
追い詰められたからか、三人の仲が深まってしまったみたい。
さっきの感じだと、少しでも間違えると当ててきそうな予感はする。
だからアタシは、ここでどストレートなクイズ問題を出すわ!
「問題、デデン!山田」
「ん?」
かなり緊張しているようね。
山田と言っただけで、三人ともこっちを見てきたわ。
「何だよ?」
「山田・・・という苗字は日本でも普通に多いですが、では山田姓は日本で何番目に多いでしょうか?」
「はぁ!?」
いきなり普通のクイズになったからか、三人とも不思議そうな顔をしているわね。
でも!
最後くらいは、こういう締め方で終わりたいわ。
「山田、そういうのって勉強しないのか?」
「学校のクイズ研ならまだしも、受験には関係無いからなぁ。二人はどう思う?」
「俺は・・・10位以内には入ってる気がするけど」
「えっ!マジで!?」
「違うの!?」
フッフッフ。
ちゃんと話し合っていますなぁ。
これぞクイズ番組で、よく見る光景だよ。
一人に頼っても、楽しくないでしょ。
まあ命が懸かってるから、楽しみなんかどうでも良いかもしれないけど。
「ヒント!ヒントをもらおう!」
「魔王様、ヒント下さい」
山田達は一斉に頭を下げ始めた。
土下座を強要するつもりは無いけど、これも戦いである。
情けは無用でしょ。
と思ったのに、アタシの横の仏様が情けを与えようとしているわ。
「マオ子、少しくらいは教えられないの?」
「ハク子、これで正解されたら、まだ続くのよ?」
「でも少しくらいなら・・・」
むう。
アタシはハク子に弱いのよね。
「じゃあ特別に。ダララララ、ダン!トップ30以内です!」
「そりゃそうでしょうよ!」
「あ?何か不満でもあるわけ?」
せっかくヒントを与えたのに、どうしてこんなに文句を言われるのかしら。
頭きちゃうわ。
「マオ子」
「んじゃ、特別に。トップ20以内よ」
「トップ20!」
ハッキリ言って、かなりのヒントだと思う。
数字にすれば、高々5パーセントだと思うでしょうね。
でも考えてみてほしいわ。
やっぱりトップ3は、分かりやすいのよ。
もっと言ってしまえば、5位くらいまでは予想出来る。
となると15個のうちの一つって考えるわけだから、うまく考えれば適当でも当たる可能性はあるのよ。
「これ以上は教えないわよ」
「分かってる!」
山田達は真剣な表情で、話し合いを始めた。
長引く相談だったけど、それくらいは目を瞑ってあげる。
「決めた」
代表して山田牛一が言うと、二人もそれに頷いた。
「正解は?」
「・・・14位」
「ファイナルアンサー?」
「良いよね?・・・ファイナルアンサー!」
山田は振り返って二人に確認すると、最後の決定を下す。
「残念!」
「マジかよおぉぉぉぉ!!」
「惜しかったわね。正解は12位よ」
本当に惜しかった。
向こうの話し声をハク子が盗み聞きして、話の内容を聞いたけど、かなり良い線言ってたわ。
でも残念。
間違いは間違い。
「残念無念の山田さん。さようなら」
肩代わりしていた山田が意識を失い、後ろに倒れ込む。
しかしその瞬間、山田は突然叫んだ。
「肩代わりを肩代わりする!」
「山田!?」
「すまない。俺はもう役に立てそうに無い。お前達二人だけで、何とか頑張ってくれ」
なんと肩代わりを肩代わりすると叫んだのは、スタディーワールドを行使している山田牛一だった。
彼は山田家康のダメージを全て肩代わりすると宣言し、ちょっと間を置いて倒れてしまった。
「・・・アレ?動ける」
「山田が最期に、お前のダメージをまた肩代わりしたんだ」
「なんだって!?山田ぁぁぁ!!」
倒れて意識の無い山田に抱きつき、号泣する山田。
しかしもう一人の山田は、そんな山田よりも気になる事があるらしい。
「おい魔王」
「マオ子よ」
「お前、どうして日本の苗字ランキングなんか知ってるんだよ?」
ああ、そっちね。
アタシはてっきり、パンダの方を聞かれると思ったけど。
まあ答えは一緒なんだけど。
「コレ、何か分かる?」
「す、スマホ!?」
「電波も通じるわよ。ちなみに、14位は山口さんらしいわ。山は合ってたんだけどねぇ」
「き、汚ねえ!」
「カンニングじゃないか!」
まあこれが受験なら、カンニングで捕まってもおかしくないわね。
でもこれは、山田の能力であるスタディーワールド。
勉強の為に辞書を引くのと、変わらないでしょ。
「日本の電波が通じるスマホなんか、この世界にあるわけないわよね。スタディーワールドはアナタ達の能力。言ってしまえば、コレもアタシの能力って考えで良くないかしら?」
「うっ!」
反論出来ないのか、山田の言葉が詰まった。
「もしかして、パンダも?」
「正解。アタシ、動物は全然分からないもの。かなり焦ったわ」
「三人寄っていたのは、目隠しの為か!」
「山田、冴えてるじゃないの。それがさっきまでに活かせていればね」
怒っているのか、ワナワナと震えている山田。
すると周囲の景色が、元の世界へと変わっていく。
「危ない!」
周囲の景色が変わった瞬間、沖子がハク子を抱えて横に飛んだ。
その沖子の背中を剣が掠る。
「沖子!」
「大丈夫、掠っただけです」
「ハク子は?」
「沖田くんのおかげで大丈夫だよ」
ふ、二人とも!
