表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/1299

砦攻略へ

 下流で待機となった蘭丸は、何かしようと躍起になっていた。

 前田兄弟を抑えて、自分が魔王の側に居たからだ。

 しかし下流の仕事は、現状では特に無い。

 現地の確認だけしに行って、情報通りの砦だと分かったくらいだった。


 後日、上流から全ての準備が整ったと連絡が来た。

 僕は新月の夜である十日後に、作戦を決行しようと決断した。

 ところが上流側で、何やら話している様子。

 どうやら誰かが、作戦の前倒しを発案してきたようだ。


「明日もしくは二日後には」


 そんなに早く出来るの!?

 僕は発案者の話を聞いてみたが、少し半信半疑だった。

 それに雨の中の作業という事で、危険があるのではないかと心配だったのもある。

 しかしドランと発案者の意向を聞き、作戦の前倒しを受け入れた。


 翌日の昼には雨が降り、夜に作戦決行を指示。

 上流では、資材の搬入が進んでいた。

 ラビは洪水の要の一人として残り、ハクトは下流へと向かう事となった。

 その二人が見ていたのは、若いネズミ族の指揮者だった。

 とても的確な判断をしている。

 資材が思っていたより早く流れて行ったのは、彼の功績だろう。

 ハクトが資材と一緒に下流に向かう筏に乗り込むと、先程の若い男と一緒になった。

 彼の名はアルジャーノン。

 又の名を竹中半兵衛と言った。





 下流では続々と資材が流されてきていた。

 夜間になり、砦から見て大きな川の南側に来るような位置に、資材を運んでいく。

 その指揮は蘭丸が出していた。


「上流から来た人は、下流の人の指示に従って資材を運んでください」


 筏を岸に寄せながら、筏の先頭の立つ男に報告する。

 降雨が続くこの中で、多少大きな声を出しても問題は無かった。

 砦から誰かが来る様子も無く、順調に運び出しが続いている。

 僕も資材が続々と運ばれてくるのを見て、予想以上の早さに驚いていた。


「随分と早いけど、予定より早く流したの?」


 足を止めさせて悪いとは思ったが、資材を運んでくる一人に聞いてみた。


「上流に居た若者が、乗り込みの際に割り振りをしてくれまして。五列の並びを作って、筏と自分に番号を与えられます。自分は『りの三』なのですが、りの筏と番号で呼ばれたら、乗り込むようになります」


 どうやら、誰かが巧くやってくれたらしい。

 なんか遊園地のアトラクションの並びを、彷彿とさせるけど。

 おそらくは昨日の発案者ではないかと、僕は思っている。





「次で最後の資材になります」


「結構早かったね」


 時計を見たわけではないが、まだ夜明けには時間がある。

 これなら城を作っても、余裕を持って皆が入る時間があるだろう。


「マオくん!」


 ハクトが資材を持って此方へ向かってきた。

 身体強化しても大して強化されないからか、小さめの物を二人がかりで運んでいた。

 もう一人は誰だろう?

 やけに仲良さげな雰囲気だが。


「魔王様ですか!?昨日は私の案を受け入れていただき、誠にありがとうございます」


「昨日の人!?」


 驚いたな。

 僕等とそんなに変わらない年齢か?