いつの間にか着替えてるぅぅぅ!!
「アレ?レオタードは?」
「山田を倒した時に着替えました」
「流石にもう、付き合わなくても良いかなって」
優しいのか薄情なのか、微妙な回答!
「いやいや!ニャッツアイは三姉妹じゃないと」
「それも疑問に思ったんだけど、僕は猫じゃなくてウサギなんだよね」
「それ言っちゃうと、僕は狼ですよ」
そういう意味じゃないんだけどなぁ。
と、待てよ?
「沖田を攻撃した奴は誰だ?」
僕はてっきり山田かと思っていた。
しかし僕は、山田牛一が肩代わりして倒れた後、二人の山田から目を離していない。
一人は山田を抱えて号泣していたし、もう一人も呆然としていた。
そして沖田とハクトは僕の後ろに居て、その二人が襲われている。
となると、後ろには敵が居る!?
僕は後ろを振り向こうとすると、先に山田が先手を取ってきた。
「山田の仇!」
「許せない!」
「うわっ!」
こ、コイツ、馬鹿力過ぎるだろ!
太田やゴリアテレベルか?
僕は山田の攻撃を受け止めると、一気に横へ弾き飛ばされてしまった。
その追い打ちに、もう一人の山田も突っ込んできている。
「死ね!」
「コノヤロ!」
もう山田以外にも攻撃されているんだ。
僕達が江戸城に潜入している事は、バレていると言っても良い。
「くっ!」
「沖田くん!このっ!」
山田達の背に隠れて、沖田とハクトが戦っている。
どうやら沖田が手を焼いているという事は、かなりの手練れだろう。
「ハクト殿、そっちは任せてもよろしいですか?」
「大丈夫。沖田くんこそ、二人相手に平気?」
二人!?
沖田は二人を相手にしている!?
「大丈夫です。むしろ大歓迎の相手ですよ」
沖田の声が、とても嬉しそうだ。
戦うのに大歓迎な相手って、誰だろう?
「山田ぁ!」
「オウ!」
山田が僕の背後に回ると、羽交い締めにしてきた。
自分のダメージを省みず、山田に攻撃をさせようという魂胆らしい。
沖田の相手が気になって、目を離したのがマズかった。
「往生せいや!」
ヤバイ。
あの山田の馬鹿力でぶん殴られたら、首の骨が折れかねない。
どうにかして、ここから脱出しないと。
「おい、お前も死ぬぞ?」
「俺は山田の中でも一番頑丈だ。山田の本気の一撃くらい、堪えてみせるさ」
コイツ、マッツンと同じ名前のくせに、マッツンと違って根性あり過ぎる!
山田が手を緩める気は無い。
『仕方ないな。痛いのは嫌だけど、死ぬよりマシだ』
兄さん!
僕が叫ぶと、目の前の拳がテレビ画面の中へ変わった。
「うっ!マジで痛い。お前のパンチ、佐藤さんより強いんじゃないの?太田とかゴリアテみたいな巨体クラスのパンチだぞ。もう少し遅かったら、死んでたかもな」