 色白で弱々しいからか、ハクトや蘭丸よりも幼く見えなくもない。


「驚くよね!?僕等より年下なんだって」


「マジか!」


「いやいや!私より魔王様の方がお若いでしょう?」


 これでもハクトと同い年です。

 自称だけど。


「彼、見た目通りに身体が弱いみたいでね。僕と二人で運んできたんだ」


「いやはや、このように弱くて申し訳ないです」


 僕は近くに居た下流組の力自慢達を呼び、代わりに運んでもらった。



「これで最後の資材になるのかな?」


 上流から来た最後の男に、全ての資材が揃った事を確認した。

 これで、そこそこ大きな城が建てられるだろう。

 それこそ砦よりも大きな城がね。


「雨の中大変だっただろう。今すぐに城を建てるから、皆を遠ざけてくれ」


 約五百人。

 いや、まだ上流に待機している者達が居るから、それよりも少ないか。

 彼等は僕の後ろへと下がり、城へと運び入れる物を準備していた。

 資材を見回した僕は、頭の中で日本で見た事のある城を思い浮かべる。

 手を資材へと翳して、僕はその城を現実の物へと変えていった。


「お、おぉぉ!!!これが創造魔法!初めて見たが、なんという神々しさだ」


「我等が生きているうちに、間近で拝見出来るとは」


「俺、家族が出来たら、創造魔法を見たって自慢するんだ」


 ドワーフもネズミ族も、様々な反応をして驚いていた。

 よくよく考えると、ここまで大きな物を作ったのは初めてかもしれない。

 それこそ収容人数的には、八百人近くを予定していた。


「初めて見る城ですな」


「左様。我々の想像を超えた城のようです」


「マオくん。これも神の国で建てられている城なの?」


 他の連中には馴染みが無いようだ。

 日本風の城は、この世界には無いのかもしれない。

 信長はどうしたんだろう?

 新しい物が好きだから、洋風の城に満足しちゃったかな?


「この城は僕の世界にあった城を模写して作ったんだ。作られた当時、めちゃくちゃ強い敵が攻めてきても落とせなかったから、難攻不落の城って呼ばれてたんだよ」


「神の国でも戦はあったんだね」


 反応する所が違う気もするけど。

 まあ別に構わない。

 僕が想像したのは、北条氏が本拠地とした城。

 小田原城だ。

 小田原城は、武田信玄や上杉謙信等に攻められても落とされなかったという。

 それに肖って、模倣してみたのだ。


【ちょっと待て。お前、小田原城なんか何で知ってるんだ?】


 うん?

 そりゃこれで、画像見ただけだよ。

 そう言ってスマホの入っているポケットを叩いた。

 ちなみにこの小田原城、戦国時代当時とは違うらしい。

 難攻不落でも何でもないのは、彼等には内緒だ。


【何処かで見た事あるなと思ったけど、俺も学校行事で行ったからか。なるほどね】


 ただし、外見のみで城内はほぼ近代的な物に変えてあるよ。

 中身はほとんど、マンションみたいな感じにしてある。

 流石にこれだけの人数だから、簡素なワンルームと大部屋とかだけど。


【それでも凄いだろ。早く中に入ろうぜ】


 それもそうだ。

 雨の中で仕事していた彼等を、早く休ませてあげたいし。


「完成だ!食料や必要な物資を優先的に搬入して、終わったら皆休んでくれ」


 彼等は急ぎ中へと入り、全ての行程を終えて休息を取った。





「何だアレは!」


 空が少し明るくなってきた頃、砦の見張りがようやく外の異変に気付いた。

 目の前に見知らぬ建築物がある。

 昨晩に確認した時には無かったはず。

 それが一夜にして、大きな建物が完成していたのだ。

 その動揺は下の者だけでなく、秀吉を監禁している上層部まで回っていた。

 望遠鏡のような物を持った男が急いで高台に上がり、城の方を覗き込んだ。


「見た事もない建物ですが、ハリボテではなくしっかりとした造りのようです!中に人が居る様子は伺えますが、誰が率いているのかまでは分かりかねます」


「うーむ。普通に考えれば、この秀吉を奪還しに来た連中だろうな」


 一人のネズミ族の老人が高台に上がってきて、見張りと話をしていた。

 目の前の城に動揺はしたものの、策が無いわけではない。


「あのような建物などあっても、攻め入るのは向こうだ。我々は変わらずに守備に重点を置けば良い」


「かしこまりました!」


 おそらくはあの建物を拠点として、この砦を落とす算段をしているのだろうな。

 しかし監視していれば、いつ攻めてくるかなど容易に分かる。

 一晩で建築された事には驚いたが、我等の優位は変わらぬ。

 少しは頭の回る者が居るようだが、浅はかだな。


 老人は不敵に笑い、見張りに監視だけは続けろと言って降りていった。

 大して脅威にはなり得ない。

 彼はそう判断して、いつもと変わらぬ生活へと戻っていった。





 休息を取った彼等は、食事をしながら作戦が上手くいった事を喜んだ。

 外は未だに雨だが、城内の様子は明るい。

 次の作戦が待ち遠しい。

 そういった様子が伺えた。

 そして僕は、蘭丸とハクト。

 前田兄弟とドラン、テンジを呼び出し、次の作戦の決行をいつにするか会議を開いていた。


「やっぱり上流次第になるのかな?」


「そうなるでしょう。いつ頃になるのかが不明ですが」


 水を塞き止める作業を担当していたテンジでも、詳しい時間は分からなかった。


「ねえ、だったら発案した彼に聞いてみたら?」


「彼?」


 蘭丸がハクトの発言に反応した。

 そういえば蘭丸はあの時、岸で指示を出していたから会っていないのかもしれないな。


「そういえば彼奴、この会議に参加しろと申し付けておいたはずですが」


「すいません。体調不良で遅れました・・・」


 ノックされた後、扉がゆっくりと開いたと思ったら、話に上がっていた男が登場したようだ。

 やはり見た目通り、身体は弱いらしい。

 こんな身体なのに、テンジが同行を許している理由は何なのだろう?


「身体の調子はどうだ?」


「すいません、テンジ様。やはり重い物を持ったのが、良くなかったのかもしれません」


 予想以上のひ弱ぶりだな。

 薬とかで治らないのかな?


「彼の体調は、何処が悪いのか分かってるのか?」


「内臓疾患だとは分かっているのですが。我々では詳しく調べられませんので」


 うーん。

 医者が居れば詳細が分かりそうなんだけど。

 この作戦が終わったら、若狭からせめて薬だけは仕入れようと思う。


「遅れた事に関しては問題無いから。体調が悪い者を酷使するほど、僕達は切羽詰まってないよ。えーと・・・」


 名前知らんかった。

 さっき聞いておけば良かったな。


「アルジャーノンだよ。でも皆からは違う名前で呼ばれてるって言ってたっけ。アレ?何だったかな?」


「半兵衛です。竹中半兵衛。周りからはそう呼ばれております」


「半兵衛だって!?」


 僕の大きな声に、皆一斉にこっちを見た。

 知ってるのか?って顔してるけど、ごめんなさい。

 この世界の半兵衛は知りません。


【竹中半兵衛って、秀吉の軍師だろ?俺でも知ってるぞ。確か途中で死んじゃった気がしたけど】


 病気で亡くなったんだよ。

 彼も病弱のようだし、運命なのかもしれない。


【馬鹿野郎!名前だけ同じってだけで、生き死にまで同じにされちゃ可哀想だろが!】


 そうは言うけどさ、僕達は医者でも薬剤師でもないんだから。

 治してあげたいのは山々だけど、そこまで僕達は万能じゃないよ。


【何処かに名医が居ないか、聞いとけよ】


 分かってるよ。

 ハクトも仲が良いみたいだし、悪い奴じゃないと思う。



「あの、僕が何かしましたか?」


「すまない。ちょっと知り合いというか、まあ色々あって動揺してしまった」


「そうですか。それと僕が呼ばれた理由は、堰き止めている川についてですよね?」


 話が早い。

 何も言わずに、自分が呼ばれた理由が分かっていた。

 コイツ、僕が思っている以上に頭が回る。


 ん?

 そういえば此処に居るネズミ族は、安土に付いて行くと言っていた。

 そうすると、半兵衛も来てくれるわけだ。

 これは、僕の重臣となってもらうしかないな!


「素晴らしい!何も言っていないのに、状況を把握しているとは」


「え?今、テンジさんが説明してたよね?」


「・・・」


 どうやら頭の中でグルグルと考えている間に、説明していたらしい。

 物凄く恥ずかしい。


「冗談だよ!魔王の冗談!」


「良かった。早くもボケたのかと思ったぞ」


「蘭丸くん。ボケたんじゃなくて、冗談を言って空気を和ませようとして、ただ滑ったんだよ」


 蘭丸からはボケ呼ばわりされるし、ハクトには辛辣な言葉を投げかけられるし。

 魔王の友達、結構扱いが酷くなってきたよ。

 もう少し優しくしてくれないと、凹んで泣くよ。


「その心遣いに感謝して、お話を進めましょう」


 有能!

 サラッと流すその態度。

 彼、歳下だよね?

 蘭丸達も見習いたまえよ。


「何見てんだよ」


「別に〜」


 お前の事だよ!とチラ見してたのがバレた。

 意外と勘が鋭い野郎だ。


「それと川の件ですが、二日後の朝。しかも早朝が良いと思われます。今なら雨の影響で水量も多い。おそらくは砦を囲む川の氾濫は必至です。ただ一つ問題が」


「何?」


「この城の塀の高さだと、我々も被害を受けますね」





「そういうのはもっと早く言ってよ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